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皇紀 行方不明 Ⅲ

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 「やっぱりダメだ!」

 さっきからラペルピンの破壊を試みていた。
 「花岡」の技も使ったが、どうやら「エグリゴリΩ」の翅を加工したものらしく、全然通じない。
 熱もダメだった。
 それまでの普通の「Ω」とは桁違いの性能だ。
 熱も衝撃も電磁波も放射能も利かない。
 
 「どうしよー」

 絶対に見られるわけにはいかない。 
 僕の信用がゼロになる。

 「やめとけばよかったー! でも我慢できなかったー!」

 自分の弱さが悔やまれた。
 海外でみんなと離れて気が緩んでいた。
 ラペルピンに、そんな仕掛けがあるなど、思いも寄らなかった。

 「しょうがない。丹沢にでも行って大技で破壊するかぁ」

 僕が自分で作ったものであれば簡単だったが、何しろルーとハーがオリジナルで作ったものだ。
 僕がこれから何か装置を作ろうとしても、あの二人以外にはセキュリティは突破出来ない。
 外からの信号で内部の記憶装置と交信する構造なのは分かっている。
 でも、その信号の周波数や暗号化されたコードはどうにもならない。
 蓮花さんの研究所へ行けば何とかなるかもしれないが、蓮花さんが絶対にタカさんに知らせるだろう。
 もう既に連絡が行っている可能性も高い。

 丹沢へ行く決意を固めたその瞬間、巨大なプレッシャーが5つ近づいて来た。

 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「いたよ!」

 タブレットを睨んでいたルーが叫んだ。
 全員がホッとする。
 新宿の中央公園だった。
 まあ、俺たちにはいろいろと思い出深い。
 楽しい思い出ではないが。

 「あ! 逃げようとしてる! 気付かれたよ!」
 「全員! 確保!」
 「「「「はい!」」」」

 ハマーを路肩に止め、俺たちは一斉に襲い掛かった。
 空中へ飛ぼうとしたところを、亜紀ちゃんが蹴りで地面に叩きつけた。
 皇紀も尚も抵抗はしたが、俺たち5人にかかれば呆気なかった。
 握りしめていたラペルピンをハーが奪い取る。

 「ラペルピンは無事だよ!」
 「おし! 亜紀ちゃん、皇紀を縛れ!」
 「はい!」
 「妖魔に操られてるかもしれん! しっかり縛れよ!」
 「分かりました!」

 ハマーから「Ωワイヤー」を持って来て、亜紀ちゃんが皇紀をぐるぐる縛った。

 「やめてよー!」
 「皇紀! 大丈夫か!」
 「大丈夫じゃないですー!」
 「しっかりしろ! 取り敢えず家に帰るぞ!」

 皇紀を荷台に乗せ、ルーとハーが一緒に乗って心配そうに見ていた。
 必死に手をかざして妖魔の気配を探っている。

 「やっぱり私たちじゃ分からない」
 「皇紀ちゃん、必ず助けるからね!」
 「助けてよー!」

 双子に感知できないとすれば、相当厄介な精神攻撃だ。





 家に着いてすぐに俺はタマを呼んだ。

 「タマ!」
 「なんだ」
 「すぐに皇紀を見てくれ! 妖魔の精神攻撃かもしれない!」
 「分かった」

 タマが皇紀を見た。

 「何も無いようだが」
 「もっとよく見ろ!」
 「見ている。少なくとも今は何も痕跡はないぞ」
 「そうか! じゃあ、やっぱりフィリピンでの攻撃だったんだな!」
 「タカさん!」
 
 ルーが泣きそうに叫ぶ。

 「おい、すぐにラペルピンの映像を観るぞ! 用意をしろ!」
 「はい!」

 「絶対にやめてぇー!」

 皇紀が叫ぶ。

 「亜紀ちゃん! 皇紀の口を塞げ!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが「Ωボールギャグ」で皇紀の口を塞いだ。
 尚も皇紀は何かを訴えようとしている。
 もう少し待っていろ、皇紀!
 皇紀を地下室へ運ぶ。
 タマも付いて来た。

 双子がPCと複数の機械を持って来る。

 「これならHDMIで外部出力ができます!」
 「よし!」

 俺がすぐにテレビに繋げ、ハーがPCでコードを打ち込んで行く。
 
 「映像出ます!」

 最初は皇紀が大統領と会食する時の映像だ。
 早送りで観て行く。
 翌日に最初に見に行った土地での戦闘シーン。
 昼食の中華料理屋。
 全員で画面に喰いついて観て行く。
 異常はまだ見られない。

 二日目の夜。

 「あ! 街に独りで出て行くよ!」
 「いよいよ操られ始めたか!」

 皇紀の唸り声が大きくなる。

 「一倍速に戻せ! ここから集中して観ろ!」
 「「「「はい!」」」」
 「にゃー!」

 ロボも懸命に観てくれる。

 「あ! お店に入るよ!」
 「?」
 「にゃ?」

 風俗店のようだが。

 「カワイイ子だ!」
 「まだ若いね」
 「オッパイは普通だね」
 「一緒にシャワー浴びてるよ」

 始まった。


 HAH! GOOD! SO GOOD! MORE! CAMONN! HAH! AN! AN! AN! OH FUCK!

 
 「「「「「……」」」」」」
 「にゃー……」

 粘膜のこすれる音が聴こえる。
 上着がハンガーに掛けられたか、少し高い位置からベッドの男女の営みが見える。
 皇紀の唸り声が、さめざめと泣く声に変わった。

 俺が操作を教わり、翌晩、翌々晩の映像を確認する。
 毎日通ってた。

 一週間後。

 「おい、こいつはフローレスじゃねぇか」
 「「「「……」」」」」

 どこかのホテルで待ち合わせしていたようだ。

 「お前よ、確かもう風花だけだって言ってたよな?」
 「……」
 「これだけ毎晩いろんな女とやってて、風花のとこに一週間もいたのかよ?」
 「……」

 「俺はもう帰ってもいいか」
 「お、おう」

 タマが消えた。
 亜紀ちゃんに皇紀のボールギャグを外させた。

 「殺して……」
 「おう、覚悟しろや」

 亜紀ちゃんが冷たい声で言い、全員で皇紀を庭に運び上げた。
 




 ボコボコにされた。




 俺が許してやれと言っても、2週間、誰も皇紀と口を利かなかった。
 亜紀ちゃんが風花に映像を送ると言ったが、それだけは勘弁してやれと言った。
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