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トラ・セイント・ジャンニーニ Ⅱ

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 トラとセイントが来た翌日。

 ロレンツォ・ファミリーが壊滅した。
 その知らせは、親しくしている別なファミリーのドンから聞いた。
 俺は驚いたなんてものじゃなかった。
 
 「ロレンツォも他の幹部もみんな殺された。もちろん奴らのソルジャーたちもだ。何千人やられたのか分からねぇ」
 「なんだと!」
 「ロレンツォの屋敷はものの20分も掛からなかったらしい。それがよ、襲ったのはたった二人だってよ」
 「!」

 トラとセイントはロレンツォの屋敷に襲撃予告を出し、優秀なソルジャーが集まった所を二人で襲撃した。
 たった二人でだ。
  
 重火器まで用意し、武装ヘリまであったそうだ。
 しかし、携帯ミサイルは一発も発射されず、反対にあいつらはHK417とベレッタ・ブリガディアをトラが手にして聖は対物ライフルのM82で支援。
 トラが屋敷に突っ込みながら、セイントがバンバン撃った。
 ものの20分で、全員が斃された。
 ロレンツォは頭をスイカのように吹っ飛ばされたと聞いた。
 その足で他の場所にいた主だった幹部たちを全部始末しやがった。

 すぐに全米のドンの会議が開かれ、ロレンツォのシマは俺がもらい受けることになった。
 他のドンたちは、俺に逆らおうとしなかった。
 俺の力だと見做されていた。
 あまりにも強烈な襲撃だった。





 金を払おうと二人を呼んだが、二人は受け取らなかった。

 「なぜだ? お前らは俺を助けてくれたじゃないか」
 「今回、お前に何も頼まれてねぇからな」

 トラが言った。

 「お前は俺たちにやるなと言った。でも俺たちが勝手にやったんだ」
 「トラ!」

 「友達だからな」
 「なに?」
 「ジャンニーニ、また困ったことがあれば言ってくれよ。ああ、前みたいな色恋は困るぜ!」
 「トラ!」
 「アハハハハハハ!」

 三人で酒を飲んだ。
 俺は幸せだった。

 「しかし、お前らたった二人でやっちまったのかよ」

 二人が大笑いした。

 「おい、ジャンニーニ。俺たちは訓練を積んだ兵隊相手にやって来たんだぞ」
 「あ、ああ」
 「お前らマフィアなんて、「ソルジャー」なんて言ってるけどよ。おい、どんだけ訓練してんだよ?」 
 「おお!」
 「街で素人相手にガンを見せつけてよ。そんだけだろうが。お前らの抗争ったって、不意を衝いてのマシンガンだろ? 堂々とガンを構えて撃ち合ったことあんのか?」
 「そうか!」

 散々三人で飲んだ。
 俺は潰れる前に、やっとのことで二人に言えた。

 「ありがとうな、トラ、セイント。俺はファミリーの女を死なせずに済んだ」
 「お前がお前でいてくれて嬉しいぜ」
 「もう寝ろよ、ジャンニーニ」

 俺は目を閉じた。
 どっちかが俺をソファの長椅子に横にしてくれた。
 どっちかが俺に何かを掛けてくれた。

 二人の楽しそうな話声が聞こえた。
 俺は幸せに眠った。





 その後、俺はキャットハウスの女、マリアと結婚した。

 マリアはキャットハウスに入ったばかりだった。
 事情は知らない。
 みんな、いろいろあるもんだ。

 ロレンツォ・ファミリーの幹部は女たちに恐れられていた。
 無茶苦茶を平気でやる奴だったからだ。
 だからマリアが名乗り出た。
 いい女だ。
 店の人間に連れて来られたマリアを見て、一目で惚れた。
 そのマリアを差し出さなければならない俺を、トラとセイントに救われた。

 俺はマリアをキャットハウスには戻さずに、カタギの暮らしをさせようと思っていた。
 惚れ切ってはいたが、俺のような裏社会の人間と関わってはいけない女だと思った。
 それに、一度は見捨てようとした俺だ。
 とてもじゃないが、自分の気持ちは口に出来ない。
 美しく、そして優しいいい女だった。
 そのことが、ますますマリアから自分を離すべきだと思うようになった。

 ある日。マリアが俺のためにケーキを作ったと聞いた。
 ゲートのガードが追い返したと聞いた。
 俺はマリアに会いに飛んで行った。
 何も考えちゃいなかったが、マリアに申し訳ないことをしたとだけ思った。
 マリアが嬉しそうに、俺に自分が作ったケーキを見せてくれた。



 俺はその場でプロポーズした。



 「俺はマフィアだ。ファミリーは俺の大事な仲間だ」
 「はい」
 「お前のような堅気には何の自慢でもないけどな」
 「私はジャンニーニさんに感謝しています」

 「でもな、こんな俺でも自慢出来るものがあるんだ」
 「はい!」 
 「俺には最高の友人がいるんだ!」
 「はい?」
 「俺は社会の嫌われ者のクズだけど、俺の友人たちは最高だ! それだけは俺の自慢なんだ!」
 「はい!」
 「マリア! 俺と結婚してくれ!」
 「はい! 喜んで!」

 こんなバカなプロポーズをする奴はいないだろう。
 友達がいい奴だから結婚しろってなぁ。
 でも、俺にはトラとセイントしか自慢できるものがねぇ。
 それで全てだ。
 俺はあくまでもマフィアであり、ファミリーのドンだ。
 それは俺にくっついた、俺自身でもある。
 しかし、それだけが俺じゃない。
 マリアは、その「俺」と一緒にいて欲しい。

 だから俺はマリアをファミリーとは切り離した。
 屋敷に一緒に暮らすこともしなかった。
 子どもが出来たが、俺は跡を継がせる気もない。
 跡目は幹部の誰かが継げばいい。

 俺はそう思った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ジャンニーニさん、それじゃ」
 「ロダーリ、跡目はお前でいいよ」
 「いえ! ジャンニーニさん!」
 「俺はマリアと子どもたちと、それからあいつらでいい」
 「ダメですよ、ジャンニーニさん!」

 俺は笑った。

 「まあ、俺もまだまだやるさ。俺がここにいれば、トラやセイントの力にもなれるしな」
 「私らも協力しますよ」
 「ありがとう」

 ロダーリが微笑みながらセイントたちを見ていた。

 「私だって、あの方たちには感謝してるんです」
 「そうか」
 「ファミリーを助けてくれただけじゃない。ジャンニーニさんがいつも嬉しそうですからね」
 「そうか」
 「だから嫉妬もしますって。俺たち以上にジャンニーニさんを喜ばすんですから」
 「アハハハハ」

 ロダーリがテーブルに戻って自分のグラスを空けた。

 「跡目のことはまたいずれ。私らは、ジャンニーニさんのお子さんに継いで欲しいです」
 「まあ、そうだな。またいずれな」
 「はい」
 
 ロダーリは自分のグラスを持って席を立った。

 「本当に美味い酒でした。ありがとうございます」

 そう言って部屋を出た。
 俺は窓際に行き、セイントたちを見た。
 丁度帰る所らしかった。
 俺は見つからないようにカーテンの陰に入った。

 窓がカツンと鳴った。
 セイントが何か投げたらしい。

 ガチャン。

 窓が割れ、でかい石が飛び込んで来た。

 「てめぇ!」
 「あ、悪い! 帰るから挨拶したくてさ!」
 「バカヤロウ!」

 「アハハハハハ! 楽しませてもらった! またな!」
 「二度と来るんじゃねぇ!」

 


 セイントが笑って帰って行った。
 俺も笑った。 
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