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青山のバー
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4月30日。
「紅六花」ビルから帰った翌日。
ゴールデンウィークの狭間で、一部の店舗は営業している。
以前から考えていたことを、実行しよう。
昼食の後で、亜紀ちゃんに話した。
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「今日は、夕食の後でちょっと付き合ってくれ」
「はい! 喜んで!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
どこへ行くのかとも聞かない。
俺と出掛けるのが嬉しいようだ。
亜紀ちゃんはずっと上機嫌で午後を過ごした。
「さーて! 掃除でもすっかな!」
ニコニコして、普段やらない場所の掃除などをする。
いつになく兄弟たちにも優しい。
夕食も、顔を強張らせながら皇紀や双子に肉を譲った。
まあ、十二分に自分も食べたが。
「ちょっといい服を着ろよ。化粧もしてな」
「はい!」
亜紀ちゃんが軽くシャワーを浴びてから着替え、化粧を柳に手伝ってもらった。
明るい水色と白のボーダーのワンピースを着て来た。
エルメスのオーダーだ。
靴はフェラガモの白のハイヒール。
メレダイヤが品よく散りばめてある。
「おお、綺麗だな!」
「エヘヘヘヘ」
俺はブリオーニのシルク混の白のスーツを着た。
靴はベルルッティのスペシャルモデル。
金箔の意匠がある、濃いブルーと黒のものだ。
ピンキーにお気に入りのブシュロンのファイヤオパールのリングを嵌めた。
時計はヴァシュロン・コンスタンタンのジャルージだ。
今日は時間を気にしたくない。
青梅街道まで歩いで出て、タクシーを捕まえた。
「今日はどこへ行くんですか?」
「青山だ。時々行く店があってな」
「タクシーってころは、お酒の店ですね!」
「そうだ。今日は好きなだけ飲めよ!」
「嬉しい!」
まあ、法的にはアレだが、大学生になったんだ。
多少はいいだろう。
既に飲んでるしな。
ゴールデンウィークの最中で道は空いていた。
15分程で着く。
青山一丁目の交差点で降りて、二人で歩いた。
亜紀ちゃんが腕を組んで嬉しそうに笑っている。
「今日はどうしたんですか?」
「前から亜紀ちゃんを誘って来たかったんだ。まあ、大学生になったからな」
「あれ、柳さんは?」
「あいつが不味いわけじゃないんだけどな。これから行く店は、亜紀ちゃんと行きたいんだ」
「へぇー!」
ニコニコしている。
「おい、「薔薇乙女」には黙ってろよな」
「はい!」
「俺の行きつけってほどじゃないけど、まあ、「薔薇乙女」よりは通ってる店だ」
「アハハハハハ! でも、知りませんでしたよ」
「まあ、最近じゃそれほどは行かないからなぁ。月に一度くらいか」
「え! 結構通ってるじゃないですか!」
「ちょこっとだけだよ。一江や大森なんかも連れて行くし、他の部下たちもな。そんな感じだ」
「へぇー」
子どもたちは基本、遊びに出掛けない。
まあ、俺が連れて行くのは近場の新宿などが多い。
俺も遊びに行かないからだ。
だから、青山に来たのは亜紀ちゃんも初めてかもしれない。
お洒落な店、お洒落な人間が行き交う。
まあ、俺たちほどのはいないが。
「ここだよ」
ビルの地下になる。
二人で階段を降りて、ドアを潜った。
「石神先生!」
ドアマンが笑顔で俺たちをカウンターに案内する。
「素敵なお店ですね!」
少し暗めで、落ち着いた雰囲気だ。
でかいカウンターの他に、8席ほどテーブルがある。
予約していたので、カウンターの真ん中に案内された。
