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蝶のランプ

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 大銀河連合の大会に出た土曜日の夜。
 早乙女の家でバーベキューをすることになっていた。
 たまには食事に来てくれと、しつこいくらいに言われていた。
 別に早乙女達が嫌いなわけではないが、あの不気味な「柱」たちがいる。
 だが、「神の呪い」の時には「柱」たちにも助けられた。
 その礼も言っていない。
 時々ロボを預かってもらってもいる。
 まあ、仕方が無いので、うちで食材を持って行ってのバーベキューとした。
 
 生意気に3時のお茶から来いと言うので、食材を抱えてみんなで行った。
 牛肉50キロ、海鮮20キロ。
 野菜は早乙女家で用意すると言われた。
 バーベキュー台や調理器具。
 俺は「柱」たちの土産を持った。
 雪野さんに会えるのが分かっているので、ロボが嬉しそうだ。
 途中で双子がコッコたちの卵を回収して来る。
 
 「そういえばよ、コッコたちのエサって大変なんじゃねぇか?」

 ちょっと心配になって聞いてみた。

 「大丈夫! まずうちの生ごみはどんどん持ってってるよ?」
 「あと、豆腐屋さんからオカラもらってる!」
 「草刈りした雑草も好きだよ。柳ちゃんにも頼んでるよね?」

 「何と言ってもミミズかな! 私たちで育てたのが一杯いるよ!」

 最後のものが気になった。

 「おい、それって巨大化してるか?」
 「うん! 1メートルくらい!」
 「……」

 また「手かざし」をしやがったらしい。

 「あんまし大きくするなよな」
 「「うん!」」

 まあ、上手くやっているようだ。




 「石神!」
 「おう、来たぞ」
 「みんなも! どうぞ入ってくれ!」

 玄関へ行き、嬉しそうに早乙女がドアを開ける。
 やっぱりいた。

 「あー! またそんなことして!」

 「柱」が股間に「小柱」を入れてふんぞり返っている。

 「「「「「「……」」」」」」

 「あははははは」

 一応笑ってやった。
 「柱」が満足そうに元に戻り、俺の身体を触って来る。
 何か心配しているような感じだ。

 「ああ、こないだは助かった。本当にありがとうな」

 「柱」は小さな手を顔の前で振って、そんなことはない的に訴える。
 本当にいい奴なのだが。

 「あのさ、いつも世話になっちゃってるからな。礼にもならないんだけど、持って来たものがあるんだ」

 早乙女が興味を持って俺を見ている。
 俺は巻いていた段ボールを解いた。

 「ここってさ、夜は真っ暗になるだろう? 余計なことかもしれないけど、小さいランプを持って来たんだ」

 俺は高さ50センチほどの台に乗った、ステンドグラスのランプを見せた。
 台は黒檀で、中には「ヴォイド機関」が入っている。
 ランプは高さ20センチの翅をもつ蝶のステンドグラスで、その底面にLEDが幾つも仕込んである。
 ステンドグラスは、川口の鉄工所の三浦さんの若い従業員たちが入ったガラスの工房に頼んで作ってもらった。
 俺のことも覚えていてくれ、すぐに作ってくれた。
 俺のスケッチを元に、綺麗なランプにしてくれた。

 「ここがスイッチだよ。邪魔だったら消してくれ」

 「柱」が俺の手を握って上下に何度も振った。
 喜んでもらえたらしい。
 「小柱」は股間のままで、「柱」が上下に揺れる度に同じく揺れていた。

 「まあ、気に入ったら使ってくれよ」

 俺たちはエレベーターに乗って上に上がった。

 「石神、ありがとう!」
 「いや、命を救ってもらって、あんなものじゃなぁ」
 「「柱」さん、喜んでたよ!」
 「そ、そうか……」

 決して嫌いなわけではないのだが、やっぱりちょっと苦手だ。




 3階のリヴィングへ入り、雪野さんが怜花を抱いて挨拶して来る。
 俺たちも挨拶し、ロボが雪野さんの足元にまとわりつく。
 みんなでコーヒーを飲みながら、ケーキを頂いた。

 「おい、早乙女!」
 「どうした?」
 「このケーキって高いものだろう!」
 「あ、ああ、いや」
 「アンリ・シャルパンティエのケーキじゃねぇか!」
 「お前、よく知ってるな!」

 俺は子どもたちに、もう一生食べられないものだから味わって喰えと言った。

 「うちはなぁ、余ったご飯に砂糖をちょっと掛けてるんだぞ」
 「え!」
 「なあ、亜紀ちゃん!」
 「そうですよ! コーヒーだって、いつもは泥水ですもんね!」
 「泥も消化出来るようになったもんな!」
 「はい!」

 「石神、ケーキならいつでも食べに来てくれ」
 「いや、こういうの消化出来るか分かんないから」
 「いしがみ……」

 雪野さんが大笑いして、冗談だと言っている。

 「なんだよ、石神!」
 「お前、うちに来て散々喰ってるだろう」
 「そうだ!」
 「まあ、お前らが来る一週間前から子どもたちが一生懸命に空き缶を拾ってるけどな」
 「そうなのか!」

 雪野さんがまた冗談だと言う。
 俺は話題を変えて、怜花がどんどん美人になって行くと言った。

 「そうだろう? 俺も日に日に雪野さんに似て来るって思ってるんだよ!」
 「あなた!」

 みんなで笑った。

 「士王ちゃんはどうなんだ?」
 「あ、ああ」
 「おい?」
 「まあ、な。ちょっとな」
 「どうしたんだよ!」
 「先週な、ベランダから落ちてな」

 「なんだって!」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが俺の頭を抱く。

 「石神! なんで! お前、あんなに可愛がっていたのに!」
 「まあ、全然元気だけどな!」
 「……」

 早乙女がムッとしている。

 「悪かったよ! 今日はここでバーベキューをするんで楽しくなり過ぎたんだ!」
 「い、石神!」

 ちょっとからかい過ぎた。




 4時になり、俺たちはバーベキューの準備を始めた。
 バーベキュー台はうちから大きい物を持って来ており、早乙女家でも一台ある。
 獣用と人間用になる。
 皇紀がバーベキュー台のセッティングをし、他の子どもたちがキッチンでどんどん食材を刻む。
 広いキッチンにしてあるので、大勢で作業出来る。
 早乙女と雪野さんにはスープを作ってもらった。
 今日は俺のリクエストで、ジャガイモと麩の吸い物だ。
 ジャガイモは丸ごとか二つに割った程度の大きなものを。

 食材はどんどん屋上に運ぶ。
 5時過ぎに、大体準備は終わった。
 
 屋上でハーがコッコの卵を割り、鉄板でお好み焼きを作った。
 みんなが喜んで食べ、美味しいと言った。
 子どもたちは、いつも通りそこから肉の争奪戦だ。
 俺たちは楽しく話して飲み食いをした。
 
 「こないだうちで、まあ遊びで「石神家の七不思議」ってやったんだ」
 「なんだ? 面白そうだな」
 「まあ、下らない冗談みたいなものだったんだけどな」
 「どういうものだったんですか?」
 
 雪野さんが興味を持って来る。
 思い出すと、警察官の早乙女の前では話せないことが多かった。

 「いや、あの、屋上へ昇るステップの数が変わるとか」
 「「え!」」

 「あの、それはハーがふざけて引っこ抜いたんだとかね」
 
 二人が安心して笑った。

 「そんなようなジョークだよ。でも、最後に皇紀がコワイこと言ったんだ」
 「なんですか?」
 「裏の研究棟に、時々知らないおじいさんがいるって」
 「「えぇ!」」
 「そうしたら柳も見たらしいんだ」
 「本物なのか!」

 二人が驚く。

 「まあな。あそこは監視装置がびっしり入っているから。皇紀に命じて画像を点検させた。そうしたら映ってた」
 「「!」」
 「でもな、その顔を見て安心したんだ」
 「誰だったんだ!」

 俺は以前にうちの病院で亡くなった三浦さんの話をした。
 川口の鉄工所を経営していたが、ガンを患い最後まで従業員の働き口を探した立派な人なんだと。

 「最後の二人になってな。ただ、若いものだから技術があまりない。他の工場でもなかなか雇ってくれなくてなぁ。それで最後にはガラスの工房に就職できたんだ。そこまで三浦さんは動かない身体と苦痛を耐えながらやっとな」
 「本当にご立派な方だったんですね」
 「うん。だから従業員には本当に慕われていてね。臨終の時には全員が集まって泣いてた。いい最期だった」

 二人が少し笑顔になった。

 「それで、ガラスの工房に行った若い二人がね、三浦さんの一周忌にガラスの勾玉を作ってみんなに配ったんだ。俺にもわざわざ送ってくれたんだよ。前に三浦さんの話を皇紀にしてたものだから、二人でその勾玉を見てさ。皇紀が凄く感動してたから、あいつにやったんだ」
 「そうなのか」
 「皇紀は大事に、裏の研究棟の自分の部屋に飾ったんだよ。自分も三浦さんみたいに一本の道を進んで行くんだっていうつもりでな」
 「皇紀君は立派だね」
 
 俺はビールを飲んで喉を潤した。

 「それでな、皇紀が見つけた画像を見たら、三浦さんだったんだよ」
 「「え!」」
 「俺が奥さんとか他の従業員の方に聞いてみたんだ。やっぱりみんな三浦さんを見ていたんだよ」
 「「……」」
 「亡くなってもな、みんなのことを気にしていたんだと思う。麗星に聞いてさ、皇紀と二人で般若心経を唱えたんだ。そうしたらもう見ることは無くなった。他の方々にもな。大丈夫だから安心して欲しいって頼んでな」
 「そうだったのか……」

 「俺が今日持って来た蝶のランプな。若い二人が行ったガラス工房に頼んで作ってもらったんだ。全体の監修は社長のデザイナーの方だけどな。多くの部分を三浦さんの従業員の二人が手掛けてくれた。綺麗だったろ?」
 「ああ!」

 早乙女が雪野さんに、俺が持って来たランプの話をした。




 帰りにエレベーターホールに出て、みんなでランプを見た。
 早乙女が照明を落として、ランプを点灯させた。
 様々な色のガラスが美しく映え、蝶が輝いた。
 「柱」たちも傍に来て、手を叩いた。

 本当に美しい蝶だった。

 蝶は人間の魂を天国へ運ぶとも言う。

 美しい蝶だった。
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