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羽田空港 指切り

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 12月27日。
 予定ではずっと一緒にいようと思っていた響子と六花だが、やはり「紅六花」の連中の所へ顔を出させた。
 30日に、別荘で合流することにする。
 斬の屋敷では、響子の教育に良くない。
 そう思った。

 そう言って二人に話をすると、栞が文句を言った。

 「酷いよ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 笑って誤魔化した。
 まあ、二人とも斬の家でも良かったのだが、やはり「紅六花」の方が楽しいだろう。
 それに、響子もいろいろ遊べる。
 これまでは響子の体調の問題があり、出掛ける時には常に俺が傍にいた。
 しかし、最近は本当に丈夫になり、様々な数値データを示してロックハート家にも了承を得ている。
 何かあっても、俺がすぐに飛んで行ける。

 二人は朝食の後で出掛けて行った。





 栞がご機嫌斜めだ。
 俺は笑って抱き寄せた。

 「栞、久し振りにデートでもするか!」
 「う、うん!」

 一発で機嫌が治った。
 鷹も笑っている。

 鷹に士王を頼み、アヴェンタドールで出掛けた。




 「ねえ、どこへ行くの?」
 「まあ、そんなに遠くはな。どこか行きたい所はあるか?」
 「うーん、横浜!」
 「おし!」

 前にもよく一緒に行った。
 湾岸を走り、海を見せると栞が喜んだ。

 「日本だよね!」
 「アハハハハハ!」

 山下公園で車を停め、二人でブラついた。
 栞が幸せそうな顔をして笑っていた。

 「そうだ、乾さんの店に行くか?」
 「ああ! 行こうよ!」

 二人で向かった。



 「トラ!」
 「乾さん!」
 「よう、久し振りだな! あ、そちらは前に一度来てくれたよね?」
 「栞です。石神の妻の一人です」
 「おお!」
 「アハハハハハ!」

 ヘンな紹介だが、その通りだ。

 「いつもは事情があって海外にいるんですけどね。今日は日本に帰って来てて」
 「そうか! まあ、入ってくれよ!」

 ディディが飛んできて喜んでくれた。
 栞のことももちろん知っている。
 乾さんがコーヒーをディディに頼んだ。
 年末も近く、客は中にいなかった。

 「なんかヒマそうですね」
 「ばかやろう! お前のせいで大忙しだぁ! まったく、注文をこなすんでどんだけ忙しいか!」
 「アハハハハハ!」

 栞が言う。
 
 「本当にこの人って。私もしょっちゅう大変な目に遭わされてます」
 「おい!」
 「そうでしょう! まったく、勝手に隣の土地買って俺に押し付けるわ、おまけにそこに大量の小判埋めやがるわ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 「世界最高のダイヤモンドなんて送って来たよなぁ!」
 「え、ああ! 世界最高はうちにありますので、今度送りますね」

 850キロのがある。

 「絶対に辞めろ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 栞も笑っている。
 こいつにも送った。

 「ディディは良かったでしょう?」
 「う、ま、まあな」

 俺と栞で笑った。
 ディディがコーヒーを持って来た。
 俺が一緒に座るように言う。

 「ディディ、命令だ、正直に答えろ。毎晩乾さんに愛してもらっているか?」
 「はい! 一日も欠かさずに!」
 「おい!」

 乾さんが真っ赤になってうつむいた。
 虎彦も見せてもらい、楽しく話した。
 そろそろ昼時なので、帰ることにした。

 「なんだよ、昼飯を食ってけよ」
 「ああ、陳さんの店を予約してるんで」
 「なんだと! 俺も行くよ!」
 「でも、お忙しいんじゃ?」
 「あ、ああ。うーん」

 ディディが自分に任せて行って下さいと言った。
 乾さんが喜んで俺たちと一緒に出る。
 乾さんは自分のドゥカティに乗った。




 「トラちゃん! 乾さんもいらっしゃい! そちらのお綺麗な人もね!」

 俺は二人の予約に乾さんも来たことを言ったが、陳さんは大歓迎だと喜んだ。
 個室に案内される。

 「おい、今日は俺がもつからな!」
 「ああ、もう払っちゃってるんで」
 「なんだと!」

 俺は笑って、陳さんの店では自動引き落としになっていると言った。
 子どもたちがいつでも利用できるようにだ。
 信頼している陳さんの店と、「銀河宮殿」だけだ。
 乾さんは陳さんに交渉して、半分自分が払うと言った。

