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御堂、衆院選 取材

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 「石神さんが前に言ってましたよね」

 柳が泣きながら言った。

 「お父さんは悲しみを表に出さないんだって」
 「ああ、言ったな」
 「本当にそうだったぁー!」

 柳が号泣し、御堂が抱き締めた。

 「おい、石神」
 「悪かったな。でも、お前という人間をこいつらにも分かって欲しくてな」
 「困ったな」

 柳がまだ泣いている。

 「澪さんと出会って、御堂が本当に嬉しそうに笑った。俺も本当に嬉しかったよ」
 「澪さん、最高ですよね!」
 
 亜紀ちゃんが明るく言った。

 「そうだろう?」
 
 子どもたちも笑った。

 「大学を卒業してすぐだったよな、婚約したのは」
 「ああ、そうだね」
 「随分と早いと思ったけどな」
 
 御堂も微笑んだ。

 「早く跡継ぎを遺したかったんだ」
 「そうなのか?」
 「跡継ぎが出来れば、石神のために何でも出来るからな」
 「え?」
 「お前が助けを欲しがったら僕がいつでも行ける」
 「御堂……」

 「お前が死んだら、僕も死ねる」
 「おい!」

 御堂が微笑んでいた。

 「そうしたらね。柳が石神の所へ行きたがった。跡継ぎのつもりだったから、大変だと思ったよ。だから正利が生まれてくれて良かった」
 「お前、何言ってんだよ!」
 「アハハハハハ!」

 正巳さんも笑っていた。
 御堂の気持ちは分かっていたのだろう。

 「石神さん。正嗣はもう石神さんにべったりなんだ。御堂家も何も無い。石神さんのために何でもしたいんだよ」
 「正巳さん、しっかり教育して下さいよ」
 「ちゃんとやったよ。でもこうなってしまったんだから仕方が無い」
 「正巳さん……」
 「御堂家は大丈夫だ。正嗣、存分にやればいい」
 「ありがとう、親父」

 御堂が柴葉に恋をしていたのかどうかは知らない。
 そのことだけは、御堂は一度も口にしなかった。
 でも、真っすぐで明るく優しく美しいあの女を誰が好きにならずにいられるか。
 御堂は黙っている。




 翌朝。
 御堂と正巳さんを新宿のセンチュリー・ハイアットまでリムジンで送った。
 ダフニスとクロエ、そして双子も同行する。
 ここのスイートルームでテレビや雑誌などの取材を受ける。
 時間制で入れ替えてのことだ。
 夕方まで掛かる。
 ジャングル・マスターが手配した敏腕の秘書が全部取り仕切り、メイキャップの専門家まで付く。
 ライティングは設置の時間が掛かるので、その専門家が用意されて各社が共用で使う。
 護衛にダフニスとクロエを同室させた。
 入って来た人間が、まず二体のアンドロイドに驚く。
 護衛のためのものだと秘書が説明すると、みんなそちらの取材もしていった。
 高性能のアンドロイドに守られる政治家。
 そのキャッチコピーは、御堂の魅力と話題になるだろう。

 俺は控室で待機し、幾つかの取材にはダフニスたちと同様のミラー処理の仮面を被って同席した。
 「虎」の軍の人間として取材を受ける。
 全てジャングル・マスターのシナリオ通りだ。
 双子は周辺の警戒を怠らない。
 まあ、何か来れば分かるので、基本は遊んでいる。
 俺も大体暇なので一緒に遊ぶ。

 三人でルームサービスをガンガン頼んだ。
 事前に伝えてあるので、食材は豊富に仕入れているはずだ。

 「響子がよ、段々オセロもチェスも飽きて来ちゃってなー」
 「そうなんだ」
 「新しいボードゲームを買ってやりたいんだけど、どれがいいか迷ってるんだよ」
 「ふーん」

 一緒に探した。
 
 「あ! 人生ゲームのハードモードがあるよ!」
 「『カタン』って人気高いらしいね!」

 やはり双子と一緒だと楽しい。

 「でもさ、相手は主に六花ちゃんでしょ?」
 「ある程度「運要素」がないと相手にならないよねー」
 「タカさん、テレビゲームは?」
 「ああ、目が悪くなるからな。それにああいうのは一日中はまっちゃうからなぁ」
 「なるほど。タカさん、詳しいね!」
 「一時試しにやってみたことがあるんだ」
 「「へぇー!」」

