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虎白さんの恋 Ⅱ
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夕飯はすき焼きにした。
子どもたちが大荒れになるメニューだが、虎白さんなら何の心配もない。
梅田精肉店さんに頼んで、また膨大な肉を届けてもらっている。
「虎白さん、うちのすき焼きって、ちょっとやんちゃな喰い方で」
「そうなのかよ?」
「はい、まあ見てもらえば分かるんですが」
「へぇー」
俺は虎白さんと一緒の鍋。
子どもたちは別な鍋。
喰い始めると、虎白さんが喜んだ。
「トラ! なんだありゃ!」
「まあ、俺も知りませんよ。いつのまにか兄弟で争って喰うようになっちゃって」
「ワハハハハハハ!」
しばらくは俺と一緒に食べていたが、そのうちに子どもたちの鍋に行った。
「おい、俺も混ぜろ!」
みんな笑顔で虎白さんの場所を空けた。
虎白さんが肉を掴むと一斉に襲い掛かる。
「ギャハハハハハハ!」
楽しんでいる。
「箸が折れたら3分休みだよ!」
「器を割ったら10分!」
「柳ちゃんはちょっと手加減してあげて!」
「亜紀ちゃんは全然大丈夫だよ!」
争いながら双子がルールを説明していく。
亜紀ちゃんが旋風脚で他の人間の器を狙う。
ガシン!
虎白さんが左腕で受け止め、そのまま右手の箸で亜紀ちゃんの膝を打った。
「いったーい!」
亜紀ちゃんが悲鳴を上げて引っ繰り返る。
倒れた拍子に器が割れた。
「「「「ギャハハハハハハ!」」」」
他の全員に嗤われた。
しばらく楽しんで虎白さんがこっちに戻って来た。
「楽しいなぁ!」
「そうですか」
虎白さんが笑うので、俺も嬉しくなった。
「まあ、他人様には自慢出来ないんですけどね」
「いいじゃねぇか、ここで楽しいんだからよ」
「そうですね」
肉が終わり、亜紀ちゃんが雑炊を作りに来る。
「膝は大丈夫か?」
「まだ痛いですよ!」
「ワハハハハハハ!」
食事を終え、みんなで虎温泉に入った。
虎白さんももう一度誘う。
「美味い飯を喰って、こんないい風呂に入れるなんてな!」
双子がかき氷の注文を取りに来る。
みんな虎白さんの前でも裸を気にしていない。
「かき氷か! なんかガキの頃以来だな」
「練乳いちごがお勧めですよ」
「じゃあ、それ!」
双子がニコニコして作って持って来る。
「美味いな!」
虎白さんが笑って食べてくれた。
双子がアイス乗せメロンで俺たちの脇に来る。
「虎白さんって、子どもはいないの?」
「あ? ああいねぇ」
「結婚は?」
「まあ、したけどな」
俺は二人にそれ以上聞くなと睨んだ。
双子も気付いた。
多分、虎白さんの傷だ。
「虎影の兄貴が出てってからよ」
それでも、俺たちに微笑みながら、虎白さんが語り出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「虎白、お前結婚しろ」
「え?」
虎葉にある日突然言われた。
「虎影がいなくなったんだ。お前が当主代行だろうが」
「まあ、そう言っちゃったけどよ」
「だったら所帯を持て。石神家の代表なんだからな」
「え、やだよ」
「ばかやろう!」
頭を殴られた。
虎葉はすぐに手が出る。
まあ、俺たちみんなそうだが、特に早い。
一番優しい男でもあるのだが。
「いてぇなぁ」
「お前が石神家の顔をやってかなきゃならん。所帯を持ってちゃんとしてますって外に示さなきゃならないだろう!」
「ちぇ」
「この野郎!」
また殴られた。
「別にいいけどよ。でも鍛錬は今まで通りに出来んだよな?」
「当たり前だろう」
「じゃあいいよ!」
「そうか」
「毎日ヤれるしな!」
「ばか」
意外と早く、翌週に嫁だという女が連れて来られた。
「橋田院長の孫だ」
「おお、あの人!」
顔は普通だったが、明るくて笑うとカワイイ女だった。
石神家のことは聞いているだろうが、特に異存は無いようだった。
邦絵という名だった。
「うちって変わってるけど?」
「はい! 宜しくお願いします!」
「おう!」
その日から一緒に住み始めた。
邦絵は橋田院長の病院で看護師をしていたそうだ。
「虎白さんのことは、何度か病院で見てました」
「そうなの?」
「はい! 明るくて素敵な方だと」
「そうかよ」
一度俺に助けられたのだと言った。
「入院の患者さんが暴れた時に」
「ん?」
「虎白さんがぶっとばしてくれて!」
「ふーん」
そんなことがあったか。
「あの時、右足が取れそうでしたよね!」
「ああ!」
「でも物凄い速さで駆けて来て。男の人に触ったと思ったら吹っ飛んで行って」
「あったな!」
思い出した。
隣の部屋の身体のでかい患者が、看護婦の服を引き裂いて襲おうとしていたことがあった。
「その後で「いてぇー!」って叫んで。私、怖かったんだけど思わず笑っちゃいました」
「エヘヘヘヘ」
それで俺のことを覚えていて、今回の見合いも即座に引き受けたのだと言った。
「そうだったか」
「私、お礼をしようとしたら虎白さん、全然相手にしてくれなくて」
「なんでもねぇからだよ」
「あの時から好きでした」
「え?」
なんだか分からんが、こんな俺のことが好きだと言ってくれた。
「じゃあ、一杯ヤろうな!」
「はい!」
優しく明るい女だった。
結婚など面倒なだけだと思っていた俺が、毎日笑って過ごすようになった。
俺が稽古中にニヤついていると、よくみんなにからかわれた。
虎影がいなくなった俺が、笑っていた。
そのことに気付いて、俺は邦絵に感謝するようになった。
あいつは、俺にとって絶対に必要な女だった。
子どもたちが大荒れになるメニューだが、虎白さんなら何の心配もない。
梅田精肉店さんに頼んで、また膨大な肉を届けてもらっている。
「虎白さん、うちのすき焼きって、ちょっとやんちゃな喰い方で」
「そうなのかよ?」
「はい、まあ見てもらえば分かるんですが」
「へぇー」
俺は虎白さんと一緒の鍋。
子どもたちは別な鍋。
喰い始めると、虎白さんが喜んだ。
「トラ! なんだありゃ!」
「まあ、俺も知りませんよ。いつのまにか兄弟で争って喰うようになっちゃって」
「ワハハハハハハ!」
しばらくは俺と一緒に食べていたが、そのうちに子どもたちの鍋に行った。
「おい、俺も混ぜろ!」
みんな笑顔で虎白さんの場所を空けた。
虎白さんが肉を掴むと一斉に襲い掛かる。
「ギャハハハハハハ!」
楽しんでいる。
「箸が折れたら3分休みだよ!」
「器を割ったら10分!」
「柳ちゃんはちょっと手加減してあげて!」
「亜紀ちゃんは全然大丈夫だよ!」
争いながら双子がルールを説明していく。
亜紀ちゃんが旋風脚で他の人間の器を狙う。
ガシン!
虎白さんが左腕で受け止め、そのまま右手の箸で亜紀ちゃんの膝を打った。
「いったーい!」
亜紀ちゃんが悲鳴を上げて引っ繰り返る。
倒れた拍子に器が割れた。
「「「「ギャハハハハハハ!」」」」
他の全員に嗤われた。
しばらく楽しんで虎白さんがこっちに戻って来た。
「楽しいなぁ!」
「そうですか」
虎白さんが笑うので、俺も嬉しくなった。
「まあ、他人様には自慢出来ないんですけどね」
「いいじゃねぇか、ここで楽しいんだからよ」
「そうですね」
肉が終わり、亜紀ちゃんが雑炊を作りに来る。
「膝は大丈夫か?」
「まだ痛いですよ!」
「ワハハハハハハ!」
食事を終え、みんなで虎温泉に入った。
虎白さんももう一度誘う。
「美味い飯を喰って、こんないい風呂に入れるなんてな!」
双子がかき氷の注文を取りに来る。
みんな虎白さんの前でも裸を気にしていない。
「かき氷か! なんかガキの頃以来だな」
「練乳いちごがお勧めですよ」
「じゃあ、それ!」
双子がニコニコして作って持って来る。
「美味いな!」
虎白さんが笑って食べてくれた。
双子がアイス乗せメロンで俺たちの脇に来る。
「虎白さんって、子どもはいないの?」
「あ? ああいねぇ」
「結婚は?」
「まあ、したけどな」
俺は二人にそれ以上聞くなと睨んだ。
双子も気付いた。
多分、虎白さんの傷だ。
「虎影の兄貴が出てってからよ」
それでも、俺たちに微笑みながら、虎白さんが語り出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「虎白、お前結婚しろ」
「え?」
虎葉にある日突然言われた。
「虎影がいなくなったんだ。お前が当主代行だろうが」
「まあ、そう言っちゃったけどよ」
「だったら所帯を持て。石神家の代表なんだからな」
「え、やだよ」
「ばかやろう!」
頭を殴られた。
虎葉はすぐに手が出る。
まあ、俺たちみんなそうだが、特に早い。
一番優しい男でもあるのだが。
「いてぇなぁ」
「お前が石神家の顔をやってかなきゃならん。所帯を持ってちゃんとしてますって外に示さなきゃならないだろう!」
「ちぇ」
「この野郎!」
また殴られた。
「別にいいけどよ。でも鍛錬は今まで通りに出来んだよな?」
「当たり前だろう」
「じゃあいいよ!」
「そうか」
「毎日ヤれるしな!」
「ばか」
意外と早く、翌週に嫁だという女が連れて来られた。
「橋田院長の孫だ」
「おお、あの人!」
顔は普通だったが、明るくて笑うとカワイイ女だった。
石神家のことは聞いているだろうが、特に異存は無いようだった。
邦絵という名だった。
「うちって変わってるけど?」
「はい! 宜しくお願いします!」
「おう!」
その日から一緒に住み始めた。
邦絵は橋田院長の病院で看護師をしていたそうだ。
「虎白さんのことは、何度か病院で見てました」
「そうなの?」
「はい! 明るくて素敵な方だと」
「そうかよ」
一度俺に助けられたのだと言った。
「入院の患者さんが暴れた時に」
「ん?」
「虎白さんがぶっとばしてくれて!」
「ふーん」
そんなことがあったか。
「あの時、右足が取れそうでしたよね!」
「ああ!」
「でも物凄い速さで駆けて来て。男の人に触ったと思ったら吹っ飛んで行って」
「あったな!」
思い出した。
隣の部屋の身体のでかい患者が、看護婦の服を引き裂いて襲おうとしていたことがあった。
「その後で「いてぇー!」って叫んで。私、怖かったんだけど思わず笑っちゃいました」
「エヘヘヘヘ」
それで俺のことを覚えていて、今回の見合いも即座に引き受けたのだと言った。
「そうだったか」
「私、お礼をしようとしたら虎白さん、全然相手にしてくれなくて」
「なんでもねぇからだよ」
「あの時から好きでした」
「え?」
なんだか分からんが、こんな俺のことが好きだと言ってくれた。
「じゃあ、一杯ヤろうな!」
「はい!」
優しく明るい女だった。
結婚など面倒なだけだと思っていた俺が、毎日笑って過ごすようになった。
俺が稽古中にニヤついていると、よくみんなにからかわれた。
虎影がいなくなった俺が、笑っていた。
そのことに気付いて、俺は邦絵に感謝するようになった。
あいつは、俺にとって絶対に必要な女だった。
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