「今日は御嬢様とですね?」
カウンターのバーテンダー、蓮見さんが声を掛けて来た。
「ええ、山中の娘です。今は俺が引き取っていますが」
「!」
亜紀ちゃんが驚いている。
「ここはな、山中とよく来た店なんだ」
「タカさん!」
亜紀ちゃんが泣き出した。
「いつかな、ここに亜紀ちゃんを連れて来たいと思っていたんだ」
「……」
「そのうちに皇紀やルーとハーもな」
「なんで教えてくれなかったんですかー!」
「アハハハハハ!」
蓮見さんも笑顔で亜紀ちゃんを見ていた。
「いらっしゃいませ。山中さんにはよくご利用いただいておりました」
「はい!」
「おい、化粧を直して来い!」
「もう!」
亜紀ちゃんが立つと、店員が化粧室へ案内してくれた。
「泣いてしまわれましたね」
「まあな。来るまでに話すとめんどくさいんでな」
「アハハハ」
俺はダイキリを頼んだ。
つまみも頼んでおく。
5分程で亜紀ちゃんも戻って来た。
「あー! もう飲んでる!」
「まだだ! 早く注文しろ!」
「えーと……お父さんは何を飲んでました?」
「最初はダイキリだ」
「じゃーそれ!」
蓮見さんが笑って作ってくれた。
亜紀ちゃんと軽くグラスを合わせる。
亜紀ちゃんは店内を見回していた。
山中が見たものを、覚えておきたいのだろう。
「ここでタカさんとお父さんとで飲んだんですね」
「そうだ。病院からも近いし、いい店だからな」
「タカさんが見つけたんですか?」
「いや、緑子に教えてもらった。あいつはいろいろ知ってるからな」
「あー! 昔の元カノ!」
亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。
「まあ、最初に緑子をうちに呼んだ時も、ここで相談したんだ」
「そうだったんですね!」
懐かしいと亜紀ちゃんが言った。
ローストビーフと鴨のコンフィが来た。
事前に頼んでおいた。
「山中がここの鴨のコンフィが大好きでな。いつも独り占めしようとしやがってよ」
「アハハハハ!」
「山中さん、お好きでしたよね?」
「そうでしょ! 頼んで俺がトイレにでも行くと、いつももう無くなってた」
「そうでしたね。でも石神さんはいつも笑って許してて」
「あいつ、ああいうものは滅多に食べませんでしたからね」
「家では一度も出ませんでしたよ!」
「「アハハハハハ!」」
蓮見さんと二人で笑った。
「山中は貧乏ってわけじゃなかったけどな。贅沢は絶対にしない奴だったから」
「はい」
「お金は全部、お前たちの学費貯金だ。まあ、お金じゃない楽しさが家にはあったからな」
「はい」
亜紀ちゃんがまた涙ぐむ。
「ここじゃ、ずっと山中の家族自慢を聞いてた。まず、奥さんが美人で優しくて大好きだろ?」
「アハハハハ!」
「それで亜紀ちゃんがどんどん美人になって。皇紀が優しくて、双子が悪戯好きだけど本当に可愛くて」
「はい……」
「それをずっと聞かせてもらってた」
「そうですか……」
亜紀ちゃんにどんどん食べろと言った。
「ダイキリ、美味しいですね」
「蓮見さんの得意なカクテルだからな。雑賀さんのお弟子さんでもあるんだよ」
「え!」
「雑賀さんはお元気ですか?」
「ええ! いつもこっちがご迷惑を掛けてしまうんですが。こないだも、うちの者が店で暴れて」
「え!」
「大事なカウンターに傷を入れるわ、高い絨毯を毟るわで」
「それは! アハハハハハ!」
栞が雑賀さんを殴り倒したことは伏せる。
「山中さんは、いつも幸せそうに話してましたよね」
「そうですね。本当に嬉しそうに家族の話ばかり。家族が大好きでしょうがないってねぇ」
「石神さんのこともですよね」
「酔うとね、最後にちょっとだけね」
亜紀ちゃんがニコニコしていた。
