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石神家 歓待 Ⅲ

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 翌朝。
 俺は麗星たちを東京駅まで送りながら、聖と青山墓地に行く。
 アンジーと聖雅、そしてクレアも一緒だ。

 朝食の後で、三人には話している。
 麗星にも話し掛けた。

 「あなた様、楽しいひと時でした」
 「ああ、あまり話せなくてごめんな」
 「いいえ、先週に十分に。またお待ち申し上げております」
 「うん、絶対に行くからな」

 五平所とも挨拶し、ハマーでみんなで出掛けた。
 先に東京駅まで麗星たちを送る。
 そのまま青山に向かい、「花茂」で頼んでおいた花を受け取る。
 聖はずっと黙っていた。
 アンジーと聖雅は東京の街を一緒に観て楽しんでいる。

 青山墓地に着いて、みんなで歩いた。
 東堂初の墓は少し奥まった所にある。
 
 「ここだよ」
 「……」

 墓石は綺麗になっていた。
 恐らく、小島将軍が俺たちが来ることを見越して手配してくれたのだろう。
 俺たちは簡単に墓石を磨き、線香を焚いた。
 アンジーは日本の墓参りの作法を興味深く見て一緒に手伝った。
 俺が般若心経を唱え、聖が手を合わせた。
 アンジーとクレアもそれに倣う。

 聖が聖雅を抱き上げた。

 「お袋、ずっと来なくてごめんな」

 そう言って、墓石の前に聖雅を近づけた。

 「俺さ、結婚して子どもが生まれたんだ。聖雅。トラが名付けてくれた」

 聖が微笑んだ。

 「アンジーだ。美人だろう? 俺にはもったいないよ」

 アンジーの肩を抱いて紹介した。
 聖が日本語で語り掛けているので、俺が通訳した。
 アンジーが挨拶した。

 「アンジェラです。今日はお会い出来て良かった」

 聖がまた黙り込んだ。
 墓石をジッと見ている。

 俺は聖に駐車場で待っているといい、アンジーたちを連れて行った。
 しばらく歩いた時に、後ろで聖の大きな叫び声が聞こえた。
 俺たちはそのまま歩いた。




 30分もして、聖が戻って来た。
 涙の痕は無いが、目が赤くなっていた。
 俺は肩を叩いて助手席に乗せた。

 「随分と立派な墓だった」
 「そうだな。惜しまれていたんだろう」
 「そうか」

 ハマーを発進させた。
 どうしようか、どこかに寄って行くか。

 「トラ、ありがとうな」
 「俺とお前だろう。何でもするさ」
 「そっか。そうだな」

 聖が小さく微笑んだ。
 そして俺に言った。

 「トラ、良かったらお前の病院を見せてくれないか?」
 「病院?」
 「ああ、出来れば、お前がいつもどういう場所にいるのか見てみたい」
 「おう、いいぜ!」

 俺は病院へ向かった。
 
 ハマーはでかいので、搬入用の入り口に停めた。
 みんなで守衛室に回って入る。
 守衛が俺を見て挨拶して来た。

 「悪いな、今日はアメリカから親友の夫婦が来ているんだ。ちょっと案内したくてな」
 「そうですか! どうぞお入り下さい! あ、石神先生! 夕べは大成功だったそうで!」 
 「アハハハハハ!」

 すれ違うナースたちが明るく挨拶してくれる。
 
 「トラはやっぱりどこでも人気者だな」
 「いや、俺を大嫌いな連中も多いよ」
 「そうか?」

 俺は第一外科部に案内した。
 今は誰もいないはずだったが、当直の山岸がいた。

 「部長!」
 「よう! 親友の聖をちょっと案内しててな」
 「そうなんですか! 山岸です! 部長にはいつもお世話になってます!」
 「こいつは世界最大の傭兵派遣会社の社長の聖な」
 「えぇ!」

 聖が挨拶する。
 こいつが他人に気を遣うなんて滅多に見ない。

 「これからもトラを宜しく」
 「は、はい!」

 俺は笑って聖たちに幾つかの場所を案内した。
 オペ室も立ち入らないように、ドアだけ開けて中を見せる。
 CTやMRI、ICUなども案内し、響子の部屋へ向かった。
 また六花が吹雪を連れて来ていた。

