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戦友の帰国

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 金曜日の夜。
 俺はスージーを誘い、亜紀ちゃん、柳と一緒に酒を飲んだ。

 「スージーには世話になったからな。明日はお礼に美味いものをご馳走したいんだけど」
 「そんな! 私なんて大したことは!」
 「そうじゃねぇよ。本当に助かった。スージーが来てくれて、俺も安心して行動出来たしな」
 
 スージーはしきりに遠慮していたが、俺は何かしたかった。

 「スージーさんは、何か好きな食べ物ってありますか?」
 「ここでは本当に美味しいものを沢山頂いたので」

 亜紀ちゃんが聞いている。

 「そんなこと言わずに! 何でも言って下さいよ」
 「そうですね。折角日本に来たのだから、本格的なお寿司を食べたいかな」
 「お寿司! 好きなんですか!」
 「お前! もっと早く言えよ!」
 「え?」

 俺は笑って言った。

 「じゃあ、沼津の寿司屋に連れてくかー」
 「いいですね!」
 「ばかやろう! お前らを連れてったら店が潰れるだろう!」
 「えーん!」

 事前に連絡して仕入れてもらわないと、子どもたちはとても連れて行けない。

 「俺とスージーで行く」
 「私も行きたいですよー!」
 「石神さん! 私、そんなに食べないですから!」
 「柳さん! ズルイですよ!」
 
 「いい加減にしろ!」

 「ねえ、タカさん。じゃあ、一度問い合わせてみましょうよ」
 「無理だって」

 もう夜の9時を過ぎている。
 店はやっているが、明日は土曜で仕入れは出来ない。
 それでも亜紀ちゃんが一縷の望みを掛けて電話した。

 「え! ほんとですか!」

 亜紀ちゃんが喜んで叫んだ。

 「タカさん! 団体さんが急にキャンセルになったんで、お店が困ってたそうです!」
 「ほんとかよ!」
 「はい! じゃあ、いいですよね!」
 「ちょっと替われ!」

 俺が直接話し、大分多めに仕入れたネタが余って困っていると確認した。
 うちで行くので、店の都合で止めてもらっても構わないからと言った。

 「助かります! 石神さんたちが来てくれたら、大助かりですよ!」
 「アハハハハ!」
 「石神さんに、いいネタはとっときますから!」
 「いや、あるものでいいですよ。どれも美味いから。寿司が好きなアメリカ人を連れて行きます」
 「へい! お待ちしております!」

 電話を切った。

 「スージーさんにはお寿司の神様が付いてるんですね!」
 「元々スージーはちゃんと喰えるはずだったんだ!」
 「じゃあ、私?」
 「ワハハハハハハ!」

 そうかもしれない。
 まあ、そういうことで、沼津に行くことになった。
 響子も誘うか。
 六花がいないので、寂しい思いをしているだろう。






 翌日。
 ハマーで出掛けた。
 響子も喜んでついて来た。
 ロボは早乙女達に預けた。

 「おい、俺は向こうで酒を飲むからな。亜紀ちゃんと柳は帰りの運転を頼むぞ」
 「えー! 私も飲みたいー!」
 「ばかやろう! 寿司屋で飲むのはまだ早い! 自分で稼ぐようになってからだ!」
 「明日から悪人狩りをします」
 「やめろ!」

 後ろで双子とカツアゲは儲かるのかとか、麗星がヤクザの街金を襲ってたらしいとか話している。
 怒鳴って辞めさせた。

 「家で飲むのはまあしょうがねぇけどな。外で飲むのはまっとうに働いてからだ。その中でも、寿司屋で酒を飲むのは、ちゃんと社会的に上の身分になってからだぞ!」
 「タカさんは大丈夫ですね!」
 「俺だって滅多にしない。御堂とか、ああいう立派な人間とだけだ!」
 「そう言えば、行かないですよね」

 亜紀ちゃんが不思議がっている。

 「俺は自分を大した人間じゃねぇと思ってるからな! 大体寿司屋っていうのは、腹いっぱい喰う場所じゃねぇんだ」
 「そうなんですか!」
 「美味くて高いものだからな。だから長居が出来るのは、特別な人間だけなんだ」
 「石神さん、私そういうものとは知らなくて……」

 スージーが申し訳なさそうに言う。

 「あ! いや、スージーはいいんだよ!」
 「どうしてですか?」
 「ちゃんと自分で稼いでるし、何よりも今回は俺たちが世話になったんだから、ゆっくり腹いっぱい喰ってくれ!」
 「はい」

