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石神家本家 帰還

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 虎白さんたちは日本酒が好きなのだと思っていたが、別にどんな酒でも飲むようだった。

 「タダの酒が一番美味い」

 そう言って、俺が出すバーボンでもワインでも焼酎でも何でも飲んだ。
 つまみも結構食べる人たちで、亜紀ちゃんたちはどんどん作って行った。

 「お前の子どもらはいいな! 肴がみんな美味い!」
 「おい、お前らもこっちで飲めよ!」

 柳は強くないので、亜紀ちゃんが付き合い、双子も飲んだ。
 皇紀は引っ込んで研究だ。

 「お! お前もイケるのかぁ!」
 
 ロボが焼酎を飲んでいた。
 酒癖の悪い人間はおらず、楽しい酒でいい。
  
 「ところでよ」

 虎白さんが俺に言った。

 「はい」
 「お前、城をぶっ壊したじゃん」
 「!」

 俺がまた土下座をしようとすると、虎白さんが笑って俺を椅子に座らせた。

 「いいんだよ。あの時は俺らもちょっとだけやり過ぎだったしな」
 「ちょっと?」
 「あんだよ!」
 「何でもありません!」

 みんなが集まって来る。

 「でもよ、虎白。あれってどうすんだよ」
 「まー、今まで手入れだの掃除だのって面倒だったしな。今更あんなもの使えねぇしよ。いっそ高虎がぶっ壊してくれて良かったんだがな」
 「そうは言っても、石神家の象徴みたいなものだったろ?」

 嫌なことを言う奴がいる。

 「そうだけどなぁ」
 「更地って訳にも行かんだろう」
 「そうだなぁ」
 
 俺が言った。

 「あの! なんか俺が建てましょうか!」
 「あ?」
 「あそこに最新の防衛システムを作りますよ!」
 「防衛システム? ああ、ここにあるようなものか」
 「はい。ここのよりいい物を入れますよ」

 俺はPCで、アラスカの「ヘッジホッグ」の画像を見せた。

 「おお! すげぇな!」
 「おい、虎白、いいんじゃねぇか?」
 「そうだな!」

 気に入ったようだ。
 まあ、石神の血筋ならではの感覚だろうが。

 「これは、どんなんだよ?」

 俺が一部の稼働映像を見せた。
 長大な「ヘッジホッグ」の砲塔が動き、目標となったものを破壊していく。
 映像ではドローン数百を狙ったものだが、レールガン、荷電粒子砲、イーヴァなどがそれぞれの目標を撃破している。

 「かっけぇーな!」
 「そうでしょう! これがあれば、どこの軍隊が来たって瞬殺ですよ!」
 「いいな!」

 これまで石神の剣士が出張ると、周辺の一族の土地が狙われることもあったようだ。
 だから必ず何人かは残って、防衛任務をしなければならなかった。

 「これがあれば、俺らが全員で出ても大丈夫そうだな」
 
 虎白さんたちが喜んだ。

 「高虎、これを作ってくれるか?」
 「よろこんで!」
 「じゃあ、半殺しで勘弁してやる」
 「はい?」

 「おい、仮にも石神家の城をぶっ壊したんだ。そのけじめは取らなきゃだろう」
 「え! 今邪魔だったって言ってましたよね!」
 「そうだよ。でも、それとこれとは話が別だ」
 「そんな!」

 虎白さんが大笑いし、冗談だと言った。

 「勘弁して下さいよ」
 
 俺は亜紀ちゃんに言って、皇紀から「カサンドラ」を借りて来るように言った。
 亜紀ちゃんが中に入って持って来る。

 「なんだ、これは」
 「俺が作りました。「カサンドラ」と名付けましたが、プラズマの剣にもなります」
 「ふーん」

 俺は実演してみせた。
 ソードモードにして、演武をしてみせる。

 「おお、ジェダイの騎士みてぇだな!」
 「よくそんなの知ってますね」
 「お前、俺らを田舎者だとバカにしてる?」
 「めっそうもありません!」

 危ねぇ。

 「ロングソードモードにも出来ます。大体今は300メートルまで伸びますね。でもそうすると稼働は3分です。ソードモードで1時間って感じですかね」
 「そうか」
 「クールタイムの2時間を待てば、また使えますよ」
 「へぇー」

