上 下
2,005 / 2,859

吉野 牛鬼狩 Ⅳ

しおりを挟む
 突然、巨大な気配が湧き起った。
 丁度虎白さんに、3本目の「カサンドラ」を届けた所だった。

 「なんだこりゃ!」
 「でかいですね!」

 50メートル級の時も大きかったが、それよりも遙かにでかい。

 「こいつはまずいぜ」
 
 あの虎白さんが少し脅えの気配さえ浮かべている。
 そんな顔は初めて観た。

 「高虎! とにかく急いで行くぞ!」
 「はい!」

 俺も呼んでもらえた。
 今度は失敗しないぞー!





 山頂に近い場所だった。
 体長240メートルの桁違いの牛鬼だった。
 集まって来る剣士は、剣聖たちが離れているように言っていた。
 剣士では多分一蹴で殺される。
 5人の剣聖だけが現場に集結した。
 他の剣士から預かったらしい「カサンドラ」を大量に持っている。

 「虎白! こりゃ見切戦か?」

 見切戦とは、多分一人が犠牲になって次に繋げるあの作戦のことだろう。
 先ほども、他の剣士たちがやろうとしていた。
 石神家の剣士たちは、敵の強さを見誤らない。
 それ程の強い敵だということだ。
 虎白さんが俺を見た。

 「どうだ、高虎?」

 虎白さんはやれると踏んでいるようだった。
 俺まで加えてくれるのは嬉しかった。
 俺も笑顔で応えた。

 「ぶっ殺しましょうよ。あんなのは残しとくと不味い」
 「そうか!」
 「はい!」

 虎白さんが俺の背中を叩き、他の剣聖たちも笑った。
 どうやら討伐に決まったようだ。

 「二人一組だ。一人は虎楯に徹しろ。「カサンドラ」はどうだ?」
 「さっき離れた連中から全部もらってきた」
 
 全部で30本ほどあった。

 「5本ずつ持て。50分はもつな」

 ロングソード・モードは10分でクールタイムに入る。

 「高虎はさっきの攻撃で仕掛けろ」
 「分かりました!」
 「てめぇ、分かってるだろうなぁ!」
 「身に染みてます!」

 俺にとどめを刺すなということだろう。
 あんなに恐ろしく強大な敵を前に、流石に石神家の剣聖たちは違う。
 
 「じゃあ行くぞ!」

 虎白さんが号令を掛け、全員が散っていく。
 俺はまた空中へ上がり、「オロチストライク」を連射した。
 さっきは「オロチ大ストライク」で一撃で仕留めてしまったからだ。
 予想通り、「オロチストライク」は全然効かず、痛みは与えているようだがダメージはほぼ無かった。
 やはり異常に頑丈な奴だ。

 虎白さんたちが俺を見ている。
 怖い顔をしているのが見える。
 俺は笑顔で手を振って斃さないので安心するように伝えた。
 でも、虎白さんたちも攻めあぐねているようだった。
 何しろ巨大な体躯だ。
 一人が奥義で攻撃し、もう一人は敵の攻撃を防ごうとしている。
 防衛担当がさっき虎白さんが言っていた「虎楯」ということなのだろう。

 剣聖の一人が倒れた。
 何かおかしい。

 その時、俺は空中から急速に接近する気配を捉えた。
 プレッシャーは無いので敵ではない。
 しかし、ここには石神家の剣聖以上の強い者はいないはずだた。

 「あれは!」

 緑色の影が高速で移動し、巨大牛鬼の頭部へ迫った。

 ぺちん

 牛鬼の頭が破裂した。

 「!」

 怒貪虎さんだった!
 怒貪虎さんは地上に立って、何か舞のような動きをし、牛鬼の粉砕された首の巨大な傷へ向かって何かを撃ち込んだ。
 牛鬼の身体に亀裂が入り、バラバラに刻まれて沈んだ。
 周囲にいた虎白さんがちが一斉に地面に倒れた。
 俺は急いで救出へ向かった。

 ほとんどの剣聖たちは意識を喪い掛けていた。
 俺は全員に「Ω」「オロチ」の粉末を飲ませて離れた場所へ移動させた。
 怒貪虎さんも、そっちへ行く。
 虎白さんはかろうじて意識があった。

 「高虎……」
 「はい、勝ちましたよ!」
 「……」

 運んだ。
 俺はハマーに戻り、「エグリゴリΩ」の粉末を取り出した。

 「「タカさん!」」

 ウインナーを焼いていた双子も呼ぶ。

 「一緒に来い! 急げ!」
 「「はい!」」

 双子がウインナーを口に咥えて一緒に空中へ飛んだ。
 空中で繋がったウインナーが次々と双子の口に消えた。




 倒れていた虎白さんたちに「エグリゴリΩ」の粉末を飲ませ、双子が「手かざし」をして回った。
 全員が意識を取り戻し、20分もすると動けるようになった。

 虎白さんたちは怒貪虎さんに土下座で感謝した。

 「ありがとうございました! お陰で命拾いしました!」
 「ケロケロ」
 「すいません! 俺らだけでやれると踏んでいたんですが」
 「ケロケロ」
 「はい! おっしゃる通りです!」

 俺には相変わらず「ケロケロ」は分からん。
 虎白さんが俺を向いた。
 他の剣聖たちもだ。

 「高虎」

 俺なんかにまで礼を言われるのは違う。
 俺は万一のために持って来た「エグリゴリΩ」を使っただけだ。

 「高虎、お前……」

 虎白さんは立ち上がりながら手足を動かしていた。
 自由に動くのを確認しているようだ。
 他の剣聖たちも同じように動いていた。

 「虎白さん、俺はたまたま持って来た「Ω」の粉末を使っただけで、あ、あれはちょっと特殊なもの……」
 「高虎ぁ!」
 「はい!」

 虎白さんが恐ろしい声で叫んだ。

 「てめぇ! なんであいつをすぐに殺さなかったぁ!」
 「へ?」
 「てめぇがぐずぐずしてやがったから! 俺らは死ぬとこだったぞ!」
 「はい?」

 俺の頭が真っ白になった。

 「最初に言ったよな! お前に頼むってよ!」
 「あ、あれは、俺に余計なことをすんなって……」
 「このバカヤロウ!」

 虎白さんにぶっ飛ばされた。

 「死んだ女房と子どもたちが見えたぞ!」

 他の剣聖たちも来た。

 「死んだお袋が手を振ってた!」
 「じいちゃんが花畑にいたぞ!」
 「ポチが足元にいた!」
 「……」




 全員にボコボコにされた。
 「エグリゴリΩ」の粉末が無ければヤバかった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...