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皇紀の帰宅

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 早乙女家でバーベキューをした翌日の昼。
 皇紀がやっと帰って来た。
 あいつ、1週間も風花のところに入り浸りやがった。
 まあ、俺がゆっくり帰って来いと言ったのだが。
 それにしてもたるんでやがる。

 「ただいまー!」
 「おう!」
 「「「「おかえりー!」」」」

 それでもみんなで歓迎した。
 言いたいことはあるが、こいつも随分と頑張って来たことは確かだ。

 「あー! やっぱり家はいいな!」
 「じゃあもっと早く帰って来い!」
 「アハハハハハハ!」

 金髪を後ろに流してまとめている。
 もうポンパドールのリーゼントじゃない。
 まあ、いつでも復活出来るが。

 「皇紀ちゃん、食べたいものある?」

 双子が大好きな皇紀のために好きなものを作ろうとしていた。
 
 「そうだなー、久し振りにバーベキューを食べたいかな」
 「おい、昨日喰ったばかりなんだよ」
 「そうなんですか!」

 子どもたちに異議は無くとも、俺が嫌だ。

 「じゃー、どうしよっか」
 「僕は何でもいいよ」
 
 子どもたちが俺を見ている。
 お前が何とかしろという目だ。

 「じゃあ、「銀河宮殿」でも行くか!」
 「「「「「わーい!」」」」」

 しょうがねぇ。
 亜紀ちゃんが早速電話した。

 昼は焼きそば(肉多目)にした。

 「皇紀! 『虎は孤高に』、観てないでしょ! 一緒に観ようか!」
 「え、風花さんの所で全部観たよ」
 「なんでだよぉー!」

 みんなで笑う。
 でも、亜紀ちゃんが夕べの美紗子の話を皇紀にした。

 「え! そんなことがあったんだ!」
 「ね、だから一緒に観ようよ!」
 「うん!」

 亜紀ちゃんがニコニコして早く喰えと言った。
 双子も皇紀といたいので、一緒に観るようだ。






 俺は柳と顕さんの家に行った。

 「お前は皇紀なんか別にいいもんな!」
 「そんなことないですよ!」

 まあ、今日は元々換気に行く日だった。
 だから俺も付き合った。
 柳のアルファードに乗る。
 随分と運転が上手くなった。

 「この車もいろいろ思い出が詰まって来たな!」
 「え、まあそうですね。あんまり遠くへは行かないですが」
 「でもウンコ乗っけたりさ。大きなウンコも乗せたしな!」
 「……」

 「こないだはウンコ・ハーだろ? ああ! 大麻も乗っけたな!」
 「石神さん……」

 「冗談だよ!」

 ほんとに乗っけたのだが。

 「もう!」
 「お前が可愛くて、つい虐めたくなっちゃうんだよ」
 「やめてください」
 「ほら、好きな子はいじめたくなるって、男の性格じゃん!」
 「美紗子ちゃんはいじめてないですよね?」
 「そりゃ、カワイイから」
 「……」

 「りゅー」

 ふざけてオッパイを指で突くとハンドルを離して抵抗するのでやめた。
 1時間も経たずに、顕さんの家に着く。
 一緒に家に入って窓を開けて行った。
 柳は雑巾を片手に、見つけた汚れを落としていく。
 まったく真面目にやってくれている。
 2階の窓も全部開けて、いい天気だったので柳が顕さんと奈津江の布団も干した。
 俺も手伝った。
 一休みする。
 柳が麦茶を作り、冷蔵庫から氷を出して冷やしてくれた。

 「お前、兄弟が揃ったから気を遣ったか」
 「え、えーと」
 「お前も家族なんだから遠慮はするなよな?」
 「はい。でも、まあ」

 柳が下を向く。

 「まあ、そういう一歩下がる所が柳の魅力だけどな!」
 「そうですか?」
 「亜紀ちゃんはグイグイ来るだろ?」
 「まあ、そうですね」
 「あれは別にいいんだけどよ。でも俺はどっちかと言うと、遠慮がちな人間の方が好きだけどな」
 「そうなんですか?」
 「御堂がそうだろう!」
 「えぇ! またお父さん!」
 「ワハハハハハハハ!」

