富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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『銀河宮殿』開店

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 10月第二週の土曜日。
 夕べ鷹のマンションに泊って帰って来た俺は、昼食まで寝ると言っておいた。
 双子が「ギャハハハハハハ」と笑っていた。
 ロボは俺が夕べ戻らなかったので、玄関からずっとくっついている。
 ベッドに入ると俺の右腕に抱き着いて離れない。
 もうどこにも行くなということだ。

 12時頃に、双子が俺を起こしに来た。

 「タカさーん、お昼ですよー」
 「今日はタラコパスタですよー」

 俺は起きようとしたが、ロボが離さない。
 
 「おい、お昼だってさ」
 
 腕を動かすと、「ニャー」と悲しく鳴く。
 困った。

 「ロボはマグロですよー」

 ルーが言うと、すぐに部屋を出て行った。

 「……」




 うちのタラコパスタは、溶かしたバターに焼きたらこを混ぜ、更に5ミリ程度のタラコを別途ソースを掛けたパスタの上に振り撒く。
 みじん切りにした大葉も振り撒く。
 一様になるソースに、塊のタラコがアクセントになる。
 大葉はサッパリとした感覚を口の中に拡げる。
 他の海鮮を乗せれば豪華にもなるのだが、今日はタラコのみだ。
 子どもたちも別途肉を焼くことも無い。

 今晩は、新装開店の焼き肉屋に行く予定だからだ。
 今から焼肉に対する渇望感を高めている。
 別にそんな必要は無いのだが。
 ちょっと辞めて欲しいのだが。

 以前にも開店したばかりの焼肉屋に行って、潰してしまった。
 今日はそんなつもりは毛頭ない。
 いつもうちが大変お世話になっている、「梅田精肉店」の出店だからだ。
 東京で焼き肉店を出すと決めた塩野社長は、新宿に高級焼肉店『銀河宮殿』を開店して下さった。
 もちろん、うちが気軽に通えるようにだ。
 俺は塩野社長にお願いした。

 「絶対に「食べ放題」は辞めて下さいね」
 「なんででっか?」
 「うちの悪魔たちにお店を潰されますって!」
 「ワハハハハハハ!」

 辞めてくれた。

 今日が開店日で、当然うちから花輪と生花を送った。
 御堂や千万グループ、稲城グループから、また幾つかの大手企業からも花輪や生花が届く。
 生花はどこも豪奢なものだ。
 駅近くの大きなビルのワンフロアーを店舗としているが、膨大な生花は置き場所に困ったようだ。
 塩野社長から電話が来た。

 「なんや知らんけど、大層な所から花が届きまして!」
 「そうなんですか」
 「あれ、石神はんのお陰ですやろ?」
 「アハハハハハ!」

 何度も礼を言われた。
 今日は俺たちは招待されると言われ、無料になると言われた。
 俺は席の確保だけ頼んで、ちゃんと支払うと言った。

 「無料と言われると、思い切り喰えませんから」

 いや、絶対に思い切り喰うから困るのだ。

 既に予約が殺到しているらしい。
 向こう2か月先まで、予約席は埋まったと聞いた。
 一江のネットの宣伝のお陰だ。
 うちの病院関係者も、俺のお勧めの店だと聞いて予約してくれている。
 焼肉など行ったことの無い院長夫妻まで予約したと院長に呼ばれて聞いた。

 「お前が勧める店なんだろう?」
 「はい、まあ」
 「なら、絶対に美味いよな!」
 「それはもちろん!」

 俺はお店にサービスを頼んだ。
 
 花とは別途、俺から開店祝いを差し上げた。
 ネコ耳メイドだ。
 黒猫の「シャン」と銀猫の「アハル」だ。
 塩野社長が風花の家で何度も見ていて、カワイイと言っていたと聞いた。
 最初は塩野社長も遠慮されていたが、他の従業員と同等の給料を頂くことで了承してもらった。
 ディディと同じ高性能の自立型AIを搭載していて、接客に特化したプログラムを組んでいる。
 お店の宣伝にもなるだろう。

 


 夕方の5時が初日開店だった。
 明日以降は朝の11時から夜22時までの営業だ。
 500坪の店内の殆どが客席で、大小の個室も多くある。
 厨房もあるが、肉の貯蔵庫は別なフロアに借りている。
 俺たちは開店と同時に店に入った。

 入り口に、俺と御堂の生花が置いてあった。
 既に客が大勢並んで順番を待っていた。
 御堂の名前の開店祝いの花があるので、みんな驚いていた。
 俺たちは予約ゲストなので、先に入らせていただく。

