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皇紀 in フィリピン Ⅲ

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 ホテルに戻って、すぐにタカさんに電話した。

 「よう!」
 「タカさん!」

 僕は最初にさっきルーとハーが町のチンピラのような人間たちを殺したことを話した。

 「そうか」
 「大変ですよ!」
 「そうじゃないだろ? お前は警察からすぐに解放されたはずだ」
 「そうですけど!」
 「お前は特別な身分でそこにいる。幾ら暴れても人間を殺しても、お咎めはない」
 「え!」
 「俺たちを狙う奴らは多い。「業」はもちろんだが、それだけじゃない」
 「そうですけど!」
 「だから、危険があればすぐに動くように、二体のデュールゲリエには命じてある」
 「でも、それじゃとんでもないことになるかもしれませんよ!」
 「大丈夫だよ。お前に危害を加えようとする連中だけだ」

 タカさんにそう言われ、僕も取り敢えずは納得するしかなかった。

 「でも、殺すまでしなくても」
 「それは違うぞ、皇紀。お前は俺たちの敵のことをよく知っているはずだ」
 「それは……」
 「偽装して、擬態して襲ってくる連中だ。お前を護るために、ルーシーもハーマイオニーも徹底的にやる。そうしないと少ない人数での警護は出来ない」
 「分かりました」

 僕はもう一つの大問題を話した。

 「あの、この頭のことですが」
 「おお! みんなどうだった?」
 
 僕は正直に退かれるほど驚かれたと話した。

 「でも、みんなちゃんとお前を受け入れてくれただろう?」
 「それはそうですが」
 「その頭には重要な意味がある」
 「そうなんですか!」
 「俺が冗談でやったと思っているのか?」
 「はい、ちょっと」

 タカさんに怒鳴られた。

 「バカヤロウ! お前には俺の名代として全権を預けて派遣したんだぞ! そんな無意味な冗談なんかやるかぁ!」
 「そうなんですか!」
 「バカ! 当たり前だ! そのうちにちゃんと分かる」
 「はい!」
 「だから明日もちゃんとその頭にセットするんだぞ」
 「はい! あ、でも自分ではどうやっていいのか」
 「大丈夫だ。ルーシーとハーマイオニーにセットの仕方は仕込んである」
 「え!」
 「朝になったらセットしてもらえ」
 「分かりました! ありがとうございます!」
 「いいよ」

 しばらく話して、お風呂に行った。
 白い大理石の立派なお風呂で驚いた。
 ハーが入って来た。

 「皇紀様、髪を洗います」
 「え、いいですよ! 自分で出来ます」
 「いいえ、その髪はお一人では無理でございます」

 ハーは、裸だ。

 「使用なさっているのは「ロイヤルクラウン」という強い鉱物性のポマードでございます。通常の洗髪では、なかなかに落せないものです」
 「そうなんですか!」
 
 そう言ってハーは僕を座らせて頭にシャワーでお湯を掛けた。
 持って来た容器から何かの液体を頭に掛けた。
 オレンジの香りがした。

 「ディゾルビットという洗剤ですが、シャンプーではございません」
 「えぇー!」
 「しつこい油汚れを落とす溶剤です」
 「そんなの使っても大丈夫なの?」
 「はい。強力な割に植物由来の成分なので、肌にもそれほどの影響は」
 「でもあるんだ!」
 
 ハーは笑った。

 「すぐに洗い流しますし、大丈夫ですよ」
 「たのむよー」

 それでも、何度か洗われた。
 そして普通のシャンプーで洗髪し、更にコンディショナーで丁寧に髪の手入れをされた。
 その後で背中を流してくれた。

 「ありがとうね、ハー」
 「いいえ、毎日ルーとやりますので」
 「必要なんだ」
 「そうですよ」

 ハーは笑って「ごゆっくり」と言い出て行った。

 「ふー」

 湯船に浸かった。

 「あー、早く帰りたいなー」

 その晩は疲れたので、早々に寝た。
 ルーとハーは、部屋の中で、ずっと僕を警護してくれていた。




 翌朝、軍のフローレスさんが迎えに来てくれた。
 千万組の真岡さんも一緒だ。
 真岡さんは現地での「虎」の軍の窓口としてよくやってくれている。

 「皇紀さん!」
 「はい?」
 「その頭って……」
 「やっぱり、おかしいですかね?」
 「い、いいえ、とんでもない! それは皇紀さんの御趣味で?」
 「違いますよ! 出発直前にタカさんに!」
 「そ、そうなんですか」
 「あの、正直に言って下さい!」
 「結構なお点前で」
 「……」

 みんなでハンヴィーに乗った。
 ルーは昨日のXM250を持ち、ハーはアサルトライフルのステアーAUGを持っていた。
 腰には二人ともデザートイーグルを提げている。
 幾つもの弾倉が身体を覆っている。
 大きなクックリナイフもある。
 ハンヴィーにはM2重機関銃が備わっていた。

 「今日は3か所ほどご案内しますが、最初に行く場所はちょっと問題がありまして」
 「どういうことですか?」

 フローレスさんが説明した。

 「場所としてはいいんですが、今ギャングが占拠して居座ってまして」
 「えぇ!」

 驚く僕に、真岡さんが言った。

 「皇紀さん、虎の旦那から「お前らで制圧しろ」と言われてます」
 「そんなの、聞いてないですよ!」
 「まあ、大丈夫ですよ。うちのもんももう行ってますし」
 「真岡さん、何言ってんですかぁ!」
 「自分も先日行きましたが、ちょっと要塞化しちゃってました」
 「なんですってぇ!」
 
 隣のルーとハーを見ると、獰猛に笑っていた。
 やるしかないのかー。

 3時間ほど走って、山の麓から少し登った場所へ着いた。

 「この先にギャングのアジトがあります。鉄筋の大きな建物で、周辺でアヘンを栽培してます」
 「ねぇ、本当に今からやるんですか?」
 「はい、お願いします。400人程が常駐し、武装は重機関銃と迫撃砲、携帯ミサイルまで持っています」
 「随分な武装ですね」
 「ええ。これまで警察も手が出せない状況でして」
 「軍は?」
 
 フローレスさんがうつむいた。

 「コウキさん。お恥ずかしい話ですが、フィリピンは腐敗が進んでいるんです。軍の出動を妨げる勢力があるのです。だから大手を振って、ああいうギャングがあちこちを支配して」
 「そうなんですか」

 僕にも分かった。
 タカさんは、ここのギャングを潰すことも受け入れたのだろう。
 フィリピン政府に軍事基地の駐留を認めさせる条件だったのかもしれない。
 そうであれば、僕も躊躇っているわけには行かない。

 「分かりました。やりましょう」
 「ありがとう! コウキさん!」

 僕たちはハンヴィーを降りて山道を歩いた。
 やがて開けた場所に出る。
 10階建ての大きな建物だ。
 真岡さんが言っていた千万組の人たちも駆け寄って来た。
 全員で10名になった。

 「フローレスさん、どう攻め込みますか?」
 「はい、今日はここで……」
 
 そう話し始めた時、ルーとハーが飛び出して行った。

 「おい!」

 凄まじいスピードで敷地に突入する。
 庭の人間が気付いたが、数秒後に二人の銃弾に斃れる。
 警報が鳴り響き、建物の中から人間が飛び出して来る。
 それらを次々に薙ぎ払い、ルーとハーは建物に入って行った。

 「皇紀さん!」
 「僕たちも行きましょう!」
 「はい!」

 作戦も何も無かった。
 僕たちに向かって、重機関銃や迫撃砲の砲弾が飛んで来る。
 僕がそれらを全部「消して」いった。
 フローレスさんが驚いて僕を見ていた。

 「油断しないで!」
 「は、はい!」

 僕たちも建物の中へ入った。
 血の海だった。
 一切の抵抗は無かった。
 全ての部屋を見て回って進んだが、全員死んでいた。
 2階も同様で、上の方で銃撃の音が響いている。
 僕たちも部屋を見て回るのを辞めて、上に上がって行く。

 「「ギャハハハハハハ!」」

 二人の笑い声が聞こえ、悲鳴がそれに混じっている。
 8階に出ると、ルーとハーが廊下の左右に分かれて、奥の人間と戦っていた。
 
 「ハー! さっきのをぶち込んで!」
 「オッケー!」

 ハーが迫撃砲を向けた。
 僕はすぐにみんなに階下に降りるように言う。
 激しい衝撃がここまで伝わって来た。
 僕がまた上に駆け上がった。

 「あ、皇紀様!」
 「おい、なんで急に飛び出して行くんだよ!」
 「ねぇ、この建物って必要ですか?」
 「なに?」
 「あんまりいい造りでもないですし、壊しちゃっていいですよね?」
 「え?」

 「あ、ルーがもうやっちゃうー!」
 「おい!」
 「みなさん、建物から出てくださいー!」
 「ちょっとまってぇー!」

 フローレスさんを抱えて、真岡さんたちに急いで建物から出るように言った。
 みんな必死で走る。
 フローレスさんは激しいGで意識を喪った。
 上階が爆発していく。
 僕たちが建物から出た途端に、上から大声が響いた。

 「皇紀様ー! 出ましたねー!」

 ハーが叫び、上空から「トールハンマー」を建物に撃ち込んだ。
 ルーも同様にどんどん撃って行く。
 僕たちは更に必死に走って離れた。
 振り向くと、巨大な建物はもうどこにもなかった。
 大きく抉られた地面のあちこちが高熱で赤くなっていた。
 
 「え、えーと」

 真岡さんが呆然として呟いた。
 フローレスさんが目を覚ました。

 「あの、終わりましたので」
 「……」
 「あの」

 フローレスさんが呻きながら上体を起こした。

 「これは……」
 「最初は銃撃でやろうとしてたんですけどね。なんかあの二人が」
 「はぁ」

 ルーとハーが駆けて来た。

 「大変です!」
 「え!」

 僕が慌てると、ルーが腰のポーチからポマードと櫛を取り出した。

 「こんなに乱れちゃって!」
 「……」
 
 僕の髪をセットしてくれた。
 みんなが僕を見ていた。

 「コウキさん……」
 「あははは」
 「あの」
 「じゃあ、測量しますね」
 「はい」

 ルーとハーに土地の測量をさせた。
 非常に手際よく測量を終え、上空から航空写真まで撮った。




 「じゃあ、次に行きましょうか?」
 「今日はコウキさんにアジトを見せるだけの予定でしたのに」
 「え?」
 「後日、「虎」の軍の方々にお力をお借りしてと」
 「そうだったんですか!」
 「そうだったんです」
 
 真岡さんが大笑いした。

 「流石は石神家の人間ですね!」
 「僕じゃないですよ!」
 「まあまあ」

 みんなでハンヴィーまで戻り、途中で真岡さんが以前に三合会をタカさんたちが襲撃した話をした。
 
 「あの時ももう、あっという間でしたね。本当に10分もかからない。自分は驚きましたねー!」
 「あはははは」

 


 もう、どうすればいいの? 
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