上 下
1,773 / 2,840

「銀河宮殿」新記録達成

しおりを挟む
 一江の話を終えると、みんな複雑な顔をしていた。
 響子は俺に引っ付いている。

 「まあ、麗星のお陰ですっかり片付いたんだけどな」
 「そんなことがあったんだ」
 
 栞がまだ脅えていた。

 「まだ子どもだったからな。自分が死んだと言うことには気づけなかったのかもしれない。だから親切にしてくれた一江に付いて来てしまったんだろう」

 みんな黙って聴いていた。

 「そこでまた一江がさも生きているかのように扱ってしまったからな」
 「でも、本当に可愛そうで」
 「まあな。ある日突然に死んでしまったんだからな。いろいろ心残りはあっただろうよ」
 「石神、その話は遺族の方には?」
 「話してないよ。自分の娘が迷って他人様に迷惑を掛けたなんてな。知ってもしょうがない」
 「そうだね」

 俺が一江に肉を焼いて渡した。

 「とにかく、あの騒動があったから、俺は堂々と三週間も休暇を満喫出来たわけだ」

 みんなが少し笑った。

 「そんなに長く休んだんだ」

 栞がそう言い、俺は口が滑ったことに気付いた。

 「そうなのよ。二週間の予定だったんだけど、あのロシアの大移動が急に決まったしね」
 「そうか!」

 そこは栞も知っている。
 俺は話題を替えようとしたが、一江が喋った。

 「あの後で部長がまた死に掛けたじゃない」
 「おい!」

 栞の顔が変わった。
 鬼のようになっている。

 「あなた! どういうことなの!」
 「いや、ちょっと待てって!」

 一江が不味いことを喋ったことに気付く。
 俺を見ている。
 もう遅ぇ!

 「あのさ、妖魔の死骸を苗床にして《ティターン》の下級神が召喚されてさ」
 「それで殺され掛けたの!」
 「違うよ。その《ティターン》は俺が斃したんだけど、そうしたら「神殺し」って呪いにかかっちゃって」
 「なんなの!」

 栞の形相が完全に変わった。
 また俺が死に掛けていたのを聞いていなかったからだ。
 以前に死に掛けた「クロピョン」の試練の時と同じだ。

 「また私はなんにも知らされなかったの!」
 「お前に知らせても心配させるだけだったから!」
 「また、また私はあなたが死ぬかもしれないのに! また私は! 何も知らないでのんびりしてたの!」

 俺は慌てて栞を抱き締めに行った。

 「違うよ。死なないつもりだったからお前には話さなかったんだ!」
 「あなた!」
 「お前に心配をさせたくなかったんだよ。お前を愛しているから」

 六花が大泣きしている。
 そう言えばこいつもそうだった。
 響子も泣いてる。
 鷹に合図して六花に肉を食わせた、

 争って肉を喰っていた子どもたちがこっちを見ていた。
 俺が手で呼んだ。

 「なあ、「神殺し」はすぐに治ったんだよな?」

 すぐに子どもたちが状況を察した。

 「そ、そうですよ、栞さん!」
 「ロボと「柱」さんとかがすぐに!」
 「ね、だから知らせるまでもなかったんだよ!」
 「タカさんも心配するなって言ってたよね?」
 「石神さんはすぐに良くなりました」

 口々にそう言ってくれた。
 いつも余計なことを言う柳もなんとか上手いこと言ってくれた。

 栞たちもしばらくして落ち着いた。
 ルーが言った。

 「御堂さんにはね、一応電話しようとしてたんだ」
 「え、僕に?」
 「うん。でもね、電話に出たのは御堂さんじゃなかったの」
 「え?」
 「なんだと!」

 俺も初めて聞いた。
 ルーとハーには御堂に連絡しろとは言っていなかった。

 「アザゼルだった。どうしてか分からない。でも、アザゼルから御堂さんには話すなって言われたの」
 「おい、聞いてないぞ!」
 
 ルーとハーが顔を見合わせていた。

 「私たちもね、今思い出したの!」
 「ほんとうだよ!」

 アザゼルが関わったのだから、そういうこともあるかもしれない。
 それに俺も今思い出したことがある。
 俺はあの時に、アザゼルと会っていたような気がする。
 何をしていたのかは分からないが。

 「そうか、分かったよ。そのことはしょうがねぇけどな。みんな何かあったらすぐに俺に言うんだぞ」

 全員が返事をした。
 御堂までも、だ。
 子どもたちが自分たちのテーブルに戻った。
 また元気よく肉を奪い合う。
 俺は一江を睨みつけた。
 一江が俺に頭を下げる。