 柳もやっと笑った。

 「御堂なんかさ、本当は嫌なのに俺が頼んだら総理大臣までやってくれてさ!」
 「でもあれはお父さんも石神さんのためにやりたいんだと思いますが」
 「まあな。だけど普通は躊躇するよ。あいつは一切そんなことは無かった。俺が頼んだら「分かった」ってさ。いろんなことを全部呑み込んで、御堂はそう言ってくれたんだ」
 「そうですか」

 柳を観て言った。

 「お前も同じだった。俺が対妖魔の技を頼んだら、二つ返事で引き受けてくれた」
 「はい、まあ、そうでしたね」
 「次の日から、お前は早速やり始めた。何をどうやっていいのかも分からないのにな」
 「必死でしたよ」
 「そうだな。随分とやり過ぎるんで何度も説教したのによ。お前は言うことも聞かずにやり続けた」
 「すいませんでした」
 「そしてお前はやり遂げた」

 柳も俺を見た。

 「俺は感動したぜ。不可能とまでは思っていなかったけどな。でも出来なくてもいいと思ってた」
 「それ、聞いてショックでしたよ!」
 「アハハハハ。でも柳は本当にやったからな。それだけじゃねぇ。お前はやり遂げてそこで満足もしなかった」
 「ええ、石神さんが戦う相手がどんどん強くなりましたからね」
 「そうか。お前はそういうことを考えていてくれたんだな」
 「そりゃそうですよ。私、石神さんのお役に立ちたいんですから!」
 「ありがとう、柳」

 俺が微笑んで言うと、柳が恥ずかしがって赤くなった。

 「柳、お前のことは信頼しているんだ」
 「ありがとうございます」
 「でも勘違いするなよな? お前に任せてそれが上手く行かなくたっていいんだ」
 「え?」
 「お前には向かい続けて欲しいだけなんだよ」
 「えーと、それって……」

 「対妖魔の技を求め続ける。顕さんの家のことを考え続ける。立派なものが出来なくたっていい。役立たなくたっていい。お前がやろうとして向かい続けてくれればそれでいいんだ」
 「でも、失敗したら大変なことに!」
 「俺はそれでもいい。俺もフォローするし、他の子どもたちだってそうだ。御堂も正巳さんたちもアラスカの仲間たちも、いろいろな人間がお前の味方だ。それを忘れるな」
 「は、はい!」
 
 柳が涙ぐんだ。

 「おい、みんなお前のことが大好きなんだ。まあ、何やっても頑張っちゃってさ。カワイイと思わない奴はいないよ」
 「石神さん!」
 「だから、もうちょっと肩の力を抜け。そうすると今度はまたいい発想も出て来るぞ」
 「はい!」
 「一人で背負い込むことはねぇ。俺たちを頼れ。もっと相談しろ」
 「はい! 分かりました!」

 柳が泣き顔で笑った。
 本当にカワイイ奴だ。

 「俺の最愛の奈津江なんてよ。料理なんて完全に俺に頼ってたしな」
 「アハハハハハハ!」
 「一つも手伝うつもりなんてねぇ。それでも良かったんだ。あいつは俺に本当にたくさんのものをくれた」
 「そうですね」
 「まあ、そういうことだ!」
 「はい!」

 


 家に戻ると、亜紀ちゃんが地下から呼んだ。

 「あー! やっと帰って来たぁ! 柳さん、早くこっちへ! 一緒に観ましょうよ!」

 まだ観てやがった。

 「うん! すぐに行く!」

 柳が笑って階段を降りて行った。
 地下から楽しそうな笑い声が聞こえた。
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