1,740 / 2,859
妖魔、大移動 Ⅱ
しおりを挟む
10分で早乙女が来た。
まあ、家が近いから早い。
「ハンターも呼ぶか?」
「そうだなー、殺してもいいのかもなー」
「石神さん、ちょっと可哀想なのでは?」
「あー、じゃあ柳に任せるかー」
「やめてください!」
「てめぇ、俺の前で善人ぶるんじゃねぇ!」
「すみませんでしたー!」
まったく面倒なことになった。
「ちょっと麗星に電話してみるな!」
早乙女と亜紀ちゃんたちが待った。
「麗星!」
「あなたさまー!」
「ちょっとさ、お前にまた相談したいことがあるんだ」
「すぐに参ります!」
「いや、電話でいいよ。こないださ、「ウンコ」、ああ、お前は「ウンチ」って言う派だったな! だからその「ウンチの妖魔」がさ、今行き場を喪っちゃってんだ」
「……」
「だからさ、道間家で使役してみないかなーって」
「いえ、結構でございます」
「そう?」
「はい」
電話を切った。
「麗星はいらないってさ」
「「「「……」」」」
「じゃあ、最初の案の通りに早乙女家かぁ」
「おい! 絶対に断る!」
「あいつ、確かピピって名前だったよな?」
「え!」
「早乙女さん、またタカさんのウソですからね」
亜紀ちゃんがバラす。
「石神!」
亜紀ちゃんの頭をはたいた。
仕方が無いので、とにかく出掛けることにした。
柳が臭いが困るからと、70リットルのゴミ袋を4枚用意した。
段ボール箱がすっぽりと入る大きさだ。
「あいつによー。ちゃんと俺が清掃業者が入るから気を付けろって言ったよな?」
「そうだよね」
ハーが覚えていた。
「何やってたんだよなぁ」
「石神、それはちょっと感心しないな」
「あー! こいつも善人ぶってるぜー!」
「おい!」
早乙女は、妖魔を発見したら知らせて欲しいと言った。
勝手に他所のマンションに放置など、人間として不味いと。
まあ、その通りだが。
「俺に知らせてくれれば良かったのに」
「そうだったな」
「俺はお前のために何かをやるために、「アドヴェロス」を作ったんだぞ?」
「ああ、悪かったよ」
早乙女は懇々と俺に不味かったという話をする。
面白くないが、正論なので黙って説教された。
杉並のマンションに着いた。
場所は分かっているので、まっすぐに浄化槽へ向かう。
ハーが段ボール箱を持ち、柳がゴミ袋を持った。
亜紀ちゃんは長い柄のついた網を持っている。
亜紀ちゃんが網を置き、浄化槽を開く。
マンホールタイプだ。
早乙女がライトを中へ向けた。
物凄く臭い。
「いしがみさまー!」
声がした。
「おい! お前にはちゃんと業者が来たら隠れるように言っただろう!」
「はい。でも身体が大きくなっちゃって、逃げ場所がなくて」
「なに?」
嫌だったが、俺は仕方なくしゃがんでマンホールから中を覗いた。
「……」
前は10センチほどだったあいつが、今は1メートルほどになっていた。
「お前、太った?」
「はい、ここの環境が素晴らしくて!」
「そう……」
俺は立ち上がった。
小声で早乙女に相談する。
「早乙女、やっぱ殺すか」
「石神!」
子どもたちもライトを当てて見た。
「柳、アルファードにギリギリ乗るかな」
「絶対に嫌ですからね!」
「でも、そのために乗って来たじゃん」
柳が本気で抵抗した。
半泣きで俺の胸をポコポコ叩く。
まあ、そうだろう。
「おい、その大きさじゃここから出られないよな?」
「それは何とか出来ます。でも、ここから出て行かなければならないのですか?」
「ああ。やっぱよ、お前がいると住人が困るらしいんだ」
「そうですかー」
「ウンコの妖魔」は、身体を解いて少しずつ伸ばしながら、何とかマンホールから出て来た。
地上でまたトグロを巻く。
物凄く臭い。
「亜紀ちゃん、運べ」
「!」
亜紀ちゃんが、持って来た網を「ウンコの妖魔」の下に入れる。
持ち上げようとして、網の柄が折れた。
「「「「「……」」」」」
一応ゴム手袋を持って来たので、子どもたちで持ち上げる。
三人が一気に涙を流し始めた。
「「「くっさいよー!」」」
それでも「ウンコの妖魔」を運んだ。
早乙女がマンホールの蓋を閉めた。
アルファードの所まで来る。
「よし! 後ろを開けるからな」
「石神さん! 絶対ダメですってぇ!」
柳が怒鳴った後で咳き込んだ。
「しょうがねぇ。ルーフに上げろ!」
「「「えぇ!」」」
「それしかねぇだろう!」
子どもたちが一層泣きながらルーフに持ち上げた。
ハーの頭にちょっと汁が零れた。
「ギャァァァァァァ!」
うるさいので頭を引っぱたこうとしたが、やめた。
ゴム手袋をゴミ袋に入れて、出発した。
「どこへ行くんですか!」
「「アドヴェロス」だ」
「石神!」
「だって! お前らの案件だろうがぁ!」
「元々お前の家のものだろう!」
早乙女と怒鳴り合った。
子どもたちは憔悴している。
俺を見ている柳に、とにかく行けと言った。
途中で早乙女が泣き出した。
「俺は石神のために……」
「そうだよな!」
様々な思いが錯綜しているのだろう。
どうでもいいが。
それよりも、近くを走っている他の車がみんなギョッとしていた。
作り物と思ったか、大笑いしている人もいる。
柳も本気で泣き出した。
時々、信号待ちで俺を真っ赤な目で睨んだ。
取り敢えず、「ウンコの妖魔」は「アドヴェロス」の敷地の浄化槽へ入れられた。
早乙女が泣き縋るので、後日御堂に相談し、大きな下水道を改造して移動させた。
下水道の中に特別な退避部屋を作り、作業員たちが近付いた場合はそこへ入るようにさせた。
移動は「アドヴェロス」の人間にやらせた。
うちから防疫服を支給した。
あの日、柳はガソリンスタンドでアルファードを洗車し、家に帰ってから亜紀ちゃんとまた車を洗った。
「ごめんね、ごめんね」と柳が言い続けていたと、亜紀ちゃんから聞いた。
「そうだよな。俺だったら絶対しねぇもん」
「タカさん!」
亜紀ちゃんが怒ったが、お前もそうだろうと言うと、納得した。
まあ、ごくろうさんでした。
まあ、家が近いから早い。
「ハンターも呼ぶか?」
「そうだなー、殺してもいいのかもなー」
「石神さん、ちょっと可哀想なのでは?」
「あー、じゃあ柳に任せるかー」
「やめてください!」
「てめぇ、俺の前で善人ぶるんじゃねぇ!」
「すみませんでしたー!」
まったく面倒なことになった。
「ちょっと麗星に電話してみるな!」
早乙女と亜紀ちゃんたちが待った。
「麗星!」
「あなたさまー!」
「ちょっとさ、お前にまた相談したいことがあるんだ」
「すぐに参ります!」
「いや、電話でいいよ。こないださ、「ウンコ」、ああ、お前は「ウンチ」って言う派だったな! だからその「ウンチの妖魔」がさ、今行き場を喪っちゃってんだ」
「……」
「だからさ、道間家で使役してみないかなーって」
「いえ、結構でございます」
「そう?」
「はい」
電話を切った。
「麗星はいらないってさ」
「「「「……」」」」
「じゃあ、最初の案の通りに早乙女家かぁ」
「おい! 絶対に断る!」
「あいつ、確かピピって名前だったよな?」
「え!」
「早乙女さん、またタカさんのウソですからね」
亜紀ちゃんがバラす。
「石神!」
亜紀ちゃんの頭をはたいた。
仕方が無いので、とにかく出掛けることにした。
柳が臭いが困るからと、70リットルのゴミ袋を4枚用意した。
段ボール箱がすっぽりと入る大きさだ。
「あいつによー。ちゃんと俺が清掃業者が入るから気を付けろって言ったよな?」
「そうだよね」
ハーが覚えていた。
「何やってたんだよなぁ」
「石神、それはちょっと感心しないな」
「あー! こいつも善人ぶってるぜー!」
「おい!」
早乙女は、妖魔を発見したら知らせて欲しいと言った。
勝手に他所のマンションに放置など、人間として不味いと。
まあ、その通りだが。
「俺に知らせてくれれば良かったのに」
「そうだったな」
「俺はお前のために何かをやるために、「アドヴェロス」を作ったんだぞ?」
「ああ、悪かったよ」
早乙女は懇々と俺に不味かったという話をする。
面白くないが、正論なので黙って説教された。
杉並のマンションに着いた。
場所は分かっているので、まっすぐに浄化槽へ向かう。
ハーが段ボール箱を持ち、柳がゴミ袋を持った。
亜紀ちゃんは長い柄のついた網を持っている。
亜紀ちゃんが網を置き、浄化槽を開く。
マンホールタイプだ。
早乙女がライトを中へ向けた。
物凄く臭い。
「いしがみさまー!」
声がした。
「おい! お前にはちゃんと業者が来たら隠れるように言っただろう!」
「はい。でも身体が大きくなっちゃって、逃げ場所がなくて」
「なに?」
嫌だったが、俺は仕方なくしゃがんでマンホールから中を覗いた。
「……」
前は10センチほどだったあいつが、今は1メートルほどになっていた。
「お前、太った?」
「はい、ここの環境が素晴らしくて!」
「そう……」
俺は立ち上がった。
小声で早乙女に相談する。
「早乙女、やっぱ殺すか」
「石神!」
子どもたちもライトを当てて見た。
「柳、アルファードにギリギリ乗るかな」
「絶対に嫌ですからね!」
「でも、そのために乗って来たじゃん」
柳が本気で抵抗した。
半泣きで俺の胸をポコポコ叩く。
まあ、そうだろう。
「おい、その大きさじゃここから出られないよな?」
「それは何とか出来ます。でも、ここから出て行かなければならないのですか?」
「ああ。やっぱよ、お前がいると住人が困るらしいんだ」
「そうですかー」
「ウンコの妖魔」は、身体を解いて少しずつ伸ばしながら、何とかマンホールから出て来た。
地上でまたトグロを巻く。
物凄く臭い。
「亜紀ちゃん、運べ」
「!」
亜紀ちゃんが、持って来た網を「ウンコの妖魔」の下に入れる。
持ち上げようとして、網の柄が折れた。
「「「「「……」」」」」
一応ゴム手袋を持って来たので、子どもたちで持ち上げる。
三人が一気に涙を流し始めた。
「「「くっさいよー!」」」
それでも「ウンコの妖魔」を運んだ。
早乙女がマンホールの蓋を閉めた。
アルファードの所まで来る。
「よし! 後ろを開けるからな」
「石神さん! 絶対ダメですってぇ!」
柳が怒鳴った後で咳き込んだ。
「しょうがねぇ。ルーフに上げろ!」
「「「えぇ!」」」
「それしかねぇだろう!」
子どもたちが一層泣きながらルーフに持ち上げた。
ハーの頭にちょっと汁が零れた。
「ギャァァァァァァ!」
うるさいので頭を引っぱたこうとしたが、やめた。
ゴム手袋をゴミ袋に入れて、出発した。
「どこへ行くんですか!」
「「アドヴェロス」だ」
「石神!」
「だって! お前らの案件だろうがぁ!」
「元々お前の家のものだろう!」
早乙女と怒鳴り合った。
子どもたちは憔悴している。
俺を見ている柳に、とにかく行けと言った。
途中で早乙女が泣き出した。
「俺は石神のために……」
「そうだよな!」
様々な思いが錯綜しているのだろう。
どうでもいいが。
それよりも、近くを走っている他の車がみんなギョッとしていた。
作り物と思ったか、大笑いしている人もいる。
柳も本気で泣き出した。
時々、信号待ちで俺を真っ赤な目で睨んだ。
取り敢えず、「ウンコの妖魔」は「アドヴェロス」の敷地の浄化槽へ入れられた。
早乙女が泣き縋るので、後日御堂に相談し、大きな下水道を改造して移動させた。
下水道の中に特別な退避部屋を作り、作業員たちが近付いた場合はそこへ入るようにさせた。
移動は「アドヴェロス」の人間にやらせた。
うちから防疫服を支給した。
あの日、柳はガソリンスタンドでアルファードを洗車し、家に帰ってから亜紀ちゃんとまた車を洗った。
「ごめんね、ごめんね」と柳が言い続けていたと、亜紀ちゃんから聞いた。
「そうだよな。俺だったら絶対しねぇもん」
「タカさん!」
亜紀ちゃんが怒ったが、お前もそうだろうと言うと、納得した。
まあ、ごくろうさんでした。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる