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トラ・セイント・ジャンニーニ
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「ジャンニーニさん、セイントがまた来てますよ」
ソッドカポ(副首領)のロダーリが言った。
今は夕方の4時。
そろそろ日が暮れる。
俺は窓から庭を見下ろす。
セイントが息子のセイガを連れて庭で遊んでいる。
俺が置かせたブランコにセイガを乗せてセイントが揺らしてやっている。
楽しそうだ。
アンジーの姿はない。
恐らくぶっ倒れているのだろう。
セイントが相手じゃ仕方が無い。
「ジャンニーニさん、嬉しそうですね」
「そうか?」
「ちょっと、あいつ、好き勝手が過ぎるような気もしますが」
「まあな」
ロダーリは少し不満そうだ。
ファミリーではない人間がうちの屋敷に自由に出入りしているためだ。
アメリカで最大のファミリーとなった俺の屋敷だ。
普通は恐れて誰も近づかない。
ポリスでさえそうだ。
「そりゃ、トラとセイントには逆らえませんけどね」
「そうだな」
俺は酒を持って来いと命じた。
すぐにロダーリは指示する。
5分と掛からずに、ワインとカットしたチーズが持って来られた。
俺はロダーリに座るように言い、一緒に飲み始めた。
料理は後からまた来るだろう。
「俺はトラとセイントに何度も救われた」
「はい、知ってます。でも」
俺は手で制した。
「これはお前にも話したことは無い。俺は親父からこの地位を継いで、ファミリーのドンとしてファミリーの人間、大事な「友人」たちを守り続けて来た」
「はい、もちろんです」
「だけどな。一度だけ大事な人間を見捨てようとしたことがある」
「え?」
俺は笑って話し始めた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「ワハハハハハハハ!」」
「てめぇら!」
「久しぶりだな、ジャンニーニ!」
「トラまでいやがるとは!」
また「セイントPMC」に屋敷を襲撃された。
今回は異常に早く終わり、10分も掛からなかったと思ったら、トラがいやがった。
最初にトラとセイントに突っ込まれてから、こいつらに何度も屋敷を襲撃されている。
ほとんどはセイントの会社の連中だが、たまにトラも一緒に来る。
まあ、トラが来ると早く終わるし、怪我人も軽く済むのだが。
「相変わらずお前のとこは弱いなぁ」
「うるせぇ!」
「俺たちがこんなに鍛えてやってるのにな」
「いい加減にしろ!」
年に一度は来る。
予告なしだ。
まあ、予告があって準備しても同じだろう。
こいつらの戦闘力は尋常じゃない。
米軍とも張り合うんじゃねぇかと思う。
「終わったんだからとっとと帰れ!」
セイントが俺を見ていた。
「おい、なんかあったのか?」
まったく最悪のタイミングで来やがった。
トラも俺を見ていた。
「何もねぇよ!」
「ジャンニーニ、困ってることがあるんなら言えよ」
「トラには関係ねぇ!」
いきなりセイントに蹴られた。
「おい! トラが心配してんだ! 話せ!」
「なんだ、てめぇ!」
もう一度蹴られた。
セイントが部下たちに解散だと言った。
だけどトラとセイントは帰らなかった。
俺を抱えて屋敷の中へ入る。
「おい、酒を持って来い!」
トラが俺の部下たちに命じた。
部下たちも素直に従っていやがる。
まったく、こいつらは。
俺の部屋で酒が用意され、料理も運ばれて来た。
トラとセイントはもう寛いで先に勝手に飲み始めやがった。
「何があった?」
トラが真剣な顔で聞いて来た。
「お前らに話すようなことじゃねぇ」
「いいから話せよ。俺たちが力になってやるよ」
前にもそういうことがあった。
うちで始末が付かないような揉め事を頼んで何度か助けてもらったことがある。
まあ、金は取られたが。
今回はどうしようもない。
今回ばかりはトラたちにも頼れない。
「無理なんだよ。相手が悪い」
「なんだよ?」
「お前らだって、ロレンツォ・ファミリーとは戦争できねぇだろう」
「あ?」
「西海岸最大のファミリーだ。うちよりでかい」
「お前、そこと揉めてんのか?」
仕方なく俺は話した。
うちのキャットハウスの女が、ロレンツォ・ファミリーの幹部を怪我させた。
もちろん尋常な状況ではなかった。
ひどいサド野郎で、女を殺し掛けた。
女は必死に抵抗して、幹部の股間を噛み千切って逃げた。
だが、非がどっちにあるという話ではない。
うちの身内が怪我をさせたというだけだ。
「ロレンツォ・ファミリーの幹部が遊びに来て、遊び半分で殺されそうになったキャットハウスの女が股間を食い千切った」
二人が笑った。
「おい、笑いごとじゃねぇ! 相手は女と金を寄越せと言ってる」
「そうなんだ」
トラが笑いながら言いやがった。
「それじゃしょうがねぇじゃんか。やるしかないだろう」
「そうだ。それだけの話だ」
「へぇ」
「俺はファミリーを守らなきゃならねぇ」
「そうかよ」
俺は自分が何をやってるのか分からなくなった。
なんでこいつらにそんな話をしなきゃならねぇ?
「話したぞ。とっとと帰れ!」
二人がまた大笑いした。
セイントが俺の肩に手を置いて言った。
「ジャンニーニ、何でそんなに辛そうな顔をしてるんだ?」
「なんだと?」
「お前、悲しそうじゃん。辛そうじゃん」
「ほっとけ」
トラも反対側の肩に手を置いて言った。
「ジャンニーニ、俺たちはお前の友達だ」
「なんだと?」
「どうしてこれまでみたいに、俺たちに頼らない?」
「おい! 相手は全米最大のファミリーだぞ! 幾らお前らが強くたって、相手がでか過ぎる! お前ら死んじまうぞ!」
「関係ねぇよ。友達の敵なだけだ」
「トラ!」
俺はトラから友達と言われたことがショックだった。
「何度もお前の屋敷を襲って悪いとは思ってんだよ」
「嘘つけ!」
二人がまた笑った。
「本当だよ。でも、お前が困ってんなら、いつだって力になるさ」
「トラ、今回ばかりは無理だって」
「俺に任せろ!」
何言ってやがる。
「俺は今回ばかりはダメだ。女を差しだそうと思ってるんだ」
「その必要はねぇ。その女もお前のファミリーなんだろ?」
「トラ……」
「お前はその女を助けたいんだろう?」
「セイント……」
「聖、諸経費でどのくらいかな」
「まあ、今回はサービスでいいんじゃねぇか?」
「そうだなぁ。ちょっと甘い気がするけどな」
「いいさ、ジャンニーニが悲しそうだ」
「お前ら……」
散々飲み食いして二人が帰った。
ソッドカポ(副首領)のロダーリが言った。
今は夕方の4時。
そろそろ日が暮れる。
俺は窓から庭を見下ろす。
セイントが息子のセイガを連れて庭で遊んでいる。
俺が置かせたブランコにセイガを乗せてセイントが揺らしてやっている。
楽しそうだ。
アンジーの姿はない。
恐らくぶっ倒れているのだろう。
セイントが相手じゃ仕方が無い。
「ジャンニーニさん、嬉しそうですね」
「そうか?」
「ちょっと、あいつ、好き勝手が過ぎるような気もしますが」
「まあな」
ロダーリは少し不満そうだ。
ファミリーではない人間がうちの屋敷に自由に出入りしているためだ。
アメリカで最大のファミリーとなった俺の屋敷だ。
普通は恐れて誰も近づかない。
ポリスでさえそうだ。
「そりゃ、トラとセイントには逆らえませんけどね」
「そうだな」
俺は酒を持って来いと命じた。
すぐにロダーリは指示する。
5分と掛からずに、ワインとカットしたチーズが持って来られた。
俺はロダーリに座るように言い、一緒に飲み始めた。
料理は後からまた来るだろう。
「俺はトラとセイントに何度も救われた」
「はい、知ってます。でも」
俺は手で制した。
「これはお前にも話したことは無い。俺は親父からこの地位を継いで、ファミリーのドンとしてファミリーの人間、大事な「友人」たちを守り続けて来た」
「はい、もちろんです」
「だけどな。一度だけ大事な人間を見捨てようとしたことがある」
「え?」
俺は笑って話し始めた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「「ワハハハハハハハ!」」
「てめぇら!」
「久しぶりだな、ジャンニーニ!」
「トラまでいやがるとは!」
また「セイントPMC」に屋敷を襲撃された。
今回は異常に早く終わり、10分も掛からなかったと思ったら、トラがいやがった。
最初にトラとセイントに突っ込まれてから、こいつらに何度も屋敷を襲撃されている。
ほとんどはセイントの会社の連中だが、たまにトラも一緒に来る。
まあ、トラが来ると早く終わるし、怪我人も軽く済むのだが。
「相変わらずお前のとこは弱いなぁ」
「うるせぇ!」
「俺たちがこんなに鍛えてやってるのにな」
「いい加減にしろ!」
年に一度は来る。
予告なしだ。
まあ、予告があって準備しても同じだろう。
こいつらの戦闘力は尋常じゃない。
米軍とも張り合うんじゃねぇかと思う。
「終わったんだからとっとと帰れ!」
セイントが俺を見ていた。
「おい、なんかあったのか?」
まったく最悪のタイミングで来やがった。
トラも俺を見ていた。
「何もねぇよ!」
「ジャンニーニ、困ってることがあるんなら言えよ」
「トラには関係ねぇ!」
いきなりセイントに蹴られた。
「おい! トラが心配してんだ! 話せ!」
「なんだ、てめぇ!」
もう一度蹴られた。
セイントが部下たちに解散だと言った。
だけどトラとセイントは帰らなかった。
俺を抱えて屋敷の中へ入る。
「おい、酒を持って来い!」
トラが俺の部下たちに命じた。
部下たちも素直に従っていやがる。
まったく、こいつらは。
俺の部屋で酒が用意され、料理も運ばれて来た。
トラとセイントはもう寛いで先に勝手に飲み始めやがった。
「何があった?」
トラが真剣な顔で聞いて来た。
「お前らに話すようなことじゃねぇ」
「いいから話せよ。俺たちが力になってやるよ」
前にもそういうことがあった。
うちで始末が付かないような揉め事を頼んで何度か助けてもらったことがある。
まあ、金は取られたが。
今回はどうしようもない。
今回ばかりはトラたちにも頼れない。
「無理なんだよ。相手が悪い」
「なんだよ?」
「お前らだって、ロレンツォ・ファミリーとは戦争できねぇだろう」
「あ?」
「西海岸最大のファミリーだ。うちよりでかい」
「お前、そこと揉めてんのか?」
仕方なく俺は話した。
うちのキャットハウスの女が、ロレンツォ・ファミリーの幹部を怪我させた。
もちろん尋常な状況ではなかった。
ひどいサド野郎で、女を殺し掛けた。
女は必死に抵抗して、幹部の股間を噛み千切って逃げた。
だが、非がどっちにあるという話ではない。
うちの身内が怪我をさせたというだけだ。
「ロレンツォ・ファミリーの幹部が遊びに来て、遊び半分で殺されそうになったキャットハウスの女が股間を食い千切った」
二人が笑った。
「おい、笑いごとじゃねぇ! 相手は女と金を寄越せと言ってる」
「そうなんだ」
トラが笑いながら言いやがった。
「それじゃしょうがねぇじゃんか。やるしかないだろう」
「そうだ。それだけの話だ」
「へぇ」
「俺はファミリーを守らなきゃならねぇ」
「そうかよ」
俺は自分が何をやってるのか分からなくなった。
なんでこいつらにそんな話をしなきゃならねぇ?
「話したぞ。とっとと帰れ!」
二人がまた大笑いした。
セイントが俺の肩に手を置いて言った。
「ジャンニーニ、何でそんなに辛そうな顔をしてるんだ?」
「なんだと?」
「お前、悲しそうじゃん。辛そうじゃん」
「ほっとけ」
トラも反対側の肩に手を置いて言った。
「ジャンニーニ、俺たちはお前の友達だ」
「なんだと?」
「どうしてこれまでみたいに、俺たちに頼らない?」
「おい! 相手は全米最大のファミリーだぞ! 幾らお前らが強くたって、相手がでか過ぎる! お前ら死んじまうぞ!」
「関係ねぇよ。友達の敵なだけだ」
「トラ!」
俺はトラから友達と言われたことがショックだった。
「何度もお前の屋敷を襲って悪いとは思ってんだよ」
「嘘つけ!」
二人がまた笑った。
「本当だよ。でも、お前が困ってんなら、いつだって力になるさ」
「トラ、今回ばかりは無理だって」
「俺に任せろ!」
何言ってやがる。
「俺は今回ばかりはダメだ。女を差しだそうと思ってるんだ」
「その必要はねぇ。その女もお前のファミリーなんだろ?」
「トラ……」
「お前はその女を助けたいんだろう?」
「セイント……」
「聖、諸経費でどのくらいかな」
「まあ、今回はサービスでいいんじゃねぇか?」
「そうだなぁ。ちょっと甘い気がするけどな」
「いいさ、ジャンニーニが悲しそうだ」
「お前ら……」
散々飲み食いして二人が帰った。
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