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顕さんの帰国

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 金曜日。
 俺は昼過ぎに病院を出て、ハマーで成田空港へ向かった。
 響子が一緒に来たがったが、病院へ残した。
 顕さんにべったり甘えたいのだろうが、生憎今日は恋人のモニカがいる。
 突然、女の子が顕さんに甘えていると、何を誤解されるか分からない。

 空港では定刻より1時間遅れて飛行機が到着した。
 
 「石神くーん!」

 顕さんが出て来た。
 隣の女性がモニカなのだろう。
 身長160センチほど。
 顔は写真で見ていたが、非常に美しい。
 奈津江に似た雰囲気はあるが、やはり違う。
 スタイルは抜群にいい。
 細身だが、胸は突き出ており、腰は引き締まっている。
 肌は少し浅黒く、唇が厚い。
 情熱的な印象だった。

 「その人がモニカさんですね!」
 「うん、モニカ、こちらが石神君だよ」
 「モニカ・サラザールです。初めまして」
 「石神高虎です。どうぞよろしくお願いします」

 握手をした。
 知的で優しい笑顔だった。

 「顕さん、お綺麗な女性ですね!」
 「そうかな」
 「何言ってんですか! もう夢中のくせに!」
 「アハハハハ!」

 俺は駐車場まで案内し、ハマーに荷物を積んでお二人を乗せた。
 モニカがハマーの威容に驚いている。

 「モニカ、石神くんはお金持ちなんだよ。スゴイ車を幾つも持ってる」
 「そんなことは。今日はうちへ泊って下さい。明日、お宅までお送りしますから」
 「済まないね。甘えさせてもらうよ」
 「前にお話しした通り、27日からうちの別荘へご案内します」
 「ああ! 楽しみだよ!」
 「まあ、久し振りの日本ですから。ゆっくりして下さい」
 「うん」

 後ろのシートで顕さんとモニカが楽しそうに話している。
 本当に仲が良いようで嬉しい。

 「ああ、顕さん。今日はすき焼きの予定なんですが、モニカさんは大丈夫ですか?」
 「スキヤキ! 知ってます! 大丈夫です!」

 モニカが嬉しそうに言った。

 「まあ、すき焼きはその通りなんですが。ちょっとうちの場合、騒ぎすぎるというか」
 「ああ、石神くんの御子さんたちだね」
 「そうなんです。でも、俺がちゃんと仕切りますから!」
 「頼むよ!」

 モニカは訳が分からないという顔をしていたが、まあ見ればすぐに分かる。
 顕さんはうちの食事のことをモニカに話している。
 モニカは笑っていた。

 「石神くんがね、毎回号令を掛けるんだけどね。もう兄弟で殴り合いながら食べるんだよ」
 「顕さん! あれはスキンシップですって!」
 「そんなものじゃないだろう!」
 「「アハハハハハ!」」

 二人で笑った。
 モニカも笑っていた。





 一度、病院へ寄った。
 響子に顔を出してもらう。

 「アキラさーん!」
 「響子ちゃん!」

 二人が抱き合った。
 響子は泣いている。
 
 「ほら、響子。モニカさんにも挨拶しろ」
 「こんにちは、響子ちゃん。顕さんからお話は聞いているの」
 「そうなの!」
 「うん。入院中は響子ちゃんに仲良くしてもらって、楽しかったんだって」
 「うん!」

 響子がモニカと握手した。

 「綺麗は人ね!」
 「うん。僕なんかのことを好きになってくれたんだ」
 「なんで! アキラさんは素敵な人だよ!」
 「そうよね!」
 「ね!」

 響子は顕さんにもらったCGで、毎日顕さんに会っているのだと言った。

 「そうなの! 嬉しいなぁ」
 「うん!」
 「じゃあ、これは新しいのね。今度は石神くんとの別荘のものを作ったんだ」
 「え!」

 「顕さん、聞いてませんよ!」
 「アハハハ! 驚かせたくてね」
 「顕さんが作ったんですか?」
 「うん。ヒマな時にちょっとずつね。前のものがあったから、割と簡単に出来たよ」
 
 そんなことはないはずだ。
 相当頑張って作ってくれたに違いない。
 顕さんは響子にハードディスクを渡した。
 響子は早速パソコンに繋げてみる。

 「わぁー!」
 
 俺の別荘をベースにしてはいるが、もっとハイセンスで美しい建物になっている。
 もちろん、あの屋上の「幻想空間」もある。

 「やっぱり、顕さんに設計をお願いすれば良かったですね」
 「そんなことないよ。大体、強度計算なんかは無視してるしね」
 「アハハハハ!」

 響子がもう夢中だ。
 六花も一緒に楽しそうに見ている。

 「響子、一日1時間までな。夜に俺たちがいないからって、ダメだぞ!」
 「うん!」
 「顕さんが響子のために一生懸命に作ってくれたんだ。これでお前の身体が壊れたら、顕さんに申し訳ないからな!」
 「分かった!」

 まあ、やるだろう。
 でも、無理はしないと思う。

 「毎日、稼働時間を見るからな」
 「大丈夫だよ!」
 「そうか」

 俺が頭を撫で、顕さんも響子の頭を撫でた。

 「じゃあ、響子ちゃん。また石神くんの別荘でね」
 「うん! 楽しみだね!」
 「僕もだよ」

 響子の病室を出た。
 俺の家に向かう。

 「ああ、日本に帰って来た実感が湧くよ」
 「そうですか。モニカさんは初めてですよね」
 「はい。建物がやはり違いますね」
 「まあ、この辺は都会ですからね。でも田舎へ行くと山とか畑とかばかりですよ」
 「そうなんですか」
 
 新宿の高層ビル街を抜ける。
 モニカが驚いて見上げていた。

 「ちょっと寄って行きますか」

 俺はNSビルにハマーを入れ、上のレストランに向かった。
 景色が見えるエレベーターに、モニカが喜ぶ。
 顕さんの手を握っている。
 顕さんも、嬉しそうにモニカと外を眺めた。

 「このビルは顕さんが設計したんですよ」
 「そうなんですか!」
 「違うよ!」

 三人で笑った。
 
 本来はダイニングなのだが、双子の資本が入っている。
 俺はコーヒーを三つ頼んだ。

 「夕食が近いんで、飲み物だけですいません」
 「構わないよ。でも、これだけじゃ申し訳ないな」
 「大丈夫ですよ。石神家は特別なんです」
 「相変わらずだなぁ、石神くんは」

 もう5時近い。
 静かに暮れて行く景色を三人で眺めた。

 「モニカ、僕の家は全然普通だからね」
 「はい!」
 「俺の家も普通ですよ?」
 「何言ってるんだ!」

 顕さんがモニカに俺の家のことを話している。
 大きいということは分かったようだが、具体的にはならない。
 それに、顕さんがフィリピンへ行ってから、拡張もしている。





 俺の家に着き、モニカだけでなく顕さんも口を開けて驚いていた。

 「さあ、中へどうぞ」
 「石神くん! 前よりも広いよな?」
 「まあ、なんとなく」
 
 俺は二人の背中を押して、玄関へ向かった。
 玄関が開き、子どもたちが出て来た。

 「「「「「顕さーん!」」」」」
 「やあ、みんな!」

 顕さんが嬉しそうな顔になり、子どもたちが駆け寄って来た。
 懐かしい再会が果たされた。
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