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ブロードウェイ「マリーゴールドの女」 Ⅱ
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「あんた、本当に無茶な条件を出したわね!」
「アハハハハハ!」
当然ファーストクラスだ。
費用はもちろん、「ブロード・ハーヴェイ」持ちだ。
亜紀ちゃんは豪華な機内食を食べ、キャビアを持って来させて酒を飲み始めた。
「ねぇ、石神」
「あんだよ」
「ありがとう」
「あ?」
緑子が俺に礼を言った。
「だって、私のキャリアのためになんでしょう?」
「ただの嫌がらせだよ」
「あんたねぇ!」
「ワハハハハハハ!」
まあ、その通りだ。
世界的な大女優サンドラ・カーンに演技指導をしたなど、緑子に箔が着く。
「お前はニコニコ笑って「オーケー!」って言ってりゃいいんだよ」
「そんなわけに行かないわよ!」
緑子の性格上、真剣にやるのだろうが。
だから緊張している。
「おい、ところでお前らって、毎晩どういう体位でやってんだよ?」
「てっめぇー!」
緑子に殴られた。
亜紀ちゃんが隣で笑い、緑子も笑った。
「じゃあ、今晩教えてあげるわよ!」
「冗談じゃねぇ!」
三人で笑った。
長いフライトを終え、JFK空港に着陸する。
ロックハート家のリムジンが迎えに来ていた。
「ちょっと、石神!」
「ああ、友達の家に泊るからな」
「そう聞いてたけど、何よ、これ!」
「リムジンだろ?」
「本物?」
「お前、何言ってんだよ?」
偽物を用意する方が大変だろう。
緑子のスーツケースを運転手が積み込み、俺たちのものも積み込んだ。
後部の広いドアから乗り込む。
緑子がまた緊張してきた。
ロックハート家に着いて、また緑子が叫んだ。
「い、石神! どこよ、ここはぁ!」
「ロックハート家だよ。いい家だろ?」
「良すぎよ! あたし、ホテルを取るから!」
「ここまで来て冗談じゃねぇよ。いいから降りろ!」
緑子の尻を押してリムジンから降ろした。
玄関に静江さんが待っていてくれた。
お世話になる礼を言い、食堂に案内された。
ロドリゲスが亜紀ちゃんをハグする。
「ようこそ!」
「ロドリゲスさん、またお世話になります!」
「はい!」
午後3時になっているので、みんなでお茶を頂く。
静江さんに改めて緑子を紹介し、緑子にも静江さんが今回の上演の切っ掛けになった人だと紹介する。
「まさか、あのロックハートの人だなんて!」
「ウフフフフ」
あの最初の『マリーゴールドの女』の上演の時に俺が連れて行った響子の母親だと言うと、緑子も覚えていた。
「あの可愛らしい金髪の子!」
「そうだよ。事情があってずっと日本にいるんだけどな。時々帰れるようになった」
「どんな事情なの?」
「身体が弱くてな。ずっと俺の病院に入院しているんだ」
「そんな! 可哀想に!」
緑子が驚く。
「いいえ、坪内さん。響子は石神さんの傍が一番好きなの」
「石神の?」
「ええ。石神さんのお嫁さんなのよ」
「エェーーー!!!」
「まあ、そういうことだ」
「どういうことよー!」
俺は笑って、もう少し詳しい話をした。
「あいつ、すぐに「私がタカトラのヨメです」って言ってたんだよ。もう13歳になって、あまり言わなくなったけどな」
「あー、びっくりした!」
その程度でいいだろう。
そんなことよりも、驚くべき話を静江さんから聞いた。
「石神さん、実はね、レイのことで大騒ぎになっているの」
「どういうことですか?」
静江さんは真面目な顔で話し出した。
緑子も真剣な顔になる。
悪い話ではないかと不安になっているのだろう。
「「ブロード・ハーヴェイ」の人たちが、上演予定の芝居の宣伝を始めたのね。そうしたら、《レイチェル・コシノ》の名前を思い出した人がいて」
「「!」」
俺と亜紀ちゃんが驚いた。
そういう可能性を、迂闊にもすっかり抜けていた。