「私は忘れません。山中さんが石神さんに、万一のことがあったら家族を頼むとおっしゃって。いつもそうでしたよね。雑賀さんからもそう聞いてます」
「ああ」
「石神さんが「任せろ」とおっしゃると、本当に嬉しそうになさって」
「それで寝ちゃうんですよね」
「アハハハハハ!」
蓮見さんが俺がダイキリを飲み終わったので、何を飲むか聞いた。
「マッカランを」
「かしこまりました」
亜紀ちゃんもグラスを空けて、同じものをと言った。
「雑賀さんも言ってましたが、石神さんはお約束を守られたんですね」
「約束も何も。俺はこいつらが大好きだったから」
「さようでございますね」
「!」
亜紀ちゃんが俺に抱き着いて来た。
「おい!」
「タカさーん!」
「ばかやろう!」
「だってぇー!」
俺は亜紀ちゃんの口に鴨のコンフィを突っ込んだ。
「今日はな、それを言いたかったんだ」
「え?」
「山中との約束もあったよ。大事な約束だ。でもな、それ以前にお前たちに万一があったら、俺は絶対に何とかするよ。そういうつもりはあったんだ」
亜紀ちゃんがまた泣き出した。
鴨のコンフィを突っ込む。
「山中がここで嬉しそうにお前たちの話をしただろう? 俺はさ、いつもずっと羨ましかったんだ。亜紀ちゃんたちは可愛いからな」
「タカさん……」
「山中を送って行くと、いつも奥さんが起きててさ。亜紀ちゃんもいつの間にか起きて来て俺に抱き着いて来てさ。「今日は泊るの?」って毎回聞かれて。俺もそうしたくて」
「でも帰っちゃいましたよね」
「まあな。全精神力を総動員してな!」
「アハハハハ!」
亜紀ちゃんがやっと笑った。
「蓮見さん、マッカランをもう一つ」
「はい」
俺はダブルのグラスを亜紀ちゃんの向こう側に置いた。
「タカさん! ダイキリも!」
「ああ、そうだったな」
蓮見さんが笑顔でまた作ってくれた。
二つのグラスを時々見ながら、俺たちは楽しく話した。
亜紀ちゃんが、それほど飲まなかったにも関わらず、珍しく眠そうになった。
俺は笑って肩を貸し、店を出た。
懐かしく思い出した。
「紅六花」ビルから帰った翌日。
ゴールデンウィークの狭間で、一部の店舗は営業している。
以前から考えていたことを、実行しよう。
昼食の後で、亜紀ちゃんに話した。
「亜紀ちゃん」
「はい!」
「今日は、夕食の後でちょっと付き合ってくれ」
「はい! 喜んで!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
どこへ行くのかとも聞かない。
俺と出掛けるのが嬉しいようだ。
亜紀ちゃんはずっと上機嫌で午後を過ごした。
「さーて! 掃除でもすっかな!」
ニコニコして、普段やらない場所の掃除などをする。
いつになく兄弟たちにも優しい。
夕食も、顔を強張らせながら皇紀や双子に肉を譲った。
まあ、十二分に自分も食べたが。
「ちょっといい服を着ろよ。化粧もしてな」
「はい!」
亜紀ちゃんが軽くシャワーを浴びてから着替え、化粧を柳に手伝ってもらった。
明るい水色と白のボーダーのワンピースを着て来た。
エルメスのオーダーだ。
靴はフェラガモの白のハイヒール。
メレダイヤが品よく散りばめてある。
「おお、綺麗だな!」
「エヘヘヘヘ」
俺はブリオーニのシルク混の白のスーツを着た。
靴はベルルッティのスペシャルモデル。
金箔の意匠がある、濃いブルーと黒のものだ。
ピンキーにお気に入りのブシュロンのファイヤオパールのリングを嵌めた。
時計はヴァシュロン・コンスタンタンのジャルージだ。
今日は時間を気にしたくない。
青梅街道まで歩いで出て、タクシーを捕まえた。
「今日はどこへ行くんですか?」
「青山だ。時々行く店があってな」
「タクシーってころは、お酒の店ですね!」
「そうだ。今日は好きなだけ飲めよ!」
「嬉しい!」
まあ、法的にはアレだが、大学生になったんだ。
多少はいいだろう。
既に飲んでるしな。
ゴールデンウィークの最中で道は空いていた。
15分程で着く。
青山一丁目の交差点で降りて、二人で歩いた。
亜紀ちゃんが腕を組んで嬉しそうに笑っている。
「今日はどうしたんですか?」
「前から亜紀ちゃんを誘って来たかったんだ。まあ、大学生になったからな」
「あれ、柳さんは?」
「あいつが不味いわけじゃないんだけどな。これから行く店は、亜紀ちゃんと行きたいんだ」
「へぇー!」
ニコニコしている。
「おい、「薔薇乙女」には黙ってろよな」
「はい!」
「俺の行きつけってほどじゃないけど、まあ、「薔薇乙女」よりは通ってる店だ」
「アハハハハハ! でも、知りませんでしたよ」
「まあ、最近じゃそれほどは行かないからなぁ。月に一度くらいか」
「え! 結構通ってるじゃないですか!」
「ちょこっとだけだよ。一江や大森なんかも連れて行くし、他の部下たちもな。そんな感じだ」
「へぇー」
子どもたちは基本、遊びに出掛けない。
まあ、俺が連れて行くのは近場の新宿などが多い。
俺も遊びに行かないからだ。
だから、青山に来たのは亜紀ちゃんも初めてかもしれない。
お洒落な店、お洒落な人間が行き交う。
まあ、俺たちほどのはいないが。
「ここだよ」
ビルの地下になる。
二人で階段を降りて、ドアを潜った。
「石神先生!」
ドアマンが笑顔で俺たちをカウンターに案内する。
「素敵なお店ですね!」
少し暗めで、落ち着いた雰囲気だ。
でかいカウンターの他に、8席ほどテーブルがある。
予約していたので、カウンターの真ん中に案内された。
「今日は御嬢様とですね?」
カウンターのバーテンダー、蓮見さんが声を掛けて来た。
「ええ、山中の娘です。今は俺が引き取っていますが」
「!」
亜紀ちゃんが驚いている。
「ここはな、山中とよく来た店なんだ」
「タカさん!」
亜紀ちゃんが泣き出した。
「いつかな、ここに亜紀ちゃんを連れて来たいと思っていたんだ」
「……」
「そのうちに皇紀やルーとハーもな」
「なんで教えてくれなかったんですかー!」
「アハハハハハ!」
蓮見さんも笑顔で亜紀ちゃんを見ていた。
「いらっしゃいませ。山中さんにはよくご利用いただいておりました」
「はい!」
「おい、化粧を直して来い!」
「もう!」
亜紀ちゃんが立つと、店員が化粧室へ案内してくれた。
「泣いてしまわれましたね」
「まあな。来るまでに話すとめんどくさいんでな」
「アハハハ」
俺はダイキリを頼んだ。
つまみも頼んでおく。
5分程で亜紀ちゃんも戻って来た。
「あー! もう飲んでる!」
「まだだ! 早く注文しろ!」
「えーと……お父さんは何を飲んでました?」
「最初はダイキリだ」
「じゃーそれ!」
蓮見さんが笑って作ってくれた。
亜紀ちゃんと軽くグラスを合わせる。
亜紀ちゃんは店内を見回していた。
山中が見たものを、覚えておきたいのだろう。
「ここでタカさんとお父さんとで飲んだんですね」
「そうだ。病院からも近いし、いい店だからな」
「タカさんが見つけたんですか?」
「いや、緑子に教えてもらった。あいつはいろいろ知ってるからな」
「あー! 昔の元カノ!」
亜紀ちゃんの頭を引っぱたいた。
「まあ、最初に緑子をうちに呼んだ時も、ここで相談したんだ」
「そうだったんですね!」
懐かしいと亜紀ちゃんが言った。
ローストビーフと鴨のコンフィが来た。
事前に頼んでおいた。
「山中がここの鴨のコンフィが大好きでな。いつも独り占めしようとしやがってよ」
「アハハハハ!」
「山中さん、お好きでしたよね?」
「そうでしょ! 頼んで俺がトイレにでも行くと、いつももう無くなってた」
「そうでしたね。でも石神さんはいつも笑って許してて」
「あいつ、ああいうものは滅多に食べませんでしたからね」
「家では一度も出ませんでしたよ!」
「「アハハハハハ!」」
蓮見さんと二人で笑った。
「山中は貧乏ってわけじゃなかったけどな。贅沢は絶対にしない奴だったから」
「はい」
「お金は全部、お前たちの学費貯金だ。まあ、お金じゃない楽しさが家にはあったからな」
「はい」
亜紀ちゃんがまた涙ぐむ。
「ここじゃ、ずっと山中の家族自慢を聞いてた。まず、奥さんが美人で優しくて大好きだろ?」
「アハハハハ!」
「それで亜紀ちゃんがどんどん美人になって。皇紀が優しくて、双子が悪戯好きだけど本当に可愛くて」
「はい……」
「それをずっと聞かせてもらってた」
「そうですか……」
亜紀ちゃんにどんどん食べろと言った。
「ダイキリ、美味しいですね」
「蓮見さんの得意なカクテルだからな。雑賀さんのお弟子さんでもあるんだよ」
「え!」
「雑賀さんはお元気ですか?」
「ええ! いつもこっちがご迷惑を掛けてしまうんですが。こないだも、うちの者が店で暴れて」
「え!」
「大事なカウンターに傷を入れるわ、高い絨毯を毟るわで」
「それは! アハハハハハ!」
栞が雑賀さんを殴り倒したことは伏せる。
「山中さんは、いつも幸せそうに話してましたよね」
「そうですね。本当に嬉しそうに家族の話ばかり。家族が大好きでしょうがないってねぇ」
「石神さんのこともですよね」
「酔うとね、最後にちょっとだけね」
亜紀ちゃんがニコニコしていた。
「私は忘れません。山中さんが石神さんに、万一のことがあったら家族を頼むとおっしゃって。いつもそうでしたよね。雑賀さんからもそう聞いてます」
「ああ」
「石神さんが「任せろ」とおっしゃると、本当に嬉しそうになさって」
「それで寝ちゃうんですよね」
「アハハハハハ!」
蓮見さんが俺がダイキリを飲み終わったので、何を飲むか聞いた。
「マッカランを」
「かしこまりました」
亜紀ちゃんもグラスを空けて、同じものをと言った。
「雑賀さんも言ってましたが、石神さんはお約束を守られたんですね」
「約束も何も。俺はこいつらが大好きだったから」
「さようでございますね」
「!」
亜紀ちゃんが俺に抱き着いて来た。
「おい!」
「タカさーん!」
「ばかやろう!」
「だってぇー!」
俺は亜紀ちゃんの口に鴨のコンフィを突っ込んだ。
「今日はな、それを言いたかったんだ」
「え?」
「山中との約束もあったよ。大事な約束だ。でもな、それ以前にお前たちに万一があったら、俺は絶対に何とかするよ。そういうつもりはあったんだ」
亜紀ちゃんがまた泣き出した。
鴨のコンフィを突っ込む。
「山中がここで嬉しそうにお前たちの話をしただろう? 俺はさ、いつもずっと羨ましかったんだ。亜紀ちゃんたちは可愛いからな」
「タカさん……」
「山中を送って行くと、いつも奥さんが起きててさ。亜紀ちゃんもいつの間にか起きて来て俺に抱き着いて来てさ。「今日は泊るの?」って毎回聞かれて。俺もそうしたくて」
「でも帰っちゃいましたよね」
「まあな。全精神力を総動員してな!」
「アハハハハ!」
亜紀ちゃんがやっと笑った。
「蓮見さん、マッカランをもう一つ」
「はい」
俺はダブルのグラスを亜紀ちゃんの向こう側に置いた。
「タカさん! ダイキリも!」
「ああ、そうだったな」
蓮見さんが笑顔でまた作ってくれた。
二つのグラスを時々見ながら、俺たちは楽しく話した。
亜紀ちゃんが、それほど飲まなかったにも関わらず、珍しく眠そうになった。
俺は笑って肩を貸し、店を出た。
懐かしく思い出した。
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