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御堂家の時間

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 御堂家の前で、またみなさんが待っていてくれた。
 もちろん、オロチたちもいる。
 正巳さんが俺たちの車に手を振っている。
 余程楽しみにしておられたのだろう。
 11時半だ。
 途中で少し渋滞があり、予定よりも遅れた。
 子どもたちに食事の手伝いをさせられなかった。

 「すいません、遅くなりました!」
 「石神さん! みなさんもいらっしゃい!」
 
 正巳さんが満面の笑みで迎えてくれる。
 俺はオロチの頭を抱き、ニジンスキーたちを撫でた。
 子どもたちはは荷物を降ろして中へ入った。
 亜紀ちゃんたちが食材を厨房へ運んで、仕分けして冷蔵庫へ入れる。
 うちからも大量の肉を持って来た。
 保冷庫に入れているので、そのまま運ぶ。

 「食材まですみません」
 「とんでもない! どうせこいつらはこれ以上に喰うんですから」

 澪さんが明るく笑った。
 是非そうして欲しいと言ってくれる。

 「少し早いけど、みなさんお腹が空いてるでしょう」
 「「「「「はーい!」」」」」

 御堂が大笑いした。
 さっき散々食べているのを見ているからだ。
 澪さんの耳元で多分伝えたのだろうが、澪さんも笑っていた。

 「じゃあ、すぐに用意しますね」
 「ああ、お前らも手伝って来い!」
 「お昼は御蕎麦にしたんですけど、お肉も焼いてますから」
 「ああ、こいつら、肉は薬味だって思い込んでますからね」
 「石神さんのお好きな鮎も一杯焼きますから」
 「すいません」

 総理大臣の家にまで、石神家の異常な食事が知られてしまっている。
 正巳さんを中心に、俺と御堂が両隣に座った。
 菊子さんは御堂の隣だ。

 正巳さんが、自分の前に大量の肉の皿を置かせた。
 子どもたちの争いを目の前で観たかったのだろう。
 子どもたちもそれが分かって、争いながら肉を奪って行く。
 まあ、いつも通りなのだが。

 正巳さんが大笑いして楽しんでおられた。

 


 食後は、皇紀が防衛システムと新しい街の視察に出掛けた。
 敷地内なので、電動のバイクを借りて移動する。
 亜紀ちゃんと双子はジェイたちの訓練だ。
 大分人数も増えた。
 今後新たに出来る街の防衛任務もあるためだ。

 柳にはゆっくりしろと言った。

 「私も訓練に行きますよ!」
 「お前はみなさんに顔をよく見せておけ」
 
 久し振りの実家なので、澪さんや正巳さんたちと話させたい。
 正利もいる。

 俺は最初に正巳さんの部屋へ行き、最近の動向を話して行った。
 中心は軍備の問題だ。
 最近の度重なる「業」のテロ事件のせいで、日本も軍備、軍隊組織が必要だという認識は国民に浸透している。

 「徴兵は希望者にするつもりだけど、その訓練が問題だね」
 「そうだ。日本は兵士に関する常識を喪ってしまった。戦うことを忘れてしまったんだ」
 「その問題はどうするんじゃ?」
 
 俺は幾つかの案を出した。

 「まず、マスコミとネットの誘導ですね。これから軍隊についての映画、ドラマやアニメをどんどん流して行く予定です」
 「なるほど」
 「海外の兵士の訓練なども、実際に取材させて報道させます」
 「うん、そうだな」
 「戦闘そのものよりも、仲間を思う心を育てたいと考えていますが」
 「それが日本の強みになるんだな」
 「はい。太平洋戦争のような、軍部の高圧的なものではありません。大事な人間を守るために戦う人間を育てたいと思います」
 
 正巳さんが言った。

 「英雄が必要だな」
 「流石ですね。その通りと思います。実際に何人か候補は決めているんですけどね」
 「そうなのか!」
 「はい」
 「どういう人間たちなんだ?」
 「ヤクザですよ」
 「なんだって!」
 「ピッタリな奴らがいます。まあ、詳細はいずれ」
 「ヤクザか」
 「昔ながらの任侠の連中です。今の腐った経済ヤクザじゃない」
 「なるほどな」
 「もちろん、一般の人間からも。それに、実際の戦争になれば、自然に出て来ますよ」
 「そうだといいな」

 しばらく話をし、俺は御堂を連れて辞した。

 「おい、澪さんの所へ行ってやれよ」

 御堂は笑って、離れて行った。





 「おーい! オロチー!」

 軒下に呼ぶと、オロチが出てきた。
 俺の顔を舌で舐める。

 「またおっきくなったか」

 もう50メートル近いのではないか。
 太さも増している。
 ニジンスキーたちも、8メートルほどになっていた。
 異常に成長が早い。
 まあ、ヘビかどうかは知らんが。

 しばらく、オロチの身体に背中を預けてのんびりした。
 ダフニスとクロエが庭を歩いていた。
 ここには俺たちがいるので、護衛任務は解いている。
 恐らく、家の周辺を見回り、護衛の方法を検討しているのだろう。

 「おーい!」

 俺が呼んだ。
 二人が俺の方へ来た。

 「石神様、お寛ぎですね」
 
 ダフニスたちは優秀な人工知能を搭載している。
 普通の人間以上に会話が出来る。

 「ああ、ここはいい土地だからな。のんびりするんだよ」
 「さようでございますか。先ほど各所の防衛システムと連動しまして、ここの防備が非常に硬いことが分かりました」
 「それでも実際にそうやって見回ってくれてるんだな」
 「はい。私たちには休養は不要ですので」
 
 俺は笑った。

 「お前たちの先輩でディディというのがいるんだがな」
 「はい、存じております。今は乾様の所にいると」
 「そうだ。あいつも年がら年中役目とかって考えていたんだよ。だから、俺が休むように命じた」
 「はい」
 「そうしたら、あいつの性能が上がった」
 「そうなのですか!」
 「そうだ。デフォルト・システムがやはりお前たちにもあったんだよ」
 「脳のシミュレーション・システムですね!」
 「ああ。だからお前たちも少しは休んでみろ。その結果でまた判断すればいい」
 「はい、ありがとうございます。実は御堂様からも、度々休むように言われておりました」
 「あいつは最高だからな! お前たちのために、いろいろ考えてるんだよ!」
 「それは大変申し訳ないことをいたしました。はい、それでは休養を取るように心がけます」
 
 ダフニスとクロエが俺の隣に座った。
 素直過ぎる連中で、俺は苦笑した。

 「俺は中へ入るからな。オロチ、しばらくこいつらを休ませてやってくれ」
 
 オロチが口を開いた。
 了承ということだろう。

 「さて、ロボはどこへ行ったか」

 ジェイたちの訓練場で爆発音がした。
 空中に紫色の帯が舞っている。




 俺は大笑いして、ジェイたちの訓練場へ向かった。
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