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新宿悪魔 Ⅱ
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「ザンザス! TORAの演奏を頼む!」
「かしこまりました、早霧さん」
早霧さんの声がスピーカーから聞こえた。
AIが早霧さんの言う通りにTORAのギター演奏を流した。
エレキギターの曲目だった。
俺と愛鈴さんが後部のシートで笑う。
運転席とはスピーカーで繋がっており、会話も出来る。
「今日はヴァン・ヘイレンじゃないんですね」
俺が運転席の早霧さんに言った。
早霧さんの車では、ほとんどヴァン・ヘイレンを聞かされている。
「どうもよ、最近はこっちなんだ。ストラトキャスターとフライングVをちょっといじってるな。いい音だせぇ」
「そうなんですか」
昨年の御堂総理の東京ドームでの演奏データを早霧さんが入れた。
TORAの演奏は問題なくザンザスのAIが受け入れたが、ヴァン・ヘイレンは早乙女さんがAIに頼み込んでやっと入れてもらえた。
何故なのかは分からないが。
AIに好みでもあるのだろうか。
「早霧さん、TORAの演奏はいいですね!」
「お前にも分かるかぁ!」
AIが褒めると早霧さんが喜んだ。
「ザンザス」のAIは非常に人間的で、感情すら感じる。
戦闘や指揮支援の能力も凄いが、こういう日常会話までこなし、しかも楽しい。
「虎」の軍では既に超高度AIの開発が進んでおり、例えば羽入さんのバディである紅さんは、本当に人間としか思えないほどだ。
みんな紅さんも「ザンザス」も、一人の人間として考えている。
大事な仲間だ。
「もうすぐセカンドアルバムが発売ですが、御存知ですよね?」
「当たり前だぁ! ああ、楽しみだぜ!」
「私もです!」
「そうかぁ!」
早霧さんが上機嫌で現場に到着し、俺たちはすぐに誘導されて「ザンザス」から降りた。
早霧さんは日本刀を、俺と愛鈴さんは一応「カサンドラ」をそれぞれ腰に吊っている。
もう現場には規制線と幕が張られ、周囲には野次馬が大勢群がっていた。
俺たちは直接幕の内側に車を入れたので、顔を見られることはない。
テレビ局などのマスコミが来るのももうすぐだろう。
多分、ネットでは既に事件のことが上がっているだろう。
具体的なことは分からないだろうが、何か大きな事件であることは素人にも分かる。
もう遺体は運ばれており、その位置がチョークで記されている。
「アドヴェロス」が出動したので、遺体の搬送先は俺たちの本部のはずだ。
そこで様々なことが調べられる。
鑑識の人間が来て、それぞれの現場の写真を俺たちに見せながら説明してくれた。
以前とは違い、「アドヴェロス」に随分と協力的になってくれた。
早乙女さんが様々に動いてくれたお陰だと知っている。
警察組織は管轄同士で衝突もあり、同じ警察署内でも部署で反目していることも多かった。
特に公安組織は嫌われており、当初は俺たちが現場に入るのを露骨に嫌がられた。
それを早乙女さんが改革した。
警察の上層部を動かし、また現場でも協力してくれた人間に感謝し、反発する人間を説得して行った。
情報は出来る限り共有し、次回も協力をしてくれるように頼んだ。
そういう地道な努力があった。
そして何よりも、ライカンスロープや妖魔との戦闘において一般警察官を守り、危険は一手に引き受けた。
他の犯罪者以上に危険のある現場で、自分の身を挺しての早乙女さんの姿勢が、多くの警察官の意識を変えた。
また御堂総理の力も大きい。
ある時、御堂総理が多数の功績のある早乙女さんを表彰したことがあった。
ヤマトテレビでその式典が報道された。
早乙女さんが賞状と金一封を受け取った。
