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PRISON BREAK!
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「東雲、お前、ようやく「飛行」を習得したな」
「はい! お待たせ致しました!」
石神さんから呼び出され、ヘッジホッグの特別会議室の一つに出頭した。
俺は最近になってようやく「飛行:鷹閃花」を習得した。
「じゃあお前に任務を与える」
「はい! 何でも仰って下さい!」
「一人な、「虎」の軍へ引き入れたい奴がいるんだよ」
「はっ!」
「面白い能力を持っているようでな。格闘家なんだけどよ、どうも自分の習得した技を他人に渡せるらしいんだよ」
「へぇ!」
「教えるっていうのとはちょっと違うらしいのな。瞬時に相手が出来るようにすんだってさ」
「凄いですね!」
「な!」
石神さんはまったく、スゴイ伝手を持ってらっしゃる。
「まあ、ある人の遺してくれたノートで俺も知ったんだけどよ」
「そうなんですか」
「それで探してたんだが、ようやく居場所が分かった」
「じゃあ、あっしがお迎えに行けばいいんですね!」
「おうよ!」
自分のやることが分かった。
石神さんも話が通ってニコニコしていらっしゃる。
この方はトロい対応が大嫌いだ。
「はい、それでその方はどちらへ?」
「刑務所」
「はい?」
「アメリカのな。ADXフローレンス刑務所ってとこでよ」
「はい?」
「アメリカの最悪の犯罪者が収監されてんのな。だから警備レベルはアメリカ最高」
「はい?」
「頼むな!」
石神さんが仰ってる意味がちょっと分からなかった。
「じゃあ、もう受刑期間が終わって、釈放ですか?」
「あそこはよ、全員が終身刑の受刑者だけよ」
「はい?」
「だからお前に行けって言ってんだろうが!」
「はぁ。じゃあ、特別な司法取引で?」
「ばかやろう! 幾ら俺だってアメリカの法をそうそう曲げられっか! 脱獄させて連れて来い!」
「ゲェッ!」
無茶苦茶を言う。
「あの、申し上げ難いんですが」
「あんだよ!」
「そういうのって、亜紀さんとかルーさんやハーさんの方が」
「何言ってんだよ! 俺の子どもたちに犯罪を犯させるってかぁ!」
「いえ、それはもう遅いんじゃ……」
石神さんに殴られた。
「お前よ! 亜紀ちゃんや双子が行ったらどうなると思う!」
「え、そりゃ簡単に脱獄を」
「バァーカ! 刑務所ごと吹っ飛ばしてくるに決まってんだろう!」
「ああ!」
そうだった。
あの方たちは半端ないんだった。
「こないだよ、「虎」の軍募集の動画を作らせてたらよ」
「はい」
「中米の麻薬カルテルの屋敷ごと吹っ飛ばしてきやがった」
「えぇ!」
「何十人もいただろうけどよ。一瞬で消えたよ」
「それって……」
「あいつらは「CGですよー」なんて言ってたけどな。絶対ちげぇ」
「そうでしょうね」
「前に双子がメキシコで同じことやってさ。亜紀ちゃんがやりたがってたんだよ」
「はぁ」
「悪い連中をぶっ飛ばすのって楽しいだろ?」
「そうですか?」
「あんだ、お前。亜紀ちゃんたちが異常者だって言いたいの?」
「い、いえ! そんなことは全然!」
石神さんが俺を睨んでいた。
これ以上話を滞らせるのは不味い。
「じゃあ、頼むな」
「は、はい!」
「俺が圧力掛けて、「ADXフローレンス刑務所」にお前が入れるようにしといたから」
「はぁ」
「後はお前が接触して、上手く逃げて来い」
「分かりましたが」
俺は腑に落ちないことがあった。
石神さんの顔が怖くなってる。
「なんだよ、まだグズってるの?」
「いえ、あの、石神さんのその力なら、受刑者を釈放させることも出来るんじゃって」
またぶん殴られた。
「お前! 俺がやれと言ってんだぞ!」
「はい! すいませんでしたぁ!」
俺は即座に引き受けた。
その受刑者の名前は「千石仁生(せんごく・じんせい)」。
日本人らしい。
「ADXフローレンス刑務所」は、コロラド州のロッキー山脈の麓にある。
問題の千石仁生は、アラブのテロリストの一員として行動し、アメリカ国内で数々のテロ行為を展開した。
千石の仲間たちはみな凄まじい格闘技を身につけ、逮捕までに警察は相当苦労したようだ。
そのため、30人の千石の仲間たちが全て銃撃で殺され、20発も撃たれた千石だけが生き延びた。
俺は今、新たな収監者として移送されている。
「get off!(降りろ)」
警備の警官たちに銃を向けられ、俺は建物に入った。
型通りの「検査」を受ける。
全裸にされて金属探知機。
その上で穴という穴を探られる。
ここは人間扱いされないと聞いていた。
一日に一時間だけ牢から出ての運動が許可されている。
他の時間は全てが独房だ。
食事ももちろん、独房内であり、トイレもシャワーもある。
そのために、他の囚人と接触する機会は無い。
ちなみにあまりの重犯罪者たちであるため、更生プログラムはない。
ほぼ完全隔離の環境のため、精神的におかしくなる奴は続出のようだ。
自殺者も多いと聞いた。
石神さんに説明を聞いて、じゃあどうやって千石の牢を見つけるのかと聞いた。
「大丈夫だ。案内役がいるからな」
「そうなんですか!」
「お前は黙ってその時まで待ってればいい」
「分かりました!」
全然分からない。
だが、そう言えばまたぶん殴られるだけって分かってた。
とにかく、何かが起きるまで入ってりゃいいということらしい。
しかし、本当に疑問なのは、頭の悪い俺なんかにどうして石神さんがやらせようとするのかだ。
頭の良い石神さんの御子さんたちなら分かる。
多分、他にも俺なんかよりも頭が良い人間は幾らでもいるはずだ。
全力でやろうとは思っているが、作戦も何もないこの状況では、俺の判断でやるしかない。
バカで大丈夫だろうか?
まあ、命を賭けりゃなんとかなんだろう。
俺は久しぶりの三食昼寝って奴を楽しもうと思った。
最初の夕飯が来た。
もう飯しか楽しみはねぇ。
そう期待していたわけでもないのだが。
来た食事を見て驚いた。
野菜とパンしかねぇ。
よく見ると、肉が乗っていた形跡があった。
恐らく運んで来た奴が喰った。
頭に来たが、文句も言えない。
大体、それを聞く奴がいない。
俺も英語はさっぱりだ。
仕方がねぇんで、石神さんが差し入れてくれた本を読もうと思った。
さっき検閲が終わって、ようやく手に入った。
『高校生でも分かる相対性理論』
石神さん、俺は中卒なんですが。
「はい! お待たせ致しました!」
石神さんから呼び出され、ヘッジホッグの特別会議室の一つに出頭した。
俺は最近になってようやく「飛行:鷹閃花」を習得した。
「じゃあお前に任務を与える」
「はい! 何でも仰って下さい!」
「一人な、「虎」の軍へ引き入れたい奴がいるんだよ」
「はっ!」
「面白い能力を持っているようでな。格闘家なんだけどよ、どうも自分の習得した技を他人に渡せるらしいんだよ」
「へぇ!」
「教えるっていうのとはちょっと違うらしいのな。瞬時に相手が出来るようにすんだってさ」
「凄いですね!」
「な!」
石神さんはまったく、スゴイ伝手を持ってらっしゃる。
「まあ、ある人の遺してくれたノートで俺も知ったんだけどよ」
「そうなんですか」
「それで探してたんだが、ようやく居場所が分かった」
「じゃあ、あっしがお迎えに行けばいいんですね!」
「おうよ!」
自分のやることが分かった。
石神さんも話が通ってニコニコしていらっしゃる。
この方はトロい対応が大嫌いだ。
「はい、それでその方はどちらへ?」
「刑務所」
「はい?」
「アメリカのな。ADXフローレンス刑務所ってとこでよ」
「はい?」
「アメリカの最悪の犯罪者が収監されてんのな。だから警備レベルはアメリカ最高」
「はい?」
「頼むな!」
石神さんが仰ってる意味がちょっと分からなかった。
「じゃあ、もう受刑期間が終わって、釈放ですか?」
「あそこはよ、全員が終身刑の受刑者だけよ」
「はい?」
「だからお前に行けって言ってんだろうが!」
「はぁ。じゃあ、特別な司法取引で?」
「ばかやろう! 幾ら俺だってアメリカの法をそうそう曲げられっか! 脱獄させて連れて来い!」
「ゲェッ!」
無茶苦茶を言う。
「あの、申し上げ難いんですが」
「あんだよ!」
「そういうのって、亜紀さんとかルーさんやハーさんの方が」
「何言ってんだよ! 俺の子どもたちに犯罪を犯させるってかぁ!」
「いえ、それはもう遅いんじゃ……」
石神さんに殴られた。
「お前よ! 亜紀ちゃんや双子が行ったらどうなると思う!」
「え、そりゃ簡単に脱獄を」
「バァーカ! 刑務所ごと吹っ飛ばしてくるに決まってんだろう!」
「ああ!」
そうだった。
あの方たちは半端ないんだった。
「こないだよ、「虎」の軍募集の動画を作らせてたらよ」
「はい」
「中米の麻薬カルテルの屋敷ごと吹っ飛ばしてきやがった」
「えぇ!」
「何十人もいただろうけどよ。一瞬で消えたよ」
「それって……」
「あいつらは「CGですよー」なんて言ってたけどな。絶対ちげぇ」
「そうでしょうね」
「前に双子がメキシコで同じことやってさ。亜紀ちゃんがやりたがってたんだよ」
「はぁ」
「悪い連中をぶっ飛ばすのって楽しいだろ?」
「そうですか?」
「あんだ、お前。亜紀ちゃんたちが異常者だって言いたいの?」
「い、いえ! そんなことは全然!」
石神さんが俺を睨んでいた。
これ以上話を滞らせるのは不味い。
「じゃあ、頼むな」
「は、はい!」
「俺が圧力掛けて、「ADXフローレンス刑務所」にお前が入れるようにしといたから」
「はぁ」
「後はお前が接触して、上手く逃げて来い」
「分かりましたが」
俺は腑に落ちないことがあった。
石神さんの顔が怖くなってる。
「なんだよ、まだグズってるの?」
「いえ、あの、石神さんのその力なら、受刑者を釈放させることも出来るんじゃって」
またぶん殴られた。
「お前! 俺がやれと言ってんだぞ!」
「はい! すいませんでしたぁ!」
俺は即座に引き受けた。
その受刑者の名前は「千石仁生(せんごく・じんせい)」。
日本人らしい。
「ADXフローレンス刑務所」は、コロラド州のロッキー山脈の麓にある。
問題の千石仁生は、アラブのテロリストの一員として行動し、アメリカ国内で数々のテロ行為を展開した。
千石の仲間たちはみな凄まじい格闘技を身につけ、逮捕までに警察は相当苦労したようだ。
そのため、30人の千石の仲間たちが全て銃撃で殺され、20発も撃たれた千石だけが生き延びた。
俺は今、新たな収監者として移送されている。
「get off!(降りろ)」
警備の警官たちに銃を向けられ、俺は建物に入った。
型通りの「検査」を受ける。
全裸にされて金属探知機。
その上で穴という穴を探られる。
ここは人間扱いされないと聞いていた。
一日に一時間だけ牢から出ての運動が許可されている。
他の時間は全てが独房だ。
食事ももちろん、独房内であり、トイレもシャワーもある。
そのために、他の囚人と接触する機会は無い。
ちなみにあまりの重犯罪者たちであるため、更生プログラムはない。
ほぼ完全隔離の環境のため、精神的におかしくなる奴は続出のようだ。
自殺者も多いと聞いた。
石神さんに説明を聞いて、じゃあどうやって千石の牢を見つけるのかと聞いた。
「大丈夫だ。案内役がいるからな」
「そうなんですか!」
「お前は黙ってその時まで待ってればいい」
「分かりました!」
全然分からない。
だが、そう言えばまたぶん殴られるだけって分かってた。
とにかく、何かが起きるまで入ってりゃいいということらしい。
しかし、本当に疑問なのは、頭の悪い俺なんかにどうして石神さんがやらせようとするのかだ。
頭の良い石神さんの御子さんたちなら分かる。
多分、他にも俺なんかよりも頭が良い人間は幾らでもいるはずだ。
全力でやろうとは思っているが、作戦も何もないこの状況では、俺の判断でやるしかない。
バカで大丈夫だろうか?
まあ、命を賭けりゃなんとかなんだろう。
俺は久しぶりの三食昼寝って奴を楽しもうと思った。
最初の夕飯が来た。
もう飯しか楽しみはねぇ。
そう期待していたわけでもないのだが。
来た食事を見て驚いた。
野菜とパンしかねぇ。
よく見ると、肉が乗っていた形跡があった。
恐らく運んで来た奴が喰った。
頭に来たが、文句も言えない。
大体、それを聞く奴がいない。
俺も英語はさっぱりだ。
仕方がねぇんで、石神さんが差し入れてくれた本を読もうと思った。
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石神さん、俺は中卒なんですが。
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