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どうでもいい話
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少し先の話。
「小鉄くん! また来たよー!」
「亜蘭さん! 座って下さい!」
時々休みの日に「弱肉強食」で食事をするようになり、亜蘭は小鉄と親しくなっていった。
女性しかいない「紅六花」の中にあって、数少ない男性同士、しかも気弱な二人は互いの優しさを感じ合って行った。
絆が深まるのに、大した時間は掛からなかった。
「今日は何を食べます?」
「小鉄スペシャルがいいな!」
「アハハハハ! 分かりました! すぐに作りますね」
そんなメニューはない。
小鉄が亜蘭の好物を聞いて、亜蘭のために作るものだ。
ケチャップライスにチンジャオロースと唐揚げが乗っているプレート。
10分程でそれを作る。
それにいつも冷やした牛乳を付ける。
牛乳は小鉄の好物だったが、亜蘭も気に入っていた。
濃厚なのだが、味がスッキリとしている。
飲みやすく美味しい牛乳だった。
「特別なルートで仕入れているんですよ」
「でも、料理に使ってる?」
「いいえ! 僕の好物なだけです」
「アハハハハハ!」
休日の亜蘭はゆっくりと食事をし、いつも閉店頃までいる。
小鉄が手が空いていると、一緒に楽しく話す。
それが亜蘭と小鉄の楽しみになっていた。
話すことは他愛が無い。
テレビで観たことや、自分たちの思い出、近況や出来事など。
ただ、愚痴はなるべく零さないこと。
それが暗黙のルールのようになっていた。
でも、どうしようもない時には、最初に断って話す。
そして、それに対して相手は何も言わない。
黙って聴く。
しかし、それほど愚痴は出なかった。
今の生活に満足しているわけではない。
二人とも、もっと先へ行こうとしていた。
亜蘭は「暁園」の子どもたちのため。
小鉄はいつか取り戻す両親の店「宝来屋」のため。
だからこそ、二人の絆は深まった。
「ねえ、亜蘭さん」
店が一段落し、片づけや明日の仕込みも終わった小鉄が、牛乳をジョッキに二つ持って亜蘭のテーブルに来た。
「なんだい?」
「亜蘭さんは結婚はしないんですか?」
「え!」
「だって、亜蘭さんって優しい人じゃないですか。見た目だって悪くは無いし」
「そんなの! 僕なんかは無理だよ!」
「なんでですか。亜蘭さんは素敵ですよ?」
唐突に話題を振って来た小鉄に、亜蘭は狼狽していた。
「無理だって! 僕はダメな人間だよ。こんな僕を好きになってくれる人なんかいないよ」
「そうですかねー」
「小鉄くんこそどうなの?」
「僕ですか? まあ、全然。僕こそ魅力なんてものはないですからね」
「そんなことはないよ! 小鉄くんはいい人だよ!」
「アハハハハ! 僕なんかは田舎の中華料理屋でなんとかやってるような小物ですから」
「違うよ!」
「まあ、いいですけど。でも、今まで全然女性と付き合ったこともないですしね。好きだと言われたことも無い」
「それは僕も同じだよ。まー、悲惨」
「「アハハハハハ!」」
二人で笑い合った。
「じゃあ質問を替えて。亜蘭さんは誰かを好きになったことはありますか?」
「そりゃーね」
「え! 聞かせて下さいよ」
「恥ずかしいよ!」
「いいじゃないですか」
亜蘭は小鉄の顔を見た。
「僕はさ。大人の女性はあんまりなんだ」
「ええ、知ってますよ」
「だからさ、好きになっても付き合うことは出来なかったんだ」
「そうですか」
「ルーさんとハーさんだけかな、告白しようと思ったのは」
「ああ!」
「あまりにも可愛くてね! そっと後を付けたりしたんだ」
「ちょっとコワイですね」
「そう言うなよ! 僕は本気で恋をしたんだから!」
「ああ、すいません」
小鉄は亜蘭の子ども好きを否定しなかった。
好きになるのは、人それぞれだ。
「それで告白したんですか?」
