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俺たちの日々を

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 食後は六花と「虎温泉」に入った。
 子どもたちは遠慮し、俺たちはゆっくりと愛し合った。

 「やっとここに帰って来れました」
 「そうだな」

 六花はもう一週間仕事を休む。
 でも、もう響子の部屋へ行くだろう。

 風呂から上がり、またリヴィングでみんなで集まった。
 響子と院長夫妻は泊ってもらう。
 一江と大森はまだいるが、タクシーで帰る。
 早乙女と雪野さんは先に帰った。

 酒を飲める人間は用意し、院長夫妻は紅茶を飲む。

 「六花、院長がお前のためにいろいろと病院内の内規を変えてくれたんだ」
 「まあ、一色が最初のモデルケースだ。今後は職場でも子育てをしながら仕事が出来る体制を整えただけだ」
 「はい、ありがとうございます」

 俺は詳しく話した。

 「勤務時間は今まで通りだけどな。でも、体調の具合で遅刻も早退も休むことも自由に出来る。そのために対応するスタッフもいるからな」
 「ありがとうございます」
 「勤務中はベビーシッターのいる部屋へ子どもを預ける。授乳やその他のことは、各々でゆっくりと決めて行くからな。お前の場合はとにかくお前が自由に動けるように考えてくれ。それが今後の様々な体制の参考になるからな」
 「はい、分かりました」
 「授乳だけじゃない。子どもと母親はスキンシップも大切だ。だから休憩時間は多く取れるようにする。お前の希望通りにするからな」
 「本当にいいんですか?」
 「六花のためというのはもちろんだが、本当に今後うちの病院では本格的な子育て勤務体制を作るつもりだからな。恐らく、他の病院や会社の参考になるものが出来るだろうよ」
 「はい! 石神先生が考えることですからね!」
 「院長だ!」
 「アハハハハハ!」

 院長も静子さんも笑った。

 「それにしてもカワイイお子さんね!」
 
 静子さんが言う。
 
 「六花に似て良かったですよ」
 「石神先生に似てるんですよ!」
 
 「まあ!」

 静子さんが笑った。

 「花岡さんも元気かな?」
 「元気ですよ! そのうち子どもと一緒に院長と静子さんにも挨拶に来させますから」
 「ああ、楽しみにしているよ」

 もう移動手段もあるので、本当に会わせたい。




 しばらくすると、響子が眠そうになってきた。
 久し振りに六花と会えたので、楽しんで起きようとしていたが、もういいだろう。

 「六花、響子と俺の部屋で先に寝てくれ」
 「はい!」

 柳が吹雪のベッドを持ち、六花が吹雪を抱いた。
 響子が六花の腰にしがみ付いて、一緒に歩いて行った。

 「院長もそろそろお休みになっては?」

 10時頃だが、もう院長たちは眠る時間のはずだ。

 「いや、もうちょっとお前と話したい」
 「そうですか」

 静子さんは先に休まれた。
 俺は子どもたちにも、今日は眠るように言った。
 一江と大森も帰ることにした。
 院長が俺と話したがっているのをみんなが察していた。




 俺は院長に梅昆布茶を淹れた。
 自分の分も注いで一緒に飲む。

 「なんだ、お前は酒を飲めばいいだろう」
 「今日は院長に付き合いたいんですよ」

 院長が優しく笑った。

 「いい家だな」
 「院長のお宅の方が雰囲気があっていいじゃないですか」
 「古いだけだよ。今の人間には不便なだけにしか映らんだろう」
 「そんなことは」

 「この家は、何かをやる人間のための家だ。俺の家のように、のんびりとしたい人間のものではない」
 「騒がしいだけですって」
 
 院長が俺を見ていた。

 「石神、教えてくれ」
 「何ですか?」
 「お前は何をやろうとしているんだ?」
 「はい?」
 「お前は何かとんでもないことをしようとしている。俺が分からんと思ったか」
 「……」

 院長は別にそれを不満に思っているわけではない。
 自分が俺のために何か出来ないかと考えている。

 「昨年、レイが亡くなったな。テロリストに抵抗して死んだと言われている。お前はそのテロリストと戦おうとしているのだろう」
 「そうですね」

 俺も認めた。
 院長には安全な場所にいて欲しいが、隠すことはないと思った。

 「お前が突然、アメリカへ来て欲しいと言った。俺はお前の顔を見て、何も聞くまいと思って黙って行った」
 「ありがとうございました」
 「お前が桜を満開にしたいと言った。だから俺はそのようにした」
 「はい、ありがとうございます」

