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CD録音
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3月下旬の土曜日の朝。
「タカさーん! 早くご飯を食べて下さーい!」
亜紀ちゃんが御機嫌で俺を起こしに来る。
いつもは双子が来るのだが、今日は亜紀ちゃんがニコニコして来た。
「ちょっとガンかも」
「何をおっしゃいますかー! ワハハハハハ!」
超御機嫌だった。
今日は「TORA」の2枚目のCDの録音日だった。
数日前から亜紀ちゃんが異様に楽しみにしていた。
やるのは俺なのだが。
年始に橘弥生が来てCDの録音を約束させられた。
1か月後ということだったが、俺が多忙なので、ここまで伸ばしてもらった。
アラブでの戦闘や、ロシア軍基地への急襲などの軍事作戦があったからだ。
もちろん橘弥生には、もっと普通の理由で話している。
橘弥生も来るので、俺は練習もしていたし、オリジナル曲の作曲も終わっている。
忙しいのとは別に、真面目にギターを弾いていた。
練習中は亜紀ちゃんがいつもいるのでウザかった。
曲目は
グリーグ《ペール・ギュント》より『ソルヴェイグの子守歌』
グリーグ『ピアノ協奏曲イ短調』(一部)
シューベルト『水の上で歌う』
サラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』
オルフ『カルミナ・ブラーナ』(一部)
モーツァルト《レクイエム》より『ラクリモーザ』
ヴェルディ《レクイエム》より一部
トマス・ヴィクトリア《レクイエム》より一部
バッハ『マタイ受難曲』(門土の編曲とTORAの編曲)
オリジナル曲『門土へ捧げる』(仮称)
オリジナル曲『父へ捧げる』(仮称)
オリジナル曲『虎王』
オリジナル曲『KYOKO』
オリジナル曲『父から捧げる』(仮称)
オリジナル曲『御堂』(仮称)
オリジナル曲『聖』(仮称)
セッション『ブルーノート』(仮称)
セッション(未定)
3枚組になるそうだ。
都内の超一流の録音スタジオを橘弥生が押さえた。
丸二日48時間だ。
何を考えていやがる!
技師たちも一流の人間らしいが、俺は知らん。
徳川さんも来るらしい。
ああ、「音楽の友人社」の常務の古賀さんも来ると聞いた。
二人とも業界では相当な人らしいが、俺には関係ない。
朝食にステーキが出た。
朝から俺は喰いたくもないのだが、まあ食べといた。
「さあ、着替えましょうか!」
「ポンポンが痛い」
「アハハハハハ! タカさんは面白いなー!」
「……」
抱えられてトイレに座らされた。
「どうぞー」
「……」
嫌々着替えた。
一応ブリオーニのスーツだ。
御堂の選挙戦のライブで被ったネコ仮面も忘れない。
今日は合間に撮影もするらしいからだ。
これも一流のカメラマンが来ると聞いた。
どうでもいい。
俺がシボレー・コルベットに乗ろうとすると、亜紀ちゃんが止めた。
「不良の車じゃないですか!」
「俺は不良だ!」
亜紀ちゃんがアヴェンタドールのキーを持って来た。
俺からコルベットのキーを奪い取る。
「……」
「あ! ロールスロイスにしましょうか!」
「こっちでいい!」
マヌエル・ラミレスとレスポールをシートの後ろに丁寧に積んだ。。
当然のように亜紀ちゃんも乗る。
「さー!」
亜紀ちゃんはずっと『亜紀ちゃん大好きソング』を隣で歌っていた。
なんか、それも入れて欲しいらしかった。
無理だろうよ。
10時からスタジオを押さえているらしかったが、俺たちは9時前に着いた。
一応、橘弥生よりも先に来ていた方が良いだろうと考えていた。
いきなり怒られた。
「トラ、遅い!」
「!」
橘弥生はとっくに来ていた。
徳川さんもだ。
「10時ですよね!」
「何言ってるの! プロは3時間前には準備しているものよ!」
「俺は医者ですよー!」
とにかく早く入れと言われ、スタジオへ案内された。
既に技師たちは揃っていた。
最初に一人一人に挨拶していった。