「いや、ダメだった。でも頑張ったんだよ! その当時、石神さんの家でお宅の拡張工事をしていてね。僕はそこで働かせてもらってたんだ」
「ああ、聞きましたよ。亜蘭さんが真面目に働いていたんで、石神さんも気に入られたとか」
「うーん、そう立派なことじゃないんだけどね。最初の頃はもう本当にダメダメで。午前中に疲れて斃れちゃったりね」
「アハハハハ!」
「そんなに笑うなよ。でもちょっとずつ長く仕事が出来るようになったんだ。そうしたら、三時の休憩でルーさんとハーさんが出て来てね! おやつを配ってくれたんだ!」
「良かったですね!」
小鉄も嬉しそうに微笑んで聞いていた。
亜蘭の幸せがよく分かった。
「それでますますやる気が出てさ! それからかな。最後まで倒れないでいられるようになったのは」
「そうなんですね」
小鉄は聞いていた。
風で建材が倒れた時に、亜蘭が飛び出して双子を助けようとしたことを。
そのことが石神に亜蘭への信頼を最も得させた要因であることを。
でも、亜蘭はその話をしなかった。
自分の自慢になるようなことは、話さない人間だった。
「じゃあ、亜蘭さんは今でもルーさんとハーさんが好きなんですか?」
「まあ、そうだけど。でも、あの二人には他にも大きな感謝があるしね」
「あれ! じゃあ他に好きな人が出来たんですね!」
「おい!」
「教えて下さいよ! そうしたら僕も好きな人を教えます!」
「そうか! ああ、でも本当に黙っててくれよな」
「はい!」
亜蘭は深呼吸した。
周囲に人がいないことを確認した。
「キッチさんなんだ」
「エェー!」
「あの人は大人だけど、ほら、背は低いだろ?」
「はい……」
「それに明るくて優しくて。ちょっと守りたくなる人だよね? だから段々好きになっちゃって」
「そ、そうなんですか」
亜蘭は小鉄の様子がおかしいことに気付いた。
「小鉄くん?」
「あの、亜蘭さん」
「うん?」
小鉄が真剣な顔をしていた。
「亜蘭さんだから、僕も正直に言います。僕もキッチさんが好きです」
「なんだって!」
亜蘭は慌てた。
「それじゃ僕たちは!」
「そうですね。同じ女の人を好きになったみたいですね」
「そうかー」
「でも、亜蘭さんの方がお似合いですよ。亜蘭さんは強いし優しいし」
「ダメだよ! 僕なんか全然強くないよ! それに小鉄くんだってキッチさんが好きなんだろう!」
亜蘭が叫んだ。
「亜蘭さん……」
「とにかく、小鉄くんも諦めちゃダメだ! 僕たちは友達だよ!」
「はい!」
「それにキッチさんが僕たちのことなんか好きになるわけもないしね!」
「アハハハハ! それもそうですね!」
「石神さんが言ってたよ。愛したら、その愛は自分のものだって。だから愛した人のために一生懸命に何かをすればいいんだって」
「そうか! その通りですね!」
「そうだよ! 付き合いたいとか、そういうんじゃないんだよ」
「分かりました!」
大声で話していたので、タケの耳に届いた。
後日、タケはキッチにその話をした。
「えぇー! あの二人がですか!」
「うん。まあ、困るだろうけど、一応キッチには教えた方がいいかなって」
「うーん。私にはさっぱりその気はないですね」
「やっぱそうか」
「はい」
タケは笑って、キッチに謝った。
「悪かったよ。でも、お前もそろそろ彼氏とか欲しいんじゃないのか?」
「まあ、人並みにはそうですけど」
「誰か好きな人はいるのかよ?」
「ええ、まあ」
「教えろ!」
「エェー!」
「いいじゃないか!」
「全然良くないですよ!」
しかし、幹部のタケの命令には逆らえずに、キッチは口にした。
「あの、おかしいって思うでしょうけど!」
「誰を好きになったっていいんだよ!」
「じゃあ、言いますよ! 私は竹流が好きなんです」
「お前! なんなんだよ!」
「あー! だから否定しないって言ったじゃないですか!」
「だけど、あいつはまだ小学六年生だぞ?」
「いいじゃないですか! 好きになっちゃったんですから!」