 「こいつらはもう、止めても無駄だからな。俺も諦めてる」
 「アハハハハハ!」

 毎回数百万円を喰うんだと言うと、スージーが驚いていた。

 「美味い物を食わせたいといつも思ってはいるんだけどさ。ちょっとなぁ」
 「石神一家は違いますね!」
 「こないだロックハート家で、ステーキを80キロ喰ったぜ」
 「え!」
 「一食でだぞ? 一体幾ら使わせたのか、本当によぉ」
 「すごいですね」

 まあ、そうとしか言えない。

 「いつもはメザシじゃないですか!」
 「嘘つけ!」

 みんなで笑った。
 スージーがメザシを知らないので、よく分からなかった。
 スージーが響子に聞いたが、響子も知らなかった。
 




 寿司屋に着くと、大歓迎された。
 元々は団体の予約で貸切になっていたようで、他には数人の常連の客が入っているだけだった。

 「石神さん! 本当に助かりますよ!」
 「こちらこそ!」

 すぐに寿司桶に入れたものが出て来る。
 今日はネタの指定はせずに、全部お任せで頼んでいる。
 大将が子どもたちの好きなネタを知っているので、気を遣ってはくれているようだったが。

 「スージー、好きなネタはあるか?」
 「いえ、本格的なものは初めてですので、いろいろ食べてみたいと思います」
 「そうか。じゃあ、美味いものがあったら言ってくれな」
 「はい!」

 俺とスージーは日本酒をもらった。
 刺身の盛り合わせが出て来る。
 響子のために、響子が好きな貝を中心に頼んだ。
 シャリは少な目にしてもらう。

 大将が伊勢海老やアワビなどの高級食材で握ってくれる。
 スージーはその美味しさに喜んだ。

 合間に桜エビのかき揚げや海老真丈なども作ってくれ、スージーが喜んだ。
 
 「おい、あれを見ろよ」

 俺が子どもたちのテーブルを示した。

 「相変わらずですね」
 「高級なものじゃなくてもいいんだよな」
 「アハハハハハ!」

 50貫の寿司桶がどんどん無くなって行く。
 
 「でも、みんな嬉しそうですよ?」
 「まあな。そうであればな」
 「ウフフフフ」

 スージーも楽しそうに子どもたちの饗宴を見ていた。

 「響子、六花ももうすぐ帰って来るからな」
 「うん! 早く吹雪ちゃんを見たい!」
 「俺もちょっとしか見てないんだよ。楽しみだな」
 「そうよね!」

 スージーが、聖の子ども聖雅の話をした。

 「とってもいい子なの。元気だしね」
 「へぇー!」
 
 よくジャンニーニの屋敷のブランコに乗るらしい。

 「一度一緒に行ったらね、本当に楽しそうに笑うんだ」
 「カワイイね!」
 
 「スージーは付き合ってる男とかいないのか?」
 「私は別に。仕事が楽しいですし」
 「そうか」
 
 スージーが、聖のどこがカワイイのだと話していた。
 酒が入ったせいか、どんどん話して行く。
 俺も聖が褒められて嬉しかったが。
 スージーは自分の気持ちに気付いているのだろうか。
 まあ、一生口にはしないのだろうが。
 そういう本当の愛を抱いている女だと分かった。

 俺は大将に、仕入れの分は佩けたか聞いた。

 「お陰様で! 本当にありがとうございました!」
 
 俺は笑って子どもたちにもう終わりだと言った。
 子どもたちも文句も言わずに、大将たちに今日も美味しかったと礼を言った。

 最後に全員に椀物を頼んだ。
 俺が好きなハマグリの吸い物を作ってくれる。

 「美味しい!」

 スージーが感動し、響子もニコニコして飲んだ。




 日曜日に、スージーは帰った。
 羽田まで見送りに行った。

 「本当に世話になった。ありがとう」
 「いいえ! また是非呼んで下さい!」
 「ああ! それに今後はいろいろな戦場で一緒にもなるだろう。よろしくな!」
 「はい! 楽しみと言うのはどうかと思いますが」
 
 俺たちは笑って握手をした。

 「聖を見送るとよ、毎回問題起こすんだよ」
 「なんですか?」

 俺はエロDVDの礼を言われたり、使用済みのオナニー用具を渡されそうになったことを話した。
 スージーが大爆笑した。

 「スージーは大丈夫だろうな?」
 「何か用意しておけば良かったです」
 「勘弁しろ」

 笑って別れた。




 素晴らしい戦友だ。
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