 「タカトラ!」
 「よう! 聖たちも一緒だ」
 「おす、ガリガリ」
 「ガリガリじゃないもん!」

 いつの間にか聖と響子は仲良くなっていたようだ。

 「お前、聖雅よりも弱そうだもんな」
 「そ、そんなことないよ」

 六花が、吹雪は腹筋が3回出来ると言った。
 響子は出来ないらしい。

 「ワハハハハハハ!」
 「もう!」

 俺が聖に聞いた。

 「おい、お前らそんなに仲が良かったのかよ」
 「トラが一番大事にしている女だからな」
 「そうか」
 「ヒジリー!」

 響子が嬉しそうに聖に抱き着いた。
 俺が響子をベッドに座らせ、聖雅と吹雪を両側に座らせた。
 響子がニコニコして二人を両手で抱き寄せる。

 「六花! 今日もチビザップ行こうか!」
 「はいはい」

 響子が聖雅と吹雪に突き飛ばされてベッドに倒された。
 
 「ぐっふぇぇー」

 みんなで笑った。




 家に帰るとロボが駆け降りて出迎える。
 聖が嬉しそうにロボの頭を撫でた。
 こいつは何だかロボが気に入ったようだ。

 リヴィングに上がると亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。

 「よかったぁー! もうすぐ鰻が届きますよ!」
 「そうか」

 亜紀ちゃんたちはハマグリの吸い物を作っていた。
 しばらく雑談していると、鰻が届いた。

 「ジャンニーニ、前に喰わせたものより若干落ちるけどな」
 「構わねぇよ! トラが喰ってるものなら絶対美味いんだろう」
 「まあ、喰ってみろよ」

 ジャンニーニたちがいるので、昼は鰻を取った。

 「ウォォォーー! やっぱり美味いぜぇ!」
 「良かったな」

 ジャンニーニが嬉しそうに頬張る。
 奈良漬が以前は苦手だったが、今はそれも美味そうにポリポリと食べるようになった。
 栞や桜花たちも嬉しそうだ。
 アラスカではまだ食べられない。
 エミーは初めてだが、美味しいと言っていた。 

 「あなた、来月はブロード・ハーヴェイだよね?」
 「おい、やっと終わったのに嫌なことを言うな!」
 「アハハハ! でも楽しみだよ!」

 『マリーゴールドの女』のこけら落としの後で、俺のライブをやる。
 これも橘弥生の仕込みだ。

 「トラ、俺も楽しみだよ」
 「うるせぇ!」

 聖が嬉しそうに笑っていた。

 「タカさん、あっという間に曲作っちゃいましたよね!」
 「全部「ドラエモン」の編曲だよ!」
 「そうだったんですか!」
 「橘さんには黙っとけ」
 「はい!」

 ニューヨーク勢には分からない。
 聖も多分分からない。

 亜紀ちゃんが橘弥生から50枚のチケットをもらった。
 また聖たちとジャンニーニたちやロックハート家、日本から院長夫妻や早乙女たち、一江や大森。
 それに栞たちと六花、麗星たち、鷹、もちろん響子とうちの子どもたち。
 蓮花たちも来る。
 他はアメリカでの俺の協力者たち。
 御堂が来れないのは残念だった。

 「もうローマ教皇は来ねぇだろうな」
 「あ、そっちは橘さんの分なんで」
 「かんべんしろー」

 みんなが笑った。




 食事を終え、花見の家に向かった。
 タイガーファングが迎えに来て、みんなが乗り込んで行く。
 栞たちに日本の食材を渡し、ジャンニーニたちには鰻のパックをやった。
 それと双子がかき氷機とシロップのビンをジャンニーニに渡した。
 ジャンニーニが狂喜して二人をハグした。
 聖には「黒笛」を10振り渡した。
 どういうものかは話してある。

 「じゃあ、またニューヨークでな!」

 俺が叫んで手を振ると、みんな振り返して来た。
 タイガーファングが離陸した。

 「行っちゃいましたね」
 「そうだな」

 亜紀ちゃんも寂しそうだ。

 「さー、タカさん!」
 「あんだよ」
 「『虎は孤高に』を観ましょうか!」
 「そうだな!」

 俺たちは笑いながら家に帰った。 
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