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吉野 牛鬼狩 Ⅲ

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 怒貪虎さんと一緒にカールを食べながら、いろんな話をした。
 主に私たちがタカさんの話をした。

 「私たちの両親が突然死んじゃってね。タカさんが兄弟4人を引き取ってくれたの!」
 「凄いおっきい家でね。でもそんなことよりも、タカさんが優しくって! 毎日泣いてたんだけど、すぐに元気になった!」
 「ご飯も毎回美味しい物を作ってくれてね!」
 「だからタカさんのために、何でもしたいの! 大好き!」
 「超好き!」

 怒貪虎さんは笑って私たちの話を聞いてくれた。

 突然、大きな気配がした。
 まるで爆発したみたいな巨大な圧力。
 怒貪虎さんが立ち上がった。

 「怒貪虎さん!」
 「ケロケロ!」
 「うん、お願いします!」
 「タカさんたちを助けて!」

 「ケロケロ」

 怒貪虎さんが走って山に入って行った。
 時々ジャンプして木々を乗り越えていく。
 物凄い速さだった。

 「タカさん……」

 私たちは怒貪虎さんの進む方角をずっと見ていた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 俺が「飛行:鷹閃花」で向かうと、巨大な牛鬼が見えた。
 体長50メートルはありそうだった。
 8人の剣士が周辺にいて、既に1人が立ち向かい離れて3人。
 他の剣士は逃げようとしていた。
 石神家の剣士はその場で勝てない強敵に対峙した場合、一人が犠牲になって敵の技や能力を出来るだけ出させていく。
 それを数人が見届けてその情報を持ち帰り、返し技を編み出す。
 数人が見届けるのは、途中で敵に殺される可能性があるからだ。
 だから別々な方向へ逃げて追跡をかわす。
 今も、一人の剣士が立ち向かい、3人が離れてそれを観ていた。
 他の4人は先に逃げて行く。
 
 「どこにいたんだよ、あんな奴!」

 俺は地上へ向かった。
 上空から、他の剣士が向かってくるのが見えた。
 単独で行動してた「剣聖」たちだ。
 俺は地上に降りた。
 一人残った剣士の隣に立った。

 「俺がやります! 離れていて下さい!」
 「ダメだ! お前は生き残らなくちゃいけねぇ!」
 「何言ってんですか!」
 「当主なんだからよ!」
 「!」

 何言ってんだ。
 牛鬼の背中の剛毛が逆立つ。
 これほど大きいと、まるで一本一本が槍のようだ。

 「来るぞ!」
 「おう!」

 俺が叫び、剣士が応じた。
 俺は前方に「虚震花」を撃ち込んだ。
 剛毛が霧散していく。
 剣士が大笑いして喜んだ。

 「行くぞ!」
 「俺も行く!」

 俺と剣士が一緒に走る。
 でかい脚が俺たちを薙ぎに来た。
 先に剣士が刀身で受け、そのままへし折られた。
 俺が飛んで必死に「流星剣」を合わせる。
 脚の半分が斬り裂かれた。

 倒れた剣士を抱き起した。
 
 「大丈夫か!」

 意識はあったが喋れない。
 口から鮮血を吐いた。
 肋骨が肺を破ったのだろう。
 俺はそのまま抱えて飛んで距離を取った。
 剣士は苦しそうな顔のまま、自分で懐から「Ω」「オロチ」の粉末を取り出して口に入れた。
 すぐに表情が柔らかくなる。

 「助かったぜ」
 「いいですよ! 大丈夫ですね?」
 「ああ」
 「じゃあ、ここにいて下さい」

 俺はまた牛鬼に向かって行った。
 牛鬼は俺に斬られた脚を上に持ち上げて威嚇していた。
 俺の「流星剣」でも、一太刀では斬り飛ばせなかった。
 余程の硬度がある。

 「高虎!」
 「虎白さん!」

 虎白さんと他の3人の剣聖が来た。
 流石に速い。

 「どうだ?」

 虎白さんが俺に聞く。
 俺は短い言葉で伝えなければならない。
 切羽詰まった状況で、即座に行動しなければならないためだ。
 敵が尋常では無い妖魔なのは全員が分かっている。

 「「カサンドラ」を。普通の刀剣じゃ斬れません」
 「おし!」

 その遣り取りで十分に伝わった。
 奥義を出し惜しみ出来る相手ではなく、しかも「カサンドラ」が必要になる敵だということだ。
 虎白さんたちが躊躇なく刀を置き、背中から「カサンドラ」を外して握った。
 一人がロングソード・モードにし、200メートルのプラズマの刀身を展開する。
 虎白さんと他の四人は通常のソード・モードで、1.5メートルの刀身を出す。
 そういうことも全員が悟って手分けした。

 何も打ち合わせなく、虎白さんたちは四方へ散った。
 俺はロングソード・モードの剣聖と一緒に正面に残る。
 ロングソード・モードの剣聖が正面から巨大な牛鬼に振り下ろす。
 一撃で両断出来るとは誰も思っていない。
 振り下ろされた「カサンドラ」は、巨大な牛鬼の背中を焼いた。
 牛鬼が絶叫する。
 熱いようだ。

 俺は「ブリューナク」を牛鬼の顔面に見舞った。
 牛鬼の右目が潰れる。

 「ざまぁ!」

 隣の剣聖も「カサンドラ」をどんどん顔に突き刺して行った。
 牛鬼の攻撃が俺たちに集中する。
 俺は飛ばして来る剛毛を「虚震花」で防ぎ、剣聖を護りながら戦った。
 虎白さんたちが四方から同時攻撃を仕掛けた。

 「連山!」
 「煉獄!」
 「雲竜!」
 「疾風」

 牛鬼が脚を斬り飛ばされ、やがて胴体をどんどん削られて行く。
 巨体なので多少の時間は掛かるが、「カサンドラ」を使った奥義は圧倒的だった。
 俺の隣で剣聖が言った。

 「あいつ、ジェヴォーダンよりも硬いな」
 「そうですか!」
 「じゃあ、俺も行くな!」
 「はい!」

 剣聖が笑って突っ込んで行った。
 俺も笑いながら牛鬼の上に飛んだ。
 
 「オロチ大ストライク!」

 虎白さんたちに倣って、技名を叫んでぶっ放した。
 胴体が四散し、牛鬼の身体がペシャンと潰れた。

 「おお!」

 斃し切ったようだ。

 「高虎ぁー!」

 下で虎白さんが俺に叫んだ。

 「はい! やりましたね!」
 「バカヤロウ! 何でてめぇがとどめ刺すんだよ!」
 「え!」
 「しかも一発でよ!」
 「す、すいません!」
 
 手で来いと言っているので、俺は虎白さんの隣に降りた。
 ぶっ飛ばされた。

 「てめぇ! 身体がちょっと痺れたぞ!」
 「すいませんでしたぁ!」
 「ふざけんなぁ!」

 他の剣聖も来て、みんなに蹴りを入れられた。




 50メートル級が他に3体おり、80メートル級が1体いた。
 剣聖たちが争って斃しに行き、俺は「飛行」でどんどんクールタイムに入る「カサンドラ」の予備を運ぶ役目に集中した。
 通常の牛鬼は他の剣士たちが狩って行った。
 堕乱我と違って、ちょっと強すぎだったので、牛鬼は全滅させた。

 あー、俺もやりたかったのになー。
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