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みんなで冬の別荘

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 翌朝の12月30日。
 ぐっすりと寝ていると、朝の5時に蓮花に起こされた。

 「申し訳ありません」
 「何かあったか?」
 「はい、斬様がいらっしゃいました」
 「……」

 仕方ねぇ。

 コンバットスーツに着替えて外に出た。
 斬もこの研究所のフリーパスの人間だ。
 勝手に入って来て蓮花に俺を呼びに行かせた。

 「おい! 別れはきっちり済ませただろう!」
 「ふん! 近くにいるんじゃ。相手をしろ」
 「このやろう!」

 まあ、20キロ程離れてはいるが、俺たちにとってどうという距離でもない。

 「いきなり襲っても良かったのじゃぞ」
 「その時に俺が寝てるわけねぇだろう!」
 「ふん!」
 「栞とヤってる最中だったらどうすんだ!」
 「お前! 殺すぞ!」
 「なんでだよ!」

 始めた。
 気持ちは理解出来るし、わざわざ俺に会いたくて来たことも嬉しくないわけではない。
 しかし、早朝に起こされて俺は機嫌が悪かった。
 いつもは徐々に強さを増して行く組み手を、最初からきつめで始めた。
 それでも斬は俺の攻撃を初手から防いだ。
 俺の「機」を読んでいるためだ。

 「いいぞ! もっと本気でやれぃ!」
 
 斬が嬉しそうに言った。
 俺は一層速く動いた。
 斬が追いついて来る。 
 やはり流石だ。

 30分もやっていると、俺も楽しくなってきた。
 石神家の血だ。
 闘いは物凄く楽しい。

 「ワハハハハハハハ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 二人で笑いながら撃ち込んで行った。
 1時間後。
 飽きた。

 俺は「無拍子」で斬の胸にブロウを放った。
 一切の予備動作、「機」や「兆し」の無い攻撃だ。
 斬の肋骨が粉砕する感触があった。

 「グゥッ!」

 斬はそれでも呻いただけで跳んで後ろへ下がった。

 「ここまでだ」
 「ふん!」

 激しい痛みがあるはずだが、斬は何事も無いかのように立っていた。
 俺は笑って一緒に中へ入る。
 ティーグフを呼び、二人で乗って上に上がった。
 俺のベッドに横たえ、まだ寝間着姿の双子を呼んだ。

 「肋骨が折れてる。「Ω」と「オロチ」と「手かざし」だ」
 「はい! オール入ります!」

 俺は笑って食堂へ行った。
 まだ朝の6時過ぎで誰もいない。
 蓮花が俺にコーヒーを持って来てくれた。

 「もうお済みですか」
 「ああ、お前の仇は討ったぞ」
 「そんな、仇など」
 「俺の大事な蓮花を早朝に起こしやがったからな!」
 「ウフフフフ」

 俺は蓮花を風呂に誘い、軽く愛し合った。



 子どもたちに蓮花の手伝いをしろと言い、8時に朝食を食べた。
 斬も一緒にいる。
 もう傷は癒えたらしい。
 恐るべき「オール」だ。
 俺も石神家本家で頼りにしていた。

 「おい、もう涙は止まったか?」
 「なんだと!」
 「まあ、悔し涙を流して男は強くなるもんだ」
 「お前!」
 「うるせぇ! 負けたら大人しくしろ!」
 「ふん!」

 みんなが笑っている。

 「お前、「無拍子」を会得しておったか」
 「あ? ああ、うちはみんな出来るぞ?」
 「なんじゃと!」
 「お前も当然出来てると思ったんだけどよ」
 「ふん!」
 「避けると思ったら、バキバキってな。悪かったな。あんなに弱いと思わなかったぜ」
 「なにを!」
 「次からは優しくしてやるな」
 「お前! 覚えておけよ!」

 俺は大笑いした。
 うちでもハーしか出来ない。
 ルーはじきだろう。
 亜紀ちゃんも。
 柳と皇紀は多分ダメ。

 斬がずっと仏頂面をしていたが、栞が士王を近づけると満面の笑みになった。
 なんだ、こいつ。




 食事の後で出発することにした。
 俺がふざけて斬に車いすを持って来ると、本気で怒った。

 研究所の全員が集まった。
 みんなに挨拶し、出発した。
 運転を亜紀ちゃんに任せ、俺は後ろのシートで栞と士王と座った。

 「やっと別荘かー」
 「あなた、お疲れ様」
 「まったくなー。別荘じゃずっと寝てるからな」
 「うん、ゆっくり休んでね」

 士王が俺たちの間に挟まれて嬉しそうにはしゃいでいた。
 一緒にじゃんけんをして遊んでやったり、くすぐってやって喜ばせた。

 途中で雪道になり、亜紀ちゃんと運転を替わった。
 10時半頃に別荘に着く。
 あたりは一面の雪だ。

 子どもたちがすぐに掃除を始め、食事は鷹と桜花たちに頼んだ。
 皇紀は風呂の掃除に掛かり、すぐに使えるようにするよう言った。
 俺はロボと別荘の見回りをする。
 特段、異常は無い。
 12時前に六花が響子を連れて来た。

 「タカトラー!」
 「おう! 楽しんだか?」
 「うん! また「リッカランド」で遊んだ! あとね、「紅バギー」も乗ったよ!」
 「おい、大丈夫かよ!」
 「ゆっくり走りましたから」
 「そうかー」

 まあ、響子も本当に丈夫になってきた。
 六花がたくさんのイチゴ「紅オイシーズ」を持って来た。
 俺がイチゴのコンポートを作ると言って、一部を預かった。

 昼食は丼各種だ。
 親子丼、かつ丼、ナス・ピーマンとウインナー丼、アナゴの天ぷら丼、海老天丼、鷹特製かき揚げ丼。
 普通の人間は小さめの丼で2,3杯食べた。
 子どもたちはでかい丼で無くなるまで食べる。
 響子は鷹特製かき揚げ丼を嬉しそうに食べた。

 「やっぱり美味いな!」
 「うん!」

 鷹が喜んで、自分で作ったという七味を俺と響子の丼に振ってくれた。

 「タカトラ! スゴイよ!」
 「ほんとだな!」

 味が深くなった。

 「神だな!」
 「神だね!」

 鷹が嬉しそうに笑っていた。

 「あまり量が無いのでみなさんには使えずにすいません」

 丼を持って来た六花がそれを聞いて悲しそうに席に戻った。
 鷹が笑って六花の丼にも振ってやった。




 六花が輝く笑顔で丼を掻き込んだ。
 楽しい別荘の時間が始まった。
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