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私とシャドウさん

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 双子が新しいギャグを発明した。

 「タカさーん! 朝ですよー!」
 「朝ごはんですよー!」

 いつものように、休日に起こしに来た。

 「もうちょっと寝かせろ」
 「なにぃー!
 「おまえー、ポコポコにしてやるぅー!」

 何だと思ったら、ベッドに登って来て俺の身体をポコポコした。

 「ワハハハハハハ!」
 「「ワハハハハハハ!」」

 面白かったのですぐに起きた。
 何か俺のツボにはまったようで、その日は何度も「俺をポコポコにしろ!」と言って楽しんだ。

 朝食を食べ終わってコーヒーを飲んでいると蓮花から電話が来て、研究所の進捗を聞いた。

 「よし、順調だな! ああ、それでな」

 俺は双子のギャグを蓮花にも話した。
 蓮花も大笑いして、楽しいギャグだと言った。

 「わたくしもやっても宜しいでしょうか?」
 「お前が? ああ! どんどんやれよ!」
 「ありがとうございます」

 ところであいつ、誰にやるんだ?




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 私はいつものようにお弁当を持って、山道を登って行った。
 シャドウさんに持って行くのだ。

 「シャドウさん、今日、石神様から素敵なギャグをお聞きしたのですよ」
 「そうですか! どのようなものですか?」
 「お前をポコポコにしてやる!」

 そう言って私はシャドウさんの大きなお腹をポコポコした。

 「ワハハハハハハ!」
 
 シャドウさんが大笑いした。





 石神様の御血の安全の証明のために、シャドウさんが生まれた。
 石神様の愛情を得て、シャドウさんはとても優しい。
 でも、最初は私も恐ろしくも感じていた。
 それはただ石神様の御血を輸血しただけの動物は、みな凶暴になっていたからだ。
 しかも知性は人間以上にあるようだった。
 力も、石神様の力に近いほどにある。
 
 しかしこちらの都合で生まれてしまったシャドウさんを、放っておくことは出来なかった。
 石神様は、シャドウ様に自活するようにお命じになっていたが、私はそのままではいられなかった。
 勇気を奮って、シャドウさんのいる山に入り、小屋までお食事を持って行った。

 「蓮花さん!」
 「シャドウさん! お元気ですか?」
 「はい。このような獲物の豊富な場所を与えて頂き、毎日不自由なく暮らしております」
 「そうですか。今日はつまらないものですが、お食事をお持ちしてみたのですが」
 「それはありがたい! 宜しいのですか?」
 「はい。お口に合えばよろしいのですが」

 シャドウさんは小屋から出られ、外で食事をされた。
 小屋を清潔に保つためだろう。
 いつも外で食事をされているのだろうと思った。
 焼いた肉と魚、それに食べるか分からなかったが、おにぎりも持って来た。
 シャドウさんは意外にも優雅な手つきで召し上がっていた。
 
 「これは、おにぎりですね!」
 「はい。どのようなものがお好きか分からなかったので、そういうものも」
 「ありがたい。頂きます」

 片手でおにぎりを持ち、食べられた。

 「美味い! これはいいものですね!」
 「さようでございますか。お気に召したようで良かったです」

 本当に美味しそうに召し上がった。
 焼いた鮭、高菜、昆布の三種類だ。

 「高菜が一番美味しかったです」
 「では、また作ってまいりましょう」
 「ああ! ですがいろいろなものがあると嬉しいです」
 「かしこまりました」
 「あ! 何か催促してしまって、申し訳ありません!」
 「ウフフフフ」

 お姿はネズミのままなのだが、明らかに知性と優しさを感じる。
 こころなし、表情も柔和な感じだ。

 しばらくそこでの暮らしをお聞きし、必要なものを聞いた。
 普段は狩をしているようだが、山の中の食べられる草木や果実なども一通り調べているようだった。
 水は近くの沢でまかなっているらしい。
 下に行くと川もあり、時々水浴びなどもなさっているそうだ。

 「ここに水場があるとよろしいですね」
 「それはそうなのですが、でも、贅沢というものでしょう。今のままで十分ですよ」
 
 その日はそのまま帰った。
 初めての会話だったが、私にはシャドウさんが礼儀正しく信頼出来る方と見受けられた。
 石神様に御相談した。

 「水場かぁ」
 「はい。それと綺麗好きな方のようですので、本当は温泉などもあればと」
 「うーん。そうだなぁ、あいつにはこっちの勝手で迷惑を掛けてしまったからな」
 「はい」
 「よし! クロピョンにやらせよう!」
 「なるほど!」

