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ピピの天国 Ⅱ

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 ピピを葬った後で、久遠さんと家に入って紅茶を飲んだ。
 塔の最上階のガラス張りの部屋だ。
 一緒に、ピピの思い出を話した。
 なんとなく、それも弔いになるのではないかと二人で思っていた。
 本当に可愛らしい犬だった。

 《ワン》

 部屋の入り口で、鳴き声が聞こえた。
 驚いて二人で見たが、何もいなかった。
 気のせいだろうと二人で話した。
 ピピのことを話していたので、聞こえた気がしたのだと。




 でもその後も、時々鳴き声が聞こえるようになった。
 久遠さんも同じだ。
 家のどこにいても、聞こえる。
 毎日ではなく、週に1,2度ほど。
 決まったことは何もなく、突然聞こえる。
 怖くは無かったが、久遠さんが石神さんに相談した。
 土曜日に、石神さんが来てくれた。

 「そうか、ここが気に入ったのかもな」
 「どういうことなんだ?」
 「犬にだって魂はあるよ。自分のことを大事にしてくれて、それにこの場所も気に入ったんだろう。いい波動の土地と家だからな」
 「そうなのかな」
 「でも、成仏してないというのは良くないな。うーん、俺も専門じゃねぇしなぁ」
 「なんとかならないかな」
 
 石神さんはちょっと考えていた。

 「モハメド!」
 《はーいー》
 「お前、この家にいる白い犬のことは分かるか?」
 《はーいー。よくこの家をー、歩き回ってますねー》
 「そうか。成仏してねぇのかな」
 《そうですねー。ここが気に入ったのでー、ここにいたいようですー》

 「うーん」

 久遠さんが言った。

 「モハメドさん、ここにいるとピピにとって良くないんですかね?」
 《そうでもありませんけどー。でもー、しばらくしたらー、どこかへ行くつもりのようですよー》
 「そうなんですか!」
 《はーいー》

 石神さんも、それを聞いて安心したようだった。

 「じゃあ、しばらくはいさせてやれよ」
 「うん、分かった!」

 それからまた、時々ピピのものらしい鳴き声が聞こえた。
 久遠さんは聞こえると、「ピピ」と呼ぶようになった。
 しゃがんで見えない空間に手を伸ばして、撫でている。
 私も同じようにするようになった。
 怜花も、時々呼んでいることがあった。
 怜花には見えているのかもしれなかった。
 じゃれつかれているのか、嬉しそうに身体をよじって笑っていた。
 生前のピピがそうやって、怜花と遊んでいたのを思い出す。

 しばらく鳴き声を聞かないと、久遠さんはピピのお墓へ行って「たまにはまた来てくれ」と言っていた。



 6月になり、エーデルワイスが見事に咲き誇った。
 数日後の夜に、庭で白い光が灯った。
 防衛機構の警報が鳴り、私たちは慌てて怜花を抱えて地下へ移動しようとした。

 「雪野さん! あれ!」

 久遠さんが窓から庭を見ていた。
 エーデルワイスの花の前が光っている。
 私たちが驚いて見ていると、徐々に光が消えて元に戻った。

 《ワン!》

 ピピの声が聞こえた。





 石神さんたちが駆けつけて来た。

 「おい! なんで避難してないんだ!」

 怒られてしまったが、久遠さんが今見たものを石神さんに説明した。
 石神さんは驚いてモハメドさんを呼んだ。

 「モハメド!」
 《はーいー》
 「あれはなんだったんだ!」
 《はーいー。あの白い犬がー、行ったようですー》
 「!」

 皇紀君から連絡があり、解析の結果もう安全のようだと言ってくれた。

 みんなでエーデルワイスの花の所へ行った。
 石神さんが置いてくれた透明のガラスが、真っ白になっていた。

 「なんだ、これは……」

 石神さんが驚いていた。




 数日後、石神さんが来て、麗星さんに聞いてくれた話をしてくれた。

 「やはり、ピピが成仏したようなんだ」
 「そうか!」
 
 久遠さんが喜んでいた。

 「あの現象は、相当いい成仏だったようだよ。この世で思い切り幸せに過ごして、大満足で成仏したということだそうだ。良かったな」
 「ああ!」
 「それに、お前たちが見た光な。それはお前たちに感謝して、何かを遺して行ったということらしいぞ」
 「え?」
 「あの犬のこの世での幸福はここにあった。まあ、あの女も可愛がっていたのかもしれないが、お前たちがそれ以上にあの犬のためにしてやったということだ。だから大変感謝してあの世へ行った」
 「そうなのか?」

 石神さんは、本で読んだことがあると話してくれた。

 「飼い犬や飼い猫などは、特別な天国があるそうだ」
 「そうなのか」
 「ああ。死んでその天国でスヤスヤと眠っているんだ。そして飼い主が死ぬと迎えに来てくれて、ずっと幸せに一緒に過ごすそうだよ」
 「そうか……」

 素敵なお話だった。
 



 そんな天国があるといいと思った。
 私たちはピピとはほんの短い間だったけど、また一緒に過ごしたい。
 久遠さんは微笑んで、石神さんを見詰めていた。
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