「うー、まあそうだけどなぁ」
キッチがタケを睨んでいる。
「あー! だからお前! 順番でもないのに公園の掃除にしょっちゅう行ってるのかよ!」
「そうですよ! だってそれしか接点が持てないじゃないですか!」
「お前なー」
「なんですか!」
別にキッチが不埒なことをするわけでもないだろうと思った。
だけど、念のためによしこにも相談した。
「小鉄と亜蘭がキッチが好きらしくてさ」
「おう」
「そのキッチが竹流が好きなんだと」
「おう」
「どう思う?」
「あ? いや、別に」
「そっか」
「竹流にそれとなく聞いとこうか?」
「念のためな。まだ子どもだけど、あいつはしっかりしてるからなぁ。あいつも誰か好きな人がいるかもしれない」
「そうだよな」
また後日、よしこがタケに電話で話した。
「竹流な」
「うん」
「ミカが好きらしいぞ」
「なんだって! 夏音じゃないのか?」
夏音は親友だった聖歌が死んでからも、ずっと竹流と親しくしていた。
よく「六花紫苑公園」で会っている。
「夏音とも親しいけどな。でも恋愛感情は無いらしい。夏音の方はどうか分からんけな」
「そうだったかー」
「ミカは何て言うか、母性愛ってのか。そういうのがあるじゃんか」
「あー、まーなー」
「前に竹流の母親の写真を見たんだけどよ。何となくミカに面影があるんだよ」
「そりゃ、だったらなぁ」
「それでな」
「うん」
「ミカが好きなのは、当然「虎」の旦那だ」
「あちゃー、まあそれはしょうがねぇよなぁ」
「いつも宴会で最後まで残ってるじゃんか。「虎」の旦那のいろんな話聞いたり、あの優しさがなぁ。どうしたって惚れちまうよ」
「じゃあ、この話はこれで終わりだな」
「ああ、誰も報われないというなぁ」
「ところで、これって何角関係って言うんだ?」
「ああ? うーん、なんか一直線って感じじゃないか?」
「そういうもんか」
「どうでもいいだろう」
「キッチは亜蘭と小鉄で三角関係にならないか?」
「いや、全然興味ねぇわ」
「ああ、あたしもだわ」
二人で笑って電話を切った。
「小鉄くん! また来たよー!」
「亜蘭さん! 座って下さい!」
時々休みの日に「弱肉強食」で食事をするようになり、亜蘭は小鉄と親しくなっていった。
女性しかいない「紅六花」の中にあって、数少ない男性同士、しかも気弱な二人は互いの優しさを感じ合って行った。
絆が深まるのに、大した時間は掛からなかった。
「今日は何を食べます?」
「小鉄スペシャルがいいな!」
「アハハハハ! 分かりました! すぐに作りますね」
そんなメニューはない。
小鉄が亜蘭の好物を聞いて、亜蘭のために作るものだ。
ケチャップライスにチンジャオロースと唐揚げが乗っているプレート。
10分程でそれを作る。
それにいつも冷やした牛乳を付ける。
牛乳は小鉄の好物だったが、亜蘭も気に入っていた。
濃厚なのだが、味がスッキリとしている。
飲みやすく美味しい牛乳だった。
「特別なルートで仕入れているんですよ」
「でも、料理に使ってる?」
「いいえ! 僕の好物なだけです」
「アハハハハハ!」
休日の亜蘭はゆっくりと食事をし、いつも閉店頃までいる。
小鉄が手が空いていると、一緒に楽しく話す。
それが亜蘭と小鉄の楽しみになっていた。
話すことは他愛が無い。
テレビで観たことや、自分たちの思い出、近況や出来事など。
ただ、愚痴はなるべく零さないこと。
それが暗黙のルールのようになっていた。
でも、どうしようもない時には、最初に断って話す。
そして、それに対して相手は何も言わない。
黙って聴く。
しかし、それほど愚痴は出なかった。
今の生活に満足しているわけではない。
二人とも、もっと先へ行こうとしていた。
亜蘭は「暁園」の子どもたちのため。
小鉄はいつか取り戻す両親の店「宝来屋」のため。
だからこそ、二人の絆は深まった。
「ねえ、亜蘭さん」
店が一段落し、片づけや明日の仕込みも終わった小鉄が、牛乳をジョッキに二つ持って亜蘭のテーブルに来た。
「なんだい?」
「亜蘭さんは結婚はしないんですか?」
「え!」
「だって、亜蘭さんって優しい人じゃないですか。見た目だって悪くは無いし」
「そんなの! 僕なんかは無理だよ!」
「なんでですか。亜蘭さんは素敵ですよ?」
唐突に話題を振って来た小鉄に、亜蘭は狼狽していた。
「無理だって! 僕はダメな人間だよ。こんな僕を好きになってくれる人なんかいないよ」
「そうですかねー」
「小鉄くんこそどうなの?」
「僕ですか? まあ、全然。僕こそ魅力なんてものはないですからね」
「そんなことはないよ! 小鉄くんはいい人だよ!」
「アハハハハ! 僕なんかは田舎の中華料理屋でなんとかやってるような小物ですから」
「違うよ!」
「まあ、いいですけど。でも、今まで全然女性と付き合ったこともないですしね。好きだと言われたことも無い」
「それは僕も同じだよ。まー、悲惨」
「「アハハハハハ!」」
二人で笑い合った。
「じゃあ質問を替えて。亜蘭さんは誰かを好きになったことはありますか?」
「そりゃーね」
「え! 聞かせて下さいよ」
「恥ずかしいよ!」
「いいじゃないですか」
亜蘭は小鉄の顔を見た。
「僕はさ。大人の女性はあんまりなんだ」
「ええ、知ってますよ」
「だからさ、好きになっても付き合うことは出来なかったんだ」
「そうですか」
「ルーさんとハーさんだけかな、告白しようと思ったのは」
「ああ!」
「あまりにも可愛くてね! そっと後を付けたりしたんだ」
「ちょっとコワイですね」
「そう言うなよ! 僕は本気で恋をしたんだから!」
「ああ、すいません」
小鉄は亜蘭の子ども好きを否定しなかった。
好きになるのは、人それぞれだ。
「それで告白したんですか?」
「いや、ダメだった。でも頑張ったんだよ! その当時、石神さんの家でお宅の拡張工事をしていてね。僕はそこで働かせてもらってたんだ」
「ああ、聞きましたよ。亜蘭さんが真面目に働いていたんで、石神さんも気に入られたとか」
「うーん、そう立派なことじゃないんだけどね。最初の頃はもう本当にダメダメで。午前中に疲れて斃れちゃったりね」
「アハハハハ!」
「そんなに笑うなよ。でもちょっとずつ長く仕事が出来るようになったんだ。そうしたら、三時の休憩でルーさんとハーさんが出て来てね! おやつを配ってくれたんだ!」
「良かったですね!」
小鉄も嬉しそうに微笑んで聞いていた。
亜蘭の幸せがよく分かった。
「それでますますやる気が出てさ! それからかな。最後まで倒れないでいられるようになったのは」
「そうなんですね」
小鉄は聞いていた。
風で建材が倒れた時に、亜蘭が飛び出して双子を助けようとしたことを。
そのことが石神に亜蘭への信頼を最も得させた要因であることを。
でも、亜蘭はその話をしなかった。
自分の自慢になるようなことは、話さない人間だった。
「じゃあ、亜蘭さんは今でもルーさんとハーさんが好きなんですか?」
「まあ、そうだけど。でも、あの二人には他にも大きな感謝があるしね」
「あれ! じゃあ他に好きな人が出来たんですね!」
「おい!」
「教えて下さいよ! そうしたら僕も好きな人を教えます!」
「そうか! ああ、でも本当に黙っててくれよな」
「はい!」
亜蘭は深呼吸した。
周囲に人がいないことを確認した。
「キッチさんなんだ」
「エェー!」
「あの人は大人だけど、ほら、背は低いだろ?」
「はい……」
「それに明るくて優しくて。ちょっと守りたくなる人だよね? だから段々好きになっちゃって」
「そ、そうなんですか」
亜蘭は小鉄の様子がおかしいことに気付いた。
「小鉄くん?」
「あの、亜蘭さん」
「うん?」
小鉄が真剣な顔をしていた。
「亜蘭さんだから、僕も正直に言います。僕もキッチさんが好きです」
「なんだって!」
亜蘭は慌てた。
「それじゃ僕たちは!」
「そうですね。同じ女の人を好きになったみたいですね」
「そうかー」
「でも、亜蘭さんの方がお似合いですよ。亜蘭さんは強いし優しいし」
「ダメだよ! 僕なんか全然強くないよ! それに小鉄くんだってキッチさんが好きなんだろう!」
亜蘭が叫んだ。
「亜蘭さん……」
「とにかく、小鉄くんも諦めちゃダメだ! 僕たちは友達だよ!」
「はい!」
「それにキッチさんが僕たちのことなんか好きになるわけもないしね!」
「アハハハハ! それもそうですね!」
「石神さんが言ってたよ。愛したら、その愛は自分のものだって。だから愛した人のために一生懸命に何かをすればいいんだって」
「そうか! その通りですね!」
「そうだよ! 付き合いたいとか、そういうんじゃないんだよ」
「分かりました!」
大声で話していたので、タケの耳に届いた。
後日、タケはキッチにその話をした。
「えぇー! あの二人がですか!」
「うん。まあ、困るだろうけど、一応キッチには教えた方がいいかなって」
「うーん。私にはさっぱりその気はないですね」
「やっぱそうか」
「はい」
タケは笑って、キッチに謝った。
「悪かったよ。でも、お前もそろそろ彼氏とか欲しいんじゃないのか?」
「まあ、人並みにはそうですけど」
「誰か好きな人はいるのかよ?」
「ええ、まあ」
「教えろ!」
「エェー!」
「いいじゃないか!」
「全然良くないですよ!」
しかし、幹部のタケの命令には逆らえずに、キッチは口にした。
「あの、おかしいって思うでしょうけど!」
「誰を好きになったっていいんだよ!」
「じゃあ、言いますよ! 私は竹流が好きなんです」
「お前! なんなんだよ!」
「あー! だから否定しないって言ったじゃないですか!」
「だけど、あいつはまだ小学六年生だぞ?」
「いいじゃないですか! 好きになっちゃったんですから!」
「うー、まあそうだけどなぁ」
キッチがタケを睨んでいる。
「あー! だからお前! 順番でもないのに公園の掃除にしょっちゅう行ってるのかよ!」
「そうですよ! だってそれしか接点が持てないじゃないですか!」
「お前なー」
「なんですか!」
別にキッチが不埒なことをするわけでもないだろうと思った。
だけど、念のためによしこにも相談した。
「小鉄と亜蘭がキッチが好きらしくてさ」
「おう」
「そのキッチが竹流が好きなんだと」
「おう」
「どう思う?」
「あ? いや、別に」
「そっか」
「竹流にそれとなく聞いとこうか?」
「念のためな。まだ子どもだけど、あいつはしっかりしてるからなぁ。あいつも誰か好きな人がいるかもしれない」
「そうだよな」
また後日、よしこがタケに電話で話した。
「竹流な」
「うん」
「ミカが好きらしいぞ」
「なんだって! 夏音じゃないのか?」
夏音は親友だった聖歌が死んでからも、ずっと竹流と親しくしていた。
よく「六花紫苑公園」で会っている。
「夏音とも親しいけどな。でも恋愛感情は無いらしい。夏音の方はどうか分からんけな」
「そうだったかー」
「ミカは何て言うか、母性愛ってのか。そういうのがあるじゃんか」
「あー、まーなー」
「前に竹流の母親の写真を見たんだけどよ。何となくミカに面影があるんだよ」
「そりゃ、だったらなぁ」
「それでな」
「うん」
「ミカが好きなのは、当然「虎」の旦那だ」
「あちゃー、まあそれはしょうがねぇよなぁ」
「いつも宴会で最後まで残ってるじゃんか。「虎」の旦那のいろんな話聞いたり、あの優しさがなぁ。どうしたって惚れちまうよ」
「じゃあ、この話はこれで終わりだな」
「ああ、誰も報われないというなぁ」
「ところで、これって何角関係って言うんだ?」
「ああ? うーん、なんか一直線って感じじゃないか?」
「そういうもんか」
「どうでもいいだろう」
「キッチは亜蘭と小鉄で三角関係にならないか?」
「いや、全然興味ねぇわ」
「ああ、あたしもだわ」
二人で笑って電話を切った。
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