1,954 / 2,859
橘弥生と『虎は孤高に』
しおりを挟む
5月12日の金曜日。
昨日から出勤しているが、まだオペは入れていない。
第一外科部の他の人間も順次交代で休みを取っており、それが落ち着くまでに今週一杯掛かる。
俺は部長なので目一杯取った。
申し訳ない。
オペが入っていなくとも、俺もちゃんと仕事がある。
響子の部屋へ遊びに行こうとした。
「部長! 来週のオペの割り振りがまだ来てませんけど!」
「後でやるよ!」
一江が不満そうな顔をしている。
「あんだよ!」
「もう! 私も仕事が溜まってるのに!」
「うるせぇ!」
一江も大森と鷹とで青森旅行を満喫してきた。
俺と同じく昨日から出勤しており、溜まった書類仕事を片付けている。
他の部下からの報告書などに目を通し、他部署からのオペの依頼書を確認している。
俺が全部一江に投げている。
大森と斎木も一江を手伝っている。
斎木を呼んだ。
「うちの士王がオッパイが大好きでよ」
「いいですね!」
院長の奥さんの静子さんのも一生懸命に触ってたと言うと、斎木が喜んだ。
「今度、お前の奥さんのオッパイを触らせに行ってもいいか?」
「いつでもどうぞ!」
「おう!」
一江が睨んでいる。
俺は斎木を戻し、響子の部屋へ行った。
「タカトラー!」
「おう! すげぇ忙しいけどお前の顔が見たくて来ちゃった」
「嬉しいよ!」
六花がニコニコしている。
響子はセグウェイの巡回を終えて帰った所だ。
「今日は『虎は孤高に』だね!」
「そうだな」
響子も毎週楽しみにしている。
夜の9時からの放映だが、特別にその時間も起きて観ていいと俺が許可を出した。
大体六花も申請を出して一緒に観ている。
他の患者ではあり得ないが、まあ響子と六花は特別だ。
「今週は乾さんのお話だよね!」
「そうらしいな」
「私、出ないよね?」
「そうだな」
俺の話なので、響子も出たいらしいがしょうがねぇ。
「もう「大学生編」の撮影が始まったらしいぞ」
「え! 楽しみ!」
「そうか」
「奈津江さん役の人って似てる?」
「いや、奈津江の方が全然カワイイ」
「アハハハハハハ!」
響子の部屋を出て、鷹と昼食をオークラの「山里」へ食べに行った。
鮨のランチ会席を頼む。
俺は別途、牛肉の網焼きを追加し、鷹は胡麻豆腐の焼き物を頼んだ。
また『虎は孤高に』の話になった。
「今日も楽しみです!」
「そうかよ」
俺は笑った。
まあ、南のドラマをみんなが楽しんでくれているのは嬉しい。
「とにかくうちじゃ亜紀ちゃんが夢中でなぁ。時間があると観てるんだよ」
「分かりますよ。亜紀ちゃん、石神先生が大好きですものね」
「まあ、それはともかくなぁ。あまりにもうるさくて、ストーリーがよく分からなくなるんだ」
「アハハハハハハ!」
「柳なんかもしょっちゅう誘われて一緒に録画を見させられるしさ。ああ、ロボも毎回ついてくんだよ」
「アハハハハハハ!」
ロボも大好きだ。
「それで先週は出掛けてて観れなかったじゃん」
「ああ、ニューヨークとアラスカでしたよね?」
「それで帰ってからみんなで観ようとしてたのな」
「はい」
「そうしたら橘弥生が突然来てさ!」
「えぇ!」
俺は強制的にコンサートが決まった話をし、鷹が驚いていた。
「素敵ですね!」
「俺は全然だよ! 何で医者の俺がコンサートなんかやるんだよ!」
「それは石神先生ですから」
「意味が分かんねぇよ!」
「アハハハハハハ!」
俺たちが楽しく話しているので、他の客が見て微笑んでいた。
「それでさ、亜紀ちゃんがあの橘弥生に「一緒に『虎は孤高に』を観ませんか?」って言うんだよ」
「亜紀ちゃん、スゴイですね」
「そうだよなー。でも、そうしたら「観る」って言うんだ。俺も慌てたぜ」
「そうなんですか!」
鷹が可笑しそうに笑っている。
「それでな。あのテーマソングなんだけど」
「ああ、素敵な曲ですよね!」
「あれさ、実は俺の作詞作曲とギター演奏なんだよ」
「エェー!」
鷹がやっぱり驚いていた。
「黙ってたんだ。誰にも話してねぇ。まあ、亜紀ちゃんが知ったら本当にめんどくさいからさ」
「まあ、そうでしょうね」
