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KYOKO DREAMIN XⅧ 大院長出撃 2

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 「ダイインチョウから一江指令に指名連絡です!」
 「なにぃ!」

 「虎病院」の大院長に就任した蓼科文学からの直通の電話回線だった。
 石神が特別に通しているホットラインだ。

 「今作戦指揮で忙しいと言え!」
 「通話を切れば直接乗り込んでくるとおっしゃってます!」
 「なんだぁ!」

 一江が電話回線を取った。

 「一江! 石神が怪我をしたんだって?」
 「まあ、そうですけど」
 「すぐに向かうぞ!」
 「はい?」
 「俺が直接行く! 病院から医師団とナース団を今編成している! 200人と医療機器を運べる飛行機を準備してくれ!」
 「大院長! 何言ってんですか!」
 「ばかもの! 石神を助けに行くんだぁ!」
 「大院長! そこは戦場ですよ!」
 「知ってる! だから急ぐんだろう! 向こうはろくな医療設備も医者もいないんだろう!」
 「そ、それはそうですが」
 「頼む、一江! 俺は石神を助けたいんだ!」
 「……」

 それは自分も同じだ。
 全ての「虎」の軍の人間、アラスカの人間たちがそう思っている。
 だが、非戦闘員の蓼科文学を戦場に送るわけには行かない。
 一江は必死に説得した。

 「お前! お前だって分かっているだろう! 石神は自分がどんなに傷ついたって誰かのために戦う男なんだ! だからあいつの身体はもう傷だらけじゃないか!」
 「それは知ってますよ!」
 「あいつは絶対に死なせてはならん! あの優しい男を俺たちは喪うわけにはいかんのだ!」
 「分かってますって! 大丈夫ですから!」
 「俺はあれ以上あいつの傷を増やしたくないんだ!」
 「はい?」
 「あいつはもう十分に傷ついた。だから俺が言って治してやるんだよ!」
 「大院長、ちょっと落ち着いて下さいって!」

 一江は自分が説得出来ることではないと悟った。
 石神が傷を負ったと聞いただけで、院長は止まらないのだろう。
 こんなに心を乱している蓼科文学を、一江は初めて見た。

 「でも「虎」は今も戦闘中なんです。治療の時間はありませんよ」
 「それでもいい! あいつは強い! だから必ず勝って終わるだろう。その後ですぐに治療するんだ!」
 「理屈はわかりますけど」
 「一江!」
 「でも、大院長も危険なんですよ!」
 「そんなことはどうでもいい! 俺はあいつのためならどうなってもいいんだ!」
 「大院長……」
 
 「あいつは俺の息子だぁ! 絶対に俺が助けるんだぁ!」
 「!」

 一江は蓼科文学の気迫と愛の大きさに押された。

 「分かりましたよ! じゃあ15分後にヘッジホッグの離陸場へ! 1秒も待ちませんからね!」
 「分かった! ありがとう!」
 「それと、大院長の護衛にデュールゲリエのルーとハーを付けます。他の医師やナースの人たちの護衛は千石さんに頼んでおきますから!」
 「分かった!」

 電話を切ると大森が笑っていた。

 「やっぱり院長だな」
 「まったくだ。もうどうなっても知らん!」
 「ワハハハハハハ!」

 モザンビークに向ける機体の一機をウランバートルに差し向けた。
 蓼科文学は200人の医師と看護師を連れて飛び立った。




 ウランバートルには聖が到着し、石神と共に神を撃破した。
 吹雪が加わって「紅六花」を支援し、六花と上級幹部と共に妖魔と交戦を開始。
 道間皇王・天狼が現着し、残っていた妖魔を粉砕していった。
 一時は混乱した戦場が、短時間で終結した。

 「吹雪ぃー!」

 六花が愛する息子を抱き締め、顔中にキスをした。

 「お母さん! ちょっと待って!」
 
 「紅六花」のメンバーが笑いながら見ていた。
 タケが六花にもみくちゃにされる吹雪に叫んだ。

 「吹雪! 来てくれたの!」
 「うん! お母さんたちが危ないって東雲司令が教えてくれて」
 「そうだったんだ! でも本当に危ないんだから勝手に来ちゃだめだよ!」
 「ごめんなさい。でもどうしても」
 「うん! 流石は吹雪だね!」

 六花はまたキスを始めて吹雪を困らせた。

 「天狼も来てくれたんだね!」
 「ええ、六花母さんやみなさんが危ないって母上から」
 「ありがとー!」

 天狼も六花の猛キスを浴びて笑っていた。

 「総長! 負傷者を連れて来るようにって「虎病院」の方から!」
 「うん?」

 戦場に病院関係者が来ることは無い。
 六花は訝しく思い、負傷者の搬送をしている「タイガーファング」に近づいた。

 「院長先生!」
 「ああ、一色か!」

 六花は駆け寄った。

 「どうしたんですか! ここは危ないのに!」
 「ああ、石神が怪我をしたと聞いてな」
 「ダメですよ! 院長先生に万一があったらトラが大変です!」
 「あ、ああ、分かってるよ」
 「もう!」

 六花は知っていた。
 石神は愛する院長夫妻を世界一安全な場所に送りたかったのだ。
 だから「虎病院」の大院長に就任してもらった。

 「石神はどこだ?」
 「もうすぐ来ますよ」
 「おい、負傷の程度は!」
 「大丈夫ですって。背中をちょっと切っちゃいましたけど、元気ですから」
 「何言ってるんだ!」

 蓼科文学に怒鳴られ、六花は笑って石神を探しに行った。
 5分後に石神を連れて来る。

 「院長! 何しに来たんですか!」
 「石神! 怪我を見せろ!」

 石神は笑って「Ωコンバットスーツ」を脱いだ。
 最高司令官の石神が頭の上がらない人間は何人もいない。
 蓼科文学がその一人だった。
 左の背に長さ30センチの切り傷がある。
 深さは1センチほどだ。

 「すぐに縫合してやる!」
 「分かりましたよ」

 石神は一緒についてきた聖に笑いながら手を挙げ、仮設の野戦テントに入って行った。
 そして15分後、テントから出て来て指示を出した。
 負傷者を収容して「タイガーファング」は飛び去った。
 モザンビークから来た機体も次々に避難移民を収容して離陸していく。
 石神は折り畳み椅子を持って来て、聖と六花、吹雪、天狼と一緒に、それを眺めていた。
 「紅六花」のメンバーが飲み物を持って来てくれる。

 「六花、よく頑張ったな」
 「うん、必死だった。でもトラが何とかしてくれるのは分かってたから」
 「そうか」

 六花は石神を横から抱いてキスをした。

 「聖もな、ありがとう」
 「いいって。俺はお前を手助けするためにいるんだしな」
 「助かったぜ」
 「だからいいって」

 蓼科文学が来た。

 「石神、一緒に帰ろう」
 「いえ、まだ警戒しておかないと」
 「でもお前、怪我してるだろう!」
 「大丈夫ですって。さっき最高の治療を受けましたから」
 「お前なぁ」
 「院長こそ早く。院長に万一があったら静子さんが泣きますからね」
 「分かったよ、じゃあなるべく早く戻れ。病院で待ってるぞ」
 「分かりました。ありがとうございました」
 「うん。お前が無事で良かった」

 院長が「タイガーファング」に乗り込んで去って行った。
 聖が言った。

 「トラ、お前の傷って放っておいてもいいんだろう?」
 「あの程度はなぁ。実際、もっと深く抉られてたけど、ほとんど治ってたしな」
 「だったら何で治療なんて」
 「しょうがねぇだろう。院長が命懸けで来てくれたんだ。何でもありませんでした、じゃ可哀想だろう」
 「お前なぁ」

 聖と六花が笑った。
 吹雪と天狼もニコニコしている。
 タケやよしこも来る。
 石神が吹雪に言った。

 「おい! お前は命令違反だな!」
 「はい!」
 「いい返事をするんじゃねぇ!」
 「ごめんなさい!」
 「しょうがねぇなぁ。まあ、カワイイから許す!」
 「アハハハハハハ!」

 みんなが笑った。

 「ああ、腹減ったなー」
 「トラ、早く帰ろうぜ」
 「おし! みんなで飯を喰うか!」





 大歓声が沸いた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




  
 (また未来の夢だ)

 響子は隣で眠る石神を見ていた。

 (院長先生が来たからかな。ふーん、大院長先生になるんだー)

 それは何か、とても楽しいことのように思えた。

 (優しい院長先生。タカトラをお願いします)

 響子はまた目を閉じて眠った。
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