1,548 / 2,859
アラスカの蓮花
しおりを挟む
蓮花の研究所には昼前に着いた。
蓮花がいつもの彼岸花の着物ではなく、真っ白のレースの服を着ていた。
「お前! いつもと違うじゃんか!」
「そうでございますか?」
「俺の前では常にあの服だって言って無かったか?」
「さぁー」
ミユキが大笑いしていた。
蓮花が笑って俺の荷物を持ち、中へ入れた。
ティーグフで食堂に行くと、斬と千両が待っていた。
「よう! 遅くなったな!」
「ふん! 今日はまともな時間に起きたようだな」
「お前、分かんのかよ!」
「当たり前じゃ」
どうでもいいじゃんか。
俺たちは蓮花の食事を食べた。
斬も千両も、食事の所作が美しい。
俺が好ましいと思う人間の重要なことだ。
食事は神聖だ。
だから、美しく食べようとしなければいけない。
いい加減なものを喰う奴、だらしない喰い方をする奴は嫌いだ。
まあ、うちの子どもたちの「喰い」は別だが。
あれも、見方によっては美しい兄弟の愛情だ。
「喰い」以外は、俺の躾で美しく喰える。
「蓮花、その恰好で行くのか?」
「はい!」
「それも綺麗だけどな!」
「はい!」
食事の後で、すぐに出発だ。
1時には「タイガー・ファング」が到着する。
俺たちは急いで荷物を発着場へ運んだ。
蓮花がでかいスーツケースを持って来たので、俺が運んでやる。
青嵐と紫嵐と挨拶し、すぐに乗り込んだ。
「タイガー・ファング」は10分でアラスカへ着いた。
蓮花と千両のために、「虎の穴」の上空を旋回する。
下の景色が、正面のスクリーンに映し出され、蓮花が喜んだ。
「あれが「ヘッジホッグ」なのですね!」
「そうだ。スゴイだろう!」
「はい! いつか研究所にも」
「ああ、準備は進めているからな」
「あ! あちらが「アヴァロン」ですか!」
「ああ、美しい街だろう?」
「はい! なんという配列でしょうか!」
「後で案内するからな。ああ、大きな都市だから全部は回れないけどなぁ」
「はい! 楽しみです!」
今は夜の7時だ。
夜景になっているのが良かった。
基地の発着場に降りた。
電動移動車で栞の居住区へ行く。
「あなたー! おじいちゃん! 蓮花!」
栞がエレベーター前まで出迎えに来た。
士王を抱いている。
斬の顔が綻んだ。
俺は蓮花によく見ておけと言うと、蓮花が大笑いした。
「な! ほんとだったろ?」
「はい! びっくりです!」
斬は俺たちを見て一瞬顔を歪めたが、すぐに士王に笑顔を向けた。
士王を抱き上げてあやしている。
「おじーちゃん」
「おお!」
また蓮花と笑った。
千両も微笑んでいた。
部屋へ入り、士王をみんなで抱き上げる。
千両も笑顔で抱いた。
蓮花は嬉しそうに士王に話し掛け、士王も蓮花に笑顔で懐いた。
桜花たちは顔をくしゃくしゃにしながら蓮花に抱き着いた。
蓮花も目を潤ませた。
「よし! 食事に行くぞ!」
みんなで電動移動車に乗り、「ほんとの虎の穴」へ行く。
千万組で来れる者は全員集まっている。
俺たちが着くと、200名近い連中が待っていた。
千両と桜を見て、大歓声を挙げた。
俺と栞、蓮花、斬、桜花たちは同じテーブルを囲む。
千両と桜は、千万組の中だ。
酒と料理が運ばれ、大宴会になった。
「みんな、楽しそうね」
「ああ、久し振りだからなぁ。元々千両に惚れ込んでみんな集まってたのによ。俺が勝手にこんな地の果てまで連れて来ちまったからな」
「ウフフフフ」
「お前も楽しそうだな!」
「ふん!」
斬は士王の食事を自らやっていた。
スプーンで掬って、口に持って行ってやる。
士王も慣れていて、口に入れて行く。
「斬、お前ここで暮らしたらどうだ?」
「ふん! まだやることがあるわい」
「まあ、いいけどよ」
幸福になるために生きている男ではない。
千両たちはこのまま宴会だが、俺は蓮花と桜花たちを連れて「アヴァロン」へ行った。
栞と士王、斬は居住区へ戻る。
「あんまり遅くならないでね」
「ああ。じゃあ、頼むぞ、おじいちゃん!」
「ふん!」
俺がいてはしにくい話もあるはずだ。
ゆっくりとしてもらいたい。
電動移動車で「アヴァロン」に行き、一度降りて街を歩いた。
「大分人も増えて、いろんな店がやってるんだよ」
「はぁ! 本当に素敵な街ですね!」
蓮花が喜んでいた。
硝子を多用した建物が多い。
高さも計算されて美しい景観になるように設計されている。
