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虎白さんの恋
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5月7日午前11時。
アラスカから朝方5時に戻って、院長夫妻を自宅まで送って来た。
六花と響子もグランディアで一緒に帰った。
朝食を食べて、少しゆっくりしていた。
時差ぼけはほとんどない。
今日は来客がある。
虎白さんが来た。
北アフリカでの「砂漠の虎作戦」で使った「カサンドラ」の改良を話し合うためだった。
「よう!」
「ようこそ! 歓迎しますよ!」
「おう!」
子どもたちも揃って虎白さんに挨拶する。
特に双子は駆け寄って抱き着いて歓迎していた。
どうも虎白さんが大好きなようだ。
虎白さんも、双子にはずっと優しい。
俺には悪魔のような人だが。
茶を出してお互いに近況を話し合った。
「おい、どこか戦える場所はねぇのかよ」
「まあ、そのうちに。存分にやってもらいますから」
「頼むぜぇ!」
結局虎白さんが聞きたいのはそれだけだ。
俺は笑うしかなかった。
「今、皇紀がフィリピンで俺らの基地建設の候補地を探してるんです」
「そうか」
「そこの建設が本格的に始まったら、「業」がちょっかいを出して来る可能性が高い」
「おう!」
昼食は鰻を取る。
事前に店に話しておく必要があったので、虎白さんに聞いた。
「3人前くらい食べます?」
「あ? いいよ1人前で」
「遠慮しないで下さいよ」
「遠慮じゃねぇよ。1人前って一人分だろ? 俺は一人だよ」
「「「「!」」」」
「にゃ!」
俺はそういうことだと亜紀ちゃんに言った。
俺も1人前にした。
「タカさん、虎白さんと外に食べに行って下さいよ!」
「ばかやろう!」
亜紀ちゃんたちにはいつも通り喰えと言った。
喜んだ。
昼になり、鰻が届いた。
俺は二重天井を一つ、子どもたちは普通の特上を3人前だ。
その他に一人ずつ白焼きが付く。
虎白さんにも用意した。
亜紀ちゃんが吸い物を温めてみんなに配った。
子どもたちが喰い難そうな顔で、それでもバクバク喰った。
虎白さんも喰うのは早い。
たちまち食べ終わって言った。
「ああ、もう一つ喰いたかったなー」
「「「「「!」」」」」
俺は慌てて目の前で喰ってる亜紀ちゃんの物を奪って虎白さんの前に置いた。
「ど、どうぞ!」
「いいのか?」
「はい!」
「えーん!」
虎白さんがニコニコして食べた。
他の子どもたちは亜紀ちゃんに奪われないように必死で早く掻き込んでいた。
食事を終え、お茶を飲みながら虎白さんと話した。
ハーが「石神家本家」専用に設計した「カサンドラ」の図面をテーブルに拡げる。
「前後のバランスがよ、やっぱ手元に傾いてんだ。もっと剣先に来るようにしてくれ」
「ロングソードはあんなに長くなくていい。その分稼働時間を伸ばしてくれ」
「誰かの剣とぶつかると爆発すんじゃない。あれ、どうにかしろよ」
虎白さんが幾つもの改善点を言い、ルーがそれを書き留めてハーが思いついたことを図面に記していく。
俺たちもいろいろと聞きながら話し合って行った。
「剣先はプラズマ粒子だから、握りの方をこう改造して」
「ああ、下方を持つことで疑似的に感覚を似せるかー」
「ロングソードは要は出力解放のリミッターを絞れば」
「接触時の融合反応は難しいな」
「センサーを付ける?」
「でもそうすると「カサンドラ」に結構な部品が付いちゃうよ」
「そっかー」
主にルーとハーが話し合う。
3時になる頃には話し合いも終わった。
俺はすぐに虎白さんに言った。
「たまには稽古を付けて下さいよ」
「お!」
虎白さんが喜んだ。
いつもは用事が済むとすぐに帰ってしまう人だ。
だから今日は引き留めて、一晩泊まって欲しかった。
但し、俺も決死の覚悟だ。
「おし! じゃあ鍛えてやる! 刀はあるな?」
「いえ、木刀でお願いします!」
「あんだと?」
「あの、危ないんで」
虎白さんが立ち上がって叫んだ。
「トラ! お前死にてぇのかぁ!」
「はい?」
死にたくないから木刀で頼んでいるのだが。
「あのよ、木刀で斬られっと死ぬぞ?」
「何で木刀で!」
「刀なら綺麗に斬ってやれっけどよ? 木刀だと引き毟る感じになんじゃん」
「何言ってんです?」
