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ジャンニーニの訪問 Ⅱ
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家に9時過ぎに戻り、ジャンニーニに少し酒を振る舞った。
クリュッグの「クロ・ダンボネ」を空ける。
もう腹は一杯だろうから、キャビアを出した。
ジャンニーニとマリア、マリオが飲む。
子どもたちは自分たちで作ったつまみだ。
その恐ろしい量に、ジャンニーニが大笑いした。
ジャンニーニはリヴィングで飲むと思っていたようだが、「幻想空間」へ移動した。
ジャンニーニたちが驚いていた。
「トラ! ここはいいな!」
「そうだろう? まあ、お前は普段はこんなガラス張りの部屋でゆっくりすることはねぇだろうからな」
「そうだな」
俺が「クロ・ダンボネ」を注ぎながら、しばらくみんなで黙って雰囲気を味わった。
シルヴィアがまた俺の隣に座り、俺にしなだれかかっている。
ジャンニーニが苦笑して見ていた。
「シルヴィアな、ずっとトラに会いたがっていたんだ」
「そうか」
シルヴィアが俺を見詰めていた。
「もう俺も諦めたよ」
「アハハハハハハ!」
俺は亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。
亜紀ちゃんが嬉しそうに走って行く。
『ペール・ギュント組曲』の「ソルヴェイグの歌」を弾いて歌った。
♪ Kanske vil der gå både Vinter og Vår, og næste Sommer med, og det hele År,…… ♪
全員、黙って聴いていた。
散々自分勝手に生きて来たペール・ギュントが、最後に女に救われる歌だ。
「シルヴィア、『ペール・ギュント』は知っているか?」
「知らない」
俺はあらすじを話してやった。
「女に惚れやすくって、結婚が決まるたびに逃げ出す酷い男なんだよ。好き勝手に生きて来た男だった。でも、最後にいよいよ死ぬ時になって、自分が「中庸」の人生だと言われた。大善人でも大悪人でもなく、つまらない人生であったとな」
「憐れですね」
「そうだな。それが嫌で昔の知り合いに自分がつまらない人生では無かったと証明してもらおうと思ったが、誰も証明してくれない。でもな、最後に一人の女が来て、子守唄を歌ってくれるんだ」
「……」
「それが今の歌だ。ペール・ギュントはその歌を聴きながら静かに死んでいく」
「トラ……」
俺はギターを置いた。
「シルヴィア、俺は何人もの恋人がいて、子どもまで出来た。生き様はまあ、とてもじゃないが自慢出来るようなものじゃねぇ」
「トラ、私は……」
「辞めておけよと、常識のある人間なら言うぜ。ろくでもねぇ人間なんだ」
シルヴィアが俺に抱き着いた。
ジャンニーニが腰を浮かしたが、座り直した。
「トラ! 私はトラが好き!」
「そうか。じゃあ、しょうがねぇな」
ジャンニーニが俺のグラスに自分の物をぶつけてきた。
「トラ、シルヴィアを頼む」
「お前は止める役目だろう!」
ジャンニーニが笑っていた。
「俺には出来ないよ」
「今まで散々止めて来たろうが!」
「だからだよ。シルヴィアの心は堅い。もう俺でも誰でも、止められねぇぜ」
「ばかやろう」
ジャンニーニがマリアの手を握っていた。
「俺もよ、惚れた女にまっしぐらだった。だったらシルヴィアだってそうなんだろうぜ」
「お前なぁ」
「大体、俺はトラが大好きだ。家庭人としちゃ、ちょっと言いたいとこもあるけどな」
「それを言えよ!」
「アハハハハハ! そういうもんが全部消えちまうくらいに、お前が好きなんだ」
子どもたちも黙っている。
このやろう。
「お前がさ。俺がマリアたちに会わせた時に言ってくれたよな」
「あ?」
「これでやっと守れるってよ。俺はあんなに嬉しかったことはねぇ。一生お前のために生きようと思ったぜ」
「バカだな、お前は」
「ああ、頭のネジがぶっ飛んでねぇとな、こんな稼業はできねぇよ」
「まったくよ」
シルヴィアが俺に腕を絡めて来た。
俺は憮然とした顔で酒を飲んだ。
「タカさん」
「おう!」
亜紀ちゃんが俺を呼び、助け船を出してくれるかと思った。
「さっきの曲、次のCDに入れましょうよ!」
「お前! 問題を拡げるんじゃねぇ!」
「えー! 素敵な曲でしたよ?」
「ばか!」
俺たちが日本語で話しているので、シルヴィアが聞いて来た。
亜紀ちゃんが英語で説明する。
「え! トラってCDを出してたの!」
亜紀ちゃんがサッと走って行き、CDを1枚持って来てシルヴィアに渡した。
「はい!」
「ありがとう!」
「あ、そうだ!」
また走って消え、今度はブルーレイを持って来た。
「これは御堂さんが東京ドームで開いたライブなの。タカさんがギターを弾いてるから!」
「そうなの!」
リージョンコードとかありそうだが、ジャンニーニが何とかするだろう。
別に見なくてもいいし。
そろそろ帰る時間となり、みんなで記念写真を撮った。
浜松の店でも途中のリムジンの中でも、皇紀が写真を撮っている。
最後はうちの玄関の前で撮った。
青嵐と紫嵐が機体の準備で先に出て行った。
「あ! タカさん、今朝の「ふりむきポンチ」をシルヴィアにやってあげてよ!」
ルーが言った。
「おお、あれか!」
俺がベルトを緩めてパンツ姿になった。
「おい、トラ!」
ジャンニーニが何事かと叫ぶ。
ルーがシルヴィアを俺の後ろにしゃがませた。
シルヴィアも状況を理解していない。
「石神家のね、仲良しの印なの!」
亜紀ちゃんが説明する。
ルーが俺のパンツを降ろす。
ぱちん
シルヴィアの顔にオチンチンを当てた。
「トラァー! てめぇ!」
「ワハハハハハハハ!」
俺は下を履き直した。
ジャンニーニをマリアが笑って止めている。
「てめぇ、絶対にぶっ殺す!」
「アハハハハハハ!」
マリアはなんか嬉しそうだった。
「シルヴィア、絶対にトラとは一緒にさせねぇからな!」
「何言ってるの!」
ジャンニーニたちが飛び立って行った。
まあ、俺とシルヴィアがどうなるのかは分からない。
俺はみんなと家に帰った。
「タカさん、飲み直しましょうね」
「おう!」
笑って家に入った。
《Her skal jeg vente til du kommer igjen; og venter du hist oppe, vi traffes der, min Ven !》
(もしも天上にいらっしゃるのであれば そこで再びお会いしましょう 私の大切なお方!)
『Solveigs Sang』より
クリュッグの「クロ・ダンボネ」を空ける。
もう腹は一杯だろうから、キャビアを出した。
ジャンニーニとマリア、マリオが飲む。
子どもたちは自分たちで作ったつまみだ。
その恐ろしい量に、ジャンニーニが大笑いした。
ジャンニーニはリヴィングで飲むと思っていたようだが、「幻想空間」へ移動した。
ジャンニーニたちが驚いていた。
「トラ! ここはいいな!」
「そうだろう? まあ、お前は普段はこんなガラス張りの部屋でゆっくりすることはねぇだろうからな」
「そうだな」
俺が「クロ・ダンボネ」を注ぎながら、しばらくみんなで黙って雰囲気を味わった。
シルヴィアがまた俺の隣に座り、俺にしなだれかかっている。
ジャンニーニが苦笑して見ていた。
「シルヴィアな、ずっとトラに会いたがっていたんだ」
「そうか」
シルヴィアが俺を見詰めていた。
「もう俺も諦めたよ」
「アハハハハハハ!」
俺は亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。
亜紀ちゃんが嬉しそうに走って行く。
『ペール・ギュント組曲』の「ソルヴェイグの歌」を弾いて歌った。
♪ Kanske vil der gå både Vinter og Vår, og næste Sommer med, og det hele År,…… ♪
全員、黙って聴いていた。
散々自分勝手に生きて来たペール・ギュントが、最後に女に救われる歌だ。
「シルヴィア、『ペール・ギュント』は知っているか?」
「知らない」
俺はあらすじを話してやった。
「女に惚れやすくって、結婚が決まるたびに逃げ出す酷い男なんだよ。好き勝手に生きて来た男だった。でも、最後にいよいよ死ぬ時になって、自分が「中庸」の人生だと言われた。大善人でも大悪人でもなく、つまらない人生であったとな」
「憐れですね」
「そうだな。それが嫌で昔の知り合いに自分がつまらない人生では無かったと証明してもらおうと思ったが、誰も証明してくれない。でもな、最後に一人の女が来て、子守唄を歌ってくれるんだ」
「……」
「それが今の歌だ。ペール・ギュントはその歌を聴きながら静かに死んでいく」
「トラ……」
俺はギターを置いた。
「シルヴィア、俺は何人もの恋人がいて、子どもまで出来た。生き様はまあ、とてもじゃないが自慢出来るようなものじゃねぇ」
「トラ、私は……」
「辞めておけよと、常識のある人間なら言うぜ。ろくでもねぇ人間なんだ」
シルヴィアが俺に抱き着いた。
ジャンニーニが腰を浮かしたが、座り直した。
「トラ! 私はトラが好き!」
「そうか。じゃあ、しょうがねぇな」
ジャンニーニが俺のグラスに自分の物をぶつけてきた。
「トラ、シルヴィアを頼む」
「お前は止める役目だろう!」
ジャンニーニが笑っていた。
「俺には出来ないよ」
「今まで散々止めて来たろうが!」
「だからだよ。シルヴィアの心は堅い。もう俺でも誰でも、止められねぇぜ」
「ばかやろう」
ジャンニーニがマリアの手を握っていた。
「俺もよ、惚れた女にまっしぐらだった。だったらシルヴィアだってそうなんだろうぜ」
「お前なぁ」
「大体、俺はトラが大好きだ。家庭人としちゃ、ちょっと言いたいとこもあるけどな」
「それを言えよ!」
「アハハハハハ! そういうもんが全部消えちまうくらいに、お前が好きなんだ」
子どもたちも黙っている。
このやろう。
「お前がさ。俺がマリアたちに会わせた時に言ってくれたよな」
「あ?」
「これでやっと守れるってよ。俺はあんなに嬉しかったことはねぇ。一生お前のために生きようと思ったぜ」
「バカだな、お前は」
「ああ、頭のネジがぶっ飛んでねぇとな、こんな稼業はできねぇよ」
「まったくよ」
シルヴィアが俺に腕を絡めて来た。
俺は憮然とした顔で酒を飲んだ。
「タカさん」
「おう!」
亜紀ちゃんが俺を呼び、助け船を出してくれるかと思った。
「さっきの曲、次のCDに入れましょうよ!」
「お前! 問題を拡げるんじゃねぇ!」
「えー! 素敵な曲でしたよ?」
「ばか!」
俺たちが日本語で話しているので、シルヴィアが聞いて来た。
亜紀ちゃんが英語で説明する。
「え! トラってCDを出してたの!」
亜紀ちゃんがサッと走って行き、CDを1枚持って来てシルヴィアに渡した。
「はい!」
「ありがとう!」
「あ、そうだ!」
また走って消え、今度はブルーレイを持って来た。
「これは御堂さんが東京ドームで開いたライブなの。タカさんがギターを弾いてるから!」
「そうなの!」
リージョンコードとかありそうだが、ジャンニーニが何とかするだろう。
別に見なくてもいいし。
そろそろ帰る時間となり、みんなで記念写真を撮った。
浜松の店でも途中のリムジンの中でも、皇紀が写真を撮っている。
最後はうちの玄関の前で撮った。
青嵐と紫嵐が機体の準備で先に出て行った。
「あ! タカさん、今朝の「ふりむきポンチ」をシルヴィアにやってあげてよ!」
ルーが言った。
「おお、あれか!」
俺がベルトを緩めてパンツ姿になった。
「おい、トラ!」
ジャンニーニが何事かと叫ぶ。
ルーがシルヴィアを俺の後ろにしゃがませた。
シルヴィアも状況を理解していない。
「石神家のね、仲良しの印なの!」
亜紀ちゃんが説明する。
ルーが俺のパンツを降ろす。
ぱちん
シルヴィアの顔にオチンチンを当てた。
「トラァー! てめぇ!」
「ワハハハハハハハ!」
俺は下を履き直した。
ジャンニーニをマリアが笑って止めている。
「てめぇ、絶対にぶっ殺す!」
「アハハハハハハ!」
マリアはなんか嬉しそうだった。
「シルヴィア、絶対にトラとは一緒にさせねぇからな!」
「何言ってるの!」
ジャンニーニたちが飛び立って行った。
まあ、俺とシルヴィアがどうなるのかは分からない。
俺はみんなと家に帰った。
「タカさん、飲み直しましょうね」
「おう!」
笑って家に入った。
《Her skal jeg vente til du kommer igjen; og venter du hist oppe, vi traffes der, min Ven !》
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