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ミユキの来訪 Ⅲ

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 ミユキは素晴らしい露天風呂だったと言った。

 「ルーちゃんとハーちゃんがね、かき氷まで作ってくれて」
 「ああ、あいつらの最高のもてなしなんだよ」
 「そうなんだ!」

 風呂から上がったミユキに、何を飲むのか聞いた。

 「何でもあるぞ?」
 「焼酎がいいな」
 「薩摩焼酎でいいか?」
 「大好き!」

 一江が好きなので置いてある。
 まあ、最近はあまり飲んで行かないが。
 ミユキがロックで飲むというので、相当酒好きなのだろう。

 「タカさん、身欠きにしん出していいですか?」
 「ああ、いいな!」

 身欠きにしん。
 各種刺身。
 雪野ナス。
 味噌田楽。
 マッシュルームのアヒージョ。
 キャビア(俺とミユキのみ)。
 唐揚げとソーセージ焼き(獣用)。
 新ショウガの漬物。

 「また随分と豪華だね」
 「いつもは塩だけだけどな」
 「味噌もたまにありますよ!」
 「アハハハハハ!」

 モロキュウも作った。
 ワゴンに乗せて移動した。





 「何ここ!」

 ミユキが「幻想空間」に驚く。
 子どもたちが笑って、一通りミユキを案内する。
 ライトアップされた中庭にも、ミユキは感動していた。
 俺の隣に座らせた。

 「じゃあ、あらためて! ようこそ、ミユキ!」

 みんなで乾杯した。

 「なんかよ、ドラマのミユキの台詞のせいでさ、三島由紀夫の『美しい星』がすごく売れているらしいぜ」
 「そうなんだ!」

 ミユキが俺から教わったと『美しい星』の一節を語るシーンがあった。
 それが多くの人間の琴線に触れ、文庫本が幾版も更新するくらいに売れているらしい。

 「あれは石神くんからもらった、忘れられない言葉だよ」
 「そうか」

 ミユキはあの言葉通り、普通の人間が辿り着けない所まで行った。
 聞いてはいないが、JAXAでも結構上にいる人間だろう。
 俺たちは名刺も交換しなかった。
 そういう間柄ではない。

 ミユキが自分の左側の頬を撫でていた。

 「どうした?」
 「あのさ、お酒が回ると傷が真っ赤になるんだ」
 「そうか。ああ、真っ赤だな」
 「ウフフフ」

 ミユキが嬉しそうに笑った。
 
 「なんだよ?」
 「やっぱり石神くんはそうだった。私の顔の傷なんて、全然気にしてないんだよね」
 「そりゃそうだよ」
 「石神くんは自分の傷を気にしてたよね?」
 「そりゃ、俺のは他の人が気持ち悪がるからな」
 「そんなことないよ!」

 「そうです! タカさんの身体は全然気持ち悪くありません!」

 亜紀ちゃんが立ち上がって言った。
 俺は笑って分かったと言った。

 「今じゃな。ようやく気にしなくなったけどな」
 「そうなんだ!」
 「こいつらのお陰でな」
 
 「石神さん! 来年は一緒に海に行きましょうね!」
 「やだよ」
 「なんでぇー」

 みんなが笑った。
 双子が柳を慰める。
 唐揚げを口に突っ込まれていた。

 「そういえばさ、石神くんと一緒に入院したことあるじゃない」
 「おお、楽しかったよな」
 「あの時、しょっちゅう裸で歩いてたよね」
 「ワハハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが、今でもしょっちゅうオチンチンを出すのだと言った。

 「おい!」
 「アハハハハハ!」

 双子がしょっちゅうパンツを脱がされると言った。

 「石神くん!」
 「てめぇら!」
 「「ワハハハハハハハ!」」

 「もう、辞めてあげてね!」
 「こいつら喜ぶんだよ」
 「「えぇー」」
 「おい!」

 ミユキがちょっとコワイ顔で睨んだが、やがて笑った。

 「石神くんはやっぱり変わらないな」
 「それはお前もだろう、ミユキ」
 「うん。私はずっと石神くんと出会った頃のまま」
 「そうだよな」

 楽しく話した。

 「石神くんってね、本当に他の入院してる人たちと仲良しでね」
 「はい、しょっちゅう外の居酒屋に行ったんですよね!」
 「そうそう。それとあのね」
 「なんです?」
 「ちょっとエッチな本の人もね」
 「ああ! エロ魔人のチョーさん!」
 「そんなことまで知ってるの!」
 「「トラ文庫」に一杯エロ本を入れてくれて!」
 「そうなんだよ! 私に本を貸してくれるって言ってね。見たらもう!」
 「ワハハハハハハハ!」

 俺は笑って誤魔化した。

 「あ! 「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」!」
 「それも知ってるの! あの曲はもう一番大事な曲なんだ!」
 「タカさん、歌って下さい!」
 「おう! ミユキのためならいつでもな!」

 亜紀ちゃんがちょっと待てと言い、地下からギターを持って来た。
 俺はギターを弾きながらミユキに歌ってやった。

 「あの時よりも上手いね!」
 「そりゃ、ミユキのために練習したからな!」
 「ほんと!」

 ミユキが喜んだ。
 本当にそうだった。
 ミユキを思ってよく弾いて歌って来た。
 そんな機会は無いだろうと思っていたが、いつかミユキにまた歌ってやりたかった。
 ミユキが今度は自分が歌うと言った。

 美しい声だった。

 「私もね、いつか石神くんに歌ってあげたかったの」
 「そうか!」

 亜紀ちゃんが言った。

 「タカさん、そろそろ」
 「あんだよ! みんなで楽しく話してるだろう!」
 「?」

 亜紀ちゃんがミユキに、ここでは俺がいつも「いい話」をするのが決まりなのだと言った。

 「だから! そんな決まりはねぇ!」
 「「「「「えぇー!」」」」」

 「てめぇら!」
 
 「石神くん、お願い」
 「なんだとぉ!」

 ミユキが可愛らしく手を合わせていた。

 「じゃあ、今日だけだからな!」




 俺は話し出した。
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