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ボマー(爆弾魔人) Ⅲ

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 子どもたちには、学校を休ませていた。
 子どもたちの学校が狙われるとしても、こいつらがいなければ攻撃は無いと踏んでいた。
 よくは分からんが、それ以上のことは出来ない。
 俺は昨日から病院へ行っている。
 病院にはレイがいるので、何かがあればすぐに察知できるだろう。
 出掛けようとしていた午前9時頃。
 
 早乙女から電話が来た。

 「都内の複数個所で爆弾が爆発した!」
 「なんだと!」
 
 早乙女から場所を聞いた。
 自由党本部。
 新宿歌舞伎町(千万組事務所近く)。
 港区中央図書館。
 港区J医大。
 お台場ヤマトテレビ駐車場。
 JR品川駅。
 
 どれも爆発の規模はそれほど大きくはなかったが、それでも200名近い死傷者が出ていた。

 「同時ではないんだ。移動しながらの可能性もある」

 時間は1時間程度の間に行われた。
 その報告を受けている間に、様々な人間から連絡が来た。
 俺のスマホで早乙女と話していたので、固定電話、それに亜紀ちゃんや皇紀、双子の電話にも掛かって来る。
 風花、蓮花、六花、正巳さん、次々と入って来た。
 その後で、蓮花を通してディディから乾さんの店も襲われたことが分かる。

 スージーと子どもたちと情報を共有し、俺は念のために雪野さんに怜花とうちに来て貰うように亜紀ちゃんに指示した。

 組織的な集団であることが分かった。
 今の所、日本人が襲撃者だ。
 サリンが用意されていることも判明した。
 詳細は知らないが、国内でサリンやヤバいものを作っている生産工場があると聞いている。
 そこからの供給だろうか。
 爆発物はC4プラスチック爆弾のようだ。
 気になることが二つあった。

 「虎! 妖魔が来ました!」
 「おう、六花は無事だな?」
 「はい! タマさんが追い払ってくれました。東京方面へ逃げて行きましたよ!」
 「そうか!」

 蓮花からも、タヌ吉が「地獄道」を開いて追い払ったと聞いた。
 妖魔の存在は想定していなかった。

 もう一つは、最初に早乙女から入った多発テロだ。
 威力は少ないが、広範囲に攻撃している。
 俺たちに関わりのある場所もあるが、図書館や品川駅などは違う。

 「スージー、どう思う?」
 「はい。サリンの仕様は想定内ですが、妖魔というのは……」
 「「業」が関わっていると思うか?」
 「今の時点では何とも。でも妖魔が出て来たからには、その可能性も考慮します」
 
 俺も同じ考えだった。
 妖魔の能力がまだ不明なことが不安だった。

 俺は雪野さんを出迎え、うちにいるように言った。
 雪野さんは気丈に明るく振る舞っていた。

 俺は柳を連れて病院へ向かった。
 念のために、「虎王」を両方持って行った。
 



 一江は早乙女から連絡を受け、既に情報を認識していた。
 大森に一江と部下たちの警護を頼む。
 病院には爆破予告を俺たちの手で宣言しており、大勢の警官隊が爆発物の捜索を始めていた。
 俺はすぐに響子の部屋へ行く。

 「タカトラー!」
 
 響子が俺の無事な姿を見て、泣いて抱き着いて来た。

 「レイが、タカトラが爆弾で狙われているって教えてくれたの!」
 「そうか。俺はもちろん大丈夫だよ」
 「うん、レイもそう言ってた! タカトラは絶対にやられないって!」
 「そうだ」
 「でも心配だよー!」
 「大丈夫だよ。響子も無事で良かった」
 「うん!」

 柳が響子を抱き締め、ベッドに戻した。
 その時、早乙女から連絡が来た。

 「石神! 敵の妖魔と交戦中だ!」
 「どこだ!」
 「芝公園の近くだ! 便利屋さんが察知してくれた!」
 「誰が行ってる!」
 「俺と早霧と愛鈴だ! でも強い! 押されている!」
 「無理はするな! すぐに行くぞ」

 妖魔化した人間であるライカンスロープならばともかく、本物の妖魔相手では「アドヴェロス」はまだ弱い。
 俺は「飛行」で向かった。





 「石神!」

 俺が到着すると、早乙女がすぐに駆け寄って来た。
 外傷がことを確認する。
 増上寺の駐車場で、ハンターではない「アドヴェロス」の人間20人と一緒にいた。

 「早霧と愛鈴は!」
 「増上寺会館の向こう側だ。まだ戦っているが、妖魔の攻撃が厄介だ。何かを飛ばして爆破しているようなんだ」
 「爆破……」

 どういう攻撃か分からない。
 早乙女は俺を迎えるために、一旦現場を離れたようだった。
 
 「早霧が剣で防いでいるけど、もう限界だ。愛鈴も接近出来ない」
 「分かった」

 芝公園の木々が倒壊している。
 俺は二人が戦っている場所へ向かった。

 「お前らは退け! 俺がやる!」
 「あんた、誰だ!」
 「「虎」の軍だ! 早乙女には話を通している」
 「分かった! あいつ、指先からヘンな光線を出す! それに触れると爆発するぞ!」
 「任せろ!」

