上 下
1,709 / 2,859

竹流と石神家 Ⅱ

しおりを挟む
 夕飯は竹流を歓迎してのバーベキューだった。
 庭のウッドデッキでやる。
 竹流の歓迎会だと言いながら、うちの子どもたちが竹流に何かを焼いてやるわけもない。
 俺が竹流に付き添って、一緒にいろいろと焼いて食べた。

 「普段は優しいし頼もしい連中なんだけどよ」
 「はい」
 「俺は毎日、こいつらの本性を見せられてるような気がするぜ」
 「アハハハハハ!」

 亜紀ちゃんたちが、チラリと俺を見てまた争いに戻った。

 「俺が弱い親父だったら、毎日飯が食えなくなっていただろうな」
 「すごいですよね」
 「おちおち寝込んでもいられねぇ」
 「アハハハハハ!」

 俺は竹流にホタテのバター焼きや、タラのアルミホイル焼きなどを作ってやった。
 竹流は感動して沢山食べてくれた。
 夕べ焼き肉屋に行った話をした。
 
 「600万円も喰うんだぜ!」
 「えぇ!」
 「俺、強くて金持ちの親父でなきゃダメなんだよ。俺って結構頑張ってるよな?」
 「アハハハハハ!」

 竹流が爆笑した。

 「でもな、一度たりともあいつらと別れたいと思ったことはねぇんだ」
 「はい!」
 「あいつらがいなきゃダメなんだ。お前もな」
 「はい!」

 前にやったチーズフォンデュ大会の話をした。
 また竹流が爆笑した。

 


 竹流と一緒に風呂に入り、竹流は俺の身体を見て驚いていた。
 
 「これが神様なんですね」
 「なんだ?」
 「いいえ。凄いです、やっぱり」
 「そうか」

 洗い終わって竹流を湯船に浸からせながら、俺は照明を落とした。
 月の映像と共に、グレゴリオ聖歌を流した。
 竹流が感動して月の様々な映像を眺めていた。

 風呂を上がって、他の子どもたちが順番に風呂へ入って行く。
 俺は竹流を誘ってロボと遊んだ。
 ロボのおもちゃ箱からヒモのついたたわしを取り出す。
 ロボが一番喜ぶ遊びで、二人で夢中で楽しんだ。

 子どもたちも風呂から上がり、「幻想空間」に移動した。
 俺はワイルドターキーを飲む。
 亜紀ちゃんも同じだ。
 柳はワインを。
 竹流、皇紀と双子は千疋屋のジュースを飲む。
 つまみは雪野ナス、巾着タマゴ、甘鯛の煮付け、ポルチーニ茸とエリンギのアヒージョ、冷奴、焼きハムと唐揚げ大量。
 
 竹流が「幻想空間」に圧倒されている。
 俺は竹流を隣に座らせた。
 みんなで乾杯し、好きなように食べさせる。
 俺は竹流に言った。

 「お前にな、お前の父親について話したかったんだ」
 「え?」
 「俺も偶然に知ったことだ。お前がもっと成長してから話そうと思っていたんだけどな。でも、お前は予想外に早く「男」になった。だから話しておこうと思ったんだ」
 「神様?」
 「子どもたちの前だが、話してもいいか?」

 竹流が少し考えていた。
 前に話したこともあるが、いろいろと錯綜するものもあるんだろう。

 「はい、お願いします」
 
 俺を真直ぐに見詰めて竹流が言った。

 俺は竹流に話し始めた。

 



 「最初の切っ掛けは、俺たちと一緒に戦ってくれている自衛官からだった。俺の弟なんだけどな」
 「え! 神様の弟!」
 「まあ、義理だけどな。その男がお前のお父さんに鍛えてもらったことがあると話したんだ」
 「そうなんですか!」
 「連城十五。凄まじい男だったそうだ。まるで戦うために生まれて来たような、な。俺の弟は「闘神」だと言っていたよ。自衛隊の中でもエリートで、最終的には最高峰の特殊作戦群という部隊を経て、極秘の機密部隊「裏鬼」という非正規戦闘の小隊の隊長になった」
 