「もう本当に大変な大騒ぎなの。こればかりはどうしようもないわね」
「すいません、俺も今まで全く思いも寄らなくて」
「タカさん、私もです!」
緑子が話の内容が見えずに戸惑っていた。
「石神、どういうことなの? レイチェル・コシノさんの名前がどうかしたの?」
俺は緑子にも話しておかなければと思った。
「緑子、以前にアメリカの西海岸がテロリストに襲われたことは知っているだろう?」
「ええ、2年前よね?」
「そうだ。「業」のテロリストがアメリカ政府内や軍の人間と手を結んで、非道な実験を行なっていた。レイはそれを知ってしまい、拉致され殺されたんだ」
「レイチェルさんが!」
「レイは「虎」の軍を呼んだ。それでテロリストと戦いになって、西海岸を中心に多くの人間が死んだ。でも、レイのお陰でアメリカは助かったんだ」
「そんな……」
表に流れているストーリーだ。
「今回、そのレイが最後にやろうとしていたことを上演しようとしたわけだ。俺もレイの名前から騒ぎになることは予想しておかなければいけなかった」
「そうだったんだ」
「俺たちの大事な人間だったからな。そこしか考えられなかったんだよ」
「石神……」
静江さんから、騒ぎの具体的な話を聞いた。
新聞やテレビなどのマスメディアでは既に大きく取り上げられ、ネットでも様々な騒ぎになっているらしい。
「「ブロード・ハーヴェイ」の方でも気付いていなかったの。だから驚いているんです」
「そうでしょうね」
「ブロード・ハーヴェイ」の方では嬉しい誤算だろう。
この騒ぎは、絶対に大成功に繋がる。
俺たちもそれは喜ばしいが、レイはどう思うだろうか。
「まあ、忘れていた俺たちが悪いんですが、こうなったらこの勢いに乗るだけですね」
「そうですね」
静江さんも笑った。
「タカさん! やっぱり亜紀ちゃんマスコットが一緒だといいことだらけですね!」
「お前が来る前からだろう!」
頭を引っぱたき、みんなで笑った。
レイは恥ずかしがるかもしれないが、元々お前がやったことだろう!
今更抗議は受け付けねぇ!
「アハハハハハ!」
当然ファーストクラスだ。
費用はもちろん、「ブロード・ハーヴェイ」持ちだ。
亜紀ちゃんは豪華な機内食を食べ、キャビアを持って来させて酒を飲み始めた。
「ねぇ、石神」
「あんだよ」
「ありがとう」
「あ?」
緑子が俺に礼を言った。
「だって、私のキャリアのためになんでしょう?」
「ただの嫌がらせだよ」
「あんたねぇ!」
「ワハハハハハハ!」
まあ、その通りだ。
世界的な大女優サンドラ・カーンに演技指導をしたなど、緑子に箔が着く。
「お前はニコニコ笑って「オーケー!」って言ってりゃいいんだよ」
「そんなわけに行かないわよ!」
緑子の性格上、真剣にやるのだろうが。
だから緊張している。
「おい、ところでお前らって、毎晩どういう体位でやってんだよ?」
「てっめぇー!」
緑子に殴られた。
亜紀ちゃんが隣で笑い、緑子も笑った。
「じゃあ、今晩教えてあげるわよ!」
「冗談じゃねぇ!」
三人で笑った。
長いフライトを終え、JFK空港に着陸する。
ロックハート家のリムジンが迎えに来ていた。
「ちょっと、石神!」
「ああ、友達の家に泊るからな」
「そう聞いてたけど、何よ、これ!」
「リムジンだろ?」
「本物?」
「お前、何言ってんだよ?」
偽物を用意する方が大変だろう。
緑子のスーツケースを運転手が積み込み、俺たちのものも積み込んだ。
後部の広いドアから乗り込む。
緑子がまた緊張してきた。
ロックハート家に着いて、また緑子が叫んだ。
「い、石神! どこよ、ここはぁ!」
「ロックハート家だよ。いい家だろ?」
「良すぎよ! あたし、ホテルを取るから!」
「ここまで来て冗談じゃねぇよ。いいから降りろ!」
緑子の尻を押してリムジンから降ろした。
玄関に静江さんが待っていてくれた。
お世話になる礼を言い、食堂に案内された。