それを警視総監にその場で渡した。
「自分の功績などは一つもありません。全国の警察官が命を掛けて成し遂げた結果しかありません。私は日本の全警察官を誇りに思います」
早乙女さんがそう言った。
全ての警察官が早乙女さんの言葉を知った。
全警察官が早乙女さんを信用した。
「襲撃の現場が分かりました。議事堂の屋上でした。恐らく8人の被害者はそこへ連れ去られ、襲われたと思われます」
周辺を調べていた機動捜査隊の警官が俺たちに教えてくれた。
「現場は血の海です。そこでバラバラにしてここへ叩きつけたのかと」
「どうやってあんな場所に運んだんだ?」
「まだ分かりません。建物の内部からではないようです」
「じゃあ、飛んだのかよ」
「それはまだ」
飛行能力のあるライカンスロープはまだ遭遇したことはない。
だが、以前からその可能性は考えられていた。
俺たちが説明を受けていると、早乙女さんと便利屋さんが到着した。
俺たちは敬礼で迎える。
早霧さんが早乙女さんに現状を報告し、便利屋さんは既に索敵を始めていた。
全員で議事堂の屋上へ移動する。
「便利屋さん、敵の気配はありますか?」
「今は感じられないんですが」
「それは?」
「なんだかね、それでも近くにいるような感じもあるんですよ」
「そうですか」
便利屋さんの索敵能力は凄い。
この人が来て、敵の位置が分からなかったことはない。
それが、今日に限っては少し曖昧な話し方だった。
「妖魔ではないんでしょうか?」
「ええ、多分。妖魔だともうちょっと黒い感じなんですけどね。これは人間の黒さでさぁ」
「そうなんですか」
「妖魔は真っ黒、でも人間の黒さってもっと汚らしいですよ」
「はい」
屋上に着いた。
既に鑑識が大勢いたが、まだ現場はそのまま残っている。
血と臓物がばら撒かれている、恐ろしい現場だった。
「早乙女さん、こいつは最悪だ。恐ろしく強くて、恐ろしく狂っていて、恐ろしく狡猾だ。気を付けておくんなさい」
便利屋さんが言った。
「かしこまりました、早霧さん」
早霧さんの声がスピーカーから聞こえた。
AIが早霧さんの言う通りにTORAのギター演奏を流した。
エレキギターの曲目だった。
俺と愛鈴さんが後部のシートで笑う。
運転席とはスピーカーで繋がっており、会話も出来る。
「今日はヴァン・ヘイレンじゃないんですね」
俺が運転席の早霧さんに言った。
早霧さんの車では、ほとんどヴァン・ヘイレンを聞かされている。
「どうもよ、最近はこっちなんだ。ストラトキャスターとフライングVをちょっといじってるな。いい音だせぇ」
「そうなんですか」
昨年の御堂総理の東京ドームでの演奏データを早霧さんが入れた。
TORAの演奏は問題なくザンザスのAIが受け入れたが、ヴァン・ヘイレンは早乙女さんがAIに頼み込んでやっと入れてもらえた。
何故なのかは分からないが。
AIに好みでもあるのだろうか。
「早霧さん、TORAの演奏はいいですね!」
「お前にも分かるかぁ!」
AIが褒めると早霧さんが喜んだ。
「ザンザス」のAIは非常に人間的で、感情すら感じる。
戦闘や指揮支援の能力も凄いが、こういう日常会話までこなし、しかも楽しい。
「虎」の軍では既に超高度AIの開発が進んでおり、例えば羽入さんのバディである紅さんは、本当に人間としか思えないほどだ。
みんな紅さんも「ザンザス」も、一人の人間として考えている。
大事な仲間だ。
「もうすぐセカンドアルバムが発売ですが、御存知ですよね?」
「当たり前だぁ! ああ、楽しみだぜ!」
「私もです!」
「そうかぁ!」
早霧さんが上機嫌で現場に到着し、俺たちはすぐに誘導されて「ザンザス」から降りた。
早霧さんは日本刀を、俺と愛鈴さんは一応「カサンドラ」をそれぞれ腰に吊っている。
