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トラ&六花 異世界召喚 Ⅶ

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 俺たちは海辺の別荘で一晩を過ごした。

 愛し合い、食事を作り、また愛し合った。
 朝方に眠った。

 昼過ぎにアイザック領に戻り、また二人で眠った。
 しかし、俺は急激に膨れ上がった圧力で目を覚ました。
 六花も起きる。

 「石神先生!」
 「ああ、これはヤバい奴だ」

 二人で服を着て外に出た。
 まだ、街は危険の接近に気付いていない。
 俺は六花を冒険者ギルドに走らせ、俺はアイザックの館に向かった。

 「恐ろしく危険な奴が近付いている!」
 「なんですと!」
 
 領主アベサダモフが驚く。
 贅肉で顔の皮が分厚く、分かりにくいが。

 「ただの魔獣じゃねぇ! 住民の避難を至急始めろ!」
 「はい!」

 アベサダモフは即座に指示を出して行った。
 俺は冒険者ギルドに向かい、六花と合流した。
 二人で領地の外へ出る。
 六花も方角を感じている。
 
 「5体だ。気を付けろ、恐らく「花岡」は通じない」
 「魔法はどうですか?」
 「分からん。でも期待しない方がいいだろうな」
 「はい!」

 領民たちは、冒険者ギルドや王城などの頑丈な建物に避難を始めているはずだ。
 しかし、敵の接近は速く、間に合わないと思った。

 突如、数百の光の矢が襲って来た。

 「あいつか!」

 御堂家を襲った「弓使い」だ。
 俺たちと後方の街を狙っているのが分かった。

 「グングニール!」

 俺は光の矢に向かって撃った。
 矢が全て消失する。

 3体、こちらへ突進して来る。
 やはり「水晶騎士」だ。

 「六花! 「黒笛」を使え!」
 「はい!」

 六花は瞬時に「黒笛」を出し、鞘から出した。

 「「トールハンマー」で動きを鈍らせろ! でも「黒笛」でしか止めは刺せないからな!」
 「分かりました!」

 俺は前方の「水晶騎士」に迫った。
 馬上槍を向けて来るが、「黒笛」で払い、斬り落とした。
 腰の大剣を抜こうとしたが、俺が胴を払う方が速かった。
 六花も「水晶騎士」の一体に向かう。
 高速で回避しようとするが、六花の方が速い。
 跳び上がって首を落とした。

 「もう一体を頼むぞ!」
 「はい!」

 俺は離れている「弓使い」に迫った。
 「弓使い」は俺が突然目の前に現われたので戸惑っている。

 「お前ら、やっぱり遅いな」

 瞬時に二体を斬り伏せた。
 後ろで六花が危なげなく「水晶騎士」を屠っていた。
 やはり六花は強い。
 俺は六花に駆け寄った。

 「すいません! 一撃入れられちゃいました」
 「いいさ、お前がやられたんじゃなければな」

 「水晶騎士」の馬上槍が領の防壁を破壊していた。
 高さ8メートルの分厚い防壁だったが、10メートル以上に亘って崩れ去っている。
 防壁の破壊を目論んでの攻撃ではない。
 六花を狙って逸れた馬上槍が、これだけの破壊を示した。
 
 警備兵が崩れた防壁の場所に集まって来た。

 「あの怪物たち、消えちゃいましたね」
 「ああ、あれは元々がこの世界のものではないからな。死ねば何も残らないのさ」
 「そうなんですか」

 あくまでもこの世の生物である魔獣とはそこが違う。
 俺は警備兵に戦闘が終わったことを告げ、領主の館へ向かった。






 「メシア様、一体何が」
 「今回の襲撃は魔獣ではない。俺たちは「妖魔」と呼んでいる」
 「妖魔!」
 「この世界の存在ではないんだ。恐らく、今回の魔王が操っている」
 「なんと!」
 「魔法も武器も傷つけられない。多分、俺たちしか無理だな」
 「それでは、我々はどのようにすれば!」

 俺は考えた。
 エルフの里では、魔法陣を武器に仕込んだ。
 しかし、魔法陣をめったやたらに渡すわけには行かない。

 「これと同じ剣を預けよう。一番の剣技の達人に渡してくれ」
 「はい! ありがとうございます!」
 「冒険者で「ソードタラテクト」という連中がいるらしいな」
 「はい、剣技に長けた者たちです」
 「人選は任せる。三振用意しよう。後で返してもらうけどな」
 「はい!」
 「一応、俺が訓練する。人選が決まったら、うちに来させてくれ」
 「分かりました!」

 俺はクロピョンに10振の「黒笛」を作らせた。
 妖魔との戦い以外で使えば回収するように伝える。

 夕方に「ソードタラテクト」のメンバー6人が俺たちの家に来た。
 俺は「黒笛」を預けることを伝え、翌朝の9時に正門に集合するように言った。
 これから夕飯のつもりだったので、「ソードタラテクト」の連中に一緒に喰って行けと誘った。
 6人は大層喜んだ。

 俺がウマヘビのステーキを作り、六花はスープを作った。
 米も炊く。
 この世界では米食の習慣はエルフたちだけだ。
 ヒューマンはパン食が基本なので、米に驚く。
 
 しかしウマヘビの美味さに驚き、米との相性にまた驚く。

 「実に美味いものですね!」

 俺と六花がニコニコしてもっと喰えと言った。

 「メシア様と同席させていただくだけで名誉ですのに。これほど豪華な食事まで頂けるとは」

 リーダーのヤンマーが言った。

 「俺たちは気楽にやりたいんだけどな。これからも遠慮しないで付き合ってくれよ」
 「そんな! 畏れ多いですよ!」
 「しょうがねぇなぁ」
 「それに、奥様が美し過ぎます! エルフだってこの美しさには敵わないでしょう」

 六花が「奥様」と呼ばれたので喜んでいた。
 6人に酒を勧める。

 「この酒も美味いですね!」
 「ああ、王都でも最高級のものだからな」
 「この強さは、もしかして「スピリッツ」ですか!」
 「よく知ってるな」
 「酒は好きなものでして。蒸留法はメシア様が教えられたとか」
 「まあな、俺も酒が好きなもので」

 みんなで笑った。
 俺も楽しくなって、ストレージからビールを出した。
 よく冷えている。
 硝子のジョッキに注いだ。

 「あ! ビールがあったんですか!」
 「そうだ。一樽しかねぇからな」
 「わーい!」
 
 ビール好きな六花が喜んだ。

 「エールですか?」
 「まあ、正式には違うんだがな」

 俺は、まずは飲んでみろと言った。
 全員が驚く。

 「これはエールとは違う製法で作ったものなんだ。「ラガー」というな。のど越しが違うのが分かるか?」
 「はい! 非常にすっきりとしていて、ゴクゴク飲みたくなりますね!」
 「そうなんだ。エールは香りが高いのが特徴で、ラガーはのど越しなんだよ」

 六花はニコニコして飲んでいる。
 みんなが、その笑顔に魅せられる。

 「ビールは作るのが面倒でな。折角エールがあるんだから、普段はそっちを飲むことが多い。まあ、俺はそれほど飲まないけどな」
 「外であんまり食べないから、私は知りませんでしたよ」
 「ワインだけだったな」
 「はい!」

 六花が恨めしそうな顔をする。

 「エールは冷えてないからなぁ」
 「じゃあ、買って来て冷やしましょう!」
 「分かったよ」

 俺たちの会話を聞いて、ヤンマーたちが驚いている。

 「あの、エールも冷やして飲むとまた美味いんですか?」
 「まあな。機会があれば飲ませてやるよ」
 「是非!」





 俺はつまみを作って、深夜まで楽しく飲んだ。
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