 院長をレイが死んだ場所に案内し、植樹された桜の木に「力」を注いでもらった。
 多くの桜の木々に、院長は気を喪うまでやってくれた。
 俺に何も聞かずに、精一杯にやってくれた。

 「あそこでレイが亡くなったのだとすぐに分かったよ」
 「そうですか」
 「お前が泣きそうな、堪らない顔をしていたからな」
 「はい」

 「だから、お前が戦っていることが分かった。俺に話さないのは、巻き込みたくないからなんだろう?」
 「その通りです。俺の大切な人ですから」
 「ばかもの」

 院長が笑った。

 「「業」という敵なのだな?」
 「そうです。恐ろしい敵です。これから世界は「業」との戦いになっていく。これまでの平和は壊れます」
 「そうなのか。まあ、お前が言うのだから、その通りなのだろう」

 院長は信じてくれている。

 「院長、この先ですが、静子さんと一緒に、世界で一番安全な場所へ行ってもらいたいんです」
 「なに?」
 「アラスカです。そこに俺は大きな軍事施設を創りました。実は栞と子どもの士王は、今そこにいるんです」
 「そうだったか」
 「栞は「花岡家」の跡取りなんです。物凄い拳法の家なんです。「業」は栞の弟なんですよ」
 「なんだって!」
 「因縁なんです」
 「花岡家の争いなのか」
 「それが結構複雑でして」

 俺は「業」を取り巻いていた環境、道間家のこと、そして俺も子ども時代から道間家や様々な因縁の中にいたことを話した。
 随分と長い話になったが、院長はずっと聞いていてくれた。

 「ちょっと信じがたいとは思いますが」
 「いや、分かる。俺にも他人には分からないものがあるしな」
 「そうですね」
 「俺たちは運命で「花岡」を習得し、「業」と敵対することになった」
 「お前が拳銃で撃たれた事件が、まさかそのようなことになっていたとはな」
 「はい。まあ、後からそれ以前からの因縁であることが分かって来ましたけどね」

 全ては話し切れなかったが、俺を取り巻く環境はある程度知ってもらった。

 「お前はレイさんが亡くなった時に、俺も呼んでくれたな」
 「はい」
 「じゃあ、俺も巻き込んでくれ」
 「え?」
 「俺もお前に協力したい。もうこんな年で何が出来るわけでもないけどな」
 「そんなことは。実は俺にもお願いしたことがありまして」
 「何でも言ってみろ」

 「アラスカで大きな病院を建てたんです」
 「そうか」
 「そこの「大院長」に就任していただきたく」
 「なんだと!」

 院長が驚いていた。

 「今の病院のように、病院経営なんて考えなくていいんですよ。完全に俺たちの資金で運用しますから。院長には、病院の活動の差配をお願いしたいんです」
 「ちょっと待て。俺はアラスカへ行くのか」
 「そうです。静子さんと一緒にね」
 「おい、俺はもう60代の後半だぞ。まだまだ身体は動くが、そう長いことではないだろうよ」
 「大丈夫ですよ」
 「どうしてそんなことが言えるんだ」
 「特別なものがありますから」
 「なんだって?」

 俺はクロピョンの試練で生き延びた時の話をした。

 「あの時、俺が使ったものを、院長と静子さんにも食べてもらいます」
 「おい!」
 「若返りますよ! ああ、子どもも出来るかも!」
 「何を言う!」

 院長に頭を叩かれ、俺は笑った。

 「院長が決めて下さい。静子さんとも話し合って。俺は何にしても院長と静子さんを守ります。絶対にね」
 「おい、石神……」
 「お隣の土地を買ったのは俺です。防衛システムを仕込んでますよ」
 「なんだって!」
 「アハハハハハハ!」

 院長が驚いて俺の胸倉を掴んだ。

 「今度覗いてみてください。院長と静子さんは入れるようにしておきますから」
 「お前! 何をやってるんだ!」

 「院長たちを守りたいんです。それをしてます」
 「……」

 院長が俺を離した。

 「最愛のお二人ですからね。嫌がろうが何だろうが、俺はやりますよ」
 「石神……」
 
 俺は立って頭を下げた。

 「お願いします。俺にお二人を守らせて下さい」
 「ばかもの」
 「はい! 俺がとんでもないバカなのは、院長は御存知ですよね」
 「そうだったな」

 二人で笑った。

 「おい、濃いお茶を淹れてくれ。今日はとことん話してもらうぞ」
 「はい、喜んで」

 俺は濃いめの番茶を淹れ、一緒に飲んだ。
 



 俺たちは朝方まで話した。
 院長は何度も大笑いし、何度も泣いた。
 俺たちは、そういう日々を過ごして来たのだ。
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