1,735 / 2,840
ピピの天国 Ⅱ
しおりを挟む
ピピを葬った後で、久遠さんと家に入って紅茶を飲んだ。
塔の最上階のガラス張りの部屋だ。
一緒に、ピピの思い出を話した。
なんとなく、それも弔いになるのではないかと二人で思っていた。
本当に可愛らしい犬だった。
《ワン》
部屋の入り口で、鳴き声が聞こえた。
驚いて二人で見たが、何もいなかった。
気のせいだろうと二人で話した。
ピピのことを話していたので、聞こえた気がしたのだと。
でもその後も、時々鳴き声が聞こえるようになった。
久遠さんも同じだ。
家のどこにいても、聞こえる。
毎日ではなく、週に1,2度ほど。
決まったことは何もなく、突然聞こえる。
怖くは無かったが、久遠さんが石神さんに相談した。
土曜日に、石神さんが来てくれた。
「そうか、ここが気に入ったのかもな」
「どういうことなんだ?」
「犬にだって魂はあるよ。自分のことを大事にしてくれて、それにこの場所も気に入ったんだろう。いい波動の土地と家だからな」
「そうなのかな」
「でも、成仏してないというのは良くないな。うーん、俺も専門じゃねぇしなぁ」
「なんとかならないかな」
石神さんはちょっと考えていた。
「モハメド!」
《はーいー》
「お前、この家にいる白い犬のことは分かるか?」
《はーいー。よくこの家をー、歩き回ってますねー》
「そうか。成仏してねぇのかな」
《そうですねー。ここが気に入ったのでー、ここにいたいようですー》
「うーん」
久遠さんが言った。
「モハメドさん、ここにいるとピピにとって良くないんですかね?」
《そうでもありませんけどー。でもー、しばらくしたらー、どこかへ行くつもりのようですよー》
「そうなんですか!」
《はーいー》
石神さんも、それを聞いて安心したようだった。
「じゃあ、しばらくはいさせてやれよ」
「うん、分かった!」
それからまた、時々ピピのものらしい鳴き声が聞こえた。
久遠さんは聞こえると、「ピピ」と呼ぶようになった。
しゃがんで見えない空間に手を伸ばして、撫でている。
私も同じようにするようになった。
怜花も、時々呼んでいることがあった。
怜花には見えているのかもしれなかった。
じゃれつかれているのか、嬉しそうに身体をよじって笑っていた。
生前のピピがそうやって、怜花と遊んでいたのを思い出す。
しばらく鳴き声を聞かないと、久遠さんはピピのお墓へ行って「たまにはまた来てくれ」と言っていた。
6月になり、エーデルワイスが見事に咲き誇った。
数日後の夜に、庭で白い光が灯った。
防衛機構の警報が鳴り、私たちは慌てて怜花を抱えて地下へ移動しようとした。
「雪野さん! あれ!」
久遠さんが窓から庭を見ていた。
エーデルワイスの花の前が光っている。
私たちが驚いて見ていると、徐々に光が消えて元に戻った。
《ワン!》
ピピの声が聞こえた。
石神さんたちが駆けつけて来た。
「おい! なんで避難してないんだ!」
怒られてしまったが、久遠さんが今見たものを石神さんに説明した。
石神さんは驚いてモハメドさんを呼んだ。
「モハメド!」
《はーいー》
「あれはなんだったんだ!」
《はーいー。あの白い犬がー、行ったようですー》
「!」
皇紀君から連絡があり、解析の結果もう安全のようだと言ってくれた。
みんなでエーデルワイスの花の所へ行った。
石神さんが置いてくれた透明のガラスが、真っ白になっていた。
「なんだ、これは……」
石神さんが驚いていた。
数日後、石神さんが来て、麗星さんに聞いてくれた話をしてくれた。
「やはり、ピピが成仏したようなんだ」
「そうか!」
久遠さんが喜んでいた。
「あの現象は、相当いい成仏だったようだよ。この世で思い切り幸せに過ごして、大満足で成仏したということだそうだ。良かったな」
「ああ!」
「それに、お前たちが見た光な。それはお前たちに感謝して、何かを遺して行ったということらしいぞ」
「え?」
「あの犬のこの世での幸福はここにあった。まあ、あの女も可愛がっていたのかもしれないが、お前たちがそれ以上にあの犬のためにしてやったということだ。だから大変感謝してあの世へ行った」
「そうなのか?」
石神さんは、本で読んだことがあると話してくれた。
「飼い犬や飼い猫などは、特別な天国があるそうだ」
「そうなのか」
「ああ。死んでその天国でスヤスヤと眠っているんだ。そして飼い主が死ぬと迎えに来てくれて、ずっと幸せに一緒に過ごすそうだよ」
「そうか……」
素敵なお話だった。
そんな天国があるといいと思った。
私たちはピピとはほんの短い間だったけど、また一緒に過ごしたい。
久遠さんは微笑んで、石神さんを見詰めていた。
塔の最上階のガラス張りの部屋だ。
一緒に、ピピの思い出を話した。
なんとなく、それも弔いになるのではないかと二人で思っていた。
本当に可愛らしい犬だった。
《ワン》
部屋の入り口で、鳴き声が聞こえた。
驚いて二人で見たが、何もいなかった。
気のせいだろうと二人で話した。
ピピのことを話していたので、聞こえた気がしたのだと。
でもその後も、時々鳴き声が聞こえるようになった。
久遠さんも同じだ。
家のどこにいても、聞こえる。
毎日ではなく、週に1,2度ほど。
決まったことは何もなく、突然聞こえる。
怖くは無かったが、久遠さんが石神さんに相談した。
土曜日に、石神さんが来てくれた。
「そうか、ここが気に入ったのかもな」
「どういうことなんだ?」
「犬にだって魂はあるよ。自分のことを大事にしてくれて、それにこの場所も気に入ったんだろう。いい波動の土地と家だからな」
「そうなのかな」
「でも、成仏してないというのは良くないな。うーん、俺も専門じゃねぇしなぁ」
「なんとかならないかな」
石神さんはちょっと考えていた。
「モハメド!」
《はーいー》
「お前、この家にいる白い犬のことは分かるか?」
《はーいー。よくこの家をー、歩き回ってますねー》
「そうか。成仏してねぇのかな」
《そうですねー。ここが気に入ったのでー、ここにいたいようですー》
「うーん」
久遠さんが言った。
「モハメドさん、ここにいるとピピにとって良くないんですかね?」
《そうでもありませんけどー。でもー、しばらくしたらー、どこかへ行くつもりのようですよー》
「そうなんですか!」
《はーいー》
石神さんも、それを聞いて安心したようだった。
「じゃあ、しばらくはいさせてやれよ」
「うん、分かった!」
それからまた、時々ピピのものらしい鳴き声が聞こえた。
久遠さんは聞こえると、「ピピ」と呼ぶようになった。
しゃがんで見えない空間に手を伸ばして、撫でている。
私も同じようにするようになった。
怜花も、時々呼んでいることがあった。
怜花には見えているのかもしれなかった。
じゃれつかれているのか、嬉しそうに身体をよじって笑っていた。
生前のピピがそうやって、怜花と遊んでいたのを思い出す。
しばらく鳴き声を聞かないと、久遠さんはピピのお墓へ行って「たまにはまた来てくれ」と言っていた。
6月になり、エーデルワイスが見事に咲き誇った。
数日後の夜に、庭で白い光が灯った。
防衛機構の警報が鳴り、私たちは慌てて怜花を抱えて地下へ移動しようとした。
「雪野さん! あれ!」
久遠さんが窓から庭を見ていた。
エーデルワイスの花の前が光っている。
私たちが驚いて見ていると、徐々に光が消えて元に戻った。
《ワン!》
ピピの声が聞こえた。
石神さんたちが駆けつけて来た。
「おい! なんで避難してないんだ!」
怒られてしまったが、久遠さんが今見たものを石神さんに説明した。
石神さんは驚いてモハメドさんを呼んだ。
「モハメド!」
《はーいー》
「あれはなんだったんだ!」
《はーいー。あの白い犬がー、行ったようですー》
「!」
皇紀君から連絡があり、解析の結果もう安全のようだと言ってくれた。
みんなでエーデルワイスの花の所へ行った。
石神さんが置いてくれた透明のガラスが、真っ白になっていた。
「なんだ、これは……」
石神さんが驚いていた。
数日後、石神さんが来て、麗星さんに聞いてくれた話をしてくれた。
「やはり、ピピが成仏したようなんだ」
「そうか!」
久遠さんが喜んでいた。
「あの現象は、相当いい成仏だったようだよ。この世で思い切り幸せに過ごして、大満足で成仏したということだそうだ。良かったな」
「ああ!」
「それに、お前たちが見た光な。それはお前たちに感謝して、何かを遺して行ったということらしいぞ」
「え?」
「あの犬のこの世での幸福はここにあった。まあ、あの女も可愛がっていたのかもしれないが、お前たちがそれ以上にあの犬のためにしてやったということだ。だから大変感謝してあの世へ行った」
「そうなのか?」
石神さんは、本で読んだことがあると話してくれた。
「飼い犬や飼い猫などは、特別な天国があるそうだ」
「そうなのか」
「ああ。死んでその天国でスヤスヤと眠っているんだ。そして飼い主が死ぬと迎えに来てくれて、ずっと幸せに一緒に過ごすそうだよ」
「そうか……」
素敵なお話だった。
そんな天国があるといいと思った。
私たちはピピとはほんの短い間だったけど、また一緒に過ごしたい。
久遠さんは微笑んで、石神さんを見詰めていた。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる