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内閣総理大臣 御堂正嗣

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 翌日の日曜日。
 俺と亜紀ちゃんと柳は、朝食の後で投票に行った。
 二人は選挙に行くのも初めてで、ウキウキしていた。
 
 「大勢来てますね!」
 「そうだな。俺も今まで見たことがないよ」

 簡単に投票のやり方は説明している。
 候補者の名前と政党を書けばいいのだと。

 「ここじゃ、お父さんに投票出来ないんですよね」
 
 柳が残念がる。

 俺たちは投票を済ませ、喫茶店にでも入ろうとした。
 しかし、どこも一杯だった。

 「仕方ねぇ。いつものあそこか」
 
 俺たちは駅前のソフトクリーム屋に寄った。
 流石にそこは空いていた。

 「あ! 根性の旦那さん!」

 俺たちは笑って、大盛りのソフトクリームを貰った。
 三千円を渡すと、店員がニコニコした。

 「お父さん、大丈夫ですかね?」

 柳が言う。
 
 「ばかやろう! ここまでやって落選したら、流石に友達辞めるぞ」
 「アハハハハハ!」

 「まあ、いよいよそうなったら軍事クーデターだな」
 「いいですね!」
 「そうだよな? その方が簡単だったかも」
 「やめて下さいね!」

 柳が止める。

 「お前はいつもノリが悪いよなぁ」
 「ノリでクーデターなんて、冗談じゃないですよ!」
 「でも柳さん、悪人を殺し放題だよ?」
 「殺したくないから!」

 俺と亜紀ちゃんが笑った。

 「おとうさーん!」

 まあ、俺たちなら本当にやってやれないことも無いのだが。

 「そういえば、亜紀ちゃんの友達も東大に受かったんだよね?」
 「はい! 真夜も一緒ですよ! 大学に入ったら宜しくお願いします!」
 「うん、だけど最初は駒場だからね」
 「でも、サークルで一緒にやりましょうよ」
 「そうだね!」

 亜紀ちゃんたちは新しく「カタストロフィ研究会」を作ろうとしている。
 世界の滅び、崩壊について研究するという目的だが、具体的な物はまだない。
 「業」との戦いに寄与できればということだが、どうなるのか分からない。
 まあ、楽しんでくれればそれでいい。
 サークルなんて、そんなものだ。


 



 家に帰り、子どもたちは大量のおにぎり、稲荷寿司、唐揚げなどのおかずを作った。
 今日は地下でのんびりと食べながらみんなでテレビを観る予定だった。

 俺は思い立って、御堂に電話した。
 忙しいらしく、しばらく待たされた。

 「悪い、今大変な混雑なんだ」
 「ああ、悪かったな。一つだけ心配になってさ」
 「なんだ?」
 「お前、花輪とか生花の置き場所は大丈夫か?」
 「え?」
 「おい! 相当な量が届くはずだぞ! 多分、百や二百じゃ済まねぇ」
 「そうか!」
 「やっぱり用意してねぇか。すぐに動けよ。主だった花屋に問い合わせれば、大体の数は分かるだろう。それに祝電も半端じゃないはずだからな」
 「わ、分かった! ありがとう、教えてくれて」
 「運送の手配をしとけよ? それに誰のものを置くのかも考えてな。幾つかはしょうがねぇから、札だけ一緒に刺したりしろよ」
 「ああ、うん!」
 「じゃあ、頑張れよ! 俺たちはもう投票を済ませてのんびりだ」
 「羨ましいな!」
 「アハハハハハハ!」

 食事の準備も出来たので、みんなで地下へ運ぶ。
 みんな楽しそうだ。

 テレビは、最新の8K対応の85型のものに買い替えていた。
 みんなでソファを並べてテーブルを置いて食べながら観た。

 投票所前のアンケートでは、既に自由党が圧倒的だった。
 御堂の選挙区でも出口アンケートが進んでおり、御堂の名前ばかりが挙がっていた。
 当然だ。

 報道でも、他の党の名前はほとんど出て来ない。
 午前中の投票率が、既に有権者の40%を超えていることが分かった。

 「こりゃ、スゴイことになりそうだな!」
 「「「「「ワハハハハハハ!」」」」」

 みんなでおにぎりや稲荷を頬張りながら、テレビを楽しんだ。

 響子から電話が来た。

 「タカトラ! スゴイね!」
 「そうだな! お前も観ているのか?」
 「うん、六花も一緒!」
 「そうか!」
 「御堂さん、完全勝利だって!」
 「アハハハ! まだ分からんよ。でも、予想以上に票が伸びているみたいだな」
 「当選したらお祝いするの?」
 「ああ、みんなでまた沼津の寿司屋へ行こうと思ってる。もちろん響子も一緒な!」
 「いいね! あそこ、美味しいよね!」
 「そうだよな! 今度はリムジンで行くからな!」
 「楽しみ!」

 六花とも話し、楽しそうだった。
 
 珍しく、院長からも電話が来た。

 「石神! 凄いことになってるな!」
 「そうですよね!」
 「午前中に女房と一緒に投票してきたよ。自由党に入れたからな」
 「ありがとうございます!」
 「あの御堂くんがなぁ、お前の友達は凄いな」
 「いや、アハハハハ!」
 
 俺は院長たちも、祝いに寿司を食べに行くので是非と誘った。

 「俺たちなんかは邪魔になるだろう」
 「そんなことありませんよ! 絶対に来て下さい」
 「分かったよ、楽しみにしている」
 「はい!」

 鷹からも電話が来て、その後で千両やタケたちからも電話が来た。
 亜紀ちゃんが真夜がまだ投票してないと聞いて、激怒していた。

 「てめぇ! カッ飛んで行って来い!」
 「はい!」

 俺は次々と来る電話で忙しくなった。
 俺の選挙じゃねぇんだが。

 でも、井上さんや杉本や懐かしい人たちとも喋れて嬉しかった。

 「トラ! あの御堂さんがあんなことになってて驚いたぞ!」
 「俺もですよ! 井上さんにはまた大きな仕事を頼みますから」
 「喜んでやらせてもらうよ。でも何を今度はするんだ?」
 「御堂の帝国を作ります」
 「なんだって?」
 「都市ですよ。専門家がそのうちに来ますから、そいつの設計で大規模な都市を作ります」
 「凄いな!」
 「宜しく頼みますね!」
 「大歓迎だ! トラ! いつもありがとうな!」
 「こちらこそです!」

 乾さんからも電話が来て、友人の棚田さんたちも来てテレビを観ていると言っていた。

 「トラの友達なんだろ? すげぇな!」
 「アハハハハハ!」
 
 早乙女たちが遊びに来た。
 すぐに地下へ通し、亜紀ちゃんがソファを新たに運んできて座らせた。

 「凄いな」
 「そうだろう? 流石は御堂だよな!」
 「うん」

 怜花が大勢で楽しんでいるのを見て、ご機嫌な顔をする。

 「お前らもどんどん食べてな。沢山作ったんだ」
 「ああ、ありがとう」

 雪野さんが稲荷寿司が美味いと言った。

 みんなでいろいろな話をしながら、時々テレビに集中した。




 御堂には異例に早い時刻に各報道機関から「当確」が出た。
 
 桜がうちに直接樽酒を運んで来た。
 用意して待っていたらしい。

 「なんだよ、悪いな!」
 「いいえ! おめでとうございます!」

 俺は柳を呼んだ。

 「柳! お前が割れよ!」
 「はい!」

 ウッドデッキで柳が桜から木槌を預かった。

 「柳さん! 思い切りね!」
 
 亜紀ちゃんが声を掛けた。
 柳が振りかぶった。
 嫌な予感がした。

 
 バッコォォォォーーン!


 樽が飛び散った。

 「「「「「「……」」」」」」

 「ゴメンナサイ……」

 みんな酒塗れになり、「虎温泉」に交代で入った。
 消沈する柳に、「浴びる程飲んだな!」と言って慰めた。
 桜も「石神家らしいですよ」と言って笑っていた。 




 有権者の実に90%以上が投票し、御堂は98%の票数を得て当選した。
 自由党は史上最高の454議席を獲得し、野党は僅か11議席に過ぎなかった。
 御堂は内閣総理大臣に任命され、組閣を急いだ。
 自由党の議員も大臣に指名されたが、内閣官房長官に大渕教授を指名した。




 日本は新たな時代に突入することになった。
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