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石神家本家
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6月27日木曜日。
朝食を食べていると、タケから電話が来た。
「総長が! 陣痛が始まりました!」
「おお、予定通りだったな!」
「はい! 石神様、ご予定は如何ですか?」
「そうだな、一江に連絡して調整してみるよ」
「お願いします!」
俺が六花に陣痛が始まったと子どもたちに言うと、大騒ぎになった。
「タカさん! いよいよですね!」
「落ち着け! まだ生まれてねぇ!」
もう大興奮だ。
まあ、もちろん俺も嬉しい。
自分のオペの予定を思い出して、一江と調整できそうだと思っていた。
そのつもりで、一江とは予めある程度の段取りは相談して来た。
また電話が鳴った。
固定電話だ。
ハーが受けた。
「はい? 石神ですけど、どちら様ですか? え? エェー!」
様子がおかしい。
俺が近寄ると、保留にして受話器を俺に渡した。
「あの! 石神コハクさんと言ってます!」
「!」
俺は一瞬で蒼白になり、脂汗が流れて来た。
身体の震えが抑えられない。
ハーが心配そうに見ている。
「タカさん?」
「……」
俺は「絶花」で自分を鎮め、何とか保留を解除して受話器を耳に当てた。
「高虎です」
「おう、虎白(こはく)だぁ!」
「ご、ご、ご無沙汰してます」
「ふざけんなぁ! てめぇ! 勝手に行方をくらましやがってぇ!」
「い、いいえ! そういうつもりは!」
「じゃあ、どうして電話が通じなくなったんだ! 住所も変えてやがんだろう!」
「す、すみませんでしたぁ!」
俺が電話で話しながら硬直し、頭を下げまくっているので子どもたちが驚いて見ていた。
「あの件はどうなってんだ!」
「それは、以前にもお話ししましたように……」
「おい、本気で言ってる?」
「申し訳ございません!」
しばらく平謝りで応対した。
「じゃあ、すぐに来い!」
「あ、あの、これから仕事でして」
「あぁ?」
「あ、あの」
「俺はすぐに来いって言ってんだけど?」
「はい! すぐに向かいます!」
電話を切った。
「タカさん?」
「……」
「あの、タカさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇ」
「一体何が?」
俺は深呼吸して椅子に座った。
「本家だ」
「はい?」
「石神の本家だよ。今のは当主の虎白さんだ。呼び出しを喰らった」
「はい?」
もう一度深呼吸した。
「石神家緊急事態! 亜紀ちゃん! 俺の旅行の準備! それと家にあるありったけの日本酒!」
「は、はい! あの、日本酒は100本近くになりますけど!」
「全部だあぁ! 急げ!」
「はい!」
「ルー! ハー! お前たちを連れて行く!」
「「え?」」
「緊急事態だぁ! 急げ!」
「「はい!」」
「皇紀!」
「はい!」
「うちにあるありったけの「Ω」と「オロチ」の粉末を集めろ! お前たちの分以外は全部だ!」
「は、はい!」
「柳!」
「はい!」
「御堂に連絡! 「プランXXX」の準備をしておくように!」
「「プランXXX」ですか?」
「そうだ! 俺が万一死んだ場合のプランだ!」
「「「「「エェー!」」」」」
非常に不味いことになった。
だが、行かなければならない。
そうしなければ、とんでもないことになる。
俺は準備している亜紀ちゃんの脇で、「同田貫」を出した。
双子が手に入れてくれ、へし折れているものだ。
これで何とか言い逃れなければならない。
まあ、無理だろうが……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
タカさんが物凄く動揺していた。
どういうことかみんな聞きたがっていたが、そんな余裕が無いことは分かった。
だから、取り敢えず一緒に出発した。
ハマーに着替えなどの荷物。
それと大量の日本酒。
空いている段ボール箱に瓶をなるべく詰めて、他は紐で固定している。
