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橘弥生 再会

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 12月26日。
 朝食を食べ、桜花たちは横浜市の鴨井に出掛けた。
 タクシーで行けと言ったが、電車で行くことにしたようだ。
 まあ、そういうのも楽しいだろうと思った。
 昼食は陳さんの店に行くように言った。
 少し離れてはいるが、ゆっくり帰ればいいと言ってある。

 俺は麗星と天狼を東京駅まで送った。
 駐車場にロールスロイスを入れ、駅のホームまで一緒に行く。

 「ハイファ」

 麗星の隣に、着物姿のハイファが現われた。

 「麗星と天狼を頼む」
 「はい、かしこまってございます」

 ハイファが俺に頭を下げ、また消えた。
 恐らく、他の人間には何も見えていないのだろう。

 「あなた様、楽しゅうございました」
 「そうなら俺も嬉しい。また京都へ行くからな」
 「いつなりとも、お待ち申し上げております」

 麗星とキスをした。

 「早く二人目も設けたいものでございます」
 「おう!」

 到着した新幹線に麗星が乗り込む。
 グリーン車の窓から俺を見ている。
 天狼の手を持って俺に向かって振る。
 俺も手を振って見送った。

 「さて、じゃあ行くか」

 俺は駐車場に降りて、ロールスロイスを発進させた。




 自由党本部に来た。
 受付の人間が俺の姿を見て、立ち上がって深々と頭を下げる。

 「いつも悪いね。御堂はいるよね?」
 「はい、お部屋の方へ連絡しておきます」
 「頼むね」

 俺の場合、顔パスでどこにでも行ける。
 執務室で御堂はまた大渕教授と打ち合わせをしていた。

 「よう!」
 「石神!」

 大渕教授とも挨拶をする。

 「また忙しそうだな」
 「まあね。今は改憲に向けてラストスパートだよ」
 「お前も少しは休めよ。俺はもう休暇に入って、連日クリスマスイベントをこなしたぜ」
 「アハハハハハ! まあ、僕の親友が酷い奴でね。とてもじゃないけど休めない状況に追い込まれてさ」
 「本当に酷い奴だな!」

 御堂たちのプランは分かっている。
 ここにも量子AIを入れて、御堂たちが話し合った内容は即座に議事録や政策案としてAIが作成し、同時に俺の下にも届いている。
 もう筆記も入力も必要がない。
 もちろん後から確認して訂正も出来る。
 それも画面でも音声でも可能だ。
 御堂の負担を少しでも軽くするために、俺が皇紀に指示してやらせた。

 大渕教授が秘書にコーヒーを頼んでくれた。
 俺が来たので一休みすることにしたようだ。

 「『英雄宣伝』の方はどうだい?」
 「ああ、まずは「アドヴェロス」の羽入と紅のドラマをやろうと思っている」
 「あの二人か!」

 ヤマトテレビでのゴールデンタイムに放映し、幾つかの配信会社でも流す予定でいる。

 「実名は伏せるけどな、警察内の対妖魔部隊に実在する人物たちと発表する。もう「虎」の軍が高度AIロボットを使っていることは知られているからな」
 「そうか。あの二人ならいいドラマになりそうだな」
 「俺も予想外だったけどよ。ドラマチックな戦いをしてくれてるよ。あの二人は最高だ」
 「そうだね」
 「多分、評判が高まるだろうけど、そうしたら他のハンターたちもな。本当は磯良のものもやりたいけど、小学生が危険なハンターをやっているというのは、まだ世間的に受け入れない人間も多いからな」

 俺は他にもアニメ作品や報道特番などの企画を話した。

 「アニメの方は、大渕教授のアイデアを採用できそうですよ」
 「そうですか!」

 大渕教授は、才能のある人間ではなく、ごく一般人の主人公が必死で「虎」の軍に貢献する話を提案してきた。

 「いいですよね。自分たちはとてもと思う人間も、一緒に戦う気持ちになれる」
 「派手さは無くなりますが、人間的な大切なものを訴えることが出来ればと」
 「まあ、戦闘は派手ですからね。通信兵として戦場で戦う主人公っていいですよ!」
 「楽しみにしてます」

 俺はあまり邪魔をしたくないと言い、出ることにした。

 「御堂、今晩は来いよな!」
 「ああ、必ず行くよ」
 「栞と士王も来てるんだ。久しぶりに話してくれよ」
 「ああ、分かった。天狼くんにも会いたかったけどな」
 「また機会はあるさ。ああ、大渕教授は本当に来ませんか?」
 「すいません。流石に年のせいで焼肉はちょっと。休ませてもらいますよ」
 「そうですか。残念ですが、また別な機会に」
 「はい、是非」

 今日は梅田精肉店が開いた「銀河宮殿」で夕食の予定だ。
 大渕教授も誘ったのだが、身体を休ませることに時間を使いたいようだった。
 無理もない。
 御堂も大渕教授も超がつく真面目人間で、二人で毎日政策や何かを話し合っていた。
 妥協することを知らない人間同士なので、毎日のように深夜まで話し込んでいる。
 今日は俺が強制的に休ませることにした。

 俺は家に戻った。




 丁度昼食の支度が終わりかけた所だった。
 夕べは散々飲み食いしたので、今日は天ぷら蕎麦だ。
 和食なので鷹の仕切で子どもたちが作ったようだ。
 最高に美味い。
 響子は大エビの天ぷらとナスの素揚げを入れている。
 今晩も焼肉なので、なるべく脂っぽいものを避けたい。
 俺も同じもので付き合った。

 「一緒だね!」
 「おう!」

 俺の気遣いが分かり、響子が微笑んだ。
 子どもたちはエビとタマネギのかき揚げや様々な天ぷらをバクバク喰いながら蕎麦をお替りしている。
 六花も嬉しそうに食べていた。
 栞も向こうではそれほど蕎麦は食べていないので、ニコニコしている。
 
 「やっぱり和食がいいね!」
 「それを桜花たちの前で言うなよな」
 「分かってるよ!」

 出来ないこともないのだが、アラスカでは和食の材料は揃えにくい。
 桜花たちが苦労するのが目に見えている。

 午後は響子と士王、吹雪を俺のベッドで一緒に寝かせた。
 ロボに子守りを頼む。

 「頼むな! 最高の子守りネコ!」
 「にゃ!」

 暖房と加湿器を入れ、ロボが枕で横になった。

 俺は栞を「虎温泉」に誘って愛し合った。

 「こんなの作ったんだー」
 「まあ、亜紀ちゃんたちがな。俺へのプレゼントだって」
 「優しいよね、あの子たち」
 「そうだよな」

 しばらくして栞が上がると言うので、俺も出ようとした。

 「ダメよ! 鷹を呼んで来るから」
 「え?」

 鷹と愛し合い、続いて六花と愛し合った。




 三時になり、一江と大森が来た。
 みんなでお茶にする。
 少し後で、桜花たちも帰って来た。

 「よう、お帰り」
 「只今戻りました!」

 三人もすぐにテーブルに付く。
 一江たちと挨拶した。
 
 「石神さん、門土さんのお母様にお会いしました」
 「ほんとうかよ! 日本にいたんだ」
 「はい。それで託を預かりまして」
 「!」

 「年が明けたらこちらへいらっしゃるそうです」
 「なんだと!」

 亜紀ちゃんが拍手し、他の子どもたちも笑って拍手した。

 「なんなの?」

 栞が不思議そうに見ている。

 「栞さん! タカさんがいよいよ次のCDを出すんですよ!」
 「そうなんだ!」
 「橘さんから散々言われてるのに、この人全然ヤル気がなくて! でももう終わりですね」
 「終わってねぇ!」

 俺が桜花たちを睨むと、三人が頭を下げて来た。

 「なんか、すいません」
 「いや、お前らのせいじゃないからな」

 


 俺が笑って言うと、三人が墓参りの話をしてくれた。
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