もう現場には規制線と幕が張られ、周囲には野次馬が大勢群がっていた。
俺たちは直接幕の内側に車を入れたので、顔を見られることはない。
テレビ局などのマスコミが来るのももうすぐだろう。
多分、ネットでは既に事件のことが上がっているだろう。
具体的なことは分からないだろうが、何か大きな事件であることは素人にも分かる。
もう遺体は運ばれており、その位置がチョークで記されている。
「アドヴェロス」が出動したので、遺体の搬送先は俺たちの本部のはずだ。
そこで様々なことが調べられる。
鑑識の人間が来て、それぞれの現場の写真を俺たちに見せながら説明してくれた。
以前とは違い、「アドヴェロス」に随分と協力的になってくれた。
早乙女さんが様々に動いてくれたお陰だと知っている。
警察組織は管轄同士で衝突もあり、同じ警察署内でも部署で反目していることも多かった。
特に公安組織は嫌われており、当初は俺たちが現場に入るのを露骨に嫌がられた。
それを早乙女さんが改革した。
警察の上層部を動かし、また現場でも協力してくれた人間に感謝し、反発する人間を説得して行った。
情報は出来る限り共有し、次回も協力をしてくれるように頼んだ。
そういう地道な努力があった。
そして何よりも、ライカンスロープや妖魔との戦闘において一般警察官を守り、危険は一手に引き受けた。
他の犯罪者以上に危険のある現場で、自分の身を挺しての早乙女さんの姿勢が、多くの警察官の意識を変えた。
また御堂総理の力も大きい。
ある時、御堂総理が多数の功績のある早乙女さんを表彰したことがあった。
ヤマトテレビでその式典が報道された。
早乙女さんが賞状と金一封を受け取った。
それを警視総監にその場で渡した。
「自分の功績などは一つもありません。全国の警察官が命を掛けて成し遂げた結果しかありません。私は日本の全警察官を誇りに思います」
早乙女さんがそう言った。
全ての警察官が早乙女さんの言葉を知った。
全警察官が早乙女さんを信用した。
「襲撃の現場が分かりました。議事堂の屋上でした。恐らく8人の被害者はそこへ連れ去られ、襲われたと思われます」
周辺を調べていた機動捜査隊の警官が俺たちに教えてくれた。
「現場は血の海です。そこでバラバラにしてここへ叩きつけたのかと」
「どうやってあんな場所に運んだんだ?」
「まだ分かりません。建物の内部からではないようです」
「じゃあ、飛んだのかよ」
「それはまだ」
飛行能力のあるライカンスロープはまだ遭遇したことはない。
だが、以前からその可能性は考えられていた。
俺たちが説明を受けていると、早乙女さんと便利屋さんが到着した。
俺たちは敬礼で迎える。
早霧さんが早乙女さんに現状を報告し、便利屋さんは既に索敵を始めていた。
全員で議事堂の屋上へ移動する。
「便利屋さん、敵の気配はありますか?」
「今は感じられないんですが」
「それは?」
「なんだかね、それでも近くにいるような感じもあるんですよ」
「そうですか」
便利屋さんの索敵能力は凄い。
この人が来て、敵の位置が分からなかったことはない。
それが、今日に限っては少し曖昧な話し方だった。
「妖魔ではないんでしょうか?」
「ええ、多分。妖魔だともうちょっと黒い感じなんですけどね。これは人間の黒さでさぁ」
「そうなんですか」
「妖魔は真っ黒、でも人間の黒さってもっと汚らしいですよ」
「はい」
屋上に着いた。
既に鑑識が大勢いたが、まだ現場はそのまま残っている。
血と臓物がばら撒かれている、恐ろしい現場だった。
「早乙女さん、こいつは最悪だ。恐ろしく強くて、恐ろしく狂っていて、恐ろしく狡猾だ。気を付けておくんなさい」
便利屋さんが言った。
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