ハーも何が何だか分からないけど、とにかく一緒にいる。
岩手の盛岡に行くと言われた。
道中で、タカさんが話してくれた。
「石神家の本家の当主が虎白さんだ。その人からの連絡だった」
「うん」
タカさんの話では、石神家をタカさんの父親・虎影さんが飛び出したことが発端だということだった。
本家の当主の座を弟さんの虎白さんに押し付けて出て来た。
石神家では、当主が家宝の「同田貫」を所持することになっている。
虎影さんは「同田貫」に惚れ込んでいたので、それを持ち出してしまった。
そのことが、今回の問題らしい。
虎白さんが当主なのだが、その証の「同田貫」を持って無い。
それで、実質的には虎影さんが当主ということになってしまっていた。
虎白さんはそれでいいと思っていたようだが、虎影さんが亡くなった(あちらでは行方不明)ので、タカさんが当主になるか、若しくは「同田貫」を返還しなければならない。
しかし、石神家家宝の「同田貫」は、子どものタカさんが折っちゃってる。
虎影さんはそのことは本家には伝えておらず、本家の方ではタカさんが持っているはずと思っている。
不味い問題だ。
「前によ、まあ10年も前だけど、一度本家に呼び出されて挨拶に行ったんだよ」
「そうなんですか」
「ちゃんと親父が「同田貫」をどこかへやっちゃったって話したんだ」
「え、ウソですよね?」
「しょうがねぇだろう! あのな、石神家っていうのは狂信者の集団なんだよ!」
「はい?」
「俺、本当に殺されそうになったんだから!」
「はぁ?」
詳しくは話してもらえなかったが、あのタカさんが脅え切っている。
ずっと震えながらハンドルを握っている。
顔は青くて冷や汗が浮いている。
「あの、私たちが一緒なのは?」
「俺は多分、死ぬか死ぬ寸前まで責められる」
「はい?」
「最後はお前たちの「手かざし」だけが頼りなんだ」
「はぁ?」
「あの人たちは、本当に狂ってるんだよ! 加減ってものがねぇ!」
何だか分からない。
だって、タカさん強いじゃん。
本気になれば、誰が相手だって負けるわけないじゃん。
そう思っていたのが間違いだったと分かった。
あれはナイわー。
朝食を食べていると、タケから電話が来た。
「総長が! 陣痛が始まりました!」
「おお、予定通りだったな!」
「はい! 石神様、ご予定は如何ですか?」
「そうだな、一江に連絡して調整してみるよ」
「お願いします!」
俺が六花に陣痛が始まったと子どもたちに言うと、大騒ぎになった。
「タカさん! いよいよですね!」
「落ち着け! まだ生まれてねぇ!」
もう大興奮だ。
まあ、もちろん俺も嬉しい。
自分のオペの予定を思い出して、一江と調整できそうだと思っていた。
そのつもりで、一江とは予めある程度の段取りは相談して来た。
また電話が鳴った。
固定電話だ。
ハーが受けた。
「はい? 石神ですけど、どちら様ですか? え? エェー!」
様子がおかしい。
俺が近寄ると、保留にして受話器を俺に渡した。
「あの! 石神コハクさんと言ってます!」
「!」
俺は一瞬で蒼白になり、脂汗が流れて来た。
身体の震えが抑えられない。
ハーが心配そうに見ている。
「タカさん?」
「……」
俺は「絶花」で自分を鎮め、何とか保留を解除して受話器を耳に当てた。
「高虎です」
「おう、虎白(こはく)だぁ!」
「ご、ご、ご無沙汰してます」
「ふざけんなぁ! てめぇ! 勝手に行方をくらましやがってぇ!」
「い、いいえ! そういうつもりは!」
「じゃあ、どうして電話が通じなくなったんだ! 住所も変えてやがんだろう!」
「す、すみませんでしたぁ!」
俺が電話で話しながら硬直し、頭を下げまくっているので子どもたちが驚いて見ていた。
「あの件はどうなってんだ!」
「それは、以前にもお話ししましたように……」
「おい、本気で言ってる?」
「申し訳ございません!」
しばらく平謝りで応対した。
「じゃあ、すぐに来い!」
「あ、あの、これから仕事でして」
「あぁ?」
「あ、あの」
「俺はすぐに来いって言ってんだけど?」
「はい! すぐに向かいます!」
電話を切った。
「タカさん?」
「……」