 「すぐに俺に言うのと、あとは余計なことを言わないようにな!」

 みんなが笑った。
 俺が話題を変え、ヤマトテレビで秋から放映中の『虎は孤高に』の話をした。

 「人気があるから、もう大河ドラマみたいに1年間はやることが決まっているんだよ」
 「あれ! 凄くいいよね!」

 栞が言い、桜花たちも興奮気味に同意している。
 アラスカへは定期的にうちで録画したブルーレイを送っている。

 「来年から「中学生編」が始まり、次は「高校生編」だ。そこから第一部の原作にはない「傭兵編」と「大学生編」。まあ、第二部には回想で若干書かれているけどな。でも、主にネット小説で書かれている、南が「真伝」と銘打っているものが採用されるらしいよ」
 「じゃあ、本当の石神の物語になるんだね」
 「まあ、本当のともちょっと違うけどな。概ね、俺の人生に近いものになるのは確かだ。ヒロインの南はちょっと遠ざかる。最終的にどうするのかは、これから南が決めて書くだろうけどな」
 
 「石神様! 私たちもアラスカで毎回楽しみに観ているんです!」
 「本当に何度も観てますよ! 石神様のことが知れて、みんな喜んでいます!」
 「子どもの頃から石神様は素敵な人だったんですね!」

 桜花たちが口々に言った。
 多少照れ臭い。

 「あれは南が良いように書いてくれているだけだよ。俺は全然いい人間じゃなかったしな」
 「そんなことはありません!」

 逆に怒られてしまった。

 「まあいいけどな。収録はもう「高校生編」に入っていて、「大学生編」からのキャスティングも始まっている」
 「え! 誰がやるんですか!」
 
 桜花たちが喰いついて来る。

 「みんなは知らないかもしれないが、山口高雄という俳優だ。アクションで有名な〇〇クラブの若手だよ」

 俺が幾つか出演作を話したが、みんな知らなかった。

 「御堂、小百合さんの付き合っていた俳優だよ」
 「え!」

 小百合さんは御堂の親戚だ。
 今も俺が付けた芸名「三島姫子」を使っている。
 御堂が学生時代に俺に紹介してくれた。
 現在は銀座でクラブ経営をしている。
 御堂も時々使っているし、俺もたまに顔を出している。

 「もう30代だけどな。若いから学生時代からも大丈夫だろうってな。ああ、御堂の役も決まってるんだぞ?」
 「そうなのか?」
 「冬野東二。俺の親友の坪内緑子、ああ、大手劇団所属の俳優なんだけど、その旦那だ」
 「そうなのか」

 相変わらず動揺しない。

 「おい、お前もドラマになるんだぞ」
 「うん。えぇ!」

 やっと実感した。
 子どもたちの「喰い」が落ち着き、テーブルを移動してくっついて来る。
 鷹が『虎は孤高に』の話だと教えていた。

 「もちろん奈津江も山中も出る。多分佐藤先輩とか木村や岡庭とか他の俺が親しかった連中もな」
 「すごいな!」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが大興奮だ。
 亜紀ちゃんが鷹に、聞いていなかった部分を話してもらっている。

 「今度山口さんに会いに行こう!」
 「「「「うん!」」」」

 子どもたちが勝手に決めるので、俺が待てと言った。

 「まだ山口君のキャスティングは内定の段階なんだ。まあ、俺の推しだから大丈夫だとは思うけどな」
 
 亜紀ちゃんが記憶を辿って、頂き物で山口高雄の名前があることを思い出した。
 いつも水羊羹と甘酒を送ってくれる人だと言った。

 「タカさんの闇は深いですね」
 「闇じゃねぇ!」

 みんなが笑った。
 一江が検索して山口君の画像を出してみんなに見せた。

 「いいじゃないですか!」
 「タカさんの優しい顔の雰囲気がありますね」
 「この顔好き!」
 「タカトラの悪さがないよ?」
 「いいんだよ!」

 響子の頭を撫でる。

 「流石にアクションは問題ないだろうしな。まあ、どこまでやるのか知らないけど、脚本家と話した時には、響子の手術の辺りまでは必ずやると言っていたな」
 「じゃあ、私も出るの!」
 「多分な」
 「やったぁー!」

 響子が大喜びで六花と手をブンブンした。

 「その後で六花と出会って、「花岡」と出会う。南はネット小説版では謎のテロリスト(「業」がモデル)との戦いを始めているから、ドラマもそれを追い掛けたいようだけどな」
 
 六花と響子がまた嬉しそうにブンブンしている。

 「まあ、まずは今後の視聴率次第だ。あとはブルーレイやDVDの売れ行きでな」

 亜紀ちゃんが双子と100万枚買うと言っていた。
 やめろと言った。

 みんなでまたしばらく楽しく話しながら食べ、店を出た。
 御堂はダフニスとクロエを伴ってタクシーで帰り、俺たちはまたリムジンとハマーで家に向かった。




 会計は1100万円で、新記録を作った。
 やれやれ。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...