 妖魔はワイヤーが捩じり合っているような形だった。
 頭部も同じで、尖った口先と、後方に角のような二本の尖りがある。
 そこもワイヤーが捩じれたように構成され、それが筋肉の鎧のようにも見える。
 顔を覆うワイヤーの間から、人間の拳ほどもある巨大な眼球が見える。
 
 《イシガミの当主か》
 「なに!」

 妖魔がテレバシーで話し掛けて来た。

 《この姿になっても、お前たちには届かなかったか。やはりイシガミは全力で消しておくべきだった》
 「お前、何者だ!」

 《法王庁の預言者がイシガミへの不可侵を告げてから久しい。でも、それは間違いだった》
 「何言ってやがる!」

 《ファティマの預言をこそ信ずれば、このようなことには。イシガミから獣の王が生まれるのは分かっていたのに》
 「おい!」

 妖魔が両手を俺に向けた。
 俺は咄嗟に空中へ上がった。
 俺のいた地面が数十メートルに渡って爆散した。
 俺は「虎王」を抜き、妖魔を両断した。
 二つに割れる身体が激しい電撃を互いに飛ばしながら、妖魔は両手で自分の身体を抱き締めながら地面に倒れた。
 強烈なプレッシャーを感じ、俺は早霧と愛鈴を抱えて空中に飛んだ。
 その下を巨大な閃光が拡がった。
 激しい衝撃波が拡がる。
 木々と増上寺会館が倒壊するのが見えた。
 俺はすぐに早乙女達のいる駐車場へ向かった。
 幸い早乙女たちは無事だったが、全員が爆風で吹き飛ばされたようだ。
 早乙女はモハメドが守ったようで、何ともない。

 「無事か!」
 「ああ、モハメドさんがまた助けてくれた。他のメンバーも大丈夫なようだ」

 早乙女が言っている間に、全員がふらつきながらも立ち上がった。

 「終わったのか」
 「ああ。最後に自爆しやがって。すまなかったな」
 「いやいい。誰も死ななくて良かった」
 「ああ」

 俺は念のために「アドヴェロス」の人間たちに怪我がないかを見て回り、後は早乙女に任せた。
 これから救急車や警察、消防車が集結する。
 早乙女が上手く引き継いでくれるはずだ。
 



 病院へ戻り、その日は一日響子と一緒にいた。
 柳と三人で食事をし、ゲームをやり、響子は喜んでいた。
 広い病院なので、夕方まで爆弾の捜索は続いた。
 二度ほど院長に呼ばれたが、俺にもすることはない。
 結局、悪戯だったのだろうということで収まった。
 都内の爆破テロとの関連も警察は考慮していたが、何も分からないまま終わった。

 その日は夕飯も銀座の焼き鳥屋で響子と柳と一緒に食べた。
 
 「なんか、いい日だったね!」

 響子が言うので、柳と一緒に笑った。


 家には6時半頃に戻った。
 俺が鰻を取るように伝えていたので、スージーはゆっくりと食事出来たようだ。
 鰻が美味かったと喜んでいた。

 俺は全員を集め、今日の戦闘について話した。

 「タカさん、じゃあもう終わりですかね?」
 「多分な。でもしばらくは警戒は怠るな。まあ、お前たちは明日から学校へ行けよ」
 「休校ですよ?」
 「あ?」
 「だって! あんなに爆弾テロがあったじゃないですか!」
 「あ、そうか」
 
 俺たちがもう安全だと言うことは出来ない。

 「スージーももうちょっといてくれるか?」
 「もちろんです! まだ残党がいる可能性が高いですからね」
 
 俺は全員がいる前で、虎白さんに電話をした。

 「高虎か!」
 「はい。当主の高虎です!」
 「ワハハハハハ!」

 俺は一連の爆破テロ騒ぎと、今日の妖魔が言っていたことを虎白さんに話した。

 「そっかー」
 「何か分かりますか?」
 「あー、多分な。先祖のやったことだろうなー」

 虎白さんは、明治時代に石神家が西洋の「ミディアン騎士団」と交戦したことを話してくれた。
 
 「明治政府の要請でな。200人くらいぶっ殺してやったんだ」
 「はぁ」
 「それを恨んでじゃないだろうけどな。あの連中はあちこちの植民地で暴れ回ってたみたいでさ。でもうちの先祖が簡単にぶっ殺しちまったからよ。ビビってたみたいだぜ」
 「そうなんですか」

 とんでもねぇ先祖だ。

 「おし! じゃあ、ちょっと連絡しといてやるよ」
 「え、どこに?」
 「親玉のとこだよ! 責任者でてこーいっていう、アレだ」
 「はぁ」
 
 人生幸朗の古いギャグを口にする。

 「じゃあ、お願いしますね」
 「任せろ!」





 よくは分からないが、また連絡してくれるだろう。
 えーと、俺がしないとダメかな。
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