 竹流は黙って聴いていた。
 初めて聞いた子どもたちが驚いている。

 「防衛省で特別な許可を得て、「裏鬼」の活動記録を閲覧した。本当に凄まじい戦歴だった。その内容は話せないけどな」

 竹流には辛い思い出かもしれないが、連城十五が20代で結婚し、竹流が生まれた話をした。

 「お前のお母さんは優しい人だった。だから自衛官として優秀な夫にはついていけなかったんだろうな。それは仕方ない」

 竹流が黙って頷いた。

 「お前が生まれてからしばらくして離婚した。だからお前は自分の父親の顔を知らない」
 「はい」

 「自衛官はみんな遺書を残しておくことを推奨される。連城十五も、遺書を残している」
 「え!」
 
 俺は一度部屋へ戻って、その遺書と連城十五の写真を持って戻った。
 秋田の交戦の後で、何とか自衛隊から譲り受けたものだ。
 竹流に渡す。
 竹流は遺書の入った封筒を開いた。
 ただ一つの和歌が書かれているのみだった。


 《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》


 毛筆で書かれ、達筆な手だった。
 
 「これは!」
 「これが連城十五という男がこの世に遺しておくべき全てだったんだ。お前のことだよな」
 「!」
 「別れても、ずっとお前のことを忘れたことは無かった。もう二度と会うことは無いだろうが、お前のことは忘れなかった。そういう人だったんだよ、お前の父親は」
 
 竹流が大粒の涙を零しながら身体を震わせた。
 俺は涙で濡らさないように写真と遺書を取り、テーブルへ置いた。

 「この写真はまだ若い頃のものだ。これしか手に入らなかった。相当な機密性の高い部隊だったからな。一切の記録から抹消されていた。これは集合写真の中のものを引き伸ばしたんだ。これ以上大きく出来なかった。すまんな」

 竹流は俺の持っている写真を見ていた。
 俺はそのまま連城十五の最期を話した。

 「ロシアに潜入する任務の中で部隊が行方不明になった。「業」にやられたんだ。そのまま部隊は全員が「業」によって精神と肉体を改造された。日本のある拠点に運ばれて、俺たちと交戦になった。俺がお前の父親を殺した」
 「!」
 「俺と戦い、死に際にまたあのヤマトタケルの和歌を口にした。その後で妖魔に言って僅かに残った記憶を探らせた。ロシアで作戦行動中に「業」に捕えられたことまでが分かった。他のことは無理だったよ。でもそれで俺は連城十五だったことを悟った」

 竹流が涙を拭った。
 真直ぐに連城十五の写真を見た。
 
 「悪いな、他の子どもたちにも知っておいて欲しかった。お前の兄弟だからな」
 「はい!」

 竹流が大きな声で返事をした。
 必死に乗り越えようとしていた。
 俺は遺書と写真を竹流の部屋へ持って行った。
 デスクの上に置く。

 「幻想空間」に戻って、みんなで飲んで食べた。
 みんな竹流にどんどん喰えと言った。

 俺はギターを持って来て、「ヤマトタケル」を思って即興曲を演奏した。
 
 「明日は「寮歌祭」だ。あそこではあんまし喰うんじゃねぇぞ!」

 みんなが笑った。
 竹流にも参加させる。
 普段は子どもたちと「紅六花」の連中としかほとんど話さない。
 本物の知性の人間たちと交流させたかった。




 「幻想空間」を解散し、それぞれの部屋へ入った。
 竹流は独りで泣くのだろうか。
 さっきは涙を拭って明るく振る舞っていた。
 あいつは子どもではなくなった。

 しかし、竹流は生きて行かなければならない。
 悲しいことは人生にはある。
 だから、前を向いて生きろ、竹流。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

処理中です...