上 下
1,750 / 2,840

ミユキの来訪

しおりを挟む
 翌日の土曜日。
 俺は南から教えてもらったミユキの電話番号に掛けた。
 一晩考えたが、やはり話したかった。

 「あの、石神ですけど」
 「石神くん!」

 電話の向こうでミユキが驚いていた。

 「夕べ、南から連絡先を聞いてさ」
 「うん……」

 ミユキは泣いていた。

 「おい、大丈夫か?」
 「嬉しくって! ずっと石神くんに会いたかった! 本当に声が聴けるなんて!」

 ミユキが号泣し、落ち着くまでしばらくかかった。

 「俺さ、前にテレビでミユキを観たんだ」
 「え!」
 「ほら、小惑星探査で大活躍だったんだろ? テレビを点けたら偶然にな。ミユキが誇らしくって、俺も嬉しかったんだよ」
 「ほんとに! あの取材を観たの!」
 「ああ、ウサギのぬいぐるみを抱いててさ。「トラちゃん」だって。笑ったぜ」
 「あ、あれは、あの、本当に大事にしてるの」
 「うん。俺も嬉しかった。雲竜寺で貰った奴だよな?」
 「そう! あの子がいたから頑張れたんだよ!」
 「そっか」

 俺たちは懐かしく話した。
 別れてからのことも話した。

 「今、石神君はどうしているの?」
 「ああ、俺も何とか医者になれたんだ。今も都内の病院で働いているよ」
 「そうなんだ!」

 ミユキが嬉しそうに言った。

 「南ともな。まあ、うちの娘が勝手に連絡を取りやがってさ」
 「うん、聞いてる。石神くんが友達のお子さんたちを引き取ったって」
 「ああ。親友だったからな」
 「やっぱり今でも優しいんだね、石神くんは」
 「そんなことは。まあ、ずっとトラブル続きかな」
 「アハハハハハハ!」

 1時間も楽しく話した。

 「ドラマでさ。一緒に雲竜寺を回った時とか、あとさ! 病院の屋上での会話とか! あれって、全部あの時のまま全部だったよね!」
 「ああ、俺が南に話したからな。まあ、元々はうちの娘が俺がたまたま話したことを全部記録してやがってよ」
 「そうなんだ! じゃあ、お子さんたちにも慕われてるんだね」
 「あ、奴隷だよ。今も家中の掃除をさせてる」
 「アハハハハハハ!」

 子どもたちのことも話した。
 ミユキに爆笑された。

 「石神くん、一度会えないかな」
 「まあな。でも俺も結構忙しいからな」
 「ダメ?」
 「うーん。会いたい気持ちはもちろんあるんだけどな。話せばこんなにも、幾らでも楽しい話がある」
 「そうだね」
 「でもな。子どもたちにも言っているんだ。俺は過去を懐かしむために生きているんじゃないって」
 「うん」

 ミユキの声が沈んだ。

 「あいつらさ、もう最愛の人間に会えないんだよ。そういうこともあってな」
 「そうか。分かる」
 「でも、あいつらときたら、俺に会わせようとするんだよ。南もそうだし、他にもやられたことがあるんだ」
 「そうなんだ」
 「ミユキの話は、ある事情がある女性がいてな。事故で記憶をなくしている人なんだ。その人にミユキの名前を俺が付けたことから子どもたちにもミユキの話をしたんだ」
 「え?」
 「俺が誇れる友達の名前だからな。その女性にも強く生きて欲しいと思ってな」
 「石神くん!」

 「ミユキはさ、俺が会いたいと思う、子どもたちも俺に会わせたいと思っている筆頭の一人なんだよ」
 「石神くん!」
 「一度会おうか。俺もやっぱり会いたいや」
 「うん! 是非そうして!」

 俺はミユキといつ頃会おうかと話そうとした。

 「明日! 明日はどう?」
 「え、まあ大丈夫だけど。でも、ミユキは遠くにいるんだろう?」
 「大丈夫! もうすぐに会いたいの!」
 「こっちへ来てくれるのか?」
 「うん。行かせて!」

 俺は笑って住所を教えた。
 飛行機で来るということなので、空港まで迎えに行くので、決まったら教えて欲しいと言った。

 ミユキが来ると言うと、亜紀ちゃんがまた大興奮になった。
 他の子どもたちも喜んだ。





 翌日。
 俺は羽田空港にミユキを迎えに行った。
 午後2時の到着便だ。
 亜紀ちゃんが一緒に来たがったが、アヴェンタドールで行くというと諦めた。

 「リムジンにしましょーよー」
 「ばかやろう!」

 


 羽田には1時半前に着いた。
 俺もミユキに会いたくて、早くなってしまった。
 時間通りに到着し、ミユキがゲートを潜って来る。
 俺は手を挙げてミユキを呼んだ。

 「石神くん!」

 ミユキがリモアのバッグを引いて走って来た。
 バーバリーのコートを着ている。

 「よく来てくれたな!」
 「うん! 突然でごめんね」
 
 荷物を俺が受け取り、二人で話しながら歩いた。

 「今日は泊って行ってくれな!」
 「うん。でもご迷惑じゃ」
 「大丈夫だ。部屋は一杯あるんだよ」
 「そうなんだ。お金持ちになったのね」
 「あの時はどうしようもない貧乏だったけどなぁ」
 「アハハハハハハ!」

 ミユキは顔の左側に火傷がある。
 しかし、俺の右を自然に歩いていた。

 駐車場に着いて、ミユキがアヴェンタドールに驚く。
 
 「しまった」
 「どうしたの?」
 「この車さ、荷物のスペースがほとんどないんだ」
 「え!」

 ミユキをシートに座らせ、リモアを抱えてもらった。

 「なんとかなったな!」
 「ウフフフ」

 


 俺の家に15分程で着く。
 また俺の家を見て驚いていた。

 「石神くんって、本当にスゴイお金持ちになったんだね」
 「まあ、ちょっとはあるかな」
 「都内でこんなお屋敷って、相当なんじゃないの?」
 「そうでもないさ」

 ガレージに車を仕舞うと、またそこの車たちに驚いていた。

 「なにあのおっきい車!」
 「ああ、リムジンな。ちょっと必要でさ」
 「何台あるの?」
 「今見ている通りだよ」
 「うーん。どれもスゴイ車だよね」
 「アルファードもあるぞ?」
 「ああ」
 「友達の娘のものだけどな」
 「……」

 玄関を開けると、もうロボが待っていた。
 アヴェンタドールの音だったからだ。

 「まあ! 可愛いネコ!」
 「ロボっていうんだ」
 「ロボちゃん!」

 ミユキがしゃがむと、ロボが飛び付いた。
 気に入ったようだ。
 俺はエレベーターでリヴィングにミユキを案内した。

 「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」

 子どもたちが待っていた。
 垂れ幕がある。

 《横倉ミユキ様 大歓迎!》

 「お前ら、こんなの作ったのか」
 「だって! あのミユキさんですよ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 ミユキが驚いていた。
 俺は亜紀ちゃんから順に子どもたちを紹介する。

 「奴隷だから名前を覚える必要はないからな。「おい」って呼べばいいから」
 「アハハハハハハ!」

 少し早いが、三時のお茶にした。
 今日は紅茶にオーベルジュ・ド・リル トーキョーのショートケーキを出した。
 
 「一杯いるんだね!」
 「まあ、毎日騒々しいよ」
 「そんな! 楽しそうだよ」
 
 子どもたちがミユキに次々に話しかけて来る。
 俺から聞いているミユキの話が大好きだからだ。

 「こないだ、猪俣の姪って人が来たんですよ!」
 「えぇ!」
 「トイレでヤキ入れようとしたら、タカさんに殴られました」
 「アハハハハハハ!」

 ミユキが猪俣先生のことを話してくれた。

 「途中で変わっちゃったけどね。最初は石神くんを可愛がってたんだよ」
 「そうなんですか!」
 「頭もいいし、性格もさっぱりしてたからね。あのね、同級生を窓から投げちゃったことがあったの」
 「知ってます! 木林さんに悪戯した奴ですよね!」
 「よく知ってるね! そう、あの時にね、石神くんを必死で庇ったのが猪俣先生だったの。友達思いで、咄嗟に怒ったからだって」
 「そうなんですか」
 「本当はいい先生だったんだよ」
 「でもー」
 「まあ、あの先生のお陰で私は石神くんと仲良くなれたからね。感謝してるんだ」
 「そんなー」

 ミユキが笑っていた。

 「その前からね、石神くんはずっと私のことを守ってくれてたの。私の顔ってこんなだから、よくからかわれたりいじめもね。でも、いつも石神くんがからかう人たちを追い払ってくれて。私は全然気持ち悪くないってね」
 「そうなんですか」
 「恥ずかしかったけど、嬉しかったな。最初はね、私を庇ってそう言ってくれてるんだって思ってた。でもね、本当にそう思ってくれてるんだって分かって。私、だからこれまで頑張って来れたんだよ」
 「タカさんですからね!」
 「そう!」

 みんなが笑った。




 懐かしいミユキがいる。
 もうミユキは自分の顔のことを気にしていなかった。
 俺も最高に嬉しかった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...