 俺はソニーのプレイステーションが出た当時に、『バイオハザード』をやり込んだ話をした。

 「正月休みにさ。ほんとに嵌って一日中やってた」
 「そうなの!」
 「ああ。5キロ痩せたな」
 「「えぇー!」」
 「食事もしないんだよ。夢中になって。あれってタイムアタックがあってさ。一定時間内にクリアすると、最初からロケットランチャーが装備されるんだよ」
 「そうなんだ」
 「もう無敵よな」
 「「ふーん」」

 俺は子どもたちにはやらせないので、こいつらは感覚的に分からない。

 「その後で『ファイナルファンタジーⅦ』をやり込んでなぁ」
 「「へぇー」」
 「それも最高装備を全部手に入れて、ステータスもカンストさせて、最後のセフィロスを瞬殺よ」
 「「ふーん」」

 「お前らよ」
 「「うん」」
 「もっと感動しろよ!」
 「「アハハハハハハ!」」

 うーん、今度やらせるか。
 しかし、今もプレイ出来るのだろうか。

 「結局な、面白くてしょうがないものだと分かったんで、俺は辞めた」
 「そうなの?」
 「麻薬と同じだ。夢中になるのは分かるんだから、手を出さないことよ」
 「「なるほど!」」

 でも俺も悔しかったので、いろいろなゲームの話をした。
 俺が幾ら自慢しても、双子には通じなかった。

 


 御堂と正巳さんの取材は大成功で、夕方のニュースで既に一部が報道された。
 ダフニスとクロエも登場し、驚異的な技術力についても紹介される。

 「お二方は護衛ということですが、武器は持っているのですか?」
 「日本国内の法に照らし合わせて、違法な武器は所持していません。この身体を使ってお二人をお守りするだけです」
 「動力源はどのような?」
 「それは機密事項でお話し出来ません」
 「「虎」の軍には、あなた方のような存在が他にも?」
 「それも機密事項でお話し出来ません」
 「戦闘以外にも出来ることはありますか?」

 ダフニスがタップダンスを披露し、クロエが『You’d Be So Nice To Come Home To』を哀愁たっぷりに謳い上げた。
 その場の全員が拍手した。

 「タカさん、出ませんね」
 
 亜紀ちゃんが残念がる。

 「御堂が出ればいいんだぁ!」

 みんなが笑った。
 
 夕飯は鰻を取った。
 子どもたちは五人前まで(だから五人前)、ロボは白焼きで、正巳さんのために俺が白焼きの茶漬けを作った。
 吸い物も蛤で俺が別途作る。

 「正巳さん、お疲れでしょう」
 「まあね。でもまだまだやるよ」
 「そうですか」

 「また今日も「虎温泉」に入れるかな」
 「もちろんですよ! 毎日用意してますからね!」
 「そりゃありがたい」

 双子が正巳さんに食べたいものは無いかと聞いた。

 「何でも作りますよ!」
 「そうか。でも、もうお腹一杯だよ」
 「そうですかー」
 
 双子が残念がる。
 正巳さんたちを応援したいのだ。

 「こいつら、すっかり料理が得意になりましてね。ああ、そうだ、ナスの煮びたしシラス乗せでも作れよ」
 「「うん!」」

 二人がすぐに用意して正巳さんと御堂に出した。
 ナスを切ってたっぷりの出汁で煮て、シラスと梅肉を上から乗せる。
 あっさりしていて食べやすい。
 
 「これは美味い!」
 
 正巳さんが大袈裟に喜んでくれた。
 
 「正嗣! うちでも是非作ろう」
 「分かったよ。ルーちゃん、ハーちゃん、あとで作り方を教えてね」
 「「はい!」」

 


 明日も取材があり、その後で与党の主催するパーティがある。
 俺と子どもたちも出席する。
 一部の幹部たちは俺たちを知っているが、大勢が集まるパーティでは上手く紛れることが出来るだろう。
 ダフニスとクロエも護衛につくが、念のために俺たちも行くのだ。
 まあ、ほとんど子どもたちが楽しみにしているだけなのだが。




 その晩は「虎温泉」に入って、すぐに寝た。
 俺たちはともかく、御堂と正巳さんは疲れている。
 双子が正巳さんのマッサージをした。
 とても喜んでいただいた。

 俺たちも早めに寝た。
 ロボが早い時間で眠くないらしく、俺は仕方なくしばらく遊んでやった。
 両足でロボを持ち上げ、「ロボぐるぐる」をしてやる。
 前後左右にロボが回転し、喜んだ。

 ぐっすり寝た。
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