「あの、タカさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇ」
「一体何が?」
俺は深呼吸して椅子に座った。
「本家だ」
「はい?」
「石神の本家だよ。今のは当主の虎白さんだ。呼び出しを喰らった」
「はい?」
もう一度深呼吸した。
「石神家緊急事態! 亜紀ちゃん! 俺の旅行の準備! それと家にあるありったけの日本酒!」
「は、はい! あの、日本酒は100本近くになりますけど!」
「全部だあぁ! 急げ!」
「はい!」
「ルー! ハー! お前たちを連れて行く!」
「「え?」」
「緊急事態だぁ! 急げ!」
「「はい!」」
「皇紀!」
「はい!」
「うちにあるありったけの「Ω」と「オロチ」の粉末を集めろ! お前たちの分以外は全部だ!」
「は、はい!」
「柳!」
「はい!」
「御堂に連絡! 「プランXXX」の準備をしておくように!」
「「プランXXX」ですか?」
「そうだ! 俺が万一死んだ場合のプランだ!」
「「「「「エェー!」」」」」
非常に不味いことになった。
だが、行かなければならない。
そうしなければ、とんでもないことになる。
俺は準備している亜紀ちゃんの脇で、「同田貫」を出した。
双子が手に入れてくれ、へし折れているものだ。
これで何とか言い逃れなければならない。
まあ、無理だろうが……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
タカさんが物凄く動揺していた。
どういうことかみんな聞きたがっていたが、そんな余裕が無いことは分かった。
だから、取り敢えず一緒に出発した。
ハマーに着替えなどの荷物。
それと大量の日本酒。
空いている段ボール箱に瓶をなるべく詰めて、他は紐で固定している。
ハーも何が何だか分からないけど、とにかく一緒にいる。
岩手の盛岡に行くと言われた。
道中で、タカさんが話してくれた。
「石神家の本家の当主が虎白さんだ。その人からの連絡だった」
「うん」
タカさんの話では、石神家をタカさんの父親・虎影さんが飛び出したことが発端だということだった。
本家の当主の座を弟さんの虎白さんに押し付けて出て来た。
石神家では、当主が家宝の「同田貫」を所持することになっている。
虎影さんは「同田貫」に惚れ込んでいたので、それを持ち出してしまった。
そのことが、今回の問題らしい。
虎白さんが当主なのだが、その証の「同田貫」を持って無い。
それで、実質的には虎影さんが当主ということになってしまっていた。
虎白さんはそれでいいと思っていたようだが、虎影さんが亡くなった(あちらでは行方不明)ので、タカさんが当主になるか、若しくは「同田貫」を返還しなければならない。
しかし、石神家家宝の「同田貫」は、子どものタカさんが折っちゃってる。
虎影さんはそのことは本家には伝えておらず、本家の方ではタカさんが持っているはずと思っている。
不味い問題だ。
「前によ、まあ10年も前だけど、一度本家に呼び出されて挨拶に行ったんだよ」
「そうなんですか」
「ちゃんと親父が「同田貫」をどこかへやっちゃったって話したんだ」
「え、ウソですよね?」
「しょうがねぇだろう! あのな、石神家っていうのは狂信者の集団なんだよ!」
「はい?」
「俺、本当に殺されそうになったんだから!」
「はぁ?」
詳しくは話してもらえなかったが、あのタカさんが脅え切っている。
ずっと震えながらハンドルを握っている。
顔は青くて冷や汗が浮いている。
「あの、私たちが一緒なのは?」
「俺は多分、死ぬか死ぬ寸前まで責められる」
「はい?」
「最後はお前たちの「手かざし」だけが頼りなんだ」
「はぁ?」
「あの人たちは、本当に狂ってるんだよ! 加減ってものがねぇ!」
何だか分からない。
だって、タカさん強いじゃん。
本気になれば、誰が相手だって負けるわけないじゃん。
そう思っていたのが間違いだったと分かった。
あれはナイわー。
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