 虎白さんたちが興味を持ってくれた。

 「石神の剣技を試してみるか」
 「はい、そうですね」

 虎白さんが握ってみた。
 軽く幾つかの型を試す。

 「バランスが悪いな」
 「ガンモードにもなるようにしてますからね」
 「俺らは使わねぇ。剣だけに出来るか?」
 「やってみます」
 「じゃあ、出来たら送ってくれ」
 「分かりました」

 「ネコで試していい?」
 「絶対辞めて下さい!」
 「フシャー!」
 「冗談だって」

 虎白さんが笑っていたが、ロボは怒っていた。
 
 「おい、高虎。そのネコは普通じゃねぇな?」
 「はぁ」
 「妖魔か?」
 「そういうのともちょっと違うようでして」
 
 俺にもよく分からん。

 「あ、妖魔を呼んでみましょうか?」
 「出来んのかよ?」
 「はい。タマ!」

 「なんだ、主」

 突然テーブルの脇にタマが現われて、虎白さんたちが血相を変えて立ち上がった。

 「こいつ!」
 「強ぇぞ!」
 
 「タマ、俺の親戚たちだ。仲良くしてくれ」
 「分かった。そこそこ使えそうな連中だな」
 「そうだ」
 「こいつらも守ればいいのか?」
 「いや、必要ねぇ。自分で何とでも出来る」
 「そうか。必要ならいつでも言ってくれ」
 「ああ、頼むな」

 タマが消えた。
 虎白さんたちが驚いていた。

 「あんなのが仲間なのかよ!」
 「そうですよ。でもまだ「王」ではありませんから」
 「そう言えば大黒丸が舎弟だって言ってたな」
 「はい。クロピョン!」

 全員が庭の花壇の方を向く。

 「全員! 気を確かに持て!」

 虎白さんが叫ぶ。

 「どうですか?」
 「確かに、大黒丸だな。こんな恐ろしい奴は他にいねぇだろう」
 「「空の王」は呼ぶと大変だし、「海の王」は海じゃないと。ああ、「死の王」はなんなら紹介出来ますよ?」
 「「邪々丸」かよ!」
 「はい、そんな呼び名もあるみたいですね」

 虎白さんたちが俺を呆れた顔で見ていた。

 「お前、とんでもねぇな」
 「アハハハハハ!」

 俺はクロピョンに剣技を試したいと言った。
 クロピョンが空中に「〇」を示す。

 「虎白さん。クロピョンに「カサンドラ」を試してください」
 「いいのかよ!」
 
 流石にビビることなく、虎白さんが構えた。

 「連山!」

 クロピョンに斬り掛かる。
 クロピョンの触手が細切れになっていった。

 「おお、出来るな!」
 
 みんなが喜んでいた。

 「じゃあ、高虎。頼むな」
 「はい。100振り程でいいですかね?」
 「十分だ。何本か持てばずっと戦い続けられる」

 



 虎白さんたちはその後もずっと飲み続けた。
 空が白む頃になるとウッドデッキで少し眠り、「虎温泉」にまた浸かってから10時頃に帰った。

 子どもたちは日付が変わる前に寝かせていた。
 
 「亜紀ちゃん」
 「はい。やっと帰りましたね」
 「おう。それでな、飲まれた酒は全部分かるな?」
 「はい。この後で在庫チェックをしますけど」
 「全部補充しといてくれな」
 「はい。あの、伊勢丹で一括でもいいですか?」
 「いいよ」

 「数千万円になると思いますけど」
 「すげぇな」
 「「夢雀」のヴィンテージとか「柏盛」とか、手に入りますかね」
 「何とかしようよ」
 「とっとけばよかったですね」
 「あいつらには、そういうのって分かるから」
 「はぁ」
 「ラインナップを見て、俺が何を持っててそれを持って来なかったとか分かるんだよ。とんでもねぇ酒好きだからな」
 「なるほどー」

 プレミア価格になりそうなものもあるが、俺は亜紀ちゃんに揃えておくように言った。

 ロボは楽しかったのか、久し振りに潰れるまで飲んでいた。
 まだ俺のベッドで寝ている。

 これから「ヘッジホッグ」の建設や「カサンドラ」の改良もある。
 まあ、それでも頼もしい仲間が出来た。
 ケチ臭いことは言うまい。
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