「前によ、どっかの道場の奴が来て木刀でって言うんだよ。しょうがねぇんでそれに付き合ったら、危うく出血多量で失血死よな。バカな奴だったぜ」
「なんですか、それぇ!」
多分嘘じゃない。
「でも、うちの日本刀ってみんな高価なものだし」
「てめぇ! お前がへし折った正国の「同田貫」が幾らすっと思ってんだぁ!」
「あれは俺がガキの頃のことでしょう!」
「おう! じゃあガキのお前を連れて来い! 白黒つけてやる!」
亜紀ちゃんが言った。
「タカさん、ちびトラちゃんになります?」
「お前はややこしいこと言うな!」
仕方が無いので、ハーに日本刀を持って来させた。
虎徹と来国行子「来国末」だ。
どちらも高い。
しかし、命には代えられない。
虎白さんは、当然虎徹を選んだ。
庭に出た。
「トラ、なんで裸なんだ?」
「だって! どうせビリビリにされるでしょう!」
「ワハハハハハハ!」
斬り合った。
お互いにほとんど刃を合わせない。
刀は刀を斬れないからだ。
打ち合うのは本来の剣技ではない。
刃こぼれがするし、時には折れるからだ。
本物の剣士は避ける。
そして相手の身体を斬る。
暫くは互いに避けながら遣り合った。
虎白さんの動きが変わる。
「石神家」の技が出て来る。
俺も回避しながら技を繰り出していく。
「トラ! 強くなったな!」
「俺だって鍛錬してますからね!」
「ワハハハハハハ!」
「ワハハハハハハ!」
ボロボロにされた。
ルーとハーが駆け寄って「オール入ります!」と叫んだ。
「Ω」「オロチ」の粉末と二人の「手かざし」だ。
俺は泣きながら勘弁して下さいと言った。
とにかくなんとか夕方まで虎白さんの相手をし、夕飯を食べて行ってもらうように頼んだ。
俺の身体は全身がシュワシュワ言ってる。
何とか笑顔で言った。
「虎白さん! 是非うちで夕飯を食ってってくださいよ!」
「ああ、世話になる」
「やったぁー!」
「その前に風呂を借りていいか?」
「もちろんです! 露天風呂を用意してますから!」
「ほお」
「泊ってって下さいね?」
「ああ、今日はそのつもりだったしな」
「へ?」
なに?
「あんだよ! 折角遠くから来たのに、お前追い返すつもりだったのかぁ!」
「と、とんでもありません!」
俺の命懸けってなんだったんだろう。
まあ、最初に聞けば良かった。
アラスカから朝方5時に戻って、院長夫妻を自宅まで送って来た。
六花と響子もグランディアで一緒に帰った。
朝食を食べて、少しゆっくりしていた。
時差ぼけはほとんどない。
今日は来客がある。
虎白さんが来た。
北アフリカでの「砂漠の虎作戦」で使った「カサンドラ」の改良を話し合うためだった。
「よう!」
「ようこそ! 歓迎しますよ!」
「おう!」
子どもたちも揃って虎白さんに挨拶する。
特に双子は駆け寄って抱き着いて歓迎していた。
どうも虎白さんが大好きなようだ。
虎白さんも、双子にはずっと優しい。
俺には悪魔のような人だが。
茶を出してお互いに近況を話し合った。
「おい、どこか戦える場所はねぇのかよ」
「まあ、そのうちに。存分にやってもらいますから」
「頼むぜぇ!」
結局虎白さんが聞きたいのはそれだけだ。
俺は笑うしかなかった。
「今、皇紀がフィリピンで俺らの基地建設の候補地を探してるんです」
「そうか」
「そこの建設が本格的に始まったら、「業」がちょっかいを出して来る可能性が高い」
「おう!」
昼食は鰻を取る。
事前に店に話しておく必要があったので、虎白さんに聞いた。
「3人前くらい食べます?」
「あ? いいよ1人前で」
「遠慮しないで下さいよ」
「遠慮じゃねぇよ。1人前って一人分だろ? 俺は一人だよ」
「「「「!」」」」
「にゃ!」
俺はそういうことだと亜紀ちゃんに言った。
俺も1人前にした。
「タカさん、虎白さんと外に食べに行って下さいよ!」
「ばかやろう!」
亜紀ちゃんたちにはいつも通り喰えと言った。
喜んだ。
昼になり、鰻が届いた。
俺は二重天井を一つ、子どもたちは普通の特上を3人前だ。
その他に一人ずつ白焼きが付く。
虎白さんにも用意した。
亜紀ちゃんが吸い物を温めてみんなに配った。
子どもたちが喰い難そうな顔で、それでもバクバク喰った。
虎白さんも喰うのは早い。
たちまち食べ終わって言った。
「ああ、もう一つ喰いたかったなー」
「「「「「!」」」」」