「あなたがTORAですか! ああ、見た目もいいですねぇ!」
「あなたのCDは何度も聴きました! 今日は最高の音をもらいますからね!」
ド素人の俺なんかに気を遣わせ、大事な時間も使わせて申し訳なかった。
俺はすぐにギターをケースから出して調弦していった。
「譜面は無いのね?」
「はい。貢さん方式ですからね」
「そう」
橘弥生は何も言わなかった。
俺を信頼してくれている。
「音楽友人社」の古賀さんが入って来て、もう一人、男性を連れて来た。
50代半ばの年齢か。
俺に挨拶と共に紹介してくれる。
「西木野善(にしきのぜん)君だ」
「ああ!」
話には聞いていた。
貢さんに一時ギターを教わっていた人だ。
「君がサイヘーさんの弟子なんだね」
「弟子なんてものじゃないですよ。ちょっと手ほどきを受けただけです」
「そうじゃない!」
いきなり西木野さんが怒鳴った。
「君は最高だ! 僕は君の演奏を聞いたんだ! 間違いなくサイヘーさんの魂を受け継いでいる人間だよ。君のギターを聴けばすぐに分かった!」
「いや、そんな大層なものじゃ」
「僕はダメだった。サイヘーさんをどうしても超えられないと分かって逃げてしまった」
「……」
西木野さんは泣いていた。
「俺だって全然超えられませんよ。貢さんは最高です」
西木野さんは俺を見ていた。
「今日はお邪魔する。僕のことなんか気にしないでやってくれ」
「わざわざお出でいただいてすみません。でも、貢さんを知っている人がいてくれて嬉しいですよ」
「そうか!」
西木野さんが初めて笑ってくれた。
早速橘弥生が仕切って、ブースに入るように言い、俺に1曲目を弾かせた。
技師がヘッドフォンを着け、ミキサーなどの機材を操作し始めた。
別な技師がブースに入って来てマイクの位置を微調整する。
ガラス越しに合図をし合って準備が整った。
ブースに俺一人が残る。
亜紀ちゃんが手を振っている。
西木野さんは部屋の隅で立っていた。
他の人間は椅子に座る。
徳川さんは特別な柔らかそうな椅子だ。
「トラ、始めなさい」
橘弥生がマイクで俺に呼び掛けた。
俺は『ソルヴェイグの子守歌』を弾いた。
「タカさーん! 早くご飯を食べて下さーい!」
亜紀ちゃんが御機嫌で俺を起こしに来る。
いつもは双子が来るのだが、今日は亜紀ちゃんがニコニコして来た。
「ちょっとガンかも」
「何をおっしゃいますかー! ワハハハハハ!」
超御機嫌だった。
今日は「TORA」の2枚目のCDの録音日だった。
数日前から亜紀ちゃんが異様に楽しみにしていた。
やるのは俺なのだが。
年始に橘弥生が来てCDの録音を約束させられた。
1か月後ということだったが、俺が多忙なので、ここまで伸ばしてもらった。
アラブでの戦闘や、ロシア軍基地への急襲などの軍事作戦があったからだ。
もちろん橘弥生には、もっと普通の理由で話している。
橘弥生も来るので、俺は練習もしていたし、オリジナル曲の作曲も終わっている。
忙しいのとは別に、真面目にギターを弾いていた。
練習中は亜紀ちゃんがいつもいるのでウザかった。
曲目は
グリーグ《ペール・ギュント》より『ソルヴェイグの子守歌』
グリーグ『ピアノ協奏曲イ短調』(一部)
シューベルト『水の上で歌う』
サラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』
オルフ『カルミナ・ブラーナ』(一部)
モーツァルト《レクイエム》より『ラクリモーザ』
ヴェルディ《レクイエム》より一部
トマス・ヴィクトリア《レクイエム》より一部
バッハ『マタイ受難曲』(門土の編曲とTORAの編曲)
オリジナル曲『門土へ捧げる』(仮称)
オリジナル曲『父へ捧げる』(仮称)
オリジナル曲『虎王』
オリジナル曲『KYOKO』
オリジナル曲『父から捧げる』(仮称)
オリジナル曲『御堂』(仮称)
オリジナル曲『聖』(仮称)
セッション『ブルーノート』(仮称)
セッション(未定)
3枚組になるそうだ。
都内の超一流の録音スタジオを橘弥生が押さえた。
丸二日48時間だ。
何を考えていやがる!
技師たちも一流の人間らしいが、俺は知らん。
徳川さんも来るらしい。
ああ、「音楽の友人社」の常務の古賀さんも来ると聞いた。
二人とも業界では相当な人らしいが、俺には関係ない。
朝食にステーキが出た。
朝から俺は喰いたくもないのだが、まあ食べといた。
「さあ、着替えましょうか!」
「ポンポンが痛い」
「アハハハハハ! タカさんは面白いなー!」
「……」
抱えられてトイレに座らされた。
「どうぞー」
「……」
嫌々着替えた。
一応ブリオーニのスーツだ。
御堂の選挙戦のライブで被ったネコ仮面も忘れない。
今日は合間に撮影もするらしいからだ。
これも一流のカメラマンが来ると聞いた。
どうでもいい。
俺がシボレー・コルベットに乗ろうとすると、亜紀ちゃんが止めた。
「不良の車じゃないですか!」
「俺は不良だ!」
亜紀ちゃんがアヴェンタドールのキーを持って来た。
俺からコルベットのキーを奪い取る。
「……」
「あ! ロールスロイスにしましょうか!」
「こっちでいい!」
マヌエル・ラミレスとレスポールをシートの後ろに丁寧に積んだ。。
当然のように亜紀ちゃんも乗る。
「さー!」
亜紀ちゃんはずっと『亜紀ちゃん大好きソング』を隣で歌っていた。
なんか、それも入れて欲しいらしかった。
無理だろうよ。
10時からスタジオを押さえているらしかったが、俺たちは9時前に着いた。
一応、橘弥生よりも先に来ていた方が良いだろうと考えていた。
いきなり怒られた。
「トラ、遅い!」
「!」
橘弥生はとっくに来ていた。
徳川さんもだ。
「10時ですよね!」
「何言ってるの! プロは3時間前には準備しているものよ!」
「俺は医者ですよー!」
とにかく早く入れと言われ、スタジオへ案内された。
既に技師たちは揃っていた。
最初に一人一人に挨拶していった。
「あなたがTORAですか! ああ、見た目もいいですねぇ!」
「あなたのCDは何度も聴きました! 今日は最高の音をもらいますからね!」
ド素人の俺なんかに気を遣わせ、大事な時間も使わせて申し訳なかった。
俺はすぐにギターをケースから出して調弦していった。
「譜面は無いのね?」
「はい。貢さん方式ですからね」
「そう」
橘弥生は何も言わなかった。
俺を信頼してくれている。
「音楽友人社」の古賀さんが入って来て、もう一人、男性を連れて来た。
50代半ばの年齢か。
俺に挨拶と共に紹介してくれる。
「西木野善(にしきのぜん)君だ」
「ああ!」
話には聞いていた。
貢さんに一時ギターを教わっていた人だ。
「君がサイヘーさんの弟子なんだね」
「弟子なんてものじゃないですよ。ちょっと手ほどきを受けただけです」
「そうじゃない!」
いきなり西木野さんが怒鳴った。
「君は最高だ! 僕は君の演奏を聞いたんだ! 間違いなくサイヘーさんの魂を受け継いでいる人間だよ。君のギターを聴けばすぐに分かった!」
「いや、そんな大層なものじゃ」
「僕はダメだった。サイヘーさんをどうしても超えられないと分かって逃げてしまった」
「……」
西木野さんは泣いていた。
「俺だって全然超えられませんよ。貢さんは最高です」
西木野さんは俺を見ていた。
「今日はお邪魔する。僕のことなんか気にしないでやってくれ」
「わざわざお出でいただいてすみません。でも、貢さんを知っている人がいてくれて嬉しいですよ」
「そうか!」
西木野さんが初めて笑ってくれた。
早速橘弥生が仕切って、ブースに入るように言い、俺に1曲目を弾かせた。
技師がヘッドフォンを着け、ミキサーなどの機材を操作し始めた。
別な技師がブースに入って来てマイクの位置を微調整する。
ガラス越しに合図をし合って準備が整った。
ブースに俺一人が残る。
亜紀ちゃんが手を振っている。
西木野さんは部屋の隅で立っていた。
他の人間は椅子に座る。
徳川さんは特別な柔らかそうな椅子だ。
「トラ、始めなさい」
橘弥生がマイクで俺に呼び掛けた。
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