 「トラちゃん、どうする?」
 「まあ、じゃあそうして下さい」

 陳さんが片目をつぶって出て行った。
 上手く配分してくれるだろう。

 今日はお任せで頼んだが、本当に美味しい物、俺が好きなものを持って来てくれる。
 栞も北京ダックなどに驚いていた。

 「本当に美味しいね!」
 「そうだろう?」

 乾さんも嬉しそうにしていた。

 「そう言えばよ、去年にディディが武装しているのを見たよ」
 「ああ、そうですか」

 爆弾魔の騒ぎの時だろう。
 ディディは蓮花から連絡を受けて、万一の事態に備えていたはずだ。
 乾さんにも、ある程度の事情は話している。
 俺が「虎」の軍に関りがあるということだ。

 「お前がディディをくれたのは、ああいうことも含めてのことだったんだな」
 「はい。乾さんには危険はないはずなんですが、大事な人ですからね」
 「そうか。世の中は随分と物騒になってきたな」
 「はい」

 乾さんが悲しそうな顔をした。
 愛するディディが身を挺して自分を守ろうとすることに対してだろう。

 「ディディなら大丈夫ですよ。軍隊が来たってぶちのめします」
 「おい、そんな大げさな」
 「向かいの土地に、そのための武装がたんまりありますからね」
 「なんだと!」
 「あれ? 前に向かいの土地を俺が買ったって言ってますよね?」
 「それは冗談でだろう!」
 「なんだ、信じて無かったんですか?」
 「おい! トラ!」
 「後ろの土地にはですね……」

 「いい加減にしろ!」

 乾さんが怒鳴ったので、陳さんが何事かと顔を出して来た。
 俺が笑って何でもないと、乾さんと肩を組んで笑うと、安心して出て行った。

 「トラ、お前よ、マジでよ」
 「マジですって。乾さんはかけがえのない、俺の大事な人間ですからね」
 「お前なぁ……」

 乾さんは最後は苦笑して言った。

 「まあ、お前は昔から無茶苦茶だったからなぁ」
 「そうですよ。あんなクソガキほっとけば良かったのに。自分で可愛がったんですからね!」
 「まったくだな」

 三人で笑った。




 栞とレンガ倉庫や馬車道を歩いて、桜花たちの土産なども探した。

 夕方になり、羽田空港へ行く。
 御堂も呼んだ。
 忙しいに決まっているが、今日は来てくれと頼んだ。
 「分かった」と言ってくれた。




 三人で第一ターミナルの展望台に上がる。
 学生時代にみんなで来た。
 奈津江と山中もいた。

 「懐かしいね」
 「そうだな」
 「そうね」

 三人で夕暮れの羽田空港を眺めた。
 雰囲気を悟ったか、ダフニスとクロエは離れた場所で待機していた。
 ちょっと待っててくれと言い、俺はコーヒーとホットドッグを買って戻った。
 御堂が笑って、三人でベンチに腰掛けた。
 
 「奈津江も来てるかな?」
 「さあな」
 「山中もね」
 「あいつは奥さんが大好きだからな。俺たちよりもあっちで一緒にいるだろうよ」
 「そうかな?」
 「ああ、分かんねぇ」

 三人で笑った。
 
 「随分なことになっちまったな」
 「石神のせいでね」
 「ほんとだよ」
 「アハハハハハ!」

 空港は夜に移っていく。
 その美しさは荘厳だ。

 「お前らは死ぬなよな!」
 「お前だよ!」
 「そうよ! もういつも危ないことばっかり!」
 「まあなぁ」

 三人で美しい空港を眺めている。

 「また絶対に来ようね」
 「そうだな」
 「そうだね」

 「絶対だからね!」
 
 栞はそう言って両手の小指を出した。
 俺と御堂は笑って指切りをする。
 栞の小指が熱を持ったように温かかった。

 ホットドッグを食べ、コーヒーを飲んだ。
 たったそれだけの時間だ。
 忙しい御堂のために、長くはいられなかった。
 でも、十分だった。




 俺たちは指切りで誓い合ったのだ。
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