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おめでとう! 六花!

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 高尾山に行った日の夜。
 風呂から上がって、亜紀ちゃんと柳とで飲んだ。
 皇紀も誘おうと思ったが、溜まった研究が忙しいらしい。
 双子は「新春初走り」に真夜の妹の真昼を誘って出て行った。
 この寒いのにマイクロビキニだった。

 寒いので熱燗にした。
 つまみは湯豆腐をメインに巾着タマゴ、タコの酢の物、スモークサーモン、それに半端な柵で寿司を幾つか握った。
 結構作ったが、双子が帰ってきたら全部喰うだろう。

 「またいろいろありましたねー」
 「あり過ぎだぁ!」
 「アハハハハハ!」

 柳にアラスカとニューヨークの話をした。

 「こいつらがまたスパイダーマンをやってよ。まあ、やるとは思ってたんだが、一般人を怪我させてなぁ」
 「あれはロボですよ!」
 「お前らがロボを連れてっただろう! 衣装まで用意しやがって!」

 柳が大笑いする。

 「御堂家のみなさんはお元気か?」
 「はい! 今度お父さんとお祖父ちゃんが東京に来るらしいですよ」
 「ああ、楽しみだな!」

 3月の衆院選に向けて、いよいよ本格的に活動する予定だった。
 東京では、うちに泊まってもらう。

 「オロチもすっかり元気になって」
 「おお、お前見たのか!」
 「はい! 石神さんの匂いがするんですかね。私が軒下に行くと、顔を出してくれました」
 「やっとオロチ当番日記が書けたな!」
 「書いてませんよ!」

 亜紀ちゃんが寿司を喰っているので、いいネタばかり喰うなと怒った。
 小皿のマグロをイカと交換する。

 「えーん」

 「ところで柳、お前には今後「護衛」任務を覚えて行ってもらうからな」
 「はい! でもどういうことですか?」
 「御堂と正巳さんの護衛もあるんだが、響子のことを頼みたいんだ」
 「はぁ。それは私も嬉しいですけど」
 「響子の場合は護衛と同時に世話もあるからな。そういうことも六花から教わっておいて欲しい」
 「はい、分かりました」

 柳は引き受けてくれた。

 「あの、タカさん、どうして急に?」
 「急と言うかなぁ。六花が少し響子から離れることになりそうだからな」
 「え! 六花さんが!」
 「石神さん、何かあったんですか!」
 「うん、まあな」
 「「教えて下さい!」」

 うーん。

 「実はな」
 「「はい!」」
 「やっぱやめた」
 「「おい!」」

 「てめぇら!」
 「「なんですか!」」

 仕方ねぇ。

 「まあ、悪い話じゃないんだ。六花が妊娠したからな」
 「「ナンデスッテェェェェェェーーーーー!」」

 「うるせぇ!」

 二人の頭を引っぱたいた。

 「まあ、そのうちに発表するけどな。まあ、そういうことだ」
 「タカさん! おめでとうございます!」
 「石神さん! おめでとうございます!」
 「まあ、ありがとうな」

 恥ずかしい。

 「お前らは知らなかっただろうけど、俺と六花は実はセックスとかもしてたんだよ」
 「「アハハハハハハ!」」

 「これまでずっと欲しかったんだ。でも何故かなかなか出来なくてなぁ」
 「いっぱいしてましたもんね!」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。

 「まあ、やっとな。まだ2か月だけどな」
 「そうなんですか!」
 「六花はギリギリまで響子の傍にいたいと言ってるんだ。もちろんその後の育児もな。でも流石に最低でも一ヶ月くらいはなぁ。病院では院長の許可を取って、育児をしながら働ける体制を作る予定だけどな。ベビーシッターも雇うし」
 「そうですか!」

 亜紀ちゃんが嬉しそうな顔をしている。

 「石神さん、他には誰が知っているんですか?」
 「ああ、院長には報告したし、栞と鷹も知っている。こっちではそのくらいかな。一江や大森にはそのうちに。まあお前らには早めに言おうとは思っていたんだが」
 「はい。じゃあ、皇紀くんとルーちゃんハーちゃんも」
 「まあ、二人が帰ったら話すか」

 「響子ちゃんは?」
 「あいつが問題なんだよなぁ。いつ話そうか考えている」
 「早くてもいいんじゃないですか?」
 「そうなんだけどな。六花とよく話してみるよ」

 二人が笑っている。

 「タカさんって、いつもちゃんと話し合うんですよね!」
 「そりゃそうだよ。今回は六花との問題だしな」
 「意外と亭主関白じゃないですよね?」
 「意外じゃねぇ!」
 「「アハハハハハハ!」」

 二人が笑った。

 「じゃあ、住む所は?」
 「それなんだよな。六花は今のマンションでいいって言うんだけど。まあ、そうなりそうだけどな」
 「この家には?」
 「うん、専用の部屋を用意したいけど。でも、普段住むのは今のマンションになりそうだな。何しろ響子の傍がいいのは確かだ」
 「そうですねー」

 亜紀ちゃんがハッとした。

 「そうだ! 「紅六花」のみなさんには!」
 「今回六花が向こうで話したはずだ。まあ、どんちゃん騒ぎになったんじゃねぇの?」
 「そりゃそうですよね!」
 「みんな喜んだでしょうね!」
 「そうだろうな」
 
 「タカさんは行かなくて良かったんですか?」
 「まあ、そのうちにな。最初にみんな六花と祝いたいだろうよ」
 「タカさんもですよ!」
 「そうかな」

 まあ、最初は六花を思い切り祝って喜んで欲しい。
 あいつらの最高の絆だ。

 「電話してみましょうよ!」
 「いいよ、もうこんな時間だし」

 まだ9時だ。

 「なんだ、恥ずかしいんですか!」
 「うるせぇ!」

 亜紀ちゃんが俺のスマホを持って来た。

 「ほら!」

 俺は笑って電話した。
 ハンズフリーにする。




 「石神先生!」
 「よう、悪いなこんな時間に」
 「いいえ!」

 電話の向こうで騒いでる声が聞こえる。

 「なんだよ、宴会か?」
 「そうです! もう連日騒いでますよ」
 「お前、酒は飲んでないだろうなぁ!」
 「はい! 大丈夫ですよ」

 六花は基本的に俺の言うことを聞いてくれる。
 自分に流される女ではない。
 アレは別だが。
 向こうで俺の電話と分かったらしく、電話に叫ぶ声が聞こえる。
 みんな祝ってくれている。

 「分かったよ! みんなにも宜しくな!」
 「はい! 明日帰りますから」
 「ああ、夕方に響子と一緒に食事でもするか」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと柳が話したがり、電話を前に置いた。
 二人が六花におめでとうと言っている。

 「さっき初めて聞いたんです! あとで皇紀もルーとハーにも話しますから!」
 「うん、お願いね!」

 俺はあまり遅くまで騒ぐなと言って電話を切った。

 「楽しそうですね」
 「そりゃそうだろうな。あいつらはとにかく六花が大好きだからなぁ」
 「はい」
 「タカさん! 早く向こうへ行きましょうよ!」
 「いいよ、またいつかで」
 「ダメですよ! タカさんも顔を出しておかないと!」
 「まあ、またな」
 「もう!」

 俺は笑って、そのうちだと言った。
 俺が行けば大宴会になる。
 あいつらもそれぞれ忙しい。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 11月の下旬のことだった。

 「石神先生、お話があるのですが」

 響子が眠った後で、六花が言った。
 俺はオークラの「山里」で一緒に食事をした。
 いつも旺盛に食べる六花が、箸に手を付けない。

 「どうしたんだよ?」
 「はい」
 「まためんどくさい六花ちゃんになっちゃったか?」
 「いえ、あの」
 「言え!」
 
 六花が俺を見た。

 「はい! 子どもが出来ました!」
 
 俺は瞬間に顔が綻ぶのが自分で分かった。

 「やっとか!」
 「え、はい!」
 
 俺は席を立って六花を抱き締めた。

 「お前! やっとかぁ!」
 「あの、いいんですか?」
 「当たり前だぁ! 俺はずっと待っていたんだぁ!」
 「石神先生!」

 六花が泣いた。

 「おい、どうして泣くんだよ」
 「だって。私なんて石神先生の子どもなんか生んではいけないんじゃないかと」
 「何言ってんだ!」
 「私は栞さんみたいな名家の家じゃないし。教養もないし。ヘンな顔だし、それに……」

 俺は一層六花を抱き締めた。

 「お前は最高の女だ! 優しいし美人だし、一緒にいてお前ほど楽しい女はいない」
 「石神先生……」
 「お前に子どもが出来て欲しいと思わなかったことはないぞ。ずっと望んでいたんだ」
 「ほんとに……」
 「そうだよ。栞より先でも全然良かったんだ。何故かお前との間にはなかなか出来なかったけどな。お前とは誰よりも一杯やってるのにな!」
 「ウフフフフ」
 「お、笑ったか!」

 俺は六花を抱き上げてゆっくりと回転した。
 席に座らせ、食べるように言った。

 「まあ、響子のこととかはこれから一緒に話して行こう」
 「はい。それが一番。でも私は子どもを育てながら、響子とも一緒にいるつもりです」
 「ああ、じゃあその方向で考えて行こう」
 「はい!」
 「でも、まだすぐには話さないでな。響子も喜んではくれるだろうけど、時期を考えよう」
 「はい!」
 「他にもな。ああ、院長には早めに話そう。お前の仕事のことがあるしな」
 「分かりました」
 「栞と鷹にもな。うちの子どもたちは、また後だ」
 「はい、お任せします」
 「「紅六花」はどうする?」
 「年末に行った時に、私から話します」
 「そうだな。タケやよしこにはどうするか」
 「一緒でいいと思います。あいつら、どうせ黙ってられないでしょうから」
 「そうだな!」

 


 二人でいろいろと話し合った。
 楽しくて仕方が無かった。
 六花がまた最高に美しい顔で笑っている。
 俺も最高に笑っている。

 俺の喜びが、六花に伝わって欲しい。
 俺は心底からそう思った。
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