道も歩道が広く、また所々に広場のような空間が余裕をもって設けられている。
思わずベンチに座って時を過ごしたくなるような街並みだ。
パピヨンに任せて本当に良かった。
「街灯も素敵ですね」
「そうだよな。通りによっても違うし、また商店やビルの灯も計算されていいんだよな」
「はい」
桜花たちも何度かは来ているだろうが、あまりゆっくりと歩くことは無いようだった。
「士王がもうちょっと大きくなったら、一緒に来てくれな」
「「「はい!」」」
俺たちは広場に面したカフェに入った。
大きなガラスに囲まれた造りで、広場が一望出来る。
「何か、もったいないような時間ですね」
「お前は働き過ぎだ! もうちょっと余裕を持て」
「アハハハハハ!」
「蓮花様、今日のお召し物は素敵ですね」
「そう?」
「はい。いつものお着物も宜しいのですが、洋装も素敵です」
「ウフフフフ」
「こいつ、若い頃はOLだったっていうんだからなぁ」
「まあ! そうなんですか!」
「な、驚くよな!」
「じゃあ、スーツを着ていらしたんですか」
「そうよ! おかしい?」
「はい!」
みんなで笑った。
「研究所では普段は白衣ですけど」
「まあ、着物はおかしいよなぁ」
「石神様の前でだけです」
「蓮花の着物はいいけどな」
「ほんとうでございますか!」
「ああ、似合ってるよ」
「この服はどうですか!」
「お前、今日は突っ込んで来るな」
「それはもう! この日のために考え抜いて選んだものですので」
「もちろん綺麗だよ」
「オホホホホホ!」
蓮花が浮かれていた。
この女がこんなにも喜んでくれるとは思わなかった。
今後の拠点の一つにもなるから、案内しておこうというつもりが大きかったのだが。
まあ、少し分かる。
自分たちが懸命にやってきたことが、こうやってちゃんと形になっていることが嬉しいのだ。
無我夢中で走って来て、その景色を眺めている。
俺たちは前に進んでいる。
この美しい光景を生み出す、一助となったことが嬉しい。
その後、「ほんとの虎の穴」に戻り、みんなで酒を飲んだ。
蓮花は終始楽しそうだったし、桜花たちも笑って過ごした。
蓮花がいつもの彼岸花の着物ではなく、真っ白のレースの服を着ていた。
「お前! いつもと違うじゃんか!」
「そうでございますか?」
「俺の前では常にあの服だって言って無かったか?」
「さぁー」
ミユキが大笑いしていた。
蓮花が笑って俺の荷物を持ち、中へ入れた。
ティーグフで食堂に行くと、斬と千両が待っていた。
「よう! 遅くなったな!」
「ふん! 今日はまともな時間に起きたようだな」
「お前、分かんのかよ!」
「当たり前じゃ」
どうでもいいじゃんか。
俺たちは蓮花の食事を食べた。
斬も千両も、食事の所作が美しい。
俺が好ましいと思う人間の重要なことだ。
食事は神聖だ。
だから、美しく食べようとしなければいけない。
いい加減なものを喰う奴、だらしない喰い方をする奴は嫌いだ。
まあ、うちの子どもたちの「喰い」は別だが。
あれも、見方によっては美しい兄弟の愛情だ。
「喰い」以外は、俺の躾で美しく喰える。
「蓮花、その恰好で行くのか?」
「はい!」
「それも綺麗だけどな!」
「はい!」
食事の後で、すぐに出発だ。
1時には「タイガー・ファング」が到着する。
俺たちは急いで荷物を発着場へ運んだ。
蓮花がでかいスーツケースを持って来たので、俺が運んでやる。
青嵐と紫嵐と挨拶し、すぐに乗り込んだ。
「タイガー・ファング」は10分でアラスカへ着いた。
蓮花と千両のために、「虎の穴」の上空を旋回する。
下の景色が、正面のスクリーンに映し出され、蓮花が喜んだ。
「あれが「ヘッジホッグ」なのですね!」
「そうだ。スゴイだろう!」
「はい! いつか研究所にも」
「ああ、準備は進めているからな」
「あ! あちらが「アヴァロン」ですか!」
「ああ、美しい街だろう?」
「はい! なんという配列でしょうか!」
「後で案内するからな。ああ、大きな都市だから全部は回れないけどなぁ」
「はい! 楽しみです!」
今は夜の7時だ。
夜景になっているのが良かった。
基地の発着場に降りた。
電動移動車で栞の居住区へ行く。
「あなたー! おじいちゃん! 蓮花!」
栞がエレベーター前まで出迎えに来た。
士王を抱いている。
斬の顔が綻んだ。
俺は蓮花によく見ておけと言うと、蓮花が大笑いした。
「な! ほんとだったろ?」
「はい! びっくりです!」
斬は俺たちを見て一瞬顔を歪めたが、すぐに士王に笑顔を向けた。
士王を抱き上げてあやしている。
「おじーちゃん」
「おお!」
また蓮花と笑った。
千両も微笑んでいた。
部屋へ入り、士王をみんなで抱き上げる。
千両も笑顔で抱いた。
蓮花は嬉しそうに士王に話し掛け、士王も蓮花に笑顔で懐いた。
桜花たちは顔をくしゃくしゃにしながら蓮花に抱き着いた。
蓮花も目を潤ませた。
「よし! 食事に行くぞ!」
みんなで電動移動車に乗り、「ほんとの虎の穴」へ行く。
千万組で来れる者は全員集まっている。
俺たちが着くと、200名近い連中が待っていた。
千両と桜を見て、大歓声を挙げた。
俺と栞、蓮花、斬、桜花たちは同じテーブルを囲む。
千両と桜は、千万組の中だ。
酒と料理が運ばれ、大宴会になった。
「みんな、楽しそうね」
「ああ、久し振りだからなぁ。元々千両に惚れ込んでみんな集まってたのによ。俺が勝手にこんな地の果てまで連れて来ちまったからな」
「ウフフフフ」
「お前も楽しそうだな!」
「ふん!」
斬は士王の食事を自らやっていた。
スプーンで掬って、口に持って行ってやる。
士王も慣れていて、口に入れて行く。
「斬、お前ここで暮らしたらどうだ?」
「ふん! まだやることがあるわい」
「まあ、いいけどよ」
幸福になるために生きている男ではない。
千両たちはこのまま宴会だが、俺は蓮花と桜花たちを連れて「アヴァロン」へ行った。
栞と士王、斬は居住区へ戻る。
「あんまり遅くならないでね」
「ああ。じゃあ、頼むぞ、おじいちゃん!」
「ふん!」
俺がいてはしにくい話もあるはずだ。
ゆっくりとしてもらいたい。
電動移動車で「アヴァロン」に行き、一度降りて街を歩いた。
「大分人も増えて、いろんな店がやってるんだよ」
「はぁ! 本当に素敵な街ですね!」
蓮花が喜んでいた。
硝子を多用した建物が多い。
高さも計算されて美しい景観になるように設計されている。
道も歩道が広く、また所々に広場のような空間が余裕をもって設けられている。
思わずベンチに座って時を過ごしたくなるような街並みだ。
パピヨンに任せて本当に良かった。
「街灯も素敵ですね」
「そうだよな。通りによっても違うし、また商店やビルの灯も計算されていいんだよな」
「はい」
桜花たちも何度かは来ているだろうが、あまりゆっくりと歩くことは無いようだった。
「士王がもうちょっと大きくなったら、一緒に来てくれな」
「「「はい!」」」
俺たちは広場に面したカフェに入った。
大きなガラスに囲まれた造りで、広場が一望出来る。
「何か、もったいないような時間ですね」
「お前は働き過ぎだ! もうちょっと余裕を持て」
「アハハハハハ!」
「蓮花様、今日のお召し物は素敵ですね」
「そう?」
「はい。いつものお着物も宜しいのですが、洋装も素敵です」
「ウフフフフ」
「こいつ、若い頃はOLだったっていうんだからなぁ」
「まあ! そうなんですか!」
「な、驚くよな!」
「じゃあ、スーツを着ていらしたんですか」
「そうよ! おかしい?」
「はい!」
みんなで笑った。
「研究所では普段は白衣ですけど」
「まあ、着物はおかしいよなぁ」
「石神様の前でだけです」
「蓮花の着物はいいけどな」
「ほんとうでございますか!」
「ああ、似合ってるよ」
「この服はどうですか!」
「お前、今日は突っ込んで来るな」
「それはもう! この日のために考え抜いて選んだものですので」
「もちろん綺麗だよ」
「オホホホホホ!」
蓮花が浮かれていた。
この女がこんなにも喜んでくれるとは思わなかった。
今後の拠点の一つにもなるから、案内しておこうというつもりが大きかったのだが。
まあ、少し分かる。
自分たちが懸命にやってきたことが、こうやってちゃんと形になっていることが嬉しいのだ。
無我夢中で走って来て、その景色を眺めている。
俺たちは前に進んでいる。
この美しい光景を生み出す、一助となったことが嬉しい。
その後、「ほんとの虎の穴」に戻り、みんなで酒を飲んだ。
蓮花は終始楽しそうだったし、桜花たちも笑って過ごした。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる