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トラ&六花 異世界召喚 XⅢ

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 深夜に丸太小屋に戻り、六花とヤって、ベッドに二人で横になった。

 「六花、気付いているか?」
 「はい?」

 「俺たちは、地球での戦いをなぞっている」
 「え?」
 「魔獣はジェヴォーダンだ。それは幾らでも対応できる」
 「はい」
 「しかし、今回のメインの敵は妖魔だ」
 「!」

 六花も気付いた。

 「この世界にも、これまでいなかった敵だ。しかも、アイザック領で戦ったのは「水晶の騎士」と「弓使い」だ」
 「御堂さんの所で!」
 「そうだ。六花は直接対峙しなかったけどな」
 「はい、後から映像で見てはいますが」
 「あそこまでは、地球で知っている妖魔だ。しかし、王都で襲って来たのは」
 「あのとんでもない威力の遠距離攻撃ですね」
 「ああ。あれは俺たちも初めてだ」

 六花が俺の方を向いた。

 「じゃあ、これから戦うのは!」
 「恐らく、未知の敵であり、俺たちが帰った後の地球で遭遇する連中かもしれない」
 「この世界で経験しておけるんですね!」

 六花が喜んだ。

 「いや、それがな。この世界の記憶は向こうへ戻ると消えてしまうんだ」
 「え!」
 「だから向こうでは俺も亜紀ちゃんも、異世界の話は一切していない。記憶にないからなんだよ」
 「そんな!」
 「仕方ねぇ。でもな、この世界で俺たちが対抗策を作れれば、向こうでもきっと大丈夫だ」
 「そうですね!」
 
 六花にキスをした。

 「それにな、記憶は残らねぇが、俺は何かが残ると思っている」
 「はい?」
 「ここでの経験は無駄じゃねぇということだ。まあ、そう思っておけよ」
 「はい!」

 六花には分からないだろうが、それでも六花にも残ると俺は信じていた。
 地球では初見になるだろうが、それは全くの初めてではない。
 俺たちの肉体が、魂が何かを覚えている。
 
 俺はこの異世界召喚が、決して一方的なものではないと感じていた。
 俺たちに必要な何かがあるのだ。





 翌朝、俺たちは出発した。
 ルーとハーには引き留められたが、俺はこの獣人の国の首都トランシルヴァニアが気になっていた。

 「また来るからな」
 「きっとね!」
 「待ってるからね!」

 俺たちは村中の住人から見送られて、トランシルヴァニアへ向かった。

 「次が決戦の地と思っていいんですか?」

 空中で六花が聞いて来た。

 「これまではな。俺たちが獣人の国に入ると、最後の決戦が始まるんだ」
 「なるほど」

 多分分かってない。

 「まあ、お前はその綺麗な顔をみんなに見せればいいよ」
 「はい!」

 いつも通りだ。

 俺たちがトランシルヴァニアの城壁に近づくと、門番が気付いた。

 「トラ様!」
 「おう、また来たぜ」

 流石に数年の時間しか経っていないので、みんな俺の顔を覚えている。

 「何か変わりは?」
 「特にはありません。平和そのものですよ」
 「そうか」

 俺たちはすぐに中へ入れてもらった。
 そのまま王城へ向かう。
 通りは以前のように屋台が並び、賑わっていた。
 六花も自然に微笑んで見ている。

 「みんなカワイイですね!」
 「そうだろ? それにみんなあの村の連中みたいに気がいいんだ」
 「そうなんですか!」

 六花に獣人の気の良さを見せたくて、最初にあの村に寄った。
 首都ではやはり格式があって、なかなか気楽に接することも出来ない。

 通りを眺めながら歩いていると、前方が騒がしくなった。
 嫌な予感がして、俺は六花を連れて走った。

 「なんだ、こいつ!」
 「突然化け物に!」

 元は犬人族と思えるが、今は身体が倍になり、筋骨たくましい身体は鋭い肋骨が飛び出ており、顔は鬼のようなものになっている。
 額には大きな角もあった。

 獣人たちが恐れて離れて見ている。
 その輪の中からまた悲鳴が上がった。

 「おい! こいつもだ!」
 「離れろ!」

 後から幾つも同様の悲鳴が生まれる。
 たちまち、数十の化け物が突然現われた。

 「石神先生!」
 「「黒笛」を抜け! 構わないから化け物を斬れ!」
 「はい!」

 状況も分からないまま、六花はただ俺の指示を実行した。
 人垣をかき分けて、怪物を斃していく。

 俺は妙なプレッシャーを感じ、その方向を探っていた。
 その間にも、次々に怪物が増えて行く。
 六花は必死で斬り続ける。

 怪物が人を襲い始めた。
 周囲は阿鼻叫喚の地獄になった。
 悲鳴を上げて逃げ惑いながら、人々は怪物に殺されていく。

 「チクショー!」

 六花がスピードを上げて怪物を狩って行く。

 俺はプレッシャーの方向を見つけた。
 離れた場所で、建物の陰にいる。
 俺は瞬時に駆け寄った。

 俺が建物を回り込むと、黒い霧に覆われた男が掻き消える所だった。

 「待て!」

 俺は「黒笛」で斬りかかったが、僅かな差で男は消えていた。
 舌打ちし、俺は六花の所へ戻る。
 既に半数は斃されていた。
 俺が加わり、残りもほどなく斃した。





 「トラ様」

 ラーラが謁見の間に跪いて俺を迎えた。

 「ラーラ、久しいな」
 「はい。またお目に掛かれるとは」

 俺はラーラを立たせ、六花を紹介した。

 「俺の恋人なんだ」
 「なんとお綺麗な」

 俺は静かに話せる場所をと言った。
 すぐに部屋が用意され、ラーラと主だった人間が集められる。
 
 「先ほどの騒ぎは既に報告が上がっています。突然に市民の中から怪物が生まれたと」

 国務大臣だという虎人族の男が言った。

 「おう。俺たちも驚いた」
 「あれが魔王の攻撃なのでしょうか?」
 「間違いないだろう。魔王が城下に入っていた。斬りかかったが逃げられたがな」
 「なんと!」

 全員が驚いている。

 「邪悪な奴だった。一目見て分かる。黒い霧のようなものを纏っていたな。顔はフードでよく見えなかったが」
 「その魔王はどのような攻撃だったのでしょうか?」
 「恐らく、無差別に妖魔を憑依させる」
 「それは!」
 
 俺は迷ったが、話しておくことにした。

 「いいか、これからは、いつ誰が怪物になるか分からん。隣で楽しく話していた奴が、突然怪物になる。妻が夫が愛する子どもたちが。親友、仲間、すれ違う人々が」
 「そんなことが……」

 「地獄だ。誰も信じられなくなる」
 
 全員が沈黙した。
 
 「トラ様、戦う術はございますか?」
 「もちろんだ。そのために俺たちは来た」
 「ありがとうございます」

 ラーラが俺の手を取って跪いた。
 他の者も全員がそれに倣う。

 「六花、あいつの気配は感じたか?」
 「はい、あんなに嫌な気配はこれまで感じたことがありませんよ」
 
 その時、部屋を激しくノックする音がした。
 一人がドアの前に行き、開けてやる。

 「報告! 先ほどの広場で人を襲う集団が現われました!」
 「詳しく報告しろ!」
 「はい! 目撃者によれば、あの広場で店を拡げていた者が突然客を襲いました。そして次々とそうした者が増えて、今警備担当の第二騎士団が現場へ向かっております!」
 「被害は!」
 「襲われた者は頭部を割られているようです。そしてその……」
 「しっかり話せ!」
 「はい! 被害者は脳を喰われています! あんな、化け物のような連中が……」

 「他に被害は!」
 
 「あの広場を中心としていますが、他の場所でも同様な化け物が現われています! 冒険者たちが喰いとめているようです!」
 
 「トラ様!」

 ラーラが俺を見ていた。

 「感染だ。最悪だな」




 俺の言葉に、また全員が沈黙した。
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