 「石神はん!」

 塩野社長が来ていた。
 満面の笑みで俺に握手をし、子どもたちの手も握って行く。
 
 「今日はお招き、ありがとうございました」
 「いいえ! 石神はんたちに来て頂いて、本当にありがとうございます!」

 塩野社長自らテーブルに案内してくれた。
 店内は照明を落とし、通路に面してダウンライトが照らしている。
 各テーブルの上にはもっと明るいライトがあり、一際明るくなっていた。
 壁紙は黒地に銀の模様が描かれていて、非常に上品な空間になっている。
 シャンとアハルが来た。
 俺に笑顔で挨拶をする。
 亜紀ちゃんに注文を任せ、少し塩野社長と話をした。

 「石神はんのお陰で、大成功ですわ! 初日からこんなに並んで待っておられるお客さんまで。本当にどう感謝してよいやら」
 「まあ、誰も来なくなってもうちが通いますから! 経営は大丈夫ですよ!」
 「ワハハハハハハ!」

 俺たちのテーブルのコンロに火が点いた。
 運ばれて来た肉を一斉に焼いて行く。
 もうタレの準備は全員がしている。
 ガンガン食べ始めた。
 俺は周囲を見ると、俺たちしか食べていない。
 一番最初に食べさせてもらっているのだろう。
 
 じきに他のテーブルでも食べ始め、みんなの喜んでいる声が聞こえて来る。
 やはり梅田精肉店は違う。

 安い肉は一切無い。
 高級焼肉店として売り出すつもりだからだ。
 料金もある程度は高いが、これだけの空間とサービス、そして上質な肉を提供すれば納得だ。
 子どもたちはいつも通りに争って食べている。
 俺が許可を出しているので、時々店員が撮影に来る。
 塩野社長も各テーブルを回りながら、俺たちの所へも来る。

 「ナマで観られて感激ですわ」
 「そうですか?」

 俺には恥ずかしさしか無いが。
 注文していたシャトーブリアンが来た。
 焼肉網では上手く焼けないので、これは厨房で仕上げて来る。
 大きな皿に、300gが乗っている。
 100g5万円だ。
 50センチもある大皿に乗せて来るのは、他の客に見せるステータスだ。
 子どもたちが肉を咥えながら、サパーの邪魔をしないように姿勢を整えた。
 塩野社長が大笑いしていた。
 もっと大きな肉でもいいのだが、俺はあまり贅沢なことはさせない。
 まあ、十分に贅沢だろうが。
 でも、出て来た肉を見ると、500gくらいある。
 塩野社長のサービスなのだろう。
 子どもたちが美味しさに感激していた。

 シャンとアハルは大人気のようだった。
 どこでも愛想よく振る舞い、明るく話している。
 店長が挨拶に来て、あの二人を送ってもらった礼を言っていた。




 俺たちは結局70キロも食べた。
 子どもたちも満足だ。
 ニコニコして、ガムを貰っていた。
 支払いは640万円だった。
 塩野社長が600万円で結構だと言った。
 亜紀ちゃんが鞄から札束を取り出して支払った。

 「タカさん! やっぱり美味しかったですね!」
 「そうだったな!」

 帰りに並んでいる列を見ると、うちの病院の人間が結構いた。
 俺が笑い掛けて、相当美味いぞと言うと、喜んでいた。




 『銀河宮殿』は後にテレビの取材も入り、全国的に知られる名店となった。
 予約が殺到し、2年先まで埋まった。
 ある時、ローマ教皇が取材の中で言った。

 「一度、日本の『銀河宮殿』で食べてみたい」

 世界中から観光客が集まる店となった。
 予約席以外も、常に長蛇の列が並び、2時間待ちは普通になった。
 あまりの盛況に、俺たちも気軽に行けなくなった。

 塩野社長から電話が来た。

 「あの、店長に聞いたんですが、石神はんたちがあまり来られないと」

 何か問題があったかと心配しておられた。
 
 「そうじゃないんですよ! 行きたいんですが、物凄い評判になっちゃって、なかなか予約も取れないというだけで」
 「そうでっか! ああ! いつでも石神はんたちの席は用意しますから! なんや、余計な心配をしてもうた」
 「すいませんでした」
 「良かった! いつでも言って下さい。席は確保します!」
 「ありがとうございます!」

 子どもたちも喜んで、度々通うようになった。
 俺たちが連絡すると、自由席を予約席にしてくれるようだった。
 並んで待っている方々には申し訳ないが。

 マクシミリアンに連絡し、いつでもローマ教皇を案内出来ると言った。
 ガスパリ大司教が、『銀河宮殿』が俺の関連者の店だと知って伝えてくれたらしい。
 
 でも、俺がローマ教皇たちを案内したら、客と店の人間がぶっ飛んだ。
 マクシミリアンまで一緒に来ていたので、俺が大笑いした。
 硬い表情で店長が笑ってローマ教皇と握手をしている写真が店のホームページに掲載された。

 大感激した塩野社長から、シャトーブリアンが10キロ届いた。
 ロボが「ニャンコ空中三回転」をして喜んだ。
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