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「弱肉強食」宴会

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 「弱肉強食」に戻ると、宴会の準備をしていた。
 俺たちは一度8階に上がって、みんなで風呂に入った。

 響子もさっきまで眠っていた。
 今晩は、少し遅くまで起きていられるようにだ。

 風呂は亜蘭と皇紀は後だ。

 裸になると、流石に六花のお腹も分かる。
 響子が嬉しそうにお腹を撫でていた。

 「六花! 楽しみだね!」
 「ありがとうございます、響子」

 響子が六花のお腹に口を付けて叫んだ。

 「吹雪ちゃーん!」
 「「!」」

 俺と六花が驚いた。
 まだ誰にも「吹雪」の名前は話していない。
 俺は六花を指差した。
 六花は手を横に振って自分は話していないと示した。
 ならば「未来視」の夢で見たのだろう。

 「石神先生。今日は何だか響子を徹底的に洗ってやりたくなりました」
 「そうだな。いつも耳がカレー臭いしな」
 「臭くないよー!」

 俺と六花で響子を洗い、響子がくすぐられて喜んだ。
 亜紀ちゃんと双子が俺と六花の背中と頭を洗ってくれた。

 みんなで湯船に入った。

 「タカトラ、何か歌って!」

 響子が言った。
 俺は米津玄師の『Lemon』を歌った。
 みんなが黙って聴いていた。
 
 《今でもあなたが私の光》

 人間は、喪ってしまってから初めてそれが光だったと知る。




 風呂から上がり、俺たちはリヴィングで寛いでいた。
 ロボが響子と一緒に六花のお腹を撫でていた。
 ロボにも何か分かるのだろうか。
 タケが呼びに来て、みんなで下へ降りた。
 もう大体準備が終わっており、俺たちはテーブルに座った。
 誰かが六花の前にハイネケンを置き、引っぱたかれた。
 俺が笑ってもらった。

 亜蘭はよしこが自分のテーブルに連れて行った。
 「暁園」のスタッフや関係者たちが集まっている。
 亜蘭が双子に手を伸ばし、泣きそうな顔になっていた。

 宴会が始まり、子どもたちはいつものように肉喰いに専念した。
 次々に六花と俺の所にメンバーが挨拶に来る。

 みんな楽しそうだ。
 まあ、総長六花が来れば、最高に嬉しいという連中だ。
 なんという友情か。
 こいつらは、俺が何をしようとも、しなくとも、変わらぬ美しい友情を抱いている。
 
 響子もひっきりなしに話し掛けられる。
 響子がカワイイと言い、東京での六花の話を聞きたがる。
 響子は「紅六花」にとって、もはや最も大事な宝だ。
 総長の六花の最愛の人間だからだ。
 そして今、六花は俺の子を宿している。
 その子は多分、響子と同様に紅六花の宝となるだろう。
 こいつらは幾つもの宝を得て、もっと輝いて行く。




 「よしこさん! もう勘弁してください!」
 「なんだよ、亜蘭! 俺はお前を気に入ったんだぁ!」
 「なんでですかぁー!」
 「お前は虎の旦那に逆らった! 竹流を守るためになぁ!」
 「あれは当たり前ですってぇ! 僕はみなさんのようにコントロールが上手くないんですから!」

 亜蘭がよしこに抱かれ、悲鳴を上げていた。
 俺は笑って助けに行った。

 「どうしたんだよ」
 「石神さん! 私、こいつを本当に気に入りました」
 「そうかよ、何よりだ。宜しく頼むな」
 「はい! こいつがロリコンだって聞いた時には不安でしたけど! こいつは綺麗な男でした!」
 「そうだよな」

 俺はよしこと亜蘭の間に座った。
 ようやくよしこの手が離れ、亜蘭は荒い息で安堵していた。
 俺は喰いが落ち着いた双子を呼んで、亜蘭の両側に座らせた。
 亜蘭の表情が蕩ける。

 「な、こいつはこういう奴だ」
 「アハハハハハ!」
 「小さな女の子が大好きなんだけどな。でも、自分の欲望のままにしようとは絶対に思わない。ひたすら大事にするだけだ」
 「はい!」
 
 よしこや「暁園」の仲間たちが笑いながら亜蘭を見ていた。

 「亜蘭はルーとハーに直接鍛えられたんだ」
 「亜蘭ちゃんは天才だよね!」
 「凄く強くなったよね!」

 「へぇー! そうなんですか!」

 「だけどな、こいつは人を傷つけたくないんだ」

 俺は亜蘭に実戦を経験させるために、亜紀ちゃんに悪人狩りに連れて行かせたと話した。

 「渋谷のチーマーだったんだけどな。でも、こいつは全然戦おうとしなかった。黙って突っ立って、殴られるままだったそうだ」
 「え、じゃあ使えないじゃないですか」
 「そうだな。でもな、亜紀ちゃんが「こいつらちっちゃい子に酷いことしてたんですよ」って言った瞬間」
 「え!」
 「全員病院送りよ」
 「凄かったよね。全員10カ所以上骨が折れちゃって」
 「あたしたちが守らなきゃ、何人か死んでたかもね」
 「そんなぁー!」

 亜蘭が情けない声で叫び、全員が笑った。

 「鬼のような顔になってな。亜蘭には許せないことがあるということだ」
 「じゃあ、亜蘭も子どもに酷いことはしないってことですね」
 「そうだよ。まあ、相手に誘われたらダメだろうけどな」
 「アハハハハハ!」

 「暁園」に勤めるメンバーが言った。

 「さっき片付けてからこっちに来たんですけどね。竹流が亜蘭のことを褒めちぎってましたよ」
 「そうなのか」
 「はい! 物凄く優しい人だって。それに物凄く強いとも」
 「そうか」
 
 よしこがニコニコしていた。

 「石神さん。優しいのは分かりましたけど、亜蘭はどのくらい強いんですか?」
 「そうだな。ジェヴォーダンなら、瞬殺かな」
 『エェー!』

 その場にいた全員が驚いた。

 「第一階梯の「虚震花」はもちろん、第二階梯の「轟閃花」「ブリューナク」「トールハンマー」も使える。お前らで言えば、幹部クラスだよな」
 「そうですよ!」
 「「鷹閃花」はまだ使えない。ちょっと才能が無いようだな。それはお前ら幹部の中にもいるだろう?」
 「はい!」
 「第三階梯は教えれば習得出来るだろう。でも、ここで守る分には必要無いからな」
 「スゴイ奴だったんですね!」

 「あの」

 亜蘭が言った。

 「なんだ、亜蘭?」
 「よしこさん、僕は弱いですからね」
 「ああ?」
 「だから、「暁園」に何かあったら、すぐに来て下さいね!」
 「え?」
 「僕も必死でやりますけど! でも僕、本当に弱いんで!」

 みんなが爆笑した。
 今、俺が亜蘭の強さを話した直後だ。

 「笑ってないで下さい! 本当にお願いしますって!」
 「ああ、分かったよ。「暁園」は俺らにとっても大事な場所なんだ。きっと助けに行くって」
 「ありがとうございます!」

 言うべきことを言ったと思ったのか、亜蘭は双子との世界に入って行った。
 三人で楽しく話し、飲み食いしていく。

 「僕はあの子たちと違って、ちゃんと両親も兄弟もいたんです」
 
 亜蘭が話しているのが聞こえた。

 「でもね、全然一緒にいたという思い出が無い。いつだって食事はバラバラで、何かを話した記憶もない。兄弟の中でも同じでした。二人の兄はいつも僕をバカにして。だから僕はいつも独りでした」

 亜蘭の生い立ちなのだろう。
 だから亜蘭は親に甘えることが無かった。
 家族を愛することが出来なかった。

 「一人だけね。メイドの竹内さんだけが、僕を可愛がってくれた。僕が一人で部屋にいるとケーキを持って来てくれたり。外に出ようと一緒に買い物に連れて行ってくれたり。僕が病気になると、ずっと傍にいてくれた」

 亜蘭の話を双子が黙って聴いていた。
 亜蘭の両腕を静かに撫でていた。

 「竹内さんの家にも呼んでくれたんです。そこで小さなお子さんと遊んで、一緒にお風呂に入ったり。その子も僕に懐いてくれて」

 ロリコン・ゼロか。

 「その竹内さんは今は?」

 俺が聞いた。

 「僕が大学を卒業して家を出てから、うちのメイドも辞めました。今は娘さんと一緒に暮らしているはずです」
 「そうか」

 亜蘭が懐かしそうな顔をしていた。
 亜蘭の優しさ秘密が分かったように思えた。

 「僕をみんながロリコンだって言うんですけどね」
 「そうだな」
 「でも、石神さんも響子ちゃんを好きですよね?」
 「おい!」

 「僕は嬉しかったんですよ! 僕が尊敬する人が、ちっちゃい子が好きだなんて!」
 「お前! 俺は大人の女も大好きだぁ!」
 
 みんなが爆笑した。

 「あ、こういうの、バイって言うんでしたっけ?」
 「全然ちげぇよ!」

 俺は自分のテーブルに逃げ帰った。
 響子がソーセージをフォークで刺して俺の顔の前に持って来た。
 よしこたちが俺を見ていた。

 俺はソーセージを食べた。

 「おいしい?」
 「うん!」





 向こうのテーブルで笑っていた。
 六花も嬉しそうに笑っていた。
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