「そしたらな、橘弥生が「トラの演奏ね」って言っちゃうんだよ!」
「まあ!」
「あの人は分かるんだ。凄い人だからな。でも、作曲も俺だって言い当てちゃって」
「本当にスゴイ人ですね!」
「だよな! 作詞もそうじゃないかって、こっちは単に予想だけど」
「はい!」
「それで亜紀ちゃんがさ!」
「大変ですね!」
「うん!」
二人で大笑いした。
「それでまた大問題が起きてよ」
「なんですか!」
「今日、橘弥生がうちに泊りに来るんだよ!」
「エェー!」
「な? 大変だろ?」
「どうしてそうなったんですか?」
「亜紀ちゃんだよ! あいつが橘弥生を誘ったの!」
「亜紀ちゃん、大物ですね!」
「でか過ぎだよ! 前にローマ教皇が来た時も「トイレでヤキ入れて来ます」とか言うんだぜ」
「はぁー」
鷹に今晩泊りに来いよと言うと、遠慮すると言われた。
「普通はそうだよなー」
「まあ、緊張しますよね」
「俺、鷹のうちに行っていい?」
「ダメですよ!」
「はぁー」
牛肉の網焼きと胡麻豆腐を一切れずつ交換する。
「俺も鷹とか響子と観たいぜー」
「ウフフフ、いつでもどうぞ」
「ほんとに?」
「はい!」
食事を終えて、一緒に病院へ帰った。
一江にオペの割り振り表を渡し、2時半に俺は帰ることにした。
「じゃあ、後は頼むな!」
「部長、今日は何もしてませんよね?」
「ちゃんと楽しかったよ!」
「もう!」
一江が亜紀ちゃんから電話が来たと俺に言った。
「橘さんが3時には来るということでした」
「げぇー」
俺がゲンナリした顔をすると、一江が笑った。
「ザマァ!」
「てめぇ!」
仕方が無いので、急いで家に帰った。
昨日から出勤しているが、まだオペは入れていない。
第一外科部の他の人間も順次交代で休みを取っており、それが落ち着くまでに今週一杯掛かる。
俺は部長なので目一杯取った。
申し訳ない。
オペが入っていなくとも、俺もちゃんと仕事がある。
響子の部屋へ遊びに行こうとした。
「部長! 来週のオペの割り振りがまだ来てませんけど!」
「後でやるよ!」
一江が不満そうな顔をしている。
「あんだよ!」
「もう! 私も仕事が溜まってるのに!」
「うるせぇ!」
一江も大森と鷹とで青森旅行を満喫してきた。
俺と同じく昨日から出勤しており、溜まった書類仕事を片付けている。
他の部下からの報告書などに目を通し、他部署からのオペの依頼書を確認している。
俺が全部一江に投げている。
大森と斎木も一江を手伝っている。
斎木を呼んだ。
「うちの士王がオッパイが大好きでよ」
「いいですね!」
院長の奥さんの静子さんのも一生懸命に触ってたと言うと、斎木が喜んだ。
「今度、お前の奥さんのオッパイを触らせに行ってもいいか?」
「いつでもどうぞ!」
「おう!」
一江が睨んでいる。
俺は斎木を戻し、響子の部屋へ行った。
「タカトラー!」
「おう! すげぇ忙しいけどお前の顔が見たくて来ちゃった」
「嬉しいよ!」
六花がニコニコしている。
響子はセグウェイの巡回を終えて帰った所だ。
「今日は『虎は孤高に』だね!」
「そうだな」
響子も毎週楽しみにしている。
夜の9時からの放映だが、特別にその時間も起きて観ていいと俺が許可を出した。
大体六花も申請を出して一緒に観ている。
他の患者ではあり得ないが、まあ響子と六花は特別だ。
「今週は乾さんのお話だよね!」
「そうらしいな」
「私、出ないよね?」
「そうだな」
俺の話なので、響子も出たいらしいがしょうがねぇ。
「もう「大学生編」の撮影が始まったらしいぞ」
「え! 楽しみ!」
「そうか」
「奈津江さん役の人って似てる?」
「いや、奈津江の方が全然カワイイ」
「アハハハハハハ!」
響子の部屋を出て、鷹と昼食をオークラの「山里」へ食べに行った。
鮨のランチ会席を頼む。
俺は別途、牛肉の網焼きを追加し、鷹は胡麻豆腐の焼き物を頼んだ。
また『虎は孤高に』の話になった。
「今日も楽しみです!」
「そうかよ」
俺は笑った。
まあ、南のドラマをみんなが楽しんでくれているのは嬉しい。
「とにかくうちじゃ亜紀ちゃんが夢中でなぁ。時間があると観てるんだよ」
「分かりますよ。亜紀ちゃん、石神先生が大好きですものね」
「まあ、それはともかくなぁ。あまりにもうるさくて、ストーリーがよく分からなくなるんだ」
「アハハハハハハ!」
「柳なんかもしょっちゅう誘われて一緒に録画を見させられるしさ。ああ、ロボも毎回ついてくんだよ」
「アハハハハハハ!」
ロボも大好きだ。
「それで先週は出掛けてて観れなかったじゃん」
「ああ、ニューヨークとアラスカでしたよね?」
「それで帰ってからみんなで観ようとしてたのな」
「はい」
「そうしたら橘弥生が突然来てさ!」
「えぇ!」
俺は強制的にコンサートが決まった話をし、鷹が驚いていた。
「素敵ですね!」
「俺は全然だよ! 何で医者の俺がコンサートなんかやるんだよ!」
「それは石神先生ですから」
「意味が分かんねぇよ!」
「アハハハハハハ!」
俺たちが楽しく話しているので、他の客が見て微笑んでいた。
「それでさ、亜紀ちゃんがあの橘弥生に「一緒に『虎は孤高に』を観ませんか?」って言うんだよ」
「亜紀ちゃん、スゴイですね」
「そうだよなー。でも、そうしたら「観る」って言うんだ。俺も慌てたぜ」
「そうなんですか!」
鷹が可笑しそうに笑っている。
「それでな。あのテーマソングなんだけど」
「ああ、素敵な曲ですよね!」
「あれさ、実は俺の作詞作曲とギター演奏なんだよ」
「エェー!」
鷹がやっぱり驚いていた。
「黙ってたんだ。誰にも話してねぇ。まあ、亜紀ちゃんが知ったら本当にめんどくさいからさ」
「まあ、そうでしょうね」
「そしたらな、橘弥生が「トラの演奏ね」って言っちゃうんだよ!」
「まあ!」
「あの人は分かるんだ。凄い人だからな。でも、作曲も俺だって言い当てちゃって」
「本当にスゴイ人ですね!」
「だよな! 作詞もそうじゃないかって、こっちは単に予想だけど」
「はい!」
「それで亜紀ちゃんがさ!」
「大変ですね!」
「うん!」
二人で大笑いした。
「それでまた大問題が起きてよ」
「なんですか!」
「今日、橘弥生がうちに泊りに来るんだよ!」
「エェー!」
「な? 大変だろ?」
「どうしてそうなったんですか?」
「亜紀ちゃんだよ! あいつが橘弥生を誘ったの!」
「亜紀ちゃん、大物ですね!」
「でか過ぎだよ! 前にローマ教皇が来た時も「トイレでヤキ入れて来ます」とか言うんだぜ」
「はぁー」
鷹に今晩泊りに来いよと言うと、遠慮すると言われた。
「普通はそうだよなー」
「まあ、緊張しますよね」
「俺、鷹のうちに行っていい?」
「ダメですよ!」
「はぁー」
牛肉の網焼きと胡麻豆腐を一切れずつ交換する。
「俺も鷹とか響子と観たいぜー」
「ウフフフ、いつでもどうぞ」
「ほんとに?」
「はい!」
食事を終えて、一緒に病院へ帰った。
一江にオペの割り振り表を渡し、2時半に俺は帰ることにした。
「じゃあ、後は頼むな!」
「部長、今日は何もしてませんよね?」
「ちゃんと楽しかったよ!」
「もう!」
一江が亜紀ちゃんから電話が来たと俺に言った。
「橘さんが3時には来るということでした」
「げぇー」
俺がゲンナリした顔をすると、一江が笑った。
「ザマァ!」
「てめぇ!」
仕方が無いので、急いで家に帰った。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭
響 蒼華
キャラ文芸
始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。
当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。
ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。
しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。
人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。
鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる