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地下の亡霊

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 10月第四週の木曜日の夜。
 俺が夕飯を食べ終えると、御堂から電話が来た。
 御堂はまったくいつもタイミングがいい。
 まあ、御堂からの電話はトイレ中でも大歓迎だが。

 「よう! どうした?」
 「石神、ちょっとお前に相談があってな」
 「なんだよ! 何でもするぜ?」

 御堂がどこに話を持って行けば良いのか困っていると言った。

 「それがな、今都市計画の一環で地下の整備を始めているじゃないか」
 「ああ」

 俺も知っている。
 東京の地下を大規模に改造し、避難所や交通網を整備する計画だ。
 既存の地下鉄などはそのままに、避難区画の整備や高速列車を通す案が始まっている。
 まだ調査段階だが。
 しかし、一から掘削をするのは大変だ。
 そこで、旧日本陸軍が残した膨大な地下網を利用することを検討していた。
 その調査だ。
 旧日本陸軍は密かに地下に様々な通路や施設を掘っていた。
 それは敗戦後に秘匿され、全貌を知る資料は残っていない。
 小島将軍が持っていた地図が最も役立った。
 流石だ。
 前に見つかっていた資料から、既に地下鉄や下水道、送電設備が利用されてはいる。
 だが、そのほとんどは闇に閉ざされていた。

 「今調査している区画で、どうも奇怪な現象があるそうなんだ」
 
 御堂は深刻に困っているようだ。

 「なんだ?」
 「どうもな、旧日本陸軍の兵隊の幽霊が出るらしい」
 「お?」
 「調査隊が何度も遭遇しているんだ。姿を見るだけじゃない。突然機器が故障したり、道具が宙に浮いたりもするそうなんだよ」
 「お、おう」
 「石神、お前、何とか出来ないか?」

 当然出来る宛などないが、御堂の頼みだ。
 断るわけがない。

 「よし! 俺に任せろ!」
 「ほんとか! 助かるよ!」

 御堂が喜んでいた。
 俺にとってはそれが全てだ。
 電話を切った。

 「ルー! ハー!」
 「「はい!」」
 「久し振りに、俺が肉を焼いてやろう!」
 「「うれしー!」」

 亜紀ちゃんと柳が俺を見る。

 「なんだ、お前らも喰うか?」
 「「うれしー!」」

 俺は笑って、近江和牛の塊を出してカットした。
 丁寧に筋切をし、ミートハンマーで叩いて柔らかくする。
 水分をしっかり拭って塩コショウをし、牛脂を敷いて低温で焼き始めた。
 表面が焼けたら、オーブンでゆっくりと焼く。
 少し時間は掛かるが、最高のステーキが出来上がる。

 子どもたちはキッチンに鈴なりになってニコニコして待っている。
 よしよし。

 俺が皿に盛って四人に喰わせてやる。
 みんな感動して食べていた。

 「よし! お前ら喰ったな!」
 「「「「はい!」」」」

 「じゃあ、土曜日は一緒に出掛けるからな!」
 「「「「はい!」」」」

 ということで、人手は確保できた。




 土曜日。
 俺たちはタイガーストライプのコンバットスーツを着て出掛けた。
 ライト付きのヘルメットとライトと乾電池の予備。
 それに振るだけで発電するタイプのライトなども用意した。
 そして俺は念のために「七星虎王」を持った。
 御堂から聞いた、四谷のあるビルにハマーで向かう。

 「タカさん、どこへ行くんですか?」
 「御堂に頼まれてな。ちょっと地下の調査だ」
 「へぇー」

 亜紀ちゃんも他の子どもたちも何の不安も無い。
 まあ、俺が何も話していないからだが。
 一応は、ライカンスロープがいるかもしれないと話した。
 今から正直に話して逃げられると俺がコワイ。

 ビルに着くと、調査担当の人間が一人待っていた。
 一通り問題の場所までの道を地図で教えてもらった。

 「上の人間から、あなたがたが特殊な方法で解決すると言われました」
 「まあ、まだ現場を見ないと分からないけどな。なるべく対処するよ」
 「宜しくお願いします!」

 実際にコワイ目に遭っている人間のようだった。
 俺に懇願する目で頼んでいた。

 ビルの地下3階に鉄扉があり、そこから通路へ出た。

 「分岐する道が結構ありますので、迷わないで下さい」
 「ああ、気を付けるよ。この地図は信頼出来るんだよな?」
 「はい、これまで調査したものですから。でも、分岐を間違えるとどう拡がっているのか分かりません」
 「目印はあるのか?」
 「一応、パイロンを置いたりはしているのですが。でも……」
 「なんだ?」
 「それが時々動かされているようでして」
 「……」
 「地図を信頼して下さい。パイロンはあくまで目安程度に」
 「分かった」

 ヤバいじゃん。
 全員にインカムを装着させる。
 万一離れてしまった場合のためだ。

 「行くぞ」
 「「「「はい!」」」」

 通路には電線が通り、一応LEDの照明が点いていた。
 まだ持参したライトはいらない。

 ハーに先を歩かせてポイントマンにする。
 その後ろに亜紀ちゃん。
 俺はその後ろで、柳とルーが続く。
 怖いので真ん中を歩いた。

 「作業員の人が襲われたんですか?」
 「まあ、怪我などは無いようだけどな。でも怖がって大変らしいんだ」
 「そりゃ、ライカンスロープと遭遇したらそうですよね。よく無事でしたね」
 「そ、そうだな」
 「?」

 亜紀ちゃんが多少不審がっているが、余裕はある。
 俺たちが揃って脅威になる敵はいないと思っているのだろう。

 



 俺は分岐の度に、進む方向の壁に「螺旋花」で抉らせた。
 地図を間違いなく確認し、今のところはパイロンの位置に異常はない。

 「タカさん、あのステーキ、美味しかったですよ!」

 亜紀ちゃんが緊張をほぐすためか、俺に話しかけた。
 
 「おう、そうか」
 「でも、タカさんが言えば、私たちは何でもしますのに」
 「亜紀ちゃん、ありがとうな」

 「「?」」

 双子が何か思い出したようだ。

 「タカさん」
 「なんだ、ルー?」
 「なんか、前にもそんな遣り取りがあったような……」
 「そうか?」

 ハーが気付いた。

 「前に、新宿の焼肉を私たちだけにご馳走してくれましたよね!」
 「ああ、そんなこともあったな」
 「あの後で、佐藤さんちに連れ込まれましたぁー!」
 「ワハハハハハハ!」

 もう20メートルだ。

 「この先に広い空間がある。大体200平米だ。気を付けろ」
 「「「タカさん!」」」
 「?」

 柳は気付いていない。
 広間の前で足を止めたハーを中へ蹴り入れる。
 みんなで入った瞬間に、照明が落ちた。
 
 「「「「「!」」」」」

 「慌てずにライトを点けろ!」

 全員が急いでヘルメットのライトを点けた。
 前方に、軍服を着た、青白い顔の兵隊がこちらを向いてびっしりと立っていた。

 「「「「「ギャァァァァァァァ!!!!!」」」」」」

 


 全員で悲鳴を上げた。
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