ロドリゲスが亜紀ちゃんをハグする。
「ようこそ!」
「ロドリゲスさん、またお世話になります!」
「はい!」
午後3時になっているので、みんなでお茶を頂く。
静江さんに改めて緑子を紹介し、緑子にも静江さんが今回の上演の切っ掛けになった人だと紹介する。
「まさか、あのロックハートの人だなんて!」
「ウフフフフ」
あの最初の『マリーゴールドの女』の上演の時に俺が連れて行った響子の母親だと言うと、緑子も覚えていた。
「あの可愛らしい金髪の子!」
「そうだよ。事情があってずっと日本にいるんだけどな。時々帰れるようになった」
「どんな事情なの?」
「身体が弱くてな。ずっと俺の病院に入院しているんだ」
「そんな! 可哀想に!」
緑子が驚く。
「いいえ、坪内さん。響子は石神さんの傍が一番好きなの」
「石神の?」
「ええ。石神さんのお嫁さんなのよ」
「エェーーー!!!」
「まあ、そういうことだ」
「どういうことよー!」
俺は笑って、もう少し詳しい話をした。
「あいつ、すぐに「私がタカトラのヨメです」って言ってたんだよ。もう13歳になって、あまり言わなくなったけどな」
「あー、びっくりした!」
その程度でいいだろう。
そんなことよりも、驚くべき話を静江さんから聞いた。
「石神さん、実はね、レイのことで大騒ぎになっているの」
「どういうことですか?」
静江さんは真面目な顔で話し出した。
緑子も真剣な顔になる。
悪い話ではないかと不安になっているのだろう。
「「ブロード・ハーヴェイ」の人たちが、上演予定の芝居の宣伝を始めたのね。そうしたら、《レイチェル・コシノ》の名前を思い出した人がいて」
「「!」」
俺と亜紀ちゃんが驚いた。
そういう可能性を、迂闊にもすっかり抜けていた。
「もう本当に大変な大騒ぎなの。こればかりはどうしようもないわね」
「すいません、俺も今まで全く思いも寄らなくて」
「タカさん、私もです!」
緑子が話の内容が見えずに戸惑っていた。
「石神、どういうことなの? レイチェル・コシノさんの名前がどうかしたの?」
俺は緑子にも話しておかなければと思った。
「緑子、以前にアメリカの西海岸がテロリストに襲われたことは知っているだろう?」
「ええ、2年前よね?」
「そうだ。「業」のテロリストがアメリカ政府内や軍の人間と手を結んで、非道な実験を行なっていた。レイはそれを知ってしまい、拉致され殺されたんだ」
「レイチェルさんが!」
「レイは「虎」の軍を呼んだ。それでテロリストと戦いになって、西海岸を中心に多くの人間が死んだ。でも、レイのお陰でアメリカは助かったんだ」
「そんな……」
表に流れているストーリーだ。
「今回、そのレイが最後にやろうとしていたことを上演しようとしたわけだ。俺もレイの名前から騒ぎになることは予想しておかなければいけなかった」
「そうだったんだ」
「俺たちの大事な人間だったからな。そこしか考えられなかったんだよ」
「石神……」
静江さんから、騒ぎの具体的な話を聞いた。
新聞やテレビなどのマスメディアでは既に大きく取り上げられ、ネットでも様々な騒ぎになっているらしい。
「「ブロード・ハーヴェイ」の方でも気付いていなかったの。だから驚いているんです」
「そうでしょうね」
「ブロード・ハーヴェイ」の方では嬉しい誤算だろう。
この騒ぎは、絶対に大成功に繋がる。
俺たちもそれは喜ばしいが、レイはどう思うだろうか。
「まあ、忘れていた俺たちが悪いんですが、こうなったらこの勢いに乗るだけですね」
「そうですね」
静江さんも笑った。
「タカさん! やっぱり亜紀ちゃんマスコットが一緒だといいことだらけですね!」
「お前が来る前からだろう!」
頭を引っぱたき、みんなで笑った。
レイは恥ずかしがるかもしれないが、元々お前がやったことだろう!
今更抗議は受け付けねぇ!
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