俺は慌てて目の前で喰ってる亜紀ちゃんの物を奪って虎白さんの前に置いた。
「ど、どうぞ!」
「いいのか?」
「はい!」
「えーん!」
虎白さんがニコニコして食べた。
他の子どもたちは亜紀ちゃんに奪われないように必死で早く掻き込んでいた。
食事を終え、お茶を飲みながら虎白さんと話した。
ハーが「石神家本家」専用に設計した「カサンドラ」の図面をテーブルに拡げる。
「前後のバランスがよ、やっぱ手元に傾いてんだ。もっと剣先に来るようにしてくれ」
「ロングソードはあんなに長くなくていい。その分稼働時間を伸ばしてくれ」
「誰かの剣とぶつかると爆発すんじゃない。あれ、どうにかしろよ」
虎白さんが幾つもの改善点を言い、ルーがそれを書き留めてハーが思いついたことを図面に記していく。
俺たちもいろいろと聞きながら話し合って行った。
「剣先はプラズマ粒子だから、握りの方をこう改造して」
「ああ、下方を持つことで疑似的に感覚を似せるかー」
「ロングソードは要は出力解放のリミッターを絞れば」
「接触時の融合反応は難しいな」
「センサーを付ける?」
「でもそうすると「カサンドラ」に結構な部品が付いちゃうよ」
「そっかー」
主にルーとハーが話し合う。
3時になる頃には話し合いも終わった。
俺はすぐに虎白さんに言った。
「たまには稽古を付けて下さいよ」
「お!」
虎白さんが喜んだ。
いつもは用事が済むとすぐに帰ってしまう人だ。
だから今日は引き留めて、一晩泊まって欲しかった。
但し、俺も決死の覚悟だ。
「おし! じゃあ鍛えてやる! 刀はあるな?」
「いえ、木刀でお願いします!」
「あんだと?」
「あの、危ないんで」
虎白さんが立ち上がって叫んだ。
「トラ! お前死にてぇのかぁ!」
「はい?」
死にたくないから木刀で頼んでいるのだが。
「あのよ、木刀で斬られっと死ぬぞ?」
「何で木刀で!」
「刀なら綺麗に斬ってやれっけどよ? 木刀だと引き毟る感じになんじゃん」
「何言ってんです?」
「前によ、どっかの道場の奴が来て木刀でって言うんだよ。しょうがねぇんでそれに付き合ったら、危うく出血多量で失血死よな。バカな奴だったぜ」
「なんですか、それぇ!」
多分嘘じゃない。
「でも、うちの日本刀ってみんな高価なものだし」
「てめぇ! お前がへし折った正国の「同田貫」が幾らすっと思ってんだぁ!」
「あれは俺がガキの頃のことでしょう!」
「おう! じゃあガキのお前を連れて来い! 白黒つけてやる!」
亜紀ちゃんが言った。
「タカさん、ちびトラちゃんになります?」
「お前はややこしいこと言うな!」
仕方が無いので、ハーに日本刀を持って来させた。
虎徹と来国行子「来国末」だ。
どちらも高い。
しかし、命には代えられない。
虎白さんは、当然虎徹を選んだ。
庭に出た。
「トラ、なんで裸なんだ?」
「だって! どうせビリビリにされるでしょう!」
「ワハハハハハハ!」
斬り合った。
お互いにほとんど刃を合わせない。
刀は刀を斬れないからだ。
打ち合うのは本来の剣技ではない。
刃こぼれがするし、時には折れるからだ。
本物の剣士は避ける。
そして相手の身体を斬る。
暫くは互いに避けながら遣り合った。
虎白さんの動きが変わる。
「石神家」の技が出て来る。
俺も回避しながら技を繰り出していく。
「トラ! 強くなったな!」
「俺だって鍛錬してますからね!」
「ワハハハハハハ!」
「ワハハハハハハ!」
ボロボロにされた。
ルーとハーが駆け寄って「オール入ります!」と叫んだ。
「Ω」「オロチ」の粉末と二人の「手かざし」だ。
俺は泣きながら勘弁して下さいと言った。
とにかくなんとか夕方まで虎白さんの相手をし、夕飯を食べて行ってもらうように頼んだ。
俺の身体は全身がシュワシュワ言ってる。
何とか笑顔で言った。
「虎白さん! 是非うちで夕飯を食ってってくださいよ!」
「ああ、世話になる」
「やったぁー!」
「その前に風呂を借りていいか?」
「もちろんです! 露天風呂を用意してますから!」
「ほお」
「泊ってって下さいね?」
「ああ、今日はそのつもりだったしな」
「へ?」
なに?
「あんだよ! 折角遠くから来たのに、お前追い返すつもりだったのかぁ!」
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