 石神様はすぐにクロピョンさんに命じられ、小屋の周囲に水場と温泉を作って下さった。
 シャドウさんが大喜びした。

 「石神様! 蓮花様! 本当にありがとうございました!」
 「いいよ、他に何か不自由はないか?」
 「いいえ! もう十分です!」
 「ああ、でも冬場になると得物も獲れなくなるんじゃないか?」
 「はい! ですので今から日干しにしたり、保存食を作っています」
 「お前! すげぇな!」
 「アハハハハハ!」

 石神様は研究所で、私に食糧事情をよく見るように言われた。

 「ああ言ってても、冬は厳しいだろう。温泉があるから温かいだろうけど、食糧は出来る範囲で世話してやってくれ」
 「かしこまりました!」

 やはり石神様は御優しい。
 私は週に一度、シャドウさんの所へ行き、様子を伺いながら楽しくお話しするようになった。
 シャドウさんは思っていた以上に知性があり、私に幾つかのヒントを与えても下さった。
 それに何よりも楽しいお話が出来た。
 自分では思ってもみなかったが、私は結構ストレスがあったようだ。
 シャドウさんとお話しするようになってから、仕事を伸び伸びと出来るようになったことに気付いた。

 ただ、毎回山道を登るのはきつかった。
 運動になったということも出来るが、やはり私は身体が強くない。
 山道も登れる自動走行車を作った。
 四輪のもので、悪路でも大丈夫なものだ。
 初めてそれで伺った時、シャドウさんが大笑いされた。

 「蓮花さんは器用な方なんですね」
 「はい、こういうものは得意ですの」
 「アハハハハハ!」

 まだ温かかったが、シャドウさんにチャンチャンコを作って行ったこともある。
 大変喜んでもらった。
 冬場には、よくそれを羽織ってくれていた。

 


 雪の積もった日。
 私はいつも通りに自動走行車でシャドウさんの所へ行った。
 石神様から大量のカニを送っていただき、シャドウさんにもお裾分けしようと思った。

 「ありがとうございます! これは美味しそうだ!」
 「あの、殻を割って置いた方が宜しかったでしょうか?」
 「いいえ! 大丈夫ですよ!」

 そう言ってシャドウさんは両手の爪で器用に殻を剥いで見せた。
 しばらく楽しくお話しし、帰ることにした。

 しかし、道に出る前に、自動走行車が雪で滑って横転してしまった。
 私は荷台から放り出され、樹に左肩をぶつけた。
 鎖骨が折れた。

 痛みに苦しんでいた所へ、シャドウさんが駆け寄ってきてくれた。

 「蓮花さん!」
 「シャドウさん」
 「大丈夫ですか! 大きな音が聞こえたので!」
 「骨折してしまったようです」
 「すぐに運びます!」

 そう言って、私の身体を両手で抱えて走り出した。
 もっと速く走れたのだろうが、私の身体を気遣って、丁寧に運んでくれた。

 研究所の前に来て、シャドウさんは高い門を飛び上がった。
 途端に防衛システムが稼働し、武装したブランたちとデュール・ゲリエが出て来た。
 私は生憎、防衛システムを操作する端末は持っていなかった。
 シャドウさんはみんなが集まって来たのを見て、私をそっと地面に置いた。
 
 「みなさん! ダメです! 攻撃しないで!」

 ブランたちは私の言葉で止まってくれたが、デュール・ゲリエはシャドウさんをブレードと銃器で攻撃した。
 シャドウさんは「花岡」で防いでいた。
 シャドウさんがデュール・ゲリエを攻撃することは無かった。
 何カ所か怪我をされたのが分かった。
 
 シャドウさんは私の方を見て微笑んで、また門を飛び上がって走って行った。

 その後、私は治療を受け、ミユキと前鬼、後鬼に頼んで、シャドウさんの小屋へ運んでもらった。

 「蓮花さん! 無理をしてはいけない!」
 「シャドウさんこそ! お怪我を手当てしに参りました」
 「これくらいのもの、大丈夫ですよ」
 「いいから見せて下さい!」

 シャドウさんが傷口を見せてくれた。
 良かった、それほど深いものはない。
 一か所だけ縫合し、「Ω軟膏」を塗った。

 「ああ! 痛みが引いて行く」
 「やっぱり痛かったんじゃないですか!」
 「アハハハハハ!」
 
 私は何度も礼を言い、「Ω軟膏」を置いて行った。

 


 その後、シャドウさんの所へ行くと、必ず帰りにシャドウさんが下の道まで見送ってくれるようになった。
 私が行く日は大体決まっているので、よく下で待ってもいてくれる。
 でも、時々研究所の所用で、その日に伺えないこともあった。
 そういう日は、シャドウさんは長い時間待っておられるようだった。

 そのことを石神様にお話しすると、すぐに皇紀様に命じられて無線機を作ってくれた。
 太陽光パネルで電源が出来た。
 いつでも話せるようになった。

 そして、私とシャドウさんのお喋りの時間が増えた。
 私の楽しい時間が増えた。
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