富豪外科医は、モテモテだが結婚しない？

青夜

文字の大きさ

大中小

1,637 / 2,840

別荘での買い物

しおりを挟む

　８月２９日金曜日朝７時。
　早乙女達がうちに来て、六花と響子もグランエースで到着した。
　当然響子はグーグーだ。
　助手席で寝ている。

　「石神、世話になるよ」
　「ああ、楽しんでくれ」

　早乙女が嬉しそうに笑った。
　早乙女たちを六花のグランエースに乗せ、俺は子どもたちとハマーで出発する。
　俺が先導して走った。

　夕べ稲荷寿司を大量に作り、早乙女たちにも持たせた。
　俺の分は別途折詰にして亜紀ちゃんが確保している。
　子どもたちは出発と同時に喰い漁っている。
　亜紀ちゃんも自分の折詰を食べながら、助手席でニコニコしていた。

　「タカさん！　途中で運転を替わりますね！」
　「大丈夫だよ。最初のサービスエリアで食べるさ」
　「はい！」

　高速に乗って、最初のサービスエリアに寄った。
　まだ９時にもなっていない。
　子どもたちを適当に放し、大人たちと響子で稲荷寿司を食べた。

　「美味しいよ！」
　「そうかよ」

　早乙女が嬉しそうに食べていた。
　柳が見つけた新ショウガの漬物も入っている。
　響子は六花と顔を洗いに行き、戻って来て一緒に食べる。

　「タカトラ！　おいしー！」

　響子もニコニコして食べた。
　和食に本当に馴染んだ。

　「雪野さんは初めてですよね」
　「はい！　楽しみです！」
　「屋上は夜まで行かないで下さいね」
　「はい、分かってます！」

　うちの「幻想空間」を何度も見ているが、別荘のものはやはり違う。
　周囲に何もないから良いのだ。

　「あの「幻想空間」はいいんだよ！」
　「おい、あんまり喋るな！」
　「あ、ごめん、雪野さん！」

　みんなで笑った。
　怜花も稲荷寿司を食べた。
　目を丸く開いた。

　「あら、気に入ったのかしら」
　
　雪野さんが笑って少しずつ食べさせた。
　六花は先に戻って吹雪に授乳させた。

　「いつもね、吹雪ちゃんのオッパイは私が知らせてあげるの」
　「そうか」
　「六花は忙しいから、忘れるとたいへんじゃん」
　「そうだよな。ありがとうな、響子」
　「うん！」

　六花が忘れるわけはないのだが、響子が楽しそうに時間を見ているので任せているのだろう。
　六花は大事な人間のことでミスをしない。
　それは響子の世話で培った責任感だ。

　

　別荘には１２時前に着いた。
　子どもたちが手分けして食事の準備と荷物運び、掃除をしていく。
　早乙女達も手伝おうとしたが、ゆっくりさせた。
　別荘の中を案内してやる。
　六花は響子と食事が出来るまでソファに座っていた。
　
　昼はいつものように、すぐに出来るスープパスタにしている。
　今日は和風の醤油ベースのスープだ。
　焼きウドンに近いが、ファルファッレのショートパスタだ。
　エリンギ、シメジ、シラス、それに鮭の切り身だ。
　最後に鰹節を上に撒く。

　みんなで美味しく食べた。

　食後は響子と六花、吹雪が寝た。
　子どもたちは本格的な掃除と布団干しをする。

　「亜紀ちゃん！　後で買い出しだな！」
　「はい！　一緒にお願いします！」
　「早乙女達も一緒に行くか？」
　「行くよ！」

　夜はバーベキューなので、好きな食材を選ばせよう。
　
　「早乙女も夜に来て翌朝に帰っただけだもんな」
　「ああ、麗星さんと一緒に来た」
　「あ、うん」

　可愛そうな奴だ。

　「石神が危ないって聞いて、麗星さんには止められたけど、どうしても一緒に来てしまった。迷惑を掛けたな」
　「い、いや！　お陰で助かったよ！　何があったのかは知らんけど！」

　雪野さんが気付いているのか、小さく笑った。
　ロボが大好きな雪野さんの膝に顔を乗せ、幸せそうに眼を閉じていた。
　雪野さんがロボの身体を優しく撫でてやる。

　「ロボちゃんは、どこへでも一緒に来るんですね」
　「ああ、こいつは旅が好きなようなんですよ。普通はネコは自分の縄張りから離れたがらないんですけどね」
　「石神さんが大好きだから」
　「まあ、俺も大好きですけど。でも、お陰でいろいろ出掛けられますよ」
　「本当に嬉しそう」

　ロボが雪野さんの膝で転がって腹を出した。
　自分の話題になって嬉しいのだ。
　怜花が早乙女に抱かれながら、ロボに手を伸ばした。
　早乙女が近付いてやる。
　ロボが怜花の小さな手を、前足で挟んだ。

　「ロボちゃんは優しいですよね」
　「まあ、好きな人間にはね。妖魔には容赦が無いですが」
　「アハハハハハ！」

　亜紀ちゃんが一段落したので、買い物へ行こうと言った。
　俺たちはハマーで出掛けた。

　「店長さんが、タカさんを尊敬してるんです！」
　「おい！」

　車の中で亜紀ちゃんが早乙女達に説明していた。

　「タカさんって、どこに行っても人気者なんですよねー！」
　「そんなことはねぇ！」
　「私たちが行くと、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れるんですよ！」
　「どういうこと？」
　「タカさんの登場音楽なんです！」

　早乙女と雪野さんが大笑いした。
　スーパーに着いた。
　
　「ほら！　専用駐車場なんですよ！」
　「年に１度か２度しかこないのになぁ」

　早乙女達がまた笑った。
　駐車場の入り口に、店長さんが待っていた。

　「石神先生！　今年はもう来られないのかと」
　「そのつもりだったんですけどね。やっぱり来たくなって予定を調整しました」
　「ありがとうございます！」

　俺が親友の早乙女夫妻だと紹介すると、早乙女が喜んだ。

　店内に入ると、ちゃんと『ワルキューレの騎行』が鳴り響いた。
　いつもよりも、若干音が大きい。

　店員たちが俺たちに向いて、一斉に頭を下げた。
　雪野さんが驚いていた。

　各自カートを引き、俺が怜花をカートに乗せてやった。
　怜花が嬉しそうにしている。

　頼んでいた肉や魚介類は後で配達されるので、俺たちは好きな物を別途選んで行った。
　特に魚介類は見てから選ぶ方がいい。
　決まった刺身やエビカニなどは既に予約しているが。

　海鮮の売り場に行くと、伊勢海老やアワビなどが結構あった。

　「タカさん、買えってことですよね」
　「ああ、気を遣わせたなぁ」

　俺と亜紀ちゃんで笑って全部買った。
　早乙女達も楽しそうに話しながらカートに入れて行く。
　怜花に食べさせたいものもあるだろう。

　「石神さん、フルーツポンチを作ってもいいですか？」
　「ああ、いいですね！」

　一通り買ってレジに行くと、また店長さんがカートを引き受けた。

　「花火は宜しいですか？」
　「ああ、そうだ！」

　笑って礼を言った。

　「昨年と同じようなもので宜しければ、こちらで用意いたしましょうか」
　「じゃあ、お願いします」
　「はい！」

　俺たちは店長さんに、フードコートへ案内された。
　みんなで飲み物を注文し、店長さんがまたイチゴ大福を土産にしてくれた。

　「ここは無料なんですよ！」
　
　早乙女達がまた笑った。
　店長さんが、椅子を持ってテーブルに来た。

　「あの、私もお邪魔して宜しいでしょうか？」
　「ええ、どうぞどうぞ」

　店長さんが座って話し始める。

　「本当に石神先生にはお世話になりまして。新館の売れ行きも本当に伸びてまして」
　「良かったですね」
　「あの、「子ども広場」！　毎日多くのお子さんたちが寄ってくれて、ブレイクダンスの教室まで出来たんですよ」
　「え？」

　亜紀ちゃんが早乙女たちに、俺たちのブレイクダンスが話題になってビデオで流れていると言った。

　帰る前に、早乙女たちが見たがった。
　連れて行くと、「子ども広場」が拡張され、本当に大勢の子どもたちがクルクル回っていた。

　「石神、スゴイな！」

　大きな画面で、俺や六花などが踊っているのがエンドレスで流れている。
　端の方で、子どもたちが若い男女にダンスを習っていた。
　亜紀ちゃんが笑顔で空いたスペースで踊り始めた。
　すぐに子どもたちの注目を浴び、ダンスを教えていた二人が気付く。
　傍に寄って来て、亜紀ちゃんのブレイクを見ていた。

　亜紀ちゃんが立ち上がって、俺を指差した。

　「おい！」
　「ほら！　あそこにいるよー！」

　子どもたちが俺を見つけた。
　画面に映っているのが俺だと気づき、みんな寄って来る。

　「今日はちょっと見に来ただけだ！」
　
　みんなが踊ってくれと言う。
　離れない。

　仕方がないので、若い二人に音楽はあるかと言った。
　すぐに走って行って大音量で「セイントーラ」の曲を流した。
　俺が踊り始めると歓声が沸いた。
　亜紀ちゃんも俺の隣で踊るが、俺の方が歴が長い。
　すぐに離れてみんなと俺を見ていた。
　俺も楽しくなって、結局一曲全部踊った。
　大きな拍手が湧いた。

　俺は亜紀ちゃんと早乙女の手を引いて、急いで離れた。

　「石神がどうしてどこでも人気者なのか分かったよ」
　「お、お前にも教えてやる！」

　雪野さんが、一緒にやりましょうと言っていた。
　早乙女が嬉しそうに笑っていた。
　亜紀ちゃんが、さっきの「セイントーラ」が俺の友達なのだと言った。

　「ああ！　だから御堂さんの東京ドームに来ていたのか！」

　「お前は俺の親友だけどな！」
　「石神！」

　早乙女が泣きそうな顔になり、雪野さんが笑いながら頭を撫でていた。

しおりを挟む