上 下
1,636 / 2,859

早乙女家の家庭料理

しおりを挟む
 上で雪野さんに歓迎され、俺たちは礼を言ってテーブルに付いた。
 ランたちが料理を運んで来る。

 食事が始まり、早乙女が「柱」の一発芸を雪野さんに話した。
 雪野さんがどういう顔をして良いか困っている。

 「あれって、やっぱり石神が教えたのか?」
 「ばかやろう!」
 「だってさ」
 「お前! 俺をどう思ってるんだ!」
 「え? やりそうじゃないか」
 「!」

 まあ、オチンチン「花岡」とかやってるが。

 「お、俺はローマ教皇が挨拶に来るような人間なんだぞ!」
 「ああ!」

 早乙女には話している。

 「大変だったよな! 亜紀ちゃん!」
 「そうですね」
 
 反応が薄い。

 「あー、こいつ。そういえば最初にトイレで締めましょうかとか言ってたな」
 「ワハハハハハ!」
 「すごいね、亜紀ちゃん」
 「いいえー!」

 俺は石神本家の話をして、早乙女達を爆笑させた。

 「ああ、お前も知らないだろうけどな。熊野の山の中で、毎年大量の「堕乱我」って妖魔が発生するんだよ」
 「そうなのか!」
 「まあ、石神本家の年中行事らしくてな。今年は俺も連れて行かれた」
 
 早乙女達にまた話してやる。

 「俺が間違って女王みたいな奴を殺しちゃってさ。もう来年からは湧かないかもって」
 「タカさん、怒られたよねー」

 ハーが言う。

 「そうだよ! 全然説明しないで放り出したくせによ! 俺が「大堕乱我」を殺したら、みんなでボコボコにしやがって!」
 「タカさん、木に縛られて帰って来たよね」
 「まあ、気絶してたから知らん」

 みんなが大笑いした。

 「あの人らは、他にも妖魔とか今でも狩ってそうだけどな」
 「今度紹介してくれよ」
 「無理」
 「え?」
 「怖ぇんだよ! 俺が!」
 「石神さんが?」

 雪野さんまで驚く。

 「あのね、あの人らの狂いっぷりを知らないんですよ。奥義を教えてやるって、その奥義を俺の身体に突っ込んで来るんですから! 俺、死ぬかと思いましたよ!」

 雪野さんが笑った。
 
 「まさか、石神さんが怖がる人がいるなんて」
 「いますよ! 石神本家はみんなコワイし。それに、ピアニストの橘弥生! あの人も怖くてしょうがない」
 「タカさん! 次のCDを早く出しましょうよ!」
 「ね? 俺には味方がいないんですよ」

 みんなで笑った。

 「うちでもよく聴いているよ。怜花も大好きなんだ」
 「お前くらいは俺の味方をしろ!」
 「無理だよ! もっと聴きたいよ」
 「そうですよね」
 「あの、御堂総理の大演説会のブルーレイもしょっちゅう観るんだ」
 「石神さんの演奏が素敵ですよね!」

 「タカさん! 橘さんを別荘にお呼びしましょうか!」
 「俺が今、あの人が苦手だって言ったよな!」

 楽しく食事をした。
 ナスの揚げ物が物凄く美味かった。

 「雪野さん! このナスの揚げ物、美味しいですね!」
 「そうですか!」
 「片栗粉ですか! シンプルなのに本当に美味い!」
 「前に中華料理屋で食べたんですよ。私も大好きで」
 「へぇー!」

 作り方を教わるまでもない。
 ナスの輪切りに片栗粉をまぶして揚げただけのものだ。
 俺が褒めるので、みんなが取って食べた。

 「あ! 美味しいよ!」

 ルーとハーが驚く。

 「俺はナスが好きなんで、いろいろ作るんですけどね。こんな作り方はしたことがない」
 「簡単なのに、美味しいですよね!」
 「亜紀ちゃん! 雪野さんが50年かけて極めた料理なんだ!」
 「私まだ30代ですが」

 俺が「雪野ナス」と命名すると、雪野さんが大笑いした。

 「うちでも「雪野ナス」を作るぞ!」
 「「「「はい!」」」」

 鮑の酒蒸など高級素材もあったが、ほとんどは普通の家庭料理の範疇だった。
 気楽に食べられて、それでいて美味しい。
 ご飯ももちろんあったが、蕎麦やパスタも出て飽きさせない。
 点数が多いことで、本当に一つ一つが楽しみになる食事だった。
 串カツなども、久し振りだ。
 ロボがいろいろな刺身や肉をもらい、雪野さんに「にゃーにゃー」鳴いて礼を言っていた。

 「人間って、いつの間にか同じようなものばかり喰うようになっちゃうんですね」
 「それは仕方がないでしょう」
 「俺の家なんて、蕎麦作っても薬味がステーキですからね」
 
 みんなが笑った。

 「ルーちゃん、ハーちゃん、メザシは美味しかった?」
 「はい! でも、結局タカさんがステーキを食べ始めたら、みんなもそっちで」

 早乙女たちが笑った。

 「でも、メザシも美味しかったよね?」
 「うん! またやろうよ!」

 「石神さんに頂いたこのお米、美味しいですよね!」
 
 雪野さんが言った。

 「まあ、そうなんですが。亜紀ちゃん、あとどのくらい残ってる?」
 「1トンくらいですかね」
 「また新米が出来ちゃうよなぁ」
 「ルー! スーの一族にはやってるか?」
 「毎日あげてます!」
 「みんな動きが良くなったよね?」
 「そうか」

 健康にもいい。

 「いよいよとなったらアラスカだな」
 「そうですねー」
 「こないだ、去年のチロルチョコがまだありましたよね?」
 「ワハハハハハ!」

 俺がバレンタインデーのものを大量に送った。

 「ああ、三人もそのうちにアラスカへ招待するからな」
 「本当か!」
 「街が結構動き出したからな。案内するよ」
 「楽しみにしている!」
 
 楽しく話して、食事が終わった。
 酒を用意すると言われたが、断った。

 「明日は7時に出発するからな」
 「ああ、分かった」
 「ハマーと六花のグランエースで行くからな」
 「うちも車を出そうか?」
 「大丈夫だよ。ああ、でも怜花がいるから、お前たちはグランエースの方がいいかな」
 「そうなのか?」
 「六花が響子を乗せるために、やたらとクッション性を良くしたんだ」
 「そうか。じゃあそちらに乗せてもらおうかな」
 
 雪野さんが怜花を抱いて、早乙女と一緒に見送りに出てくれた。
 エレベーターホールで、また「柱」が両手を腰に当てて待っていた。

 「……」

 《ぱたぱた……スポ》

 「「「「ギャハハハハハハハ!!!!」」」」

 「お、おう! お邪魔したな!」

 「柱」が手を振っった。
 雪野さんが真っ赤な顔をしてうつむいていた。





 「なんで石神が来るとああいうことをするんだろう」
 「俺のせいにするんじゃねぇ!」
 「だって、今まであんなこと、したことないぞ?」
 「お前がやってるのを見たんじゃねぇの?」
 「そ、そんなことない!」

 「雪野さん、どうなんです?」
 「し、しりません……」

 門の前で、俺がポーズをしてやった。

 「「「「ギャハハハハハハハ!!!!」」」」

 誰だか、今日は上品にしろと言っていたが。
 まあ、俺のせいじゃない。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭

響 蒼華
キャラ文芸
 始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。  当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。  ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。  しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。  人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。  鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

処理中です...