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100日じゃ多分死なないワニ Ⅳ

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 俺たちが中へ入ると、ドシンドシンと地響きが伝わって来る。
 当然巨大な身体が見える。
 俺に向かって、巨体の割には意外と速い速度で近づいて来た。

 「あなたさまー! お会いしたかったですぅー!」
 
 やけに可愛らしい声で話す。
 見た目は怪獣なのだが。
 漆黒に輝く体表が凄い迫力だ。
 口を開けると人間の身長もありそうなどでかい牙が並んでいる。
 象も一撃だろう。
 多分ライフル弾も跳ね返すと俺は観た。
 戦車砲は通じるだろうか。

 「アリちゃん!」
 「ん?」

 叫んだ亜紀ちゃんにワニが向く。

 「それって、私の名前?」
 「そうだよ!」
 「それはちょっとなー」
 「えぇ!」
 「私はシャドウ・ガン……」

 「あ! それ、もうそういう名前の奴がいるから!」

 俺が遮った。

 「そうなんですか! じゃあ、黒木幻魔で」
 「おい!」

 どうして俺の血を入れた奴は厨二病的な名前を好むのか。

 「お前はメスか?」
 「はい!」
 「じゃあ、「クロ子」な!」
 「おお!」

 なんか喜んだ。

 「テレポートが使える気がします!」
 「おい、やめろ」

 なんでそんな知識があるのか。
 俺たちは超電磁砲以上の技があるが。
 それにしても、改めて見るとでかい。
 体長38メートルの生物など、俺たちは観ることはないだろう。
 桁外れだ。
 
 「それにしても随分と大きくなったものだな」
 「はい! あなたさまのお陰でございますー!」
 「元からでかかったけどよ。ちょっと大き過ぎないか?」
 「はぁ。大きいのはお好きではありませんか?」
 「いずれ慣れるのかもしれんがな。今は圧倒されるばかりだ」
 「そうですかー。あの、身体の大きさはある程度自由になりますが」
 
 「そうなのかよ!」
 
 俺は思わず叫んだ。
 しかし、それは生物ではあり得ないことだった。

 「それでは!」

 クロ子が叫ぶと辺り一帯に水蒸気が立ち込めた。
 クロ子の体内から出たのか?
 少し生臭いが、嫌悪感はそれほど無い。
 水蒸気が晴れると、目の前からクロ子が消えていた。
 突然後ろから肩を抱かれた。

 「このサイズでは如何でしょうか! あなたさまー!」
 
 俺の背中に回り込んだクロ子が俺の耳元で囁いた。
 ワニの口だが。
 やはり生臭い。

 「おぉ!」

 体長は尾を除けば2メートル以下になっていた。

 「お前、すげぇな!」
 「はい!」

 後ろ足で立ち上がっている。
 まるでワニの着ぐるみを着ているような感じだ。

 「あの体積はどうなったんだよ?」
 「別な空間に。今も繋がってはいるのですが」
 「なんだ?」

 クロ子が空間の位相をずらして存在することが出来るのだと説明した。

 「宜しければ数式も書けますが」
 「ああ、いいや」

 証明の必要はねぇ。

 「そうなると食事はどうなるんだ?」
 「はい、このサイズをこの空間に存在させるだけで十分です。位相空間では固定されていますので」
 「そうなのかよ!」

 一挙にいろいろな問題が解決した。

 「蓮花! じゃあ、これでシャドウと一緒に暮らせるな!」
 「シャドウさんが危ないです!」
 
 蓮花が俺の腕を持って懇願した。
 まあ、知性はあってもワニだからなー。

 「じゃあ、別な場所にするかぁ」
 「お願いします!」

 蓮花はまだクロ子には思い入れが無い。
 まあ、俺にもそんなに無いのだが。
 しかし、クロ子の方では俺にグイグイ来る。

 「あの、あなたさまのお傍にはいられないのでしょうか?」
 「無理だな」
 「はぁー」

 即答で拒否した。
 ワニなんて、面倒が多過ぎる。

 「うちにはロボがいるからな」
 「ん?」

 ロボを呼んだ。
 俺の傍に来る。
 クロ子を見ていた。
 親し気な雰囲気は無かった。

 「はぁ、この方であれば仕方ありませんね」
 「カワイイからな!」
 「まあ、そういうことでもありますがー」

 クロ子が意外にも早く諦めた。

 「取り敢えず、食事にするか。お前、お腹空いてる?」
 「まあ、それなりに」
 「おし! ルー、ハー! その辺でイノシシでも狩って来てくれ!」
 「「はーい!」」

 俺は双子に任せて、みんなで研究所の本館へ入った。
 蓮花が俺たちのためにいろいろと準備してくれていた。
 キノコの炊き込みご飯。
 フグとウナギの天ぷら(絶品)。
 それと俺にはマグロを中心とした御造り、子どもたちはステーキ。
 子どもたちが手伝って厨房から運んで来る。




 「そういえばよ、あいつ人間喰ってたよな?」
 「はい! 足が出て来ましたもんね!」

 俺と亜紀ちゃんの話に、蓮花が驚く。

 「早乙女の家の庭でさ、亜紀ちゃんがあいつの腹を蹴ったんだよ」
 「そうしたらいきなり太腿吐き出してびっくりしましたよね?」
 
 急いで亜紀ちゃんと口に放り込んで呑み込ませたと話した。

 「私たちは大丈夫でしょうか?」
 「まあ、知性が出たから大丈夫なんじゃねぇの?」
 「そんな、曖昧なことでは……」

 蓮花が食事を並べていると、双子が帰って来た。

 「ちゃんとあげてきましたよー」
 「そうか。喜んでたか?」
 「うん! 四つ足は久しぶりだって!」
 「!」

 全員が俺を見ていた。

 「ま、まあ、魚とかばっかだったんじゃねぇか?」
 
 蓮花が疑い深そうな目で俺を見ている。

 「さー、食べようか! 今日も美味そうだな、蓮花!」
 「はい……」

 子どもたちの「喰い」がちょっと勢いに欠けていた。
 
 


 何か、嫌な予感がしていた。
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