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KYOKO TRAININ

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 「六花、お願いがあるのー」
 「何ですか、響子?」

 響子がノートPCの画面を六花に見せた。

 「あー! チビザップ!」

 六花も知っていた。
 全国的に有名なフィットネスジムが、より気軽に使えるコンビニエンス的なジムを始めたのだ。
 着替えもしないで、そのままの服装で10分とかの短い時間、トレーニングマシンを使う。
 仕事帰りのサラリーマンがスーツのままで寄ることが出来る。
 
 「響子、行きたいの?」
 「うん!」
 「なんで?」

 響子は運動が苦手というか、ほとんど出来ない。
 身体が異常に弱いためだ。
 それは本人もよく分かっている。
 以前に比べると大分丈夫になって来たが、それでも長時間歩くことすら出来ない。
 石神もそのことは分かっていて、虚弱な響子のせめてもの楽しみのために、セグウェイを与えたりした。
 そのセグウェイも、最初は10分も乗っているとグッタリしていた。
 石神や六花が一緒について、休みながら遊ばせている。
 今は毎朝巡回で30分も乗っていられるようになっているが。
 それと夜の病院内の散歩だ。
 ストレス発散と共に、少し運動して響子がぐっすりと眠れるように考えている。
 また「響子体操」だ。
 石神と六花で考え、毎日響子が実施している。
 響子の体力をつけるために、石神たちは常に考えている。
 六花も響子と一緒に「遊び」をする態で、響子の身体を少し動かすようにしていた。
 その努力は確実に報われ、響子の体力は以前に比較して大幅に増進している。
 それでもまだまだ、普通の人間のようには動けないのだが。

 「私もね、少しは動けるようになりたいの」
 「うん、そうですね」
 「何か危ない時にはね、私も動けた方がみんなに迷惑を掛けないでしょ?」
 「響子……」

 六花が響子を抱き締めた。

 「私も石神先生も、響子を絶対に守ります。必ず。響子は気にしなくてもいいんですよ?」
 「うん。でもね、私ももうちょっと」

 六花は微笑みながら響子に言った。

 「じゃあ、石神先生の許可を取ってから」
 「うん!」

 響子が、病院の近くに「チビザップ」が出来たのだと言った。

 「そうなんですか!」
 「うん! だからね!」
 「運命的ですね!」
 「うん!」

 しかし、生憎石神は岩手の石神家本家に出掛けていた。
 連絡は取れないと亜紀から聞いた。
 六花は一江に相談した。

 「そうなんだ、響子ちゃんがそんなことを」
 「ええ、5分くらい体験させたいんですが」
 「まあ、いいんじゃない? 一応院長先生にも話しておくけど、私の許可ってことで」
 「いいんですか!」
 「大丈夫よ。六花がついていれば、問題ないでしょう?」
 「はい!」

 六花が許可が下りたと言うと、響子が喜んだ。

 「やったぁー!」
 「じゃあ、明日の土曜日にちょっとだけ行きましょうか」
 「うん!」

 響子が「やるぞー!」と叫んでベッドの上で腹筋運動をした。
 一度も身体は持ち上がらず、2回挑戦して動けなくなった。





 翌日の土曜日。
 響子が朝食を終え、1時間ほど休んでいると六花が迎えに来た。
 吹雪を抱いている。

 「六花、自分で歩くからね!」
 「いいえ、無理はダメです」

 六花は車いすを用意し、響子を座らせた。

 「じゃあ、吹雪を抱いて行くよ!」
 「いいえ、ダメです」

 絶対に落す。
 六花は吹雪をベビーキャリアで抱き、響子の車いすを押した。

 歩いて15分程の場所に「チビザップ」はあった。
 土曜日と言うこともあり、「チビザップ」には誰もいなかった。
 オフィス街なので、平日は結構入っているのだろうが。
 入会は昨日ネットで済ませている。
 響子が全て調べていたのでスムーズだった。

 「脱毛もあるんだって!」
 「そうなんですか!」

 響子は膝上のピンクのパンツに、長袖のトレーナー。
 六花はいつものジャージで、今日はオフホワイトのものを着ていた。
 靴は二人ともスニーカーで、やる気満々だった。
 入り口でスマホを翳して入室する。

 「響子、何からやりますか?」
 「うーん、あれ!」
 
 チェストプレスマシン。
 六花が一番軽く調整した。

 「むり……」

 ラットプルダウン。
 一番軽くする。

 「むりだね……」
 
 響子は一つも出来なかった。

 「エアロバイクにしましょう!」

 乗れた。

 「回るよ!」
 「回ってますよ!」

 二人で喜んだ。
 吹雪を冗談でチェストプレスマシンに乗せた。

 「吹雪ぃー、ちょっとやってみなー」
 「キャハハハハ!」

 バコン

 使えた。

 「「……」」

 いろいろやってみたので、時間が過ぎた。
 
 「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
 「うん。あ、エステもあるんだよ?」
 「ああ、そうでしたね!」

 二人でエステコーナーに行く。

 「六花! 何やってるの!」
 「下半身の脱毛をしようかと」

 下を全部脱いでいる六花を響子が必死に止めた。
 
 「監視カメラがあるよ!」
 「あ!」

 慌ててジャージを履いた。

 「もう!」
 「あそこのお手入れが楽になるかと」
 「エッチ!」

 二人で笑いながら帰った。




 翌週。
 石神が帰って来た。
 六花はすぐに石神に「チビザップ」のことを話した。

 「すいません、許可を得ずに行ってしまいまして」
 「いいよ、ちゃんと院長や一江に話してから行っただろ?」
 「はい、それは」
 「お前が響子を悪くするわけないからな。信頼しているよ」
 「石神先生……」

 二人で笑って響子の部屋へ行った。

 「おい、なんだこりゃ」

 鉄アレイ、ダンベル、ハンドグリップ、トレーニングチューブ、EMSマシン等々。

 「タカトラー!」
 「お前、これどうしたんだよ」
 「通販で買った」
 「おい」

 六花が1キロのピンクの鉄アレイを響子に持たせた。

 グキ

 「いたいよー!」
 「これじゃ、ダンベルも無理ですね」
 「そうだなー」
 
 ハンドグリップは1ミリも動かず、トレーニングチューブも全然伸びなかった。

 「あとはこれかぁ」
 「まあ、やってみますか」

 EMSマシンのパッドにジェルを塗り、響子のお腹に付けた。
 
 「なんか冷たい」
 「大丈夫かよ?」
 「うん、頑張る!」

 六花が最弱のモードでスイッチを入れた。

 「ギャハハハハハ!」

 響子が悶えて笑っている。
 石神がすぐに外してやった。

 「大丈夫か?」
 「くすぐったかった」
 「そっか」

 六花が全部仕舞い始めた。

 「もうちょっとしてからな」
 「うん」
 





 1週間後、石神がプラチナのブレスレットを二つ、響子にプレゼントした。

 「片方、100gな」
 「ちょっと重いよ」
 「まあ、頑張れ」
 「うん!」

 1時間後、響子はブレスレットを外し、おもちゃ箱に仕舞った。
 昼食を食べてスヤスヤ寝ている。

 「まあ、こんなもんか」
 「そうですねー」
 
 ニコニコしている響子の寝顔を見て、二人で笑った。

 「こないだ、黙ってプロテイン飲んでたんですよ」
 「マジか!」
 「下痢になりました」
 「ワハハハハハハ!」

 